Deadline Delivers   作:銀匙

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第65話

 

 

風雲はリットリオの問いにしばらく黙していたが、やがてぽつりと口を開いた。

「こ、こっちに研修に来た子達は、間違いなく強くなって帰ってくるんです」

「ええ」

「出撃でも遠征でもとにかく成功率が上がるので、引っ張りだこになるんです」

「そうですよね・・」

リットリオは少し頬を緩めた。

自分は戦艦だが、着任がとても遅かったので、他の戦艦達と明らかにLV差があった。

LVは35を過ぎると上がりにくく、先輩戦艦達は軒並み85以上。

リットリオはそのLV35にちょうどなったばかり。

LV差があるほど作戦上使いにくい、だからますます置いて行かれてしまう。

それを良く解っていたリットリオは早く追いつこうと、この研修に志願したのである。

自分もそうなれるだろうかと思っていた時、風雲は意外な事を口にした。

「だからこの研修を受けた子が姉妹の中にいると、周りの目が変わってくる」

「姉妹?」

「同型と言い換えてもいいです。たとえばこの前帰還した朧さんが居れば・・」

「綾波型は一目置かれる?」

「そういう事です」

「ふーん・・」

「なので、行って来てほしい、と」

「え?」

「・・」

「じゃあ風雲さんは、自らの意志で志願したのではないんですか?」

「・・はい」

「そっか・・」

リットリオは頷いた。

自分は自ら志願したから、幾つか不吉な噂を耳にしても覚悟を決めるだけだった。

しかし、行って来いと言われた風雲は、噂を聞くたびに赴任するのが嫌になっていったのだ。

嫌ならいつでも帰れる筈だが、姉妹艦に頼まれたとあってはそうも言えなかったのだろう。

リットリオはそこまで考えて首をひねった。

「あ、あのですね」

「はい?」

「行くように命じたのは、やっぱり姉妹の方ですか?」

「夕雲姉さんに頼まれました」

「じゃあどうしてそんな悪い噂を・・・」

「どうして、とは?」

「えっ?だって深雪さんはともかく、秋雲さんは同型艦ですよね?」

「違いますよ」

「あれっ?ええと、確か同じ制服着てませんでしたっけ」

「確かに秋雲は同じ制服ですけど、彼女は陽炎型なんです」

「難しい世界なんですね・・」

「秋雲はちょうど、陽炎型と夕雲型の更新時期に建造されたので、立場もちょっと曖昧で・・」

「ふぅん・・」

リットリオは思った。少し香取の耳に入れといた方が良いかもしれない。

 

「かっ、かかかか香取さんごめんなさい!噂を鵜呑みにしてました!」

「・・」

どう続けようかと風雲が迷っていると、リットリオはそっと紙包みを風雲に押し付けた。

「・・あっ!かっ香取さん。これ、ごめんなさいの気持ちです。皆様で召し上がってください!」

香取は包み紙を2度見すると、がばっとリットリオの方を向いた。

リットリオが大きく頷いたので、香取は溜息交じりに言った。

「・・仕方ありません。昼の件はこれで手打ちと致しましょう」

「あっ、ありがとうございます!」

「ですが今後は、噂を盲目的に飲み込むのではなく、自らの目で見て判断してくださいね?」

「はい。本当に申し訳ありませんでした」

 

 

その日、夜遅く。

リットリオはドアの隙間から明かりが漏れているのを確かめると、執務室のドアをノックした。

 

「・・まぁ、そうだったのですか」

「はい」

「我々の研修に妙なプレミアムが付くのは困りものですね・・」

「風雲さんがいらしたのも、変な噂を吹き込まれたのも・・」

「プレミアムのせいだとすれば、根の深い問題になってそうですね」

香取はしばらく手を組んで考えていたが、

「リットリオさん、重要な情報をありがとうございました」

「はい」

「鎮守府の方は龍田様と相談いたします。後はこの香取にお任せください」

「わかりました。でも、今動くと風雲が情報源だという事がバレますから・・」

「その辺はご心配なく」

「わ、解りました。では失礼します」

 

・・パタン。

 

執務室のドアを閉めた後、リットリオは小さく溜息をついた。

香取に余計な心労を与えてしまったような気がする。

 

「あれぇ?香取姉ぇと何の話してたの?」

リットリオが顔を上げると、鹿島が手を振った。

「鹿島さん・・」

 

「良かったんじゃない?リッちゃんお手柄だよ~」

星空の元で、二人は海岸沿いの道を歩いていた。

リットリオはうつむきがちに言った。

「余計な心労をかけさせてしまったのではないかと・・」

星を数えるのをやめ、鹿島がリットリオに向き直った。

「んー・・ねぇリッちゃん」

「はい」

「現代において、戦争に勝利するのはどういう人かな?」

「情報を制した人です」

「正解。だから香取姉ぇに情報を提供するのは勝利をもたらすって事だよ」

「・・」

「もう1つ。リッちゃんが知らせなくても後で大惨事に遭えば凄い心労になるし・・」

「・・」

「それなら、解っている問題に構えて向き合う心労の方がマシじゃないかな?」

「そう・・ですね」

「だからリッちゃんは良い事した~って胸を張って良いんだよ」

「・・鹿島さん、ありがとうございます」

「何もしてないよ。こっちこそ香取姉ぇを助けてくれてありがと」

リットリオは鹿島と笑顔を交わしながら思った。

こんな良い人達に、これ以上変な噂が被さりませんように。

 

一方。

夕食の膳を下げていた秋雲は、ついついと肩を指でつつかれた。

振り向くと、そこには那智が立っていた。

「ほえ?那智さんどうしたんですか?」

「貴様に話がある。膳を下げたら一緒に来てもらいたい」

秋雲はそこで嫌な予感がしたが、ふと周りを見ると姉達が居ない。

しまった。最後に席を立ったからはぐれた。

これでは陽動を頼めない。

しょうがないか・・まぁ那智さんだからおかしな事にはならないだろう。

「はぁい」

食器を流水にくぐらせ、盆を定められた場所に返すと、秋雲は那智に従った。

 

 

 


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