蔓延る闇に立ち向かえ   作:風森斗真

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お待たせしました(待っている人がいたら、の話ですが)。
真砂子は一応霊媒ってことになってますけど、原作だとサイコメトラーなのかそれとも本当に霊が見えているのかって二つに意見が分かれてる場面ありましたけど、ひとまず、昌浩と同じく、見鬼というくくりで。
問題は彰子をどうやって登場させようかなというところなんですよね……。


File.2

 昌浩が相棒の白い獣こと物の怪のもっくんと、晴明がともにつけてくれた式神とともに旧校舎に足を踏み入れると、そこにはあまりお目にかかることのない機器が置かれていた。

 

 「……これは……?」

 《……おい昌浩、後ろに誰かいるぞ》

 

 見えない何かの声に言われ、昌浩は後ろを振り向いた。

 そこには、黒髪の同い年くらいの青年が立っていた。

 

 「……誰だ?」

 「あ、えっと……安倍昌浩って言います。校長にここの旧校舎の除霊を依頼された祖父の代理でここに。あなたこそ、誰ですか?」

 「安倍?……霊能者としては聞きなれませんが、おじいさんは有名な方なんですか?お孫さん」

 

 びきり、と昌浩の中で何かがぶちぎれる音が聞こえてきた。

 (現代)(千年前)も、やはり孫という言葉には過剰反応してしまうらしい。

 それを理解した足もとにいる白い獣はそっとため息をついた。

 

 「しっかりしろよ、まったく……」

 「(うるさいよ、もっくん)」

 

 ひそひそと、千年前から相棒として隣にいる白い獣を咎めて、昌浩は目の前の青年に問いかけた。

 

 「で、あなたは?」

 「……ここの旧校舎の調査で来ている、渋谷サイキックリサーチ(S.P.R)の所長で渋谷一也といいます」

 

 サイキックリサーチ、という聞きなれない単語に、昌浩の脳内に疑問符が大量に浮かんできたが、心霊調査の事務所、ということに思い至り、納得した。

 

 「ということは、霊能者というわけではないんですか?」

 「えぇ。僕は霊能者ではありません……しいて言うなら、ゴーストハンター(幽霊の狩人)、ですかね」

 「ゴーストハンター……あの、横文字ばっかりでちょっとわからないんですけど」

 「……年寄ですか、あなたは」

 

 あきれらような眼差しを向けた一也は、そっとため息をつきながら、一応、念のために、と前置きして現在の状況について説明を始めた。

 その説明を聞きながら、昌浩はメモを取って行ったが、気になることが一つあった。

 

 「霊の仕業じゃないっていうのは、私も同じです……一応、私も見鬼(けんき)ですが、ここには霊の類は見えないですし」

 「ほぅ?あなたも霊能者ですか。ということは、足もとに何かいるんですか?」

 

 一也は視線を昌浩の足もとに向けていた。

 その視線の先には、白い獣こともっくんがいた。

 もっくんは怪訝な視線を一也に返した。

 

 「お?俺のこと、見えてないのか?」

 「みたいだね……この人、徒人なのに心霊現象の調査なんかして大丈夫なのかな……」

 

 もっともな疑問ではあるが、それは後ろにいた式神の言葉によって払しょくされることとなった。

 

 《あくまでも科学的な調査のようだから、危険は少ないのだろう……まぁ、確かに多少危険ではあるかもしれないが》

 

 そんなやり取りをしていると、一也はそっとため息をつき、話を続けた。

 

 「調査を続けるのなら、お好きにどうぞ。ただし、僕のジャマだけはしないでいただきたい」

 「いや、邪魔とかそういうのは全然する気はないんですが……まぁ、そうおっしゃるのなら、好きに(・・・)調べさせてもらいますよ」

 

 にやり、と笑いながら、昌浩は旧校舎を後にした。

 どこへ、と問いかける一也を背にしながら、昌浩は振り向くことなく答えた。

 

 「授業があるので、ひとまずここで。私はここの生徒ですから」

 

 そういって、昌浩の姿は少しずつ小さくなっていった。

 一人取り残された一也は、頭の中で昌浩について思い出せることがないか、記憶を思い起こしていた。

 

 ――安倍、安倍……あまり思い出せないな……ひっかかりがないわけではないが

 

 だが、結局データ不足であるために行き詰まり、ため息をついて作業を再開した。

 

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 授業を終えて、麻衣は旧校舎裏に停車してある車の前に立っていた。

 だが、そこには一也以外にもう一人、麻衣が通う制服の生徒がいた。

 

