Deadline Delivers   作:銀匙

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第11話

 

テッドがかけた先には数コールで繋がった。

「こんばんは。順調かい?」

テッドは呼びかけの声を聞き、軽く息を吸い込むと答えた。

「えぇ。今しがた神通が出撃して行きました。所長」

「解った。こちらも向かわせているよ。あと、そんなに畏まらなくて良いんだよ?」

「いえ。今度の件、俺の勘を信じてくださり、ありがとうございます」

「いつも通りに応じただけだよ。117研以来、ずっと信じてるからね」

「・・」

「それにしても、まだ帰ってくるつもりは無いのかい?大山さん」

「俺はとうの昔にクビになりましたよ、所長」

「君は行方不明で配属保留というだけだよ。もう桶やんも左遷されたしね」

「あの分からず屋は歯の2、3本くらい折っちまいたかったんですがね」

「だったら戻ってきたらいい。口論でぶちのめすなら誰も何も言わないよ」

「所長の居ない117研なんて真っ平ですよ」

「君が所長として117研を仕切ってくれたら良いじゃないか」

「俺は人を引っ張るのは苦手です。何度も言いましたよ」

「引っ張れる部下を置いて任せたら良い。君の解析力は天下一品だ」

「俺はここでこうしてるのが性に合ってますよ」

「とほほ。つれないねぇ」

「所長の方はお変わりありませんか?」

「あぁ、ちょっと前、島流しにされたよ。今はソロル島に居る」

「・・・は?あの魔境に島流しされたんですか!?」

「魔境?ま、まぁ、今となっては笑い話だし、結構居心地良いんだよ?」

「・・相変わらず海軍の上はロクデナシばかりのようで」

「そうなんだよねぇ。ここらで誰かに空気を入れ替えて欲しいなぁ」

「・・」

「どっかに頭脳明晰で腐敗不正に勘働きが鋭い人は居ないかなぁ」

「海軍内で探してくださいよ」

「そうだ!配属保留の人が1人居るじゃないか!」

「だから俺じゃなくて。用件は伝えたんでもう切りますよ」

「まぁまぁそう言わないで。今度夕食でも一緒に食おうよ、ね?」

「いや・・だから・・」

「今回の結果報告とか、知らせてくれた礼もしたいしさ」

「俺の方が礼を言いたいくらいですから、結構です」

「おお!じゃあその礼に海軍に戻ってくるってのはどうだ?」

「コントじゃないんで!」

「解った解った。とりあえず今回の件、後は任されたよ。結果は知らせるからね」

ピッ。

白目を剥きながらテッドは唸った。

「あーもう、所長と話すとこれだから嫌なんだよ・・くそ」

そしてシガーカッターで葉巻の先を切り落とした時、ふと

「配属保留って・・今更過ぎるだろ・・ないない」

そう呟いた。

 

 

未明頃。

 

「皆さん、お疲れ様です。駐留ポイント到達です」

神通は正面を見たまま告げる。

皆も答えないが、それぞれの方向を見たまま耳を澄ませ、次の指示を待っているのが背中で解る。

この連携感は、この面々だからこその物だった。

懐かしい感覚に安堵しながら、神通は続けた。

「鎮守府の現状はケイルさんから頂きましたが、所属艦娘数が1人も減っていない等、腑に落ちない点があります」

「・・」

「よって計画通り、日が昇るまでに各自準備をお願いします。散会!」

5人は弾かれたようにそれぞれの海へと進んでいった。

 

 

同時刻、柿岩家会議室。

 

「・・では、本計画は海底国軍の総意ではなく、一部の造反者によるもの、という事ですね?」

「その通りだ。貴殿の連絡で知る事になったが、貴方達との協定を乱す行為であり誠に遺憾だ」

モニタに写る海底国軍の副将軍は大仰に首を振ってみせた。

軽く溜息をついた後、防空棲姫は更に言葉を続けた。

「第41研究局の越境ならびに領海内での身勝手な振る舞いについて、我々は処置を始めます」

「海境に居並んでいるのは勿論存じているし、阻害するつもりはない」

「今度の不始末に関し、海底国軍側としてどう対応なさるおつもりですか?」

海底国軍の副将軍は隣に座る参謀長から渡されたメモを読み上げ始めた。

「第1に貴作戦への一切の阻害をしない事。第2は貴作戦で消費した資源の7割を負担する事」

「・・」

「第3は本件に関する内部調査を行い、残る関係者が居れば粛清する。それで手を打って頂きたい」

「ではこちらの作戦行動中はそちらの海境警備部隊から攻撃はない。よろしいですね?」

「既に第41研究局より内側まで下がらせた。ただし偵察部隊は待機中だ。海境改変を心配する向きがあってな」

防空棲姫はぐっと奥歯を噛んだ。尤もな話だが、先に侵略行為をしたのは海底国軍ではないか。

「では作戦終了後、負担資源量について改めて交渉を」

「いや、その必要は無い。先程と同様、参謀長に要求内容を連絡頂ければ即時手配する」

「よろしいのですか?」

「それが我々の誠意だと思って欲しい。お手数をかけるが、完璧に、粛清願いたい」

画面越しではあるが、副将軍が小さく頭を下げたのを防空棲姫は見逃さなかった。

「解りました。では引き渡し場所を含めてご連絡致します」

 

通信を終えた後、浮砲台組長が話しかけた。

「研究局の規模を考えれば相当上位の関与が疑われるが・・トカゲのなんとやら、か?」

防空棲姫も頷いた。

「そこは引き続き情報収集にあたるとして・・皆様よろしいですね?」

居並ぶ面々が頷いたのを見て、防空棲姫は課長に声をかけた。

「課長」

「はいっ!」

「我々元老院は全作戦を承認します。残らず殲滅するのは我々の本意でもあります」

「はっ!」

「徹底的に叩いてください。跡を見た海底国軍の兵士が震え上がるほどに」

顔を上げた課長が見たものは、ぞっとするほど殺気を漂わせた元老院の面々の姿だった。

「・・は、ははっ!直ちに開始します!」

 

 

夜明け前、海底国軍海域内。

 

ミシェルは周りを囲む面々に頷いた後、通信機の回線を開いた。

「課長、ロシア極東班、北米班、東南アジア班、オーストラリア班トノ合流完了、諸準備完了デス」

「了解。それから待たせたわね。先程、全作戦の最終承認が下りました」

「ハイ」

「貴方の担当する作戦がメインです。海底地形の温存に留意する必要はありません。一切を粉砕してください」

ミシェルは大きく頷きながら、待ちに待った一言をゆっくりと告げた。

「総員ニ告グ。連合艦隊ニヨル攻勢殲滅作戦ガ承認サレタ。予定通リ展開セヨ。目標、海底国軍第41研究局」

ザザザッと兵装を展開する音が響いていくなか、ミシェル自身も兵装を展開しつつニィッと笑った。

「サア、ヤルワ。砲雷撃戦用意!」

 

こうして研究所を取り囲む5大隊、計6万体による大規模作戦が開始された。

終了後、それは一方的な、あまりにも一方的な展開だったと偵察部隊は報告した。

「・・・クソッ・・クソッ・・クソオッ!副将軍メェェェ!」

報告を聞いた「長官」は手当たり次第部屋の物を壁に叩きつけて壊したという。

 


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