蔓延る闇に立ち向かえ   作:風森斗真

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昌浩が全然活躍できない(汗
……ま、まぁ、まだ序盤だし、大丈夫、大丈夫……


File.2

 調査開始から二日目の夜。

 

 「謹んで勧請奉る。御社なきこの所に降臨鎮座し給いて――」

 

 すべての家具が斜めになった礼美の寝室に綾子がお祓いを始めていた。

 その様子を、ナルと麻衣はモニターで見守っていた。

 一方、昌浩は念のために、と家に連絡して応援を要請していた。

 しばらくして、綾子は祝詞の奏上を終えて高笑いしながら部屋を出ていった。

 そんな様子はひとまず無視して、麻衣はナルに昨夜の部屋の温度の一覧を手渡した。

 

 「……礼美ちゃんの部屋の温度が若干低いな」

 

 持ってきた麻衣もそのことには気づいていたらしく、ナルに指摘されてぎくりとした。

 霊が出現する場所というのは、温度が低くなる傾向が多いのだ。

 計測の結果、屋敷全体にひずみも歪みもなく、床もほぼ水平で、地下水脈もない。

 そこから導き出される答えは。

 

 「ま、まさか……霊の仕業?」

 「その可能性が高くなってきたな」

 

 ナルのその言葉に、怖いものに興味はあっても実は怖がりな麻衣は顔を真っ青にして頭を抱えた。

 すると突然、一階から香奈の悲鳴が聞こえてきた。

 何事かとすぐに一階へ降りると、キッチンコンロから炎が噴き出していた。

 

 「きゅ、急に火が!!」

 「下がって。典子さん、消火器を!」

 

 ナルが冷静に香奈を下がらせ、典子に消火器を持ってくるよう指示した。

 典子が持ってきた消火器を受け取った法生は消火剤をコンロに向けて放ち、昌浩と綾子は急いでバケツに水を汲んでコンロのほうに投げていた。

 数分もすると、火は完全に消えた。

 あまりに唐突だったため、その場にいた一同はほっと安堵のため息をついていたが、麻衣が突然、窓のほうを指出して悲鳴を上げた。

 

 「ナル!窓の外、誰かいる!!」

 

 麻衣の悲鳴に、昌浩が真っ先に動き、窓を開けて外を見てみた。

 だが、そこには誰もいなかった。

 

 「どうだ?昌浩」

 「誰もいないですね……谷山さん、ほんとに誰かいたの?」

 「いました!子供が中をのぞいてたんです!!」

 

 昌浩の問いかけに、麻衣がそう答えると、全員の視線が典子のほうへとむいた。

 いまいる子供といえば、礼美だけだ。そして、礼美は、ついさきほどまで典子と一緒にいたはずなのだ。

 

 「でも、礼美はもう寝ているはずよ……わたしの部屋で」

 

 典子の言葉は真実であろう。

 だが、寝かしつけたとしても眼が冴えていれば起きているのが子供というもの。

 まだ起きているかもしれない、と考えた一行は、ひとまず典子の部屋で寝ているという礼美のもとへとむかった。

 

 「ミニー、お布団かけてあげるね」

 

 部屋の前まで行くと、中から礼美の声が聞こえてきた。

 どうやら、お気に入りの人形であるミニーと遊んでいたらしい。

 典子は部屋の明かりをつけて、礼美のもとへ歩み寄り、目線を合わせながら問いかけた。

 

 「礼美。さっき、台所をのぞいていなかった?」

 「ううん」

 

 典子の質問に、礼美は首を横に振って返した。

 だが、典子は念のためにもう一度、礼美に同じ質問をした。

 

 「でも、さっき麻衣ちゃんが台所で子供を見たって言っていたの。本当はお庭から覗いていたんじゃないの?!」

 

 普段は穏やかな印象の典子だが、この時は恐怖でいっぱいいっぱいになっていたのだろう。

 大声を出して礼美に問いかけていた。

 だが、礼美は依然として違う、と返していた。

 

 「ちがうもん……礼美じゃないもん……」

 「礼美……」

 「礼美じゃないもん!違うもん!!」

 

 礼美が必死に否定すると同時に、部屋が突如、大きく揺れ始めた。

 まるで礼美の感情に呼応するかのように激しくなるその揺れで、典子の背後にあった本棚が倒れてきた。

 

 「典子さん!」

 「お姉ちゃん!!」

 

 麻衣と礼美の悲鳴が同時に響いた。

 幸いにして、典子は本棚が倒れてくる前によけたため、怪我はなかったが。

 

------------

 

 その後、倒れてきた本棚の片付けを手伝い、一息入れて心を落ち着かせることにした麻衣は、今回の事件に本物の霊が絡んでいるのではないか、という疑念を強めていた。

 そんな中で、法生は綾子が失敗したのではないか、とからかって遊んでいた。

 そのやり取りに、少しばかり緊張が和らぐと、昌浩の気遣う声が聞こえてきた。

 

 「谷山さん?怖かったら、無理せず帰った方がいいと思うけど」

 「へ、平気です!」

 

 ここで弱音を吐いたらナルに何を言われるかわからない。

 その思いから、思わず、墓穴を掘ってしまった。

 その様子から、無理をしているとは感じなかったのか、昌浩はそれ以上は何も言わなかった。

 

 「それにしても、さっきのポルターガイスト。あれ、あの子の叫びに応えるような感じだったな」

 「谷山さんも台所で子供を見たって言ってましたけど……渋谷さん、暗示実験の成功率ってどんな感じなんですか?」

 「100%だ。失敗したことがない」

 「けど、絶対ってことは……」

 

 と法生が言いかけた瞬間、それまで沈黙を守っていたリンが突如口を開いた。

 

 「ナル、部屋の温度が下がっています」

 「リン、スピーカー」

 

 その言葉に、ナルはすぐさまモニターにかじりついた。

 スピーカーからはポルターガイストと思われる物音が響いてきていた。

 礼美の部屋には、誰もいないにも関わらず。

 

 「すごい……部屋の温度がすごい勢いで下がっている。もう氷点下だ」

 「礼美ちゃんの部屋、誰もいないんだよね?」

 「え?は、はい」

 「人間じゃありえない……」

 

 モニター越しではあるが、SPRのメンバーの目の前で起きている現象は、犯人が礼美ではない、別の何かであることを示していた。

 だとしたら、一体、この館に居座っているものは何なのか。

 言い知れぬ不気味なものを感じながら、一行は朝を迎えた。

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