Deadline Delivers   作:銀匙

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第58話

 

 

「あ、あの、なんと御礼を申し上げれば良いか・・」

着任から16日目を迎えたリットリオは、BMWの助手席でファッゾに頭を下げていた。

「別に話のついでに乗せただけだ。気にしなくて良い」

「いいえ。本当にありがとうございました」

 

話は1時間ほど遡る。

 

恐ろしいくらい誰一人出てこなくなった峠道を、リットリオは一人で運転していた。

昨日が15日目だったので一人で買い物に行く事になったリットリオだったが、何事も無く終わった。

今日も今日とて買い物任務が入り、今はその帰り道という訳である。

頼まれた物はきちんと揃ったし、指定時間までだいぶ余裕もある。

「今日もこのまま、何事も無いと良いですね・・」

そう言った途端、車のボンネットから真っ白な煙が立ち上ったのである。

 

「はい・・はい・・解りました・・そうですね」

 

香取に連絡したリットリオは、車は香取の方で夕島整備工場に連絡するから買った物を届けるよう指示された。

その通りだとは思うのだが、車は道路脇でオブジェと化している。

「仕方ありません・・」

リットリオはとぼとぼと歩き始めた。

何事も無くて最後にこうなるなら、ちょっとずつ来てくれる方が良いかもしれません。

「はぁ・・車だとあっという間なのに歩くと遠いですね・・」

20分ほど歩き、ようやく峠道も終わりになった時。

 

ウオオオーーン・・キッ!キキーッ!・・オオオーン・・

 

元来た道の方から凄まじい速度で何かが近づいてくる。

山賊だろうか?強盗だろうか?

リットリオは荷物を茂みに隠すと、ホルスターからM93Rを引き抜いた。

えっと、スライドを引いて、安全装置を解除して・・っと。

近づいてくる音に緊張しつつ、両手で銃を構えたリットリオはふと気づいた。

・・もし普通の人だったらどうしよう?

また警察の厄介になるのは嫌ですし・・

そうこうしてるうちに音はどんどん近づいてきた。

「・・うー」

リットリオは悩んだ挙句、安全装置をかけ、ホルスターに銃を戻したのである。

 

オウン!・・キキキキーッ!

 

リットリオが丁度銃を仕舞って視線を道路に戻したとき。

目の前に、BMWがいた。

運転手がぎょっとしてるのがはっきり見えるほどの近さで。

あれ?私、そういえば道の真ん中・・・

 

キキキキーッ!

 

BMWはスピン状態に陥ったが、リットリオの脇を辛うじてかわすと止まった。

すぐにドアが開き、運転手が出てきた。

 

「おい!大丈夫か!」

 

「え、あ、あの、はい。大丈夫です」

「良かった。ぶつかったら大変・・・うん?」

「なんでしょうか?」

「君は・・ええと、買い物屋の?」

「は、はい。リットリオと申します」

「・・・」

「・・・」

ファッゾがそうっと運転席に向けて後ずさりし始めたので、リットリオは涙目になった。

「あ、あの、撃ちませんから・・その、怖がらないで頂けると嬉しいです」

「ま、まぁ・・しょせん噂だよな」

「あのぅ」

「ん?なんだ?」

「どんな・・噂が立っているんでしょうか・・」

「えっ!?あー・・」

ファッゾは決まりが悪そうに自分の顎の辺りを撫でていたが、

「とりあえず、路肩に車を寄せるから待ってくれるか」

「あ、はい。どうぞ」

ファッゾはリットリオが寂しそうに頷いたのを見た後、静かに車を路肩に寄せた。

そして運転席の窓を開けてリットリオに告げた。

 

「・・ええと、立ち話もなんだ。助手席なり後ろなり乗ると良い」

 

リットリオはきょとんとした。

 

「よろしいんですか?」

ファッゾは肩をすくめた。

「このままだと5分も経たずに俺の首が悲鳴を上げるんでな」

「あ、すみません。じゃ、じゃあ、お邪魔します」

そっと助手席に腰掛けたリットリオに、ファッゾが訊ねた。

「ところで・・ここで何してたんだ?」

「車で通りがかったら、少し前の所で壊れてしまいまして」

「ん?あー・・さっき煙吹いてる車があったな。あれか」

「はい。あ、あの、壊したわけではないです」

「・・・ひょっとして、買い物の途中か?」

ファッゾに言われたリットリオは真っ青になった。

「そ、そうでした!買った物を届けないと!」

「その買った物はどこにあるんだ?」

「あっ!」

リットリオは慌てて車を降り、茂みから袋を引っ張り出してファッゾに見せた。

「これです!」

「・・中身は何だ?」

「大豆の缶詰にコンビーフ、メモ帳、台所洗剤にゴム手袋です」

「・・まぁ腐るような物は無いか。どこに届けるんだ?」

「ライネスさんのお店です」

「なら帰り道だ。送ってくから乗るといい」

「あ、た、助かります」

「車の方はレッカー手配してるのか?」

「香取さん達がやってくれるそうです」

「そうか。じゃあ安心だな」

 

リットリオを乗せたBMWは、先程とは打って変わって静かに走り始めた。

てっきり先程のようにスキール音をたてながら派手に走ると思っていたリットリオは拍子抜けしてしまった。

「・・どうかしたか?」

ファッゾに問われたリットリオは、思わず

「いえ、ゆっくり走って頂けて良かったって」

「誰かを乗せてさっきみたいには走らないさ」

「ですか・・ええと、ところで先程の話なんですけど・・」

「あ、覚えてたか」

「・・はい」

ファッゾはカーブを1つ2つ曲がりつつ沈黙したまま、迷っているようだった。

「あの、私、何と言われても仕方ないと思ってますから」

「ん?あー・・言い難いなぁ」

「何と言われてるか知らないのも、それはそれで不安なので」

「・・・」

ファッゾはその後黙々と山道を下りたが、ふもとの交差点で信号待ちをしている時にようやく口を開いた。

「・・ええとな」

「はい」

「夜な夜な峠道で山賊狩りしてるとかさ」

「砲撃したの1回だけですよぅ・・・」

「中央通りでクレープが地面に落ちる前にマフィア20人撃ち殺したとか」

「それ・・私じゃないですし、物凄くお話が大きくなってますよぅ・・」

「思い当たるネタがあるのか?」

「鹿島さんがガラの悪い人を蹴り飛ばしたんです」

「まぁそんな感じで・・君のあだ名はな」

「あ、あだ名までついてるんですか?」

「・・聞きたくなければ黙るぞ?」

「い、いえ、聞かせてください」

「・・・イタリアン・マンハンター・・だとさ」

 


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