Deadline Delivers   作:銀匙

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第27話

 

 

話は少し前、ベレーが来て少し経った頃に遡る。

同じくエクスプレスのオーダーがソロル鎮守府からかかった。

当時、予備知識が全く無かったファッゾ達はいつも通りの手順で準備を始めたが、マッケイに訊ねると

「・・あの海域だけは訳が解らねぇ。山ほど深海棲艦が居るのに戦闘が無いらしい。信じられねぇよ」

そういって肩をすくめた。

ファッゾはムファマスの所にも行ったが、ムファマスも首を振りながら溜息をついた。

「あの海域の深海棲艦達は秘密のベールに包まれてる。鎮守府と協力してるなんてデマも流れてるしな」

「は?」

「有力な説は地上組元老院の重役級が居るから情報を意図的に撹乱してる、という奴だ」

ファッゾは頷いた。だとすれば深海棲艦側の警護は相当強固だろう。

戻ってきたファッゾはベレーをしっかり見ながら言った。

「ベレー、君の役割は非常に重要だ。鎮守府近海の深海棲艦達と最大限友好的に振舞って欲しい」

「はっ、はい!頑張ります!」

「とにかく刺激しないように、運ぶだけ運んだらすぐに帰ってくるんだ。良いね」

「解りました!」

「ミストレルも良いな?下手にぶっ放すなよ?」

「解ってるって」

こうして二人は出航したのである。

 

2日ほど経って、二人はソロル鎮守府の近海までたどり着いた。

だが二人はベレーのレーダー反応を見て、撤退するかどうするかを真剣に話し合っていた。

なぜなら、個々の反応が識別出来ない位大量の深海棲艦が狭い海域に密集していたのだ。

その数は少なく見積もっても4000、いや5000は居ると思われた。

 

5000対2。

 

絶望的な数量差である。

相手の1%でも好戦的だった場合、自分達に勝ち目はない。

さらに、配達先はそのど真ん中である。

しかし、数時間様子を伺ったが戦闘が起きる様子は無い。

散々迷った挙句、ミストレルはマッケイの情報を信じて腹を括った。

もし誤りだったらマッケイが死ぬまで呪ってやる、と。

二人はいつになく緊張した面持ちで、そっと前進し始めた。

 

それは、突然の事だった。

 

「ヤァ、君モカレー食ベニ来タノ?」

「・・エッ?」

 

声をかけられたベレーが振り向くと、いつの間にかレ級が背後に居た。

ベレーは息を呑み、硬直した。

いつの間に背後を取られたのかさえ解らなかった。

この至近距離でレ級の主砲を一発でも喰らったらひとたまりも無い。

なにより、深海棲艦のヒエラルキーの遥か上に位置するレ級に失礼な態度を取ればそれだけで始末される。

それが深海棲艦の常識である。

ベレーはミストレルの事をどう説明したものかと、頭を超高速で回しながらそっと答えた。

「エ、エエト、アノ、私達ハ」

その時。

「おーいどうした?ベレー」

ベレーが振り向くと、先を行っていたミストレルが戻ってきていた。

ミストレルからはレ級が死角になっていて見えないらしい。

は、早く言い訳を考えないとミストレルもろとも殺される!

極まったベレーが涙目になったその瞬間。

 

 「キョ・・教祖様?」

 

ベレーは慌てて声がしたほうを向くと、タ級とヲ級の2体がミストレルを凝視しながらそう言っている。

「?」

何の事だろうと思っていると、ざばざばと取り囲むように深海棲艦達が上がってきて、

「教祖様!」

「教祖様ガイラシタ!」

「アリガタヤ!アリガタヤ!」

と、口々に囁きだしたかと思うと、次々とミストレルに握手を求め始めたのである。

ミストレルもベレーも事情がさっぱり解らない。

だが、異様な雰囲気が怖くてベレーは思わずミストレルにしがみついた。

すると、

「オ弟子様!」

「オ弟子様ナノデスネ!」

そう言いながらベレーもまた、握手を求められたのである。

二人は思った。

 

 とにかく、訳が解らないけれどこんな大軍勢を刺激してはいけない。

 

求めに応じて引きつった笑顔で握手し続ける事1時間。

 

「トコロデ、ドチラニ御用事デショウカ?」

 

タ級がそう言った途端、深海棲艦達はぴたりとざわめきを止め、一斉に二人の方を向いた。

「あ、あー、ええと、夕張に渡したい物があって探してるんだけどさ」

ミストレルがそう言うと、まるで海を割るかのように1箇所だけ深海棲艦達が道を空けた。

「オ探シニナルヨリ、配送室デ呼ビ出シテモラウ方ガ早イカト!」

「そっか。さ、サンキューな」

「イエ、コレシキノ事!」

こうして二人は何とかソロル本島に上陸すると配送室を見つけ、夕張を呼び出してもらったのである。

 

「・・・なんだそりゃ?」

ミストレルは出来るだけ誇張する事なく、正確にファッゾに伝えた。

(実際、ベレーは素晴らしい説明だったとミストレルを褒めたくらいである)

だが、ファッゾの答えは冒頭の通りだった。

「アタシだって訳が解らねぇよ」

「・・だよな」

「とにかく、連中にとって教祖的な存在の摩耶が居るんだろうな」

「で、ついていったからベレーもお弟子さん扱いされたって事か」

「他に考えようがねぇよ」

「まぁ、二人ともとにかく疲れたろう。ゆっくり休め」

「悪ぃがそうさせてもらうぜ。あれだけ深海棲艦の大軍に囲まれた事も初めてだったしな」

ベレーが弱々しく微笑んだ。

「緊張・・しすぎ・・ました」

ミストレルとベレーの二人は、その後丸2日眠り続けたという。

二人が眠っている間、ファッゾはトラファルガーでマッケイとムファマスに会ったので話して聞かせたところ、

「阿呆も休み休み言え」

「深海棲艦が艦娘を教祖として崇める?全く聞いた事ないよ。ファッゾ」

そう言われたし、たまたま横で聞いていたナタリアも

「あたしも結構いろんな海域旅したけどさ、そんな話は聞いた事がないよ」

と、肩をすくめた。そして4人が出した結論は、

「ソロルには近づかない方が良い」

と、いう1点でまとまったのである。

 

 


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