Deadline Delivers   作:銀匙

38 / 258
第38話

 

少し後。

「へ?私が出来る事が何かって・・何?」

「あ、いえ、すいません、変な事聞いちゃって」

「随分深刻そうだけど、なんでそんな事知りたいのか聞いても良いかしら?」

 

朝食を食べた後、ベレーはファッゾに送られて夕島整備工場に来ていた。

今日はハウスキーピングのアルバイトをする日である。

最初は不慣れなのとゴミの多さに呆然とする事も多かったが、次第に慣れていった。

ところが今日は箒を手にしたまま悲しげな目をしてじっと立っているばかり。

心配したアイウィは自分達も休憩するからと言い、ベレーをお茶に誘ったのである。

そして思い詰めた顔でベレーがアイウィに訊ねた返事が冒頭の内容である。

ビットに促される形で、ベレーは今朝の顛末をポツリポツリと話した。

話し終えたとき、それまで黙って聞いていたアイウィが頬杖をついたまま言った。

 

「ベレーちゃんが悩む理由がさっぱり解んないなー」

「そう、ですか?」

「だって戦争するぞって決めたのベレーちゃん?」

「いっ、いえ、私はそんな事決められません」

「ベレーちゃんが戦争続ける事にしたの?」

「・・違います」

「ベレーちゃんが一人でバター買い占めてるの?」

「け、今朝、最後の1つを売って頂きました」

「それは自分だけで食べるため?」

「い、いえ、ミストレルさんにあったら買っといてと頼まれていたので・・」

「それでなんでベレーちゃんが悩まなきゃいけないの?」

「・・」

 

ビットがふふっと笑った。

 

「ベレーちゃんて艦娘から深海棲艦になっちゃったクチ?」

「はい」

「元艦はなんだったか覚えてる?」

「U-511、です」

「なるほどねー」

ベレーはそっと、ビットのほうを向いた。

「えっと、どういう、事でしょうか?」

「アタシ達がずっと前に鎮守府で働いてた時にもユーちゃんが居たの」

「・・」

「その子も本当に考えこむ癖があって、いっつも難しい顔してたのよね」

「・・」

「司令官にその事を言ったら資料を見せてくれたの」

「・・資料?」

「艦娘の生まれもった基礎的な傾向は、実はどの鎮守府で建造されても一緒なの」

「・・」

「生活する事で行動パターンや性格は育っていくけど、基礎的な傾向は艦の影響が大きいのよ」

「・・」

「ユーちゃんの場合は、特に深く考える傾向が強い。1を以って10を知る才女タイプとも言えるわね」

「・・」

「ちなみに夕張の場合は好奇心が強くて技術ネタに目が無いらしいんだけど、私は普通だから例外かしらね」

アイウィが黙ってテーブルの上に無造作に置いてあった

 「週間軽金属 特集:アルミの金属疲労」

 「電子工作技法 半田ごての極意」

 「月間建造技術 巡洋艦のオーバーホール」

の3冊を手に取り、ビットに見せた。

ビットはきょとんとして首を傾げると、

「え?それがなに?」

と言った。

溜息を吐きながらアイウィはベレーに言った。

「・・自分の事って案外見えてないんだよ、ベレーちゃん」

ベレーが深く頷いた。

「・・認めざるを得ません」

ビットが眉をひそめた。

「そんなの一般的な雑誌じゃない。趣味用にNC旋盤持ってる夕張とか居るんだからね!」

アイウィが反論した。

「上を見すぎ!そもそも整備士の仕事してる時点で十分マニアックだよ!」

「だって仕事しなきゃ食べていけないでしょ」

「うー」

ビットは軽く両腕を上げた。

「まぁそれは置いといて、ユーちゃんを迎えた司令官に対する注意事項があった」

ベレーが不安げにビットを見た。

「注意・・事項?」

「とっても色々な事で悩むから、僚艦か司令官がちゃんと聞いてあげて、ってね」

「・・聞かないと、どう、なるんですか?」

「んー・・」

ビットは少し言いよどんだが、先を促すベレーの視線にふうと溜息をつき、

「自殺の確率が飛躍的に上がるそうよ」

「・・・・・あ」

ビットのその言葉を聞いた時、ベレーの頭の中で線が繋がった。

きゅるきゅると記憶が高速で逆再生されていく。

 

 最後の戦いで深海棲艦の軽巡と目があい、轟沈させられたこと。

 皆が進軍していく中、艤装が動かず取り残されていく自分。

 直前の戦いで皆が無傷な中、自分一人大破した事が言えなかったこと。

 戦いに向けて海域を進んでいく際の海中の様子、

 司令官が好きだった葉巻の香り、

 

 そして。

 

 出撃前夜に司令官から「くだらない事をいつまでも悩むな」と叱られた事。

 

 

 ごめん・・なさい。ごめんなさい。

 でも・・ユーは・・

 

「・・ちゃん!・・ベレーちゃん!」

ふと現実に引き戻され、目の焦点が合うと、アイウィとビットが心配そうに覗き込んでいた。

自分の肩を揺さぶっていたのはアイウィだった。

ビットが心配そうに話しかける。

「気がついた?私達の事解る?」

「・・ビット、さん。アイウィ、さん」

「正解よ・・って、どうしたの?」

ベレーの瞳からぽろぽろと零れ落ちる涙は、しばらく止まらなかった。

 

 

 

 




区切りの良い所で切ったので短くなりました。
すみません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。