ミニーが礼美に、香奈は悪い魔女で礼美と典子を殺そうとしていることを教えてくれた、と話していた。
そのことで、今回の事件の黒幕がミニーと何らかの関わりを持っているのではないかと考えたナルたちは、ミニーを貸してもらえないか、礼美を説得することにした。
が、礼美ちゃんがミニーを離したがらないので、寝ている隙にこっそりと借りることにした。
「結局、説得は失敗したか」
「すみません。なんだか、礼美ちゃん、ミニーを心のよりどころにしてるような感じがしまして……」
「まぁ、小さい子からお気に入りの人形取り上げるのは心が痛むわな。特に昌坊はフェミニストみたいだし」
法生がからかうように言ってくるその言葉に、昌浩はただただ苦笑を返すだけだった。
そんな二人のやり取りを背中で聞きながら、ナルと麻衣はモニターに注目していた。
現在、ミニーは礼美の手を離れ、典子の部屋のベッドの上に座っている。
今のところ、何も動きはなかった。
が、不意にナルが立ち上がり、モニターに少し顔を近づけた。
それに気づいた麻衣がナルに問いかけた。
「ナル?どうし……」
どうしたの、と言いかけて、麻衣は凍りついた。
先程までベッドに座っていたはずのミニーが倒れ、寝返りを打ち、ずるずるとベッドから降りていった。
が、床に落ちた衝撃で首が落ちてしまった。
首は、ごろごろと床を転がりながら、設置していたカメラのレンズにぶつかった。
映像がそこで途切れてしまったため、録画記録を見直そうと機械を操作していたナルとリンだったが、記録は残っていなかった。
「だめです。何も記録されていません」
「測定器もすべてエラー、か……」
リンとナルがそんな話をしていると、人形の様子を見に向かった法生がため息をつきながら戻ってきた。
「あ、坊さん」
「どうでした?」
「なんともなかった……何事もなかったかのようにベッドの上に座っていやがった……」
法生からの報告に、麻衣は背筋が凍る思いがした。
思わず救いを求めるように、麻衣はナルに視線を向けていた。
が、ナルは何か考え込んでいるらしく、その視線に気づく様子もなかった。
「谷山さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です、一応……先輩こそ、大丈夫ですか?」
「俺はまぁ、こういうの慣れてるから」
麻衣の問いかけに、昌浩は苦笑を浮かべながら返していた。
実際、昌浩はS.P.Rの調査協力者となる以前から、祖父の名代で除霊を行ったり、憑き物を落としたりしていた。
その中で、今回のような現象を目撃することはよくあることだった。
もっとも、日常的に祖先の式神である十二神将と関わっているから、そのあたりの感覚がマヒしてしまっているのかもしれないが。
が、そんなことはしらない麻衣は、昌浩の返答に苦笑を浮かべることしかできなかった。
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翌日。
麻衣はミニーは礼美の近くにいてはいけないと直感的に感じ、どうにかミニーを手放してもらえないか、説得を試みようとしてた。
礼美の部屋に入ろうとしたその時だった。
《家の中は悪いマジョだらけよ》
魔女。
それは、昨日、礼美が香奈が悪い魔女で自分たちを殺そうとしているとミニーが教えてくれた、と話していた時に出てきた言葉だった。
《だいじょうぶ、みーんなおいだしてあげる》
「おねえちゃんも?麻衣ちゃんやお兄ちゃんも?」
《もちろん》
くすくす、と笑いながら、礼美ではない誰かがそう話した。
麻衣は声の正体を気にしながらも、ドアに耳を近づけて会話の一言一句聞き逃さないように意識を傾けた。
「礼美、おねえちゃんはいたほうがいい」
《だめだめ。おねえちゃんはマジョのテサキなんだよ?だいじょうぶ、ちゃーんと、シマツしてあげるから。そのかわり、あたしのいうこときかないとだめよ?》
シマツ、という単語が聞こえてきた時点で、麻衣はこれ以上、この謎の声と礼美を一緒にいさせてはいけないと感じ、ドアを開けて礼美に呼びかけた。
「礼美ちゃん!?いま、誰かとおはなししてなかった?!」
「……ミニー」
「ミニーだけ?」
「ほかの子もいるよ?」
そういって、礼美はドアの方を指さした。
麻衣は指さされた方へ視線を向けたが、誰もいないことに、背筋がぞくりとした。
だが、変なことを言って、礼美を怖がらせるわけにはいかなかったため、無理やり話題を変えた。
「そっかー、嫌われちゃったかなぁ?学校のお友達?」
「ううん」
「……そのお友達は、いつから遊びにくるようになったの?」
「わかんない」
姿が見えない友達。いつから遊びにくるようになったのかわからない友達。
その正体は、おそらく霊なのだろう。
そう察していた麻衣は、あえて、ミニーとの関係についても聞いてみた。
すると、礼美の口から、衝撃の答えが返ってきた。
「ミニーがつれてきたの」
一体、どんな友達を連れてきたというのか。
そもそも、ミニーとは一体何者なのか。
言い知れぬ不気味さを覚えながら、麻衣は礼美と少しだけ遊んで、ナルにこのことを報告するため、ベースへと戻っていった。