はたして、昌浩は活躍できるのか?!(オイ
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春に起きた旧校舎の事件から少し、時間が経過した。
麻衣はあれから『渋谷サイキックリサーチ』、通称『S.P.R』のバイト事務員として働くようになっていた。
『サイキックリサーチ』とは、心霊現象などの超自然的現象を科学的に観測、解析し、研究することを指す。
そのため、所長の渋谷一也氏、通称ナルは自身を『ゴーストハンター』と呼んでいる。
この日、ナルと麻衣は依頼人の家に来ていた。
依頼人の名は森下典子。
現在は義理の姉である香奈と八歳になる姪の
典子曰く、箪笥が揺れたり、誰もいないはずの部屋で壁をたたく音が聞こえたり、開けたはずのないドアが開いたりと、奇妙なことが起きているのだという。
女子供で三人だけで暮らしているため、不安なので調べてほしい、ということで、こうして森下邸を訪問したのだ。
最初こそ、責任者であるナルのあまりの若さに香奈は驚愕したが、調査し、解決してくれるのならばそれでいいということで納得してもらった。
こうして、邸の一室を借りて、調査の拠点であるベースを作り、機材を設置した各部屋のモニターを開始した。
大量に設置されたモニターの前に腰かけ、操作するのはS.P.R調査員の一人であるリンだ。
「ねぇ、今回の事件、やっぱりポルターガイストなんじゃない?典子さんの話だと」
「決めつけるのは早いよ、谷山さん」
接続したモニターに異常がないか、リンがチェックする中で、麻衣がぽろっと出した予測を麻衣より少し年上くらいの長髪の青年が諫めた。
S.P.Rの調査に協力している見習い陰陽師、安倍昌浩だ。
麻衣の学校の先輩であり、春先の事件でナルたちと出会い、こうして協力してくれるようになったのだ。
昌浩だけではない。S.P.Rに協力している霊能者はこの場にあと二人いた。
「お?言うなぁ、昌坊」
「どーせ、地霊の仕業でしょ」
それがこの二人。
昌浩を昌坊と呼んだのは高野山で修業を積んだ元坊主、滝川法生。麻衣やナル、リンはぼーさんと呼んでいる。
もう一人は巫女を自称する松崎綾子だ。
二人とも昌浩同様、春先の事件でナルたちと知り合い、こうして協力してくれるようになった霊能者だ。
「いや、だから綾子さんも早計ですってば」
「そういうお前の見解はどうなんだよ?一応、お前も視えるんだろ?」
苦笑しながら決めつけてくる綾子を諌める昌浩に、法生はそう問いかけた。
視える、というのはそのまま、霊が視える、ということだ。
実のところ、このメンバーの中に霊視ができる人間は昌浩ともう一人、テレビでも有名な霊能者で同じく協力してくれている原真砂子の二人だけだ。
昌浩は法生に促されるようにして虚空を眺めた。
千年前ならばいざ知らず、妖怪変化の類が存在しづらくなった今の世の中だが、その分、天照の化身である太陽の加護が強い昼間のうちに出現するような連中はより力強く、目をつけられると厄介になることが多くなっている。
だからこそ、普段から目を合わせないよう、存在を認知できていないと錯覚させるために、霊視を一時的に封じているのだ。
自分にかけたその術を解除し、昌浩は周囲を見た。
その瞬間、腹の奥底から何かがせり上がってくる感覚を覚え、急いで再度霊視を封印した。
「せ、先輩っ?!」
「お、おい昌坊!!」
「大丈夫か?!」
異変を察したのか、相棒である白い物の怪も慌てた様子で問いかけてきた。
二、三度深呼吸して気分を落ち着かせると、大丈夫、と答え、居住まいをただした。
「ほんとうに大丈夫かよ?急に気分悪そうにして」
「えぇ、もう大丈夫……しかし……」
「何が見えた?」
昌浩の体調を気遣う様子もなくナルは昌浩に何が見えたのかを聞いてきた。
