「蒼龍と飛龍、かぁ・・」
「最近縁があるな、提督」
「なー・・あれほんと見間違いだったのかなぁ・・」
訊ねてきたビスマルクの話を聞くと、提督は悲しげに微笑み、秘書艦だった長門は肩をすくめた。
ビスマルクは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、先日出張の帰りに北陸を経由したんだけどね」
「ええ」
「たまたま立ち寄ったスーパーのレジに、蒼龍そっくりな子が居てね」
「へぇ」
「声をかけたら人違いですってキッパリ言われるし、周囲のお客さんから白い目で見られるしで」
長門が首を振った。
「まぁ、本当に人違いならストーカーと間違われても仕方ないからな」
「でもあの子は本物のような気がするんだけどねぇ・・」
ビスマルクは何となく、提督は本当に会ったのではないかと思った。
だからこそ地上組の中で動き、この話に繋がっているのではないかと。
ビスマルクは続けた。
「という訳で、地上組はここは信用してるけど、大本営を含む他に知られる事を物凄く警戒している」
「だから蒼龍達を帰す条件として、秘密を守る協定を結んで欲しい。そう言う事だな」
「ええ」
提督は少し考えた後、
「龍田と文月を呼んでくれ」
と、長門に言った。
「あらぁ、それは勿体無い話ねぇ」
「その通りだ。どうせならもっとしっかりした契約を結びたい。文月はどう思う?」
「んー・・」
文月は少し考えた後、
「基地を枕にしませんか?お父さん」
「そうだね。思い切り目的に合致してるしね」
「地上組の皆さんから人間に戻りたい方をどんどん受け入れて・・」
「人間に戻った子達を地上組か関連企業に就職斡旋してもらえれば・・」
「就職の心配も、社会復帰後の心配も格段に減ります」
「白星食品に就職してもらう感覚になればベストだけど・・・なぁビスマルク」
「なによ?」
「地上組は、その、どれくらい就職先として期待出来るかなあ?」
ビスマルクは首を傾げた。
「本当の規模は知らないけれど、数万とか数十万単位だと思うわよ?複数の国に跨ってるし」
「・・まぁ以前、浮砲台組長さんがオーストラリアにもバイヤーが居るって言ってたよね」
「そっ・・そうね」
ビスマルクは必死に思い出していた。あの時どこまで言ったっけ?
うっかりマズい情報を追加してしまうと本気でこの鎮守府に大軍勢が押しかけてきてしまう。
・・いや、むしろそうなる前に契約してしまう方が提督は安全かもしれない。
「ねぇ提督」
「うん」
「地上組の事を知りたいなら、先に契約を結んでしまう方が良いと思うわ」
提督がじっと見返したので、ビスマルクのこめかみを冷たい汗が流れた。
「・・ふむ」
提督は少し考えた後、龍田に向いた。
「文月の案で良いと思うんだが、向こうさんが気にするならもう少しダミーを噛ませるか?」
「いいえ、うってつけの手がありますから大丈夫ですよ~」
「んー?」
龍田はインカムをつまんだ。
「お仕事中ごめんなさい。白雪さん、ちょっと提督室に来てくれないかなぁ」
「下手に特殊契約を結ぶと大本営の目に留まりやすいですから、うちとの通常契約にすれば良いかと思います」
「経理方との契約って事かい?」
「はい。教育の一環として、人間として社会復帰する方を対象にベンチャーキャピタル制度を作っています」
「あったね」
「その制度を使い、例えば旧鎮守府艦娘化事業の就職斡旋といった形で契約し」
「ふんふん」
「その付帯条項として、相互的な機密保持契約を結ぶというのは如何でしょうか」
「ふーむ」
「それなら契約締結先は我々経理方、つまりソロル鎮守府のみとなりますし」
「うん」
「大本営に提出する義務のある書類関係には、一切記載する必要がありません」
「ええと、うちと取引してる業者さんと同じ扱いにしてしまうってことかい?」
「食品卸としての白星食品とかですか?」
「そうだね」
「あれは事務方の管轄で大本営に出入り業者として報告義務がありますが、我々は報告義務が無いのです」
「なんで報告不要なんだっけ?」
「社会復帰教育の一環で行う起業した会社一覧を作った所で、受ける大本営の部署が無いのです」
「そりゃそうか。ただ・・」
「なんでしょう?」
「だとすると、誰の起業案件にするんだい?」
「北方棲姫さんです」
「・・・あー、そうか。確かに北方棲姫は現在中断してるだけで、最終的には人間化を希望してるからねぇ」
「その通りです。名目上はぴったり当てはまります」
「そこまで待ってくれるかなあ・・」
「そこまで、とは?」
提督がちらりと龍田を上目遣いに見た。
龍田はくるくると左手の指輪を回しながら白雪に言った。
「提督は恐らく、地上組の全員を人間まで戻すつもりよ~」
提督が微笑んだのでビスマルクはゾクゾクしていた。
深海棲艦なら誰でも知ってるメジャーと呼ばれる超大軍閥は、地上組、北極圏軍閥、海底国軍の3つしかない。
それぞれが数十万ともそれ以上とも言われる構成員を抱えているのだが、その1つを消し去ろうというのだ。
ただ・・
提督達がやろうとしてるのは、個々の権利を尊重し、適切な指導を経た社会復帰プログラムだ。
大本営のように武力で一切を始末しようとしているのでは無いし、地上組の理念にも馴染みやすい。
提督は長門に言った。
「すまない。私が基地に行くか、北方棲姫と日向を呼びたい。電子会議では漏洩の恐れがあるからな」
長門が頷いた。
「・・待ってろ、基地に確認してくる。やる前提で進めて良いな?」
「構わない」
長門が出て行った時、ビスマルクが口を開いた。
「ええと、それなら浮砲台組長には出直してもらうように言ってくるわね」
「なんだ、いらしてるのか?」
「え、ええ。そうだけど」
「なら一緒に話してしまおう。文月」
「なんですか?」
「集会場は空いてるかな。普通の会議室だと浮砲台組長さんは入らないだろ?」
「空いてるんですが・・」
「うん?」
「その、今日の夕刊か明日の朝刊に・・」
提督はジト目になった。
「・・いかんね」
「はい」
ビスマルクが肩をすくめた。
「今、浮砲台組長さんはうちの応接室で待ってもらってるわ。そこで話した方が安全かもね」
「工場の入口ゲートでパパラッチ封鎖は出来る、か」
龍田はちらりと壁を見ながら言った。
「既に漏れてる分も含めてこの件は記事にしないよう、来年度の予算を人質にして念を押しておくわねー」
提督は溜息をついた。
「もう漏れてるのか・・早すぎるぞ・・」
「ゲ」
ヘッドホンで提督室の会話を盗聴していた青葉は顔をしかめた。
同じく会話を聞いていた衣笠は青葉に話しかけた。
「はいはいっと。青葉、この件は一切ボツ。記事化禁止」
「うえー、久しぶりの特ダネだったのにー」
「しょうがないでしょ。記事にしたら本気で予算0コインにされるわよ?」
「はぁーあ、じゃあエンタメ欄は予定通り提督のアクロバット寝姿写真集にしますかぁ」
「・・・青葉、記事見せなさい」
すいません。次回は再編集中なので明日に回します…