Deadline Delivers   作:銀匙

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第3話

ミストレルは給油メーターからベレーに視線を戻すと訊ねた。

「なぁ、お前は武器何持ってくんだよ」

ベレーは本を閉じると、少し首を傾げながら答えた。

「んー、ファッゾさんの指示次第ですけど、多分いつも通り5インチ連装砲と3連魚雷じゃないですか?」

「つまんねーなー」

「ミストレルさんはどうするんです?」

「パーッと派手なもんが欲しいよな。三式弾とか、対空噴進砲とか、烈風改とか!」

「三式弾は高くて買えませんし、噴進砲は売ってませんし、烈風改は元から積めないですよね?」

「一瞬で全否定すんなよー」

 

武器弾薬類の製造・販売・所持は当然ご法度だが、この町には武器屋が幾つもある。

町の人々はそれらが海軍から横流しされたものだと知ってるが、出自に拘る奴はいない。

一方、良く出てくる装備は旧式の物が大多数だが、たまに新装備が売りに出る事もある。

当然武器屋は吹っかけるので、逆に持っていれば町ではステータスになる。

ミストレルが先程挙げたのはステータス性の高い装備だが、ファッゾは徹底的に経済優先である。

いつも超のつく定番商品(例えば12.7cm砲や15.2cm単装砲)を買ってくる。

 

ベレーは人差し指をピンと立てて諭すように言った。

「いつもファッゾさんが仰ってるではないですか。いかに安いコストで最善の結果にするかって」

「ちぇ。ベレーもすっかりファッゾの味方だよなー」

「毎日美味しいご飯が食べられるのも必要な節制をしているからですよ」

「重巡なんだからせめて20.3cm砲くらい寄越せってんだよー」

「15.2cmで十分じゃないですか。7.7mm対空機銃に比べれば」

「あんな爪楊枝持って来たら殴ってやる」

「私なんてそもそも5インチしか積めませんけど、敵を追い払うくらいの効果はありますよ」

「うー」

その時、ミストレルの艤装に差し込まれていた給油ノズルがガチンと音を立てた。

「おっ、給油終わりかな。ジミー!」

事務所からとてとてと小男が駆け寄ってきてノズルを掴む。

少しずつ抜きながら最後まできっちり給油を終えると、キャップを閉めてミストレルに向かって親指を立てた。

ミストレル達は立ち上がり、メーターに表示された料金を見ながら札を数えて渡した。

ジミーはポケットからコインを数枚取り出し、つり銭としてミストレルに握らせて頷いた。

「サンキューなジミー」

ミストレルとベレーはジミーに手を振りながら立ち去った。

 

「おいおい、それじゃ881研のミスじゃないってことか?」

「そういう事だファッゾ」

マッケイのオフィスを出た後、ファッゾはふと立ち止まった。

幾らなんでも間抜け過ぎる。

少し考えた後、ファッゾはもう1人の情報屋を訪ねる事にした。

深海棲艦側の事情に詳しい、ムファマスの元へ。

 

「どうやったのかは知らないが、連中は輸送前に保管中の新兵器から弾を引っこ抜いた」

「大本営の中でか?」

「ああ。置いてあったのは881研の倉庫らしいがな」

「目的は?」

「お披露目会をぶち壊して881研を弱体化させる事。それに無論、仲間を護る事」

「その新兵器とやらは強いのか?」

「噂はいつも通り錯綜してるが、深海棲艦側は相当警戒してる」

「へぇ。たまには881研もまともな仕事をするんだな」

「まぁそんな所だ。で、ファッゾ。そこへ配達か?」

「ん、そうだが」

「なら、一番良い装備で行けよ」

「なぜだ?」

「勘だが、深海棲艦側は他にも何か企んでる。大海戦の匂いがする」

「ふーむ・・」

ファッゾは渋い顔になった。なんだかきな臭い仕事になってきた。

二人を危ない目に遭わせるのは出来るだけ避けたい。

いずれにせよ、急いだほうが良い。

ムファマスは札束の残りをファッゾに返しながら頷いた。

「ピースは揃ったかな?」

「ありがとうムファマス」

 

ファッゾのBMWが事務所に戻ってきたのは宵の口になってからだった。

「ただいま」

「どうしたんだファッゾ、マッケイのとこじゃなかったのか?もう航路も決めちまったぜ。安全策で近海沿いだ」

「それで良い。兵装は変更する。二人とも買ってきたものに乗せ替えてくれ」

ミストレルとベレーは顔を見合わせた。珍しい事もあるものだ。

 

「んー!ひっさしぶりに20.3cm連装砲と25mm3連装機銃積んだぜー」

「うわー、これが三式爆雷ですか、初めて見ました」

重装備に目を輝かせるミストレルと物珍しそうに手に取るベレーを前に、ファッゾは真剣な眼差しだった。

「二人とも聞いてくれ。今回の作戦は電撃的に行う」

「・・・」

「長居は無用。戦闘は避けろ。行きは勿論だが帰りも時間を最優先にしてくれ」

「・・なんか情報があんのか?」

「大海戦が勃発する可能性がある」

「なるほど、それでこれなんだな」

そういうとミストレルは、最後の装備として手渡されたダメコンを振って見せた。

「そうだ。そのスーツケースの中身は881研が開発した兵装の弾だ」

「あぁ」

「ただ、こうなったのは深海棲艦側が輸送前に弾を引っこ抜いたからだ」

「・・へぇ」

「大本営の情報はいつも通り深海棲艦側に筒抜けだ。我々への依頼も気づかれてるかもしれん」

「・・」

「そもそも危険を冒してまで引き抜いた弾だ、輸送を阻止しにくる可能性がある」

「・・」

「だから出来るだけ遭遇しないよう、遭遇しても退路確保の為の攻撃に徹してくれ」

「アタシが対空と対艦、ベレーが対潜と広域探査だな」

「そうだ。夜戦は避けたいが、万一の時は二人で協力してくれ」

「あいよ。当該海域で艦娘達が使ってる暗号表は?」

「今回は5だ。それからベレーには道中、可能ならやって欲しいことがある」

「はい」

「深海棲艦の連中が何をしようとしてるのか探って欲しい」

「はい」

「もし海戦勃発間近など、二人に大きな危険が迫るようならスーツケースを投棄し、回れ右して帰って来い」

ミストレルとベレーはぎょっとした顔でファッゾを見た。

「・・え?」

「なんだ?」

「あ、あの、お仕事は達成が大事だって、いつも仰ってるので・・」

「全ては命あっての物種だ。沈むのはスーツケースだけで良い。生きてればまた稼げる」

「ファッゾさん・・」

「二人とも絶対に生きて帰って来い。待ってるからな」

「おうっ!」

「解りました!」

「よし、じゃあメシ食ったら出発だ」

こうしてすっかり夜もふけた2140時、ミストレルとベレーはスーツケースを抱えて出航した。

「必ず、帰って来いよ・・」

港で見送りながら、ファッゾはそう呟いた。

 

 


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