Deadline Delivers   作:銀匙

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第15話

武蔵はそっと、提督を指差しながら言った。

「初代・・117研・・所長・・か?」

「あはは、思い出してくれたんだね。久しぶり」

武蔵は真っ青になりながら、あの時の一幕を思い出した。

完全に血が上っていた自分達を凄まじく冷たい一瞥で黙らせた事。

潮達のミスを隠そうとしたのに、幾つもの証拠を手に自分や神通を完璧に追い詰めた男。

あのテッドの追求が優しく見えるほど徹底的に理詰めで真実を吐かせた男。

初代117研所長。通称ヤマタノオロチ!

「ひっ・・ひっ・・ひぃぃぃいいいいい!」

武蔵は神通と抱き合い、目をぎゅっと瞑ってガタガタと震えていた。

もう御仕舞いだ。跡形なく解体される!今度こそ100%言い逃れ出来ない!

「あーもー、ホンマ変わらんなぁ、この展開」

溜息混じりにそう言ったのは龍驤だった。

提督は肩をすくめた。

「私はまだ久しぶりだねとしか言ってないんだけどね」

山城はちらと震えながら抱き合う二人を見て、

「ほんと、仲良しコンビよね」

と、呟いた。

サマンサはふと、時雨の視線に気がついた。

首を傾げると、時雨はハッとしたように俯いてしまった。

提督は龍驤の方を見ながら口を開いた。

「えーと、また君を頼るしかなさそうだよ、龍驤さん」

「ええよ。話始まらんし」

「2つ目の用件はね、そちらのお二人さんについてなんだよ」

提督はそういうと、ミシェルとサマンサを指差した。

「んー?この二人は協力者やで?さっき言うたやろ?」

「そこは解ってる。どうして協力してくれたかって事なんだ」

ミシェルとサマンサはまずいと思った。

地上組の事は特に海軍には知られてはならないとされている。

知られてしまった場合、当該鎮守府の殲滅が追認されるくらい優先度が高い。

だが、この提督は自分達を修理してくれた恩義がある。

何とか地上組の事に触れずに切り抜けたい。

そう、思い至った時、提督から思いも寄らぬ発言が飛び出した。

「これは仮説なんだけど、お二人は4219鎮守府の轟沈した艦娘じゃないのかな?」

その言葉に、俯き加減だった時雨はがばりと顔を上げた。

「ああっ!そうだ!」

提督は時雨の大声にびくりとしながら訊ねた。

「ど、どうしたの?時雨さん」

時雨はぶるぶると手を振るわせつつサマンサを指差しながら言った。

「あの時の仕草・・き、君は、君はもしかして、扶桑・・じゃないのかい?」

山城は一瞬ぽかんとした後、音速でサマンサの方を見た。

サマンサは悲しげな顔をして、

「・・お二人の仰るとおりです。そして・・ミシェルさんは、大和さんです」

そう、答えたのである。

即答したのは、地上組の事を暴露するよりよほど機密レベルが低いと判断したのである。

 

「ふむ、やっぱりそういう事だったか」

提督が頷きながらそういい、武蔵がサマンサの言葉を理解したのはその時だった。

「や・・やっぱり・・・・あ、姉上なのか?」

ミシェルは少し拗ねたように言った。

「時雨ちゃんは扶桑の事を思い出してくれたのに、貴方はちっとも気づかなかったわね」

「ちっ、違っ!いや、あの」

「・・なーんてね、ふふっ。そうよ武蔵。貴方の顔が見られてとても嬉しかったのよ?」

「あ・・・」

言葉が出ない武蔵に代わって、提督が口を開いた。

「お二人が深海棲艦になったのは、やはり作戦指示への強い不満なの?」

サマンサは首を振った。

「いいえ。それは確かに恨めしかったですが、それ以上に妹の行く末が心配で・・」

ミシェルは寂しそうに笑った。

「サマンサも同じ事で深海棲艦になっちゃったと知って、二人で苦笑したわね」

「そうでしたね」

提督が言った。

「じゃあ怨恨の方は今回の件を以って消えたと考えて良いのかな?」

ミシェルが肩をすくめた。

「一応、作戦を統括していた研究局も、直接指示していた深海棲艦もこの手で葬りましたから」

「よし。じゃあ艦娘に戻るといい」

提督の言葉は、傍らで微笑む長門を除き、それぞれが理解するのにとても時間がかかった。

「・・・へ?」

ぽかんとする山城に、提督は頷きながら言った。

「この鎮守府では、深海棲艦を艦娘に戻す事が出来るからね」

呆然としていた7人は、やがて耳をつんざくほどの大声で驚いたのである。

 

そして1時間後。

 

「姉様っ、姉様っ!姉様ぁ!」

「山城、他の方が見ている前ですよ。きちんとなさい」

「だってだってだってー!」

喜び一杯の顔で扶桑にしがみつくのが山城で、武蔵はと言えば号泣していた。

「うっ・・ぐすっ・・姉上・・姉上ぇ・・うわーん!」

「あーもー、普段のきりりとしたイメージ戦略が台無しじゃない・・」

「うっうっ・・良かった・・姉上・・寂しかった・・寂しかったよぉぉおお!」

「はいはい、解ったから、そんなに泣かないの」

時雨が呆然としてその様子を見ていたので、龍驤は声をかけた。

「どないしたん?」

「いや、てっきり逆の展開になるのかなって思ってたから・・」

「あーまぁ、山城は案外図太いし、武蔵は毎日一生懸命頑張ってるで」

「そう、だったんだね」

「戦艦はどっしり構えとらんと艦隊全体の士気に影響するからなぁ」

「・・」

「だから武蔵はそうあろうと努力しとるんよ」

時雨は頷きながら、そっと武蔵に呟いた。

「・・ありがとう。君のおかげだよ」

 

提督は工廠前の砂浜で、7人の様子を見ながら睦月と東雲の頭をわしわしと撫でていた。

「えと、二人には問題はないかな?」

「いつも通り完璧ですにゃー」

「パーフェクト、です」

「よっしゃ。今日は特別に間宮アイスを奢ってあげよう。チケット上げるから食べておいで」

「やったにゃーん!」

「ありがとう、提督」

「行ってらっしゃい」

あっという間に走り去る二人を見送っていると、その先から歩いてくる人影を認めた。

「・・鳳翔さん」

「手配リストには武蔵さんお一人だけ載っているようですね」

「そうですか・・ええと、この場合、鳳翔さん的に武蔵は黒?白?」

上目遣いで見る提督に困った笑顔を返しながら、鳳翔は答えた。

「事例が事例ですし、恫喝相手が深海棲艦では黒とは言えないので、灰色でしょうか」

「後は、本人達の希望、かな」

「ええ」

提督は鳳翔と頷きあうと、長門と3人で7人の方へと歩いていった。

 

 

 


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