蔓延る闇に立ち向かえ   作:風森斗真

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File.6

典子を救急車で病院まで搬送してもらう間、ナルは昌浩と麻衣とともに礼美にミニーのことを問い詰めていた。

が、礼美はミニーがどこのいるのかの一点張りだった。

 

「ミニーは僕が預かっている」

「かえして!ミニーは礼美のおともだちなんだから!!」

「……礼美ちゃん、実はさっき、典子さんが怪我をしたんだ」

 

これ以上、ナルが聞いたら本当に泣き出してしまうと考えたのか、今度は昌浩が礼美に事情を話し始めた。

 

「もしかしたら、ミニーか、ミニーが連れてきたお友達がいたずらしたせいかもしれないんだよ」

「……ミニーはそんなことしないもん!」

「うん、きっと怪我させるつもりはなかったんだろうね。でも、怪我しちゃったんだ。誰かを怪我させることは、いいこと?悪いこと?礼美ちゃんはどっちだと思う?」

「……わるいこと……」

「そうだよね。それじゃ、悪いことしたら何をしなきゃいけないかな?」

 

優しく、あくまで優しく、昌浩は礼美を諭していた。

すると、礼美も徐々にいけないことをしたのではないかという気になったらしい。

 

「ごめんなさい、言わないといけない」

「そうだね。だから、ミニーには典子さんに『ごめんなさい』させたいから、ちょっと貸してほしいんだ」

「……わかった……」

 

どうやら、納得してくれたらしい。

麻衣は昌浩のその手腕に、ほへー、と間抜け面をさらけ出していた。

が、ナルは礼美にミニーのことを聞くことで頭がいっぱいらしい。

昌浩に、早く自分と代わってくれないか、と視線で威圧してきた。

それに気づいた昌浩は、再び礼美に問いかけた。

 

「ミニーのことで、こっちの黒い服のお兄さんが色々聞きたいんだって。いいかな?」

「……ミニーのこと、だれにもいっちゃだめって……」

「でも、ミニーやミニーが連れてきたお友達が悪戯するせいでみんなが怪我したら、礼美ちゃん、嫌じゃない?」

「……やだ」

「そうだよね。今度、悪戯したらミニーにもお仕置きしないとだから、教えてほしいんだ」

「……うん……」

 

昌浩に諭される形で、礼美はナルの質問に答えることを了承した。

ようやくバトンタッチされると、ナルは礼美にミニーのことを色々と質問し始めた。

 

「それじゃあまず……」

 

ナルの質問に、礼美は落ち込んだ様子で答え始めた。

礼美の話では、ミニーが最初に話し始めたのはこの家に引っ越してきてからで、お母さんは悪い魔女で、お父さんを魔法で手先にして二人で礼美を殺そうとしている。典子も魔女の味方だ。ミニーが守ってあげるから、誰とも仲良くしてはいけない。

約束を破ると、お仕置きと称して、部屋を散らかしたり、物を隠したりするそうだ。

 

その話を聞いて、麻衣はすぐに調査初日に起きたポルターガイストのことであると気づき、同時に、こんな小さい子になんてことをするんだ、と憤慨する気持ちが芽生えていた。

昌浩もそれは同じだったらしく、組んでいた腕に力が入っていることに気付いた。

 

「……それから、ミニーがお友達を連れてくるようになったのかな?」

「うん。いっぱいいるの。礼美とおなじくらいのこ。みんな、ミニーのけらいなんだよ」

 

どうやら、原因はミニーにあるようだ。

疲れてしまったのか、眠ってしまった礼美を部屋に残し、三人はベースに戻った。

先にベースに戻っていた法生と綾子にナルが二人に先ほど礼美から聞いたことを話すと、やはりか、とため息をついた。

 

「以前の持ち主が病死して、そのまま憑依したとかかな」

「これだからあたし、人形は嫌なのよ!あぁ、やだやだ」

「……いや、ミニーは原因ではないだろう」

「おいおいナルちゃん、ここまできてまだ……」

「人形、ミニーは器に使われているだけだろう。この家にとらわれている霊がいるんだ。それが誰なのか、正体を突き止めない限り、礼美ちゃんが危ない」

 

ナルがそう結論を出した瞬間、廊下から典子の悲鳴が響いた。

 

「麻衣ちゃん!麻衣ちゃん、きて!!」

「典子さん?いつ帰って……」

「こ、これを見て!」

 

廊下に出ると、足に包帯を巻いた典子と彼女を支えるようにして隣に立っている香奈の姿が目に入った。

典子は怯えた様子で口を押え、廊下のある一点を指さしていた。

指さす方へ視線を向けると、そこには子供が書いたようなたどたどしい文字でこう書かれていた。

 

『わるいこにはばつをあたえる』

 

