Deadline Delivers   作:銀匙

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第19話

「う・・うーん」

ルフィアはハッとして横を向いた。

恥ずかしさのあまり、力いっぱい拳骨を落としてからすっかり大人しかったから忘れてた!

「クー!ねぇ!クー!」

「・・あれ?ここ、天国?」

「違うわよ」

「うわっ!暴力女!地獄の一丁目だ!」

「なん・・ですってぇ・・・」

「ひいいっ!事実じゃないかぁ!」

「まぁ待て、二人とも」

 

「!」

 

そうだったと、ルフィアはライネスの方に体を向けると俯いて縮こまった。

クーは事情が読みきれなかったので素直に聞いた。

「あの、ライネスさん。今どこらへんなの?」

「そうさなぁ・・」

 

ライネスはふふっと笑うと

 

「もうちょっとでハッピーエンドってところかな?」

「へー、じゃ見てよっと」

「・・ルフィア」

ルフィアが文字通りびくりとし、こわごわ顔を上げる。

「はっ・・はい」

「まぁ確かに、君は姪っ子に似てる」

「はい・・」

「君がこのタンパーをくれた日は、ちょうど姪っ子の誕生日でね」

そう言ってポケットから象牙と金で出来たタンパーを取り出した。

「姪っ子との思い出が色々重なってしまった」

「・・」

「最初の日に余計な写真を見せ、あの日に姪の姿を重ねた為に、君をそこまで苦しませたのなら」

ライネスはすっと頭を下げた。

「本当に申し訳無い事をしてしまった。どうか許して欲しい」

「あっ、あのっ」

「続きを、話しきっても良いかな?」

「はっ、はいっ!」

ライネスはふふっと笑った。

「けどね、姪っ子は拳で物事を解決しなかったし」

「ぐ」

「敏腕経営者でもない」

「・・」

「そして間違いなく、町外れの墓地に眠っているよ。違うという事は解っているさ」

「・・」

「それに、君が30年の歳月を生きていると聞いて」

「・・」

「私は君がきちんと経営者として活躍している姿に納得出来たんだ」

「・・」

「そんな有能な君に、私がつりあうのかは解らないけれど」

「・・えっ?」

「あ、ただ、その、私は幼子に劣情を抱くほどロリータ趣味ではないんだ」

「・・」

「もし出来るなら、その、もう少し大人になってくれない・・かな・・」

「なっ、何歳くらいが、良いでしょうか・・」

ライネスはしばらく頭を掻いていたが、やがてキッチンから1枚の写真を持ってくると、ルフィアに手渡した。

「?」

「また写真で悪いんだが、ええと、それは私が大ファンだった女優さんなんだが」

クーが写真を見て頷いた。

「ボインボインで大人のブロンド美人だ!すっごーい!」

「た、頼むからこの事は他の連中には内緒にしてくれよ?あ、いや、その、そんな年恰好という・・あー」

真っ赤になって手を振るライネスを見て、ルフィアはくすっと笑った。

「良いですよ、こういう感じの女性が好みなんですね?」

「・・そ、そう、だね」

ルフィアは写真を見て微笑んだ。

人間になってしまったら、この姿になるのは少なくとも15年はかかる。

それはそのままおじさまに好きになってもらえないロスタイムを意味する。

冗談ではない。

おじさまの一生の短さを考えれば、そして自分の気持ちを考えれば、今すぐにでも始めたい。

こうして秘密を打ち明けてくれた期待にも応えたい。

ならば結論は、1つだ。

ルフィアはクーを見た。

「私はこのまま、この家で、おじさまと暮らしたい。クーちゃんも一緒に居てくれる?」

クーは言葉の意味を理解すると、にっこり笑って頷いた。

「・・うん、解った。もちろんずっと一緒だよ」

「ありがとう」

ルフィアは写真を持ったままそっと席を立つと、言った。

「では、ちょっと姿を変えてきます。クーちゃん、手伝って」

「良いよー」

「おじさま、待っててくださいね」

 

カロン♪

 

ライネスは閉まったドアを背に、今なお湯気が出そうなくらい真っ赤になったまま固まっていた。

そして思った。

自分の好みというか、性癖を晒すって恥ずかしい。

さっき、ルフィアは本当に恥ずかしい気持ちを押して打ち明けてくれた事が良く解った。

しばらくして、深呼吸して、頷く。

自分が働けて、一緒に過ごせる時間は彼女達にとってとても短いかもしれない。

それでも。

ずっと大切な思い出となるような、キラキラと輝くような。

そんな時間になるようにしていこう。

 

カロン♪

 

ライネスは入り口を振り向いたが、戸口を見たまま硬直した。

 

「おじさまっ!どうですか!こん・・」

店の入口で固まったルフィアと、急停止したルフィアに対応しきれず後ろからぶつかるクー。

「ぐはっ・・いったー・・どうしたんだよルフィ・・・あー!」

店内では細巻き煙草をくゆらせるナタリアと、渋い顔で腕を組むライネスが居たのである。

 

「へー、ふーん、なるほどねー」

「えっ・・えっと・・」

ナタリアは姿を変えたルフィアをぐるりと一周回って見た後、にひゃりとライネスに向かって笑い、

「随分ハイレベルを求めたわねぇ、ラ・イ・ネ・ス?」

「ぐっ・・あっ、あのな」

「こんなに一途にアンタを愛してくれるの、この子ぐらいだと思うわよ?」

「・・」

「どうやら私の杞憂だったみたいね。大事にしてあげなさいよ?」

「・・もちろんだ。ルフィアが後に思い出しても幸せだったと頬を染めるくらい、幸せな日を作ってみせる」

ナタリアはライネスをじっと見返すと、紫煙と共に大きな溜息を吐いた。

「はぁいはい、ごちそうさま。あーあ、あのバカも早く気づかないかしらねぇ」

「何の事だ?」

「こっちの話よ」

ルフィアがニヤリと笑った。

「どんな手を使ってでも振り向かせたら良いじゃないですか、ナタリアさん?」

ナタリアがジト目でルフィアを見た。

「成功したからって有頂天になってると、ライネスをツバメにするわよ?」

笑顔のまま急速に殺意をまとうルフィア。

「へぇ・・この私と戦争を?」

邪悪な笑みを浮かべるナタリア。

「面白いわね。買ってあげましょうか?」

クーが二人の間に割って入った。

「はいはいそこで終わり!んもー!二人とも心にも無い事言わないの!」

「むっ」

「・・ふん、アンタとクー、ほんとに良いコンビね。じゃ、アタシは帰るわ」

そういってドアに手をかけたナタリアに、ルフィアは声をかけた。

「・・ナタリアさん」

「なに?」

「・・ありがとう。私達、幸せになります」

ナタリアは半分だけ振り返った。

「そうなさい。あ、街中でイチャつくのは止めときなさいよ?実弾で撃たれるから」

「ええ、長生きしたいんで止めときます」

「・・ねぇライネス」

「なんだ?」

「・・ちゃんとプロポーズしなさいよ、なし崩しじゃなくて」

「何で事情を知ってるんだ」

「勘よ。あんた達似てるし」

「誰とだ?」

「ファッゾとか、テッドとか」

「ふざけるな。俺はあんなだらしなくはない」

「じゃあちゃんとプロポーズしてあげなさい」

「もっ・・もちろんだ。何なら今すぐしてやる」

ナタリアがニイッと笑った。

 

 

 


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