Deadline Delivers   作:銀匙

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第14話

「・・・」

閉店後。

クーとルフィアは店の片づけを手伝っていたが、クーはちらちらとルフィアを見ていた。

いつもは細々注意してくるルフィアが黙ったまま、ぼうっと同じ所を拭き続けている。

「おっちゃん・・」

クーがライネスに心配そうな声をあげると、ライネスは頷き、

「さっきの話、だろうな」

「・・おっちゃんはさ、僕達が今のままで居るのと、人間になるのどっちが良い?」

ハッとして、一瞬非難交じりの目でクーを見た後、そっと伺うようにライネスを見るルフィア。

ライネスは腕を組んでしばらく悩んでいたが、

「そうさな、まず、人間になるという事は老いもセットでやってくる」

「・・」

「ファッゾも言ってたが、老いなんて楽しくもなんとも無い。体が言う事を聞かなくなるんだから」

「・・」

「そして君達がそうなった所で、私の寿命に変化は無い」

「・・」

「今、君達がその姿形にふさわしい年齢、10代前半になったとする」

「・・」

「私はそろそろ50だ。私があと20年生きられてもその時君達はまだ30過ぎ。まだまだ死ぬような年じゃない」

「・・」

「成長した二人の姿を見たい気もするが、今のままでも私は一向に構わない」

「・・」

「そう考えれば、老いと無関係に暮らせる今の方が良いんじゃないか、と、思う」

「・・」

「一方で深海棲艦で居る限り、どうしても肩身の狭さを感じることになる」

「・・」

「テッドや今の町長が居る限り、この町は安全だろうけど、彼らもまた人間だ」

「・・」

「そしてソロル鎮守府の司令官も人間だ」

「・・」

「だから我々が死に絶えた後に悪い方へと変化した場合、その時人間に戻りたいと願っても戻れるとは限らない」

「・・」

「老いも可哀相だが、お尋ね者になって迫害されるのはもっと可哀相だ」

「・・」

「だから、どう答えたものかね・・」

クーとルフィアはそっとライネスのエプロンの裾を掴み、ライネスは二人の頭を撫でた。

「どの答えも心配や不安はあるけど、君達が一番幸せだと思う道を行けば良い」

「おっちゃん・・」

「おじさま・・」

「私は生きてる限り、二人の味方だよ」

 

こうして、話は現在に戻る。

 

ロビーに置かれた時計の鐘が1400時を告げたので、ルフィアはハッとした。

いけない。何もしないままこんな時間になってしまった。

・・でも、どうしたら良いか解らない。

そもそも自分がどうしたいのか、悩みすぎてもう解らなくなって来た。

 

 こんがらがったら、淡々と事実を思い出せ。

 いいか、淡々とだ。

 そしたら真実がぽっと浮かんでくる事もある。

 

ずっと昔、軍閥のボスが言っていた事だ。

 

淡々と、か。

 

ルフィアは目を瞑り、腕を組んだ。

ええと・・最初から・・

 

谷風だったクーと、天津風だった私。

着任の挨拶をしたら、司令官にまた来たのかと舌打ちされた。

戸惑っていたら、秘書艦の人が外に連れ出してくれた。

秘書艦を始めとする艦娘の皆は優しかったけど、今思えば同情だったような気もする。

矢継ぎ早にご馳走をくれたり、親切に訓練してくれたり、良い景色を見せてくれたり。

私達が早々に武装解除させられた状態で出撃し、撃ちまくられて沈む運命を知っていたのだろう。

致命傷を負った私達を見て、吹雪が泣きながら何度も「ごめんね、ごめんね」って言ってたし。

去って行く皆を目で追いながら、私達はなんで生まれたんだろうねって、クーと泣いたっけ。

 

だから深海棲艦になっても非武装だったのは心底がっかりしたなあ。

軍閥に誘われて、輸送要員として働いて、司令官がやったのは捨て艦戦法だったって聞いて。

腹は立たなかったけど、私達がさせられた事の意味を知って悲しくなったなぁ。

だけど「一緒に復讐しようぜ!」って仲間に言われてもピンと来なかった。

司令官に酷い事をされたのかもしれないけど、艦娘の皆に恨みはなかったから。

 

軍閥は規模の大小に関わらず、やられる時はやられてしまう。

だけど私達は運よく難を逃れ、何度か渡り歩くことになっちゃった。

最後の軍閥は割と大きくて補給部隊長まで行けたけど、だから内情が見えちゃった。

結局皆、過去にされた事にすごく腹を立てていて、復讐する為だけに今を生きていた。

どうやったらこれから幸せになるかなんて誰も考えてなかった。

でも、私達はそっちの方を考えたかった。

せっかく生まれてきたのだから。

クーも一緒の考えだって事を確認して、後任に引き継いでから私達は軍閥を去った。

目的はどうあれ、私達に親切にしてくれた軍閥だったから。

あれはやっといて良かった。

でなければ後で訪ねて行った時に契約なんてしてくれなかったと思う。

 

そして、噂で聞いていた地上組を頼りにこの港町を目指して。

上陸する前に海面から偵察していたら、波止場で釣りをしているおじさまが見えたのよね。

釣竿を優雅に振るおじさま、格好良かったなあ。

これはもう絶対運命としか思えないって、ふらふらと上陸しちゃったのよね。

ドキドキして舌噛みそうになっちゃったし、人間にも化け忘れてたし。

ヘマばかりしたけど、初めてチョコミントアイスを食べたのもあの日だった。

おじさまも酷い過去を背負ってらっしゃるんだって思って、一生懸命お店を手伝って。

・・・・クーが物を壊しまくったから鉄拳制裁する癖がついちゃったのよね。

おじさまが仰るから最近は控えてるけど・・

 

おじさまに経営方針のアドバイスを頂いて、おじさまにご迷惑をかけないように生活も独立して。

何とか自分達の生計を立てられるようになった。

 

・・・そうだ、忘れちゃいけない。

 

一生懸命Deadline Deliversとして働いてきたのは、おじさまにお金を返す為だ。

私達に惜しみなく買い与え、食べさせてくれたおじさまは、沢山のお金を使ってしまった。

だから全額を倍にして返そうって二人で決めて、その為に頑張ってきたんだ。

でも、モンスター前輸送作戦で、貯めていた4千万コインは露と消えた。

おまけにおじさまの優しさに甘えて、また一緒に暮らしている。

 

ルフィアは溜息をついた。

 

 

 


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