わるいこ、というのはつまり礼美のことを指していると察するまで、麻衣にはさほど時間は必要なかった。

麻衣を追いかけるようにしてベースから出てきたナルと昌浩、法生もその文字をみて眉をひそめた。

 

「な……に、これ……悪い子って、まさか礼美ちゃん?」

「礼美ちゃんが約束を破ったことを知っちまったみたいだな」

「えぇ……話してはいけないことを話したから、裏切ったと思ってるようだ」

 

ばつをあたえる、という部分に、法生も昌浩も礼美に危険が迫っていることを察知した。

それをわかっているからか、ナルは麻衣と昌浩のほうに視線を向け、指示を出してきた。

 

「……麻衣、昌浩。礼美ちゃんのそばから離れるな」

 

裏切った礼美に、ミニーが何をするかわからない。

だが、何をするにしても、礼美が危険であることはわかる。

麻衣と昌浩は神妙な面持ちでうなずいて返した。

 

--------------

 

ミニーのことを聞かれ、落ち着きを取り戻した礼美は、現在、昌浩と麻衣、典子と一緒に庭で遊んでいた。

まだ立って歩くことがつらい典子は、縁側で腰掛けて礼美を見守っていた。

その傍らで、麻衣は典子に耳打ちした。

 

「あの落書き、いま、ナルたちが消してますから」

 

礼美に見せるのはさすがに精神的にきついと判断したのか、ナルは礼美に見られないうちに落書きを消すことにした。

問題のミニーは、現在、法生が憑き物落としをしたうえで燃やしているはずだ。

 

「ありがとう……ごめんなさいね。こんなときに」

「いえいえ、そんな。典子さんこそ、怪我したうえに香奈さんまで出て行っちゃって……」

「……仕方ないわよ」

 

典子は微笑みながら返していたが、彼女自身もやはり辛いのだろう。

どっか疲れたような表情をしているように麻衣は感じ取れた。

不意に、礼美が典子のもとへ駆け寄ってきた。

 

「おねえちゃん、あし、いたい?」

「平気。礼美が仲良くしてくれたから、痛いのどっかに行っちゃった」

「……っ!礼美、おねえちゃんにおはなつんであげるね!麻衣ちゃん、いこ!」

「ん?お~ぅしっ!」

 

礼美がもっと仲良くしたら、お姉ちゃんの足が早く治るかもしれない。

そう考えたのか、礼美は麻衣を誘って花摘みにむかった。

麻衣が礼美と、どれにしようか、と相談しながら花を摘んでいると、事件は起きた。

突然、花を摘んでいた礼美が悲鳴を上げたのだ。

 

「礼美ちゃん?!」

「どうした?!」

「や!てがとれない!!!」

 

茂みの中から誰かにつかまれているのか、礼美は手が茂みから抜けないと訴えてきた。

昌浩と麻衣が力づくで茂みから手を引き抜き、麻衣は茂みの中を確かめてみた。

だが、茂みの中には何もなかった。

突然、わけのわからないことが起きたせいか、礼美はショックで泣き出し、走り出した。

 

「麻衣ちゃん!止めて!そっちには池が!!」

 

あまりに突然のことで、反応が遅れた昌浩と麻衣の耳に、典子の叫びが飛び込んできた。

麻衣と昌浩は同時に駆け出し、礼美を追いかけた。

礼美に追いつくと、礼美は池のほとりで何かにおびえるように叫んでいた。

 

「ミニー、ごめんなさい!ごめんなさい!いじわるしないで!!」

 

礼美の視線の先には誰もいないのに、礼美はミニーの名前を叫びながら走っていた。

徐々に後ずさり、いよいよ池の際まできてしまったその瞬間。

突然現れた長身の女性に礼美は抱き上げられた。

 

「だ、誰ですか!!」

「勾陳!そのまま礼美ちゃんを頼む!!」

 

その光景を見た麻衣と昌浩は同時に叫んだ。

昌浩は麻衣を追い抜き、礼美と礼美を抱えている女性の前に立つと、両手を合わせた。

 

「伊吹、伊吹よ!この伊吹、神の息吹たれ!!」

 

その言葉を口にし、礼美が見ていた先へと手を合わせたまま振り下ろした。

その瞬間、麻衣は突風にあおられたような感覚を覚えた。

だが、風はすぐに収まり、まるで何事もなかったかのように場は沈黙した。

 

「礼美!!」

 

足を痛めていたため、遅れてやってきた典子が、礼美を呼んだ。

礼美はその声に気付き、典子の方へ行こうとすると、その意図を察したかのように、女性が典子の近くまで礼美を連れて行った。

 

「礼美!……よかった……よかった……」

 

典子に抱きしめられながら礼美は、お姉ちゃん、と典子を呼びながら泣き出した。

ひとまず、事態が収まったことを理解した麻衣は、これがミニーの報復であることを理解した。

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