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シアトルの駅を出てきた4人の足取りは重く、フィーナは溜息混じりに言った。
「日本の運行精度がおかしいのか、こっちがおかしいのか・・」
ナタリアは肩をすくめた。
「世界標準はどちらかというとこっちよ」
フローラがつぶやいた。
「アムトラックのLA行きは修理中、完了予定は不明」
ミレーナが続けた。
「グレイハウンドは1日1便の筈だけど20時間遅延中、更にアムトラックからの乗り換え客で長蛇の列」
フィーナはうんざりした声を出した。
「そもそも20時間も来ない事を遅延の一言で済ませるなんて・・事故にでも遭ったんじゃないのかしら」
ナタリアはバイクのキーをくるりと回した。
「信じられないものはアテにしない。自力で行くわよ」
3人は頷いた。
こうして他に手段がなかった為、最初は仕方なく乗り続けたのだが。
4人は次第にハーレー特有の操縦感覚に慣れ、その音や鼓動を楽しめるようになった。
ナタリアは思った。
大型バイクって面白いわね。でもこのオーナーのセンスは最低。
フィーナのバイクが一番良いけど、もうちょっと手を加えたいわね。
日本に帰ったら1台買おうかしら。
こうして途中で短い睡眠を挟みつつ、期限当日の昼過ぎに4人は指定場所へと辿り着いたのである。
フィーナはメモを見ながら言った。
「ロスアンジェルス市立病院・・住所も間違いないです、ボス」
「リミット10時間前か。オーケイ、じゃあジョージ医師に渡してきましょ」
「・・ありがとうございます。製薬会社向けの受領書にサインしました」
「確かに」
「私は直ちに緊急手術に入ります。もはや一刻の猶予も無いので」
「・・間に合いそうですか?」
「最善を尽くします。皆様には立会いをお願いします。こちらの書類にサインを」
「はい?」
「手術の立会いです。ご親戚の方と伺ってますが?」
医師が首を傾げたので、ナタリアは肩をすくめた。
しょうがない。ここでゴネてフイにする必要はない。
「解りました」
そして日が暮れ、間もなく日を越える頃。
手術室の廊下でナタリアは毒ついた。
「・・こんなに長いなんて、聞いてないわ」
「そうですね、ボス。もうすぐ12時間です」
手術室の自動ドアが開いたので二人は立ち上がったが、
「執刀医の交代です。やっと前半が終わりました」
という一言にがくりと座り込んだ。
ふと見ると、フローラとミレーナは互いを支えあうような格好で眠っていた。
無理もない。
既に疲労困憊だったのに、2000kmもの陸路を不慣れなバイクで移動したのだから。
ナタリアはフィーナに言った。
「あんたも少し寝ておきなさい。後で交代してくれれば良いから」
「ボスはそう言って自分だけ寝ませんよね?」
「・・」
「ボスこそ少し休んでください。私、もう少し起きていられますから」
フィーナが微笑みながらそう返した時、ナタリアは強烈な眠気に襲われた。
「・・ごめん。30分で・・起こし・・て」
そういうと椅子の背にもたれ、あっという間に眠りについた。
病院の椅子は決して心地良いものではなかったが、眠る事で体力は回復した。
目を覚ましたナタリアは顔を赤らめてフィーナをなじった。
「30分で起こしてって言ったじゃない。何で朝になってるのよ」
「手術が続いてるのは・・明らかでしたので・・」
「ほら、私起きたから寝なさいよフィーナ。もう限界でしょ?」
「・・すぅ・・すぅ」
「早っ・・あっ・・もう、アタシの肩を枕にしないでよ」
ナタリアはそう言ったものの、フィーナが起きるまでそのまま居たそうである。
ちなみにフローラとミレーナはずっと眠り続けていたそうである。
結局、手術は丸1日に及び、術後の検査を終えたジョージ医師はナタリアに告げた。
「手術は成功しました。容体も安定しています」
ナタリアは微笑みながらも医師に肩をすくめた。
「それを最も聞きたがってる人が日本に居るの。状況を書類にまとめてくれないかしら?」
「オーライ、お安い御用です」
病院の公衆電話で、ナタリアは手紙を見ながら紳士に状況を説明していた。
指定期限に間に合った事、手術に立ち会った事、手術は成功した事、容体が安定している事。
「証拠として医師からの説明書類と製薬会社向けの受領書を預かってるわ」
電話の先でも明らかに泣いている様子が伝わってきた。
「ありがとう。ありがとう。君達に必ず報いよう。気をつけて帰ってきてくれ」
「それなんだけど」
「なんだね?」
「仲間の一人の装置が壊れてしまったの」
「私に何か出来ないか?」
「この小切手、もう使えるのかしら?」
「もちろんだ。いつでも使える」
「まだ配達した証拠を渡してないけど、1枚使わせてくれないかしら」
「解った。君達を信じる」
「ありがとう」
ナタリアは銀行で小切手を換金すると、道具屋や材料屋を巡った。
翌日。
小さなレンタル式の作業小屋の中でフローラがミレーナの装置を見ながら一生懸命自分の艤装を直していた。
「ごめんミレーナ、ちょっと取水部の構造見せて」
「いいよー」
「ここ・・か。インチネジのタップがあって助かったわぁ」
「それ、日本に持って帰ったら?」
「ええ。そうするわ。インチ工具は手に入りにくいのよね」
「なんで深海棲艦の艤装って単位系がインチなのかしらね・・」
そこへナタリアとフィーナが両手に袋を抱えて返ってきた。
「お待たせ、食べ物買ってきたわよ。サイズのスケールが違うわねぇ」
「オレンジジュースが1ガロン入りとか信じられないです」
「ところでボス」
「なに?」
「帰り・・どうするんですか?」
「当然東回りで帰るわよ?フロリダまではバイク、後は大西洋、地中海、インド洋、南シナ海、そんなルートね」
「あぁ良いですね。暖かい海をのんびり旅したいです」
「でしょ。帰りは期限決まってないし、適当に小さな港で補給すればバレないでしょ」
「途中、支配的な軍閥の居ない空白海域も混ざってますが・・・」
「その辺りの連中はこっちが仕掛けなきゃ来ないわよ。イカレポンチの海底国軍じゃあるまいし」
「まぁそうですね。東シナ海から日本の近海はどうします?艦娘達が出没しますけど」
「戦闘は避けるけど、遭遇した艦娘達が穏便に済ませてくれないなら鎮守府ごと潰すわよ?」
「なるほど、いつも通りですね」
こうして、依頼を受けてから3ヶ月後、ワルキューレの面々は港町に凱旋したのである。