調査に来て早々、家具をひっくり返すほどのポルターガイストと火災一歩手前などの不可解な現象を目の当たりにしたSPRのメンバー。
序盤から熱烈な歓迎を受けはしたが、ひるむことなく、調査を続行することにした。
リンやナルよりも人当たりがよく、人懐っこい麻衣は依頼者の典子と姪の礼美と一緒に行動することとなった。
護衛として、麻衣が通う高校の先輩でもある昌浩も同じである。
「礼美ちゃんって、おとなしいなぁ」
「たしかに。この年頃くらいの子なら、もうちょっと活発なもんだと思ったけど……」
「そうなんですか?」
「俺の兄さんの所の
小姫とは、昌浩が勝手にそう読んでいるだけで実際にはちゃんと『梓』という名前がある。
だが、あまり家族の名前を外に出したがらないためか、それとも名前が決まっていないときからそう呼んでいたからなのかはわからないが、すっかり『小姫』の呼称が定着していた。
呼ばれている梓本人も気に入っているらしいのだが、真偽のほどはわからない。
だが、典子は二人のその会話を聞いていると、以前は違っていたと話し始めた。
「ちょっと前はもっと明るくて人懐っこかったのよ。兄が再婚して、ここに引っ越したころからこうなの」
「ふうん……」
麻衣は何気なくそう返したが、昌浩は何か考え込むような表情を浮かべた。
――再婚してから、ということは、まだ香奈に懐いていない、ということだろうか。それとも、この家に何かを感じ取り、警戒しているからなのか……
とかく、子供というものは場の空気に敏感だ。
そこが自分にとって害になるものか、そうでないか、という判断については特にだ。
仮に、礼美がこの家が自分にとって危険な場所だということを本能で察していたとして、いったい、なにがあるのか。
そう考えていると、香奈がクッキーとお茶を持って部屋に入ってきた。
「礼美ちゃん、おやつよ。遊んでもらって、よかったわね。何していたの?」
にっこりと笑みを浮かべながら礼美に問いかけていたが、礼美はその問いかけを無視してしまった。
香奈は、ちゃんと返事をしてほしいとは言ったが、それでも礼美は返事をすることがなかったため、怒って出て行ってしまった。
「もう、礼美ったら……お姉ちゃん、食べちゃうからね?」
典子がそういって、クッキーに手を伸ばした瞬間、礼美が慌てた様子で叫んだ。
「だめ!どくがはいってるの!!」
「え?」
「……礼美ちゃん、どうして、それを知ってるのか、お兄さんとお姉さんに教えてくれないかな?」
麻衣が礼美の言葉に驚くと、昌浩は冷静になぜ毒が入っている、と口にしたのかを教えてもらおうと、穏やかな口調で問いかけた。
「ミニーがおしえてくれたの、おやつにはどくがはいってる。あのひとはわるいマジョだって。おとうさんをまほうでケライにしたんだって。おねえちゃんと礼美が邪魔だから、ころそうとしてるの!」
礼美からの衝撃の告白に、昌浩も麻衣も典子も目を丸くして固まってしまった。
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その後、昌浩と麻衣はベースに戻り、さきほどのことをナルとリン、そしてその場にいた法生に話そうとしていた。
「礼美ちゃんがそんなことを?」
「うん、なんか気味悪くない?」
麻衣が抱いたのはあくまでも話を聞いた感想だったが、昌浩はその先のことを考えていた。
「……渋谷さん、もしかしてですけど、今回の事件の原因になっている霊は、ミニーを器にしているってこと、ありませんかね?」
「可能性はなくはないな……」
「え?先輩、それってどういうこと?」
昌浩の推察にナルがうなずくと、麻衣はわけがわからないという様子で首をかしげていた。
麻衣の疑問に答えるように、その場にいた法生が説明を始めた。
「人形ってのは、もともと魂を封じ込める器だからな。中身が空っぽだから、霊に憑依されやすいのよ」
「な、なるほど……」
「人形って一口に言ってもいろいろだからねぇ……俺もたまに使うし」
「そうなんですか?!」
昌浩のつぶやきに、麻衣は驚いていた。
人形と一口に言っても、ミニーのような玩具用や案山子などの農業用、浄瑠璃や操り人形などの劇用と、様々な用途に分かれている。
その用途の中に、呪術のために用いる人形というものも存在している。
最も有名なのは『呪いの藁人形』だろう。その名の通り、呪い、呪詛を行うために用いる人形だ。
この場合、藁人形を呪いたい相手に見立てているのだ。
「……渋谷さん、俺、聞いてみましょうか?ミニーを貸してもらえるかどうか」
「頼めるか?正直、子供はあまり好きじゃない」
「あははは……まぁ、けど、礼美ちゃん、べったりだからあんまり期待しないでくださいね?」
「あまり期待できるような状態じゃないからな。僕もすんなり貸してくれるとは思っていない」
暗に昌浩には期待していないと言っているようなものだが、昌浩はそれを苦笑を浮かべて返し、礼美ちゃんのもとへと向かっていった。