 「あ、あれ?その人は??」

 「……あれ?うちの制服?どうしてここにいるんだ?」

 

 昌浩は初めて見るその生徒に驚き、眼を見開いた。

 麻衣もまた、自分以外の生徒がここにいることに驚いた。

 だが、その場にいた一也の一言で二人は我に返った。

 

 「……どうでもいいが、自己紹介くらいしたらどうだ?麻衣」

 「あ、あぁ、そうだった……えっと、私、一年の谷山麻衣って言います」

 「一年か。俺は二年の安倍昌浩。よろしく」

 「あ、先輩でしたか。どうりで……」

 

 知らないわけだ、と言いかけると、後ろから男性の声が聞こえてきた。

 

 「うわ、すごい機材だな、これ」

 

 振り向くと、そこには長髪の青年と、化粧をした女性がいた。

 

 「子供のおもちゃにしては高級すぎる感じねぇ?」

 「……あなたは?」

 

 機材についてなにも言い返すことなく、一也は女性に聞き返した。

 女性は特になにも反論することなく、松崎綾子と名乗り、同業者(霊能者)であることを明かした。

 

 「一応言っておくけど、アタシ、巫女よ」

 「……巫女さん、ですか……」

 「巫女とは清純な乙女がなるものだと思っていました」

 

 微苦笑を浮かべる昌浩に対し、ナルは容赦ない言葉を綾子にぶつけた。

 その結果、綾子の額の血管が数本浮き出たことは言うまでもない。

 

 「あぁら?見えないかしら??」

 「少なくとも、乙女と呼ぶには年齢を召され過ぎているかと」

 「いや、渋谷さん、それ勝手なイメージですから。年いった巫女さんも結構いますから」

 

 昌浩は一応、フォローを入れたが、隣に立っていた青年が腹を抱えて笑っているものだから、綾子の機嫌は損なわれたままだった。

 

 「それで、あなたは?松崎さんの助手、でしょうか?」

 「いいや。俺は滝川法生(たきがわほうしょう)ってんだ。高野山の坊主」

 「……高野山では長髪が解禁になったのですか?」

 「……あぁ、破戒僧」

 「……………………そういうこと。そっちの少年の言う通り、今はお山を下りてんの」

 「とにかく、子どもの遊びはこれまでよ。後は任せなさい」

 

 綾子が法生の言葉を遮るように、一也に向かってそう話した。

 どうやら、校長は一也があまりにも若いため、不安を覚えたらしい。

 昌浩にしても、晴明の名代という大義名分があるとはいえ、やはり生徒に任せるには不安があるということなのだろう。

 もっとも、それは校長が素人だから、ということもあるのだろうが。

 

 「……土御門の本家だったら、ちょっとは信用されたのかな?」

 

 ぽつりとつぶやいたその言葉に反応したのは、法生とナルの二人だった。

 

 「土御門?」

 「……なるほど、そこが本家、ということはあなたは安倍晴明の末裔でしたか」

 

 一也と法生の言葉に、麻衣だけ、なにがなんだかわからない、という顔で問いかけてきた。

 

 「陰陽師って、あべのなんとかってやつ?」

 「安倍晴明(あべのせいめい)。それが俺のご先祖様の名前……てか、歴史上の人物なんだから、ちょっとは覚えようって気にいはならないかな?」

 

 自分の先祖、もっと言えば前世の祖父が"なんとか"呼ばわりされたことに少々腹を立て、昌浩は半眼になって麻衣をにらんだ。

 

 《なんとか呼ばわりされては、晴明も形無しだな……あまり怒ってやるなよ?昌浩》

 

 昌浩のその態度に気づいていた式神が昌浩に警告したため、あまり顔には出さずにすんだのだが。

 そんなやり取りをしていると、背後から女子生徒の声が聞こえてきた。

 

 「あぁ、良かった。旧校舎は悪い霊が住み着いてるから困っていたんです」

 「……黒田さん?」

 

 そこにいたのは、眼鏡をかけた三つ編みの少女だった。

 

 「私、霊感が強いから困っていたんです」

 「……自己顕示欲」

 

 黒田と呼ばれた少女の言葉に、綾子がきっぱりと返した。

 昌浩も黒田を見ていたが、確かに、彼女は見鬼ではない。

 見鬼であれば、足もとにいる物の怪が見えないのはおかしいのだ。

 そんなわけで、綾子から霊が見えないことを指摘され、挙句、それほど注目されたいのか、と問われた黒田は、霊を呼んで、憑りつかせてやる、と言ってその場を立ち去って行った。

 それを見送った麻衣は、その眼が本気であるということを悟り、どこかうすら寒いものを覚えた。

 

