Deadline Delivers   作:銀匙

95 / 258
第7話

 

龍田会の前身たる雷会。

 

大本営の雷が率いてきた大本営の裏の顔である。

今夜の夕食会は龍田が雷会の運営を雷から引き継ぐ事を伝える為の挨拶回りである。

もっとも、雷も名誉会長職にあるので、引き続き大本営の強い影響下に置かれる事は変わりないのだが。

 

「・・ところで龍田様」

「何でしょうか~?」

「こちらの灰色のご相談をする事は、可能でしょうか?」

 

灰色の相談。

 

雷会がグレーゾーン活動を含む事を承知の上で、町は今までずっと協力してきた。

それは都会から遠く離れたこの港町が過疎化しない為である。

仕事の受発注、お金や物資の授受は互恵関係にあった。

だが、雷はこの町にそれ以上の借りがあった。

それは非合法な要求への協力と、世間からの隠匿工作である。

例えば隠密討伐事案で傷ついた艦娘の修理をする為、民間のドックを提供し、その事実を隠す事。

マスコミに嗅ぎ付けられると非常に厄介な案件だが、町は総出で隠蔽工作に手を貸した。

これを何度か行ってきたので雷からの信頼は厚く、同時に町にとって大きな貸しだった。

 

龍田は目を細めた。

「なにかお困りの事がおありなんですね~?」

町長は苦渋の表情をし、頷いた。

「完全なオフレコで願いたいのです。特に881研と公安には」

「深海棲艦絡みですね?良いですよ~」

「では」

 

「・・まぁ、そうなるでしょうねぇ。よく地上戦になりませんでしたねぇ」

龍田はそう言って小さく頷いた。

町長は続けた。

「しかし、私は深海棲艦側の海運業者に娘の命を救ってもらった恩があります」

 

カロン

 

龍田はグラスの氷をくるりと回し、氷を眺めながら言った。

「逃亡艦娘をこちらで始末しましょうか~?」

「えっ?」

「2つの勢力が拮抗すれば火花が散りますが、不均衡になれば収まります」

「・・」

「町長さんは深海棲艦側に肩入れしたい。ならば逃亡艦娘側が小さくなればいい」

「・・」

「人間の警察や機動隊では武装した艦娘や深海棲艦と対峙する事は不可能です」

「・・ええ」

「ですが私達は現役の海軍ですし、それなりに非合法のミッションもこなしてきています」

「・・逃亡者とはいえ、艦娘同士で戦うのは辛くありませんか?」

龍田はにこりと笑った。

「ご心配なく。初めてではありませんから」

町長は躊躇った。

頷けば今までの貸しを一掃し、更に大きな借りを作る事になるだろう。

深海棲艦が町にはびこる事を黙認してもらうのだから。

だがそれは、アンバランス化は、将来に火種を残さないか?根本解決になるだろうか?

「・・うふふっ、意地悪しちゃいましたね~」

町長が龍田を見ると、龍田は美味しそうにウィスキーを飲み干すところだった。

「・・ええと」

「それは最終手段として・・じゃあこちらにお願いしちゃおうかなぁ」

「何をです?」

「人を一人、匿って欲しいんです」

「・・」

「その人なら、そちらの問題を解決出来るかと思いますし」

「詳細を、伺っても?」

龍田はそっと、ボトルを指差した。

「えっと、もう1杯頂いても良いですか~?本当に美味しいので~」

「もちろんです」

町長はボトルの蓋を開けた。

 

「・・それはまた」

「無関係の職員なら、とばっちりは御免なので放っとくんですけど~」

「匿うのは司令官殿の特命なのですか?ご友人なら・・」

「いいえ、提督はこの件が起きた事も知りませんよ~」

「・・では?」

 

カロン

 

龍田は小さくなった氷を見つめながら、小さくはにかんだ。

「町長さんのお気持ちと、同じですよ~」

「・・恩返し?」

「ええ。提督は私が命を捧げても良いたった一人のお方です」

「・・」

「こんな事で余計な心労をかけさせたくないですし、それに・・」

龍田は町長を見た。

「こちらの町は隠匿工作に関してとても信頼出来ますし」

「単に田舎過ぎてマスコミが来ないだけかもしれませんがね」

「そんな事ないですよ~、連中は暇ですからぁ」

「・・ふむ。ではその方に仲介業をお願いすれば良いのですね?」

「ええ。そうすれば依頼主は仲介屋に行けば良い」

「仲介屋が依頼に添って立案し、必要な業者を選定し、業者にギャラを支払う」

「ルールに従わない業者は処分という事で~」

「それなら業者の増減があっても抑止力は維持されますな。なるほど」

「私達は隠匿先が見つかる、町長さんはお悩みが解消される」

「万が一、運用に失敗した場合は・・」

「私どもが責任を持って、逃亡艦娘達の始末を行います」

町長は龍田を見た。

龍田は頬を染めてほろ酔いという感じだったが、嘘ではないと踏んだ。

「・・ではよろしくお願いします。その方のお名前は?」

「テッドと、呼んであげて下さい」

「テッド?外国の方ですか?」

「本名は別にありますけど、万が一にも危険に晒す訳には行かないので~」

町長は頷いた。

証人隠匿プログラムでも、関係者に証人の本名は漏らさない。

それは情報を売り渡す不心得者に渡らないよう、内部から気をつけねばならないからだ。

つまり龍田は、そういう事も熟知している、という事になる。

「さすが、雷会を引き継がれるお方だ。我々も安心です」

「それほどでも~」

「早速準備を始めますが、テッド様はいつ頃いらっしゃるのでしょうか?」

「諸準備があるので3週間後でよろしいですか?」

「解りました。テッドさんへの説明はお願いしても?」

「勿論です」

町長と龍田は固い握手を交わし、部屋のドアを開けると蒼白になった秘書が立っていた。

 

「・・どうした?」

「ついに、依頼人に犠牲者が出ました。町長」

龍田はぐるぐると腕を回しながら言った。

「日が昇る前に、夜露は払っておいた方が良いですね~」

「お願い、出来ますか?」

「もちろんです。状況をまとめて頂きたいのと、すみませんが宿を手配頂けますか?工作の準備をしたいので~」

町長は秘書にいった。

「署長はどこだ?」

「下でお待ちです」

「よし。では先に龍田様と引き合わせておきなさい。私も宿を確保したらすぐにいく」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。