さすがに麻衣と法生は抗議しようとしたが、昌浩がそれを制し、ナルに説明を始めた。
「大量の人魂がうようよと……たまたま流れついたのが出られなくなったのか、それとも何かあるのかはわからないですが」
「そうか……特にどのあたりが多かったか、わかるか?」
「ちょ、ナル!!」
「すぐにチャンネル変えたから、そこまでは」
申し訳なさそうにそう伝えると一也は、そうか、と短く返した。
とりあえず、霊がいることはわかったが、だからといって安易に霊が犯人と決めつけるわけにはいかないのか、それとも『霊がいる』という昌浩の言葉を信用していないのか。
いずれにしても、一也はひとまず、ポルターガイストの原因がこの家の住人たちかどうかを先に確認するため、暗示をかけることにした。
暗示をかけてから数時間後。
時刻は夜の九時を少し過ぎたころ。
いつ変化が起きても見逃すことがないよう、ナルとリンはモニターの監視をしている一方で、何が起きても対応できるよう、昌浩は呪符や数珠の確認をしていた。
そんな時だった。
突然、香奈がものすごい形相でベースに飛び込んできた。
「ちょっと来て!!」
「どうしたんですか?」
「いいから早く!!」
香奈に促されるまま、ベースにいた全員が香奈の後についていく。
向かった先は礼美の寝室だったのだが、驚くべきことに、すべての家具が斜めに傾いていたのだ。
目を丸くしながらも、ナルたちは部屋に入っていった。
「その子がやったんじゃないの?」
「いやいや、無理でしょ」
「だな、家具が上に乗ったままだ。俺でも無理だわ、こんなん」
綾子の問いかけに、昌浩が苦笑しながら否定すると、法生がそれを援護するようにしゃがみこんでカーペットをめくっていた。
家具を動かしたような痕跡もない。
どうやら、上に乗ったまま斜めにずらしたようだ。
ナルは香奈に部屋を調査する許可をもらうと、香奈は礼美と一緒に部屋を出ようとした。
疑われてしまった礼美は、泣きそうになりながら自分じゃない、と否定すると、麻衣が微笑みながら礼美の言葉に同意し、昌浩は礼美の頭をなでながら、わかってるよ、と返した。
二人が一階へ降りると、法生はナルに意見を求めた。
「どう思うよ、ナルちゃん」
「こんなことができる人間がいるならお目にかかりたい」
「だな。何の仕掛けもないのにこんな芸当、人間にゃ無理だ」
法生がナルの意見に同意すると、今度は一階から悲鳴が聞こえてきた。
急いで一階へ行くと、ソファーもテーブルもカーペットも何もかもがひっくり返されていた。
カーペットに至っては、家具が乗ったまま裏返っていた。
ポルターガイストであることは、確定的だった。
綾子はまたも地霊と決めつけ、明日になったら祓ってみせる、と自信満々に言い放ち、部屋を去っていった。
だが、ナルは黙ったまま何かを考えていた。
「渋谷さん、どうしました?」
「……反応が早いと思わないか?」
「は?」
「心霊現象は部外者を嫌う。無関係の人間が入ってくるとしばらくは鳴りをひそめるものだ」
これは心霊関係の特番などでもおなじみのことで、心霊スポットに取材班が入っても、たいていは何も起きない。
起きたとしても、噂よりも規模が小さくなる。
だが、ベースを設置して一日も経っていないのにこうしてポルターガイストが発生した。
しかも、家具が盛大にひっくり返る、という大規模なものが。
「だが、今回は反対に強くなっている。ということは考えられるのは」
「反発」
「ぼーさんもそう思うか」
「あぁ。この家、俺たちが来たことに感づいてご立腹みたいだな」
家具をすべて元の状態のまま斜めに動かしたり、ひっくり返したりなどという大技を披露してのけたのだ。
そうとうご立腹のようだし、半端なポルターガイストではない。
「……手こずるかもしれないな」
ナルはそう呟き、ベースへと戻っていった。
なお、翌日。
花瓶は円の中からまったく動いていなかった。