 「……で、ナルちゃん。私は、今日は何を手伝えばいいの?」

 「……今、何と言った?」

 

 麻衣に、ナル、と呼ばれた一也は鋭い目つきで麻衣をにらみつけた。

 昌浩はその視線に、なぜかうすら寒いものを感じ取った。

 だが、それも麻衣が"ナルシストのナル"と言う一言で、呆れたような顔になり、その冷たさも薄らいだ。

 一連のやり取りを終えると、校長の声が聞こえてきた。

 

 「……ん?校長先生、その人は?」

 

 昌浩が問いかけるその視線の先には、金髪で童顔の少年が立っていた。

 少年はぺこりと頭を下げると。

 

 「オーストラリアから来ました、ジョン=ブラウンいいます。あんじょう、可愛がっとくれやす」

 「……なぜに、関西弁?」

 

 麻衣の突込みに、校長が関西の方で日本語を勉強したからだ、と説明をし、一也ことナルがジョンの素性について問いかけると、自分はエクソシストだと話した。

 

 「おいおい、エクソシストってカトリック系の司祭しかなれないんじゃ」

 「はい、僕、今年で十九になりますですが、(わこ)ぅ見られたかなわんのです」

 

 十九歳、という自分たちよりも年上であることを告げられ、昌浩も麻衣も目を丸くしたのだった。

 

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 校舎内に入り、ナルが持ち込んできたモニターの運び入れを手伝っていると、法生と綾子がこの旧校舎の怪事件の元凶について、話し合っていた。

 

 「どうせ地霊、精霊の仕業よ」

 「俺は地縛霊だと思うが……昌坊(まさぼう)、お前さんはどう思うよ?」

 

 おそらくあだ名のつもりなのだろう。勝手につけられた名前を呼ばれた昌浩は、苦笑を浮かべながら持っていた機材を置き、法生の方へ視線を向けた。

 

 「いや、俺からは何とも……ジョンさんは?」

 「僕もなんとも……せやけど、ホーンテッドハウスの原因はゴーストかスピリットですやろ?」

 

 ホーンテッドハウスとは、いわゆる幽霊屋敷、ということだ。

 そして、ゴーストとは幽霊、スピリットとは精霊を示す言葉だ。

 

 「……聞いてるか、麻衣?」

 「いきなり呼び捨て?!」

 

 麻衣はナルに突然、名前で呼ばれたことに驚愕した。

 が、ナルはそれを軽くあしらった。

 同時に、綾子が陰鬱な溜息をつき、さっさと除霊すると言って立ち去ろうとした。

 が、教室の入り口に、黒田の姿が現れた。

 

 「出来るかしら、あなたに……ここにいる霊は、とても強いのよ」

 「おいおい……てか、いつの間にいたの、君」

 

 昌浩はひきつった笑みを浮かべながら、突込みを入れた。

 綾子はその言葉にいら立ちを覚えたのか、黒田を突き飛ばすような形で押しのけ、部屋を出ようとした。

 押しのけられた黒田は、麻衣の方へよろめいた。

 

 「……私、さっき襲われたの」

 「襲われたって、霊に?」

 「えぇ……二階の廊下で、首をつかまれて『お前の霊感は強いからじゃまだ』って……」

 

 だが、昌浩はそれを聞き、小さな疑問を覚え、足もとの物の怪に向かって、こそこそと問いかけた。

 

 「(なぁ、もっくん。霊感が強いからって排除しようとするか、普通?)」

 「さぁ?まぁ、今も昔も、お前が小さかったころは、(たち)の悪い妖がちょっかいかけてきたもんだったが……ま、俺が見えないんだ。だいたいは嘘だろうな」

 「(だろうけど……)」

 「先輩、どうしたんです?」

 

 昌浩がしゃがみこみ、こそこそと何かをしゃべっていることに気づいた麻衣は、不思議そうに問いかけた。

 

 「……おいおい、こいつも俺のこと見えてないのか……まぁ、こいつら全員、普通の人ってこと……」

 「なんですの?その白い獣は?」

 

 物の怪が麻衣の反応にそんな感想を漏らした時、ふいにこの場にはいない、別の女性の声が聞こえてきた。

 そちらのほうへ視線を向けると、そこには、和服の美少女が立っていた。

 

 「……あれ?原さん??」

 「……校長は、よほど工事がしたいようですね。貴女をここに呼び出すとは」

 

 そこにいた美少女は、日本で最も著名な霊媒師。そして、祖父の仕事で何度か顔を合わせたことがある少女、原真砂子だった。

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