テレビでも有名な霊能者、原真砂子。
彼女を呼ぶということは、今回の調査に、校長はどうやらかなりの力を入れているらしい。
有名人の登場に麻衣はかなり驚いていたが、一番驚いたのは、呼ばれた真砂子本人だろう。
「昌浩さん?ご無沙汰していますわ!お変わりなく?」
「ご無沙汰しています。原さんもお変わりないようで」
「それにしても奇遇ですわね。もしかして、おじい様かお兄様の代理で?」
「祖父の代理です。あ、それからさっき見えたっていう白い動物は……」
「ちょ、ちょちょちょちょ!ストーップ!!」
いきなり二人だけで会話を始めた真砂子と昌浩の間に入り、麻衣がストップをかけた。
「せ、先輩!原さんとお知り合いだったんですか?!」
「まぁ、うん。爺様とか兄さんたちとのつながりでね」
なお、昌浩の兄であると
テレビにも時折、本当に時折、出演することもあり、その際に真砂子と出会ったことがあったのだとか。
それはともかく。
「ですが、昌浩さんが出張るほどでしょうか?」
「爺様は念のため、様子を見てこい、と」
「そうでしたの。なら、さっさと片付けてしまいましょう。そもそも、ここに霊はいないのですから」
にこやかに笑みを浮かべながら言ってくる真砂子の言葉に、反発がないわけがなく。
大人二人と黒田が、霊はいる、と声を荒げて文句を言ってきた。
その様子に、昌浩もいい加減、腹が立ってきて。
「……いい加減、仕事を始めたらいかがですか?俺は様子見をすることが仕事なので、ここにいますが……いい大人がそんなんでいいんですか?」
「「……………………」」
棘のあるその一言に、法生と綾子は、大人の底力をみせてやる、といきり立ちながら去っていった。
その背中を見ながら昌浩は。
「兄上たちの方より仕事できなさそうだけど、大丈夫なのかな、あの二人……」
と、ため息をついていた。
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そうそうたるメンバーが旧校舎に集合していたが、やはりそりが合わないようで、協力するという選択肢を選ぶ者はおらず、単独での除霊を行うことになった。
その一番手として、綾子は早々に祭壇を準備し、除霊を開始した。
「謹んで勧請奉る。
しゃんしゃん、と祓い棒を左右に振りながら祝詞を献上している姿は、様になっていた。
昌浩も物の怪も、巫女を自称するだけのことはある、と同じような感想を抱いた。
「……何言ってんの、これ?」
「祝詞って言って、神様にお願いする言葉だね……神道の呪文って考えてくれていいよ」
麻衣の疑問に、昌浩はやんわりとほほ笑みながらそう答えた。
一方のナルは、神式の除霊に興味があるらしく、昌浩と同じ位置に立ち、見物を決め込んでいた。
「しっかし、この女、ほんとに巫女かねぇ?」
「(え?どういうこと、もっくん?)」
「いや、さっきから祝詞を唱えてるのはいいが、空気が全然変わんないだろ?お前や成親たちが唱えた時とはまったく違う……こいつ、偽物なんじゃないか?」
「(……言われてみれば、たしかに)」
昌浩は虚空を見つめ、意識を集中させた。
昌浩は見鬼だ。
普通の人には見えないものが、彼の眼は捉えることが出来る。
だが、今見ているこの空間に漂う空気には、綾子が唱える祝詞に応えた神がこの場を浄化した雰囲気も、神が降臨した気配すらも感じない。
本当に大丈夫なのだろうか、昌浩は心中でそうつぶやき、周りにばれないように微苦笑を浮かべていた。
一通り、祝詞を奏上すると、綾子は校長に対し、これで大丈夫、と話した。
だが。
「……気を付けろ、昌浩!!」
物の怪の叫びと同時に、近くの窓に突如ひびが入り、ばりんっ、と盛大な音を立てて割れた。
「くっ!……禁っ!!」
昌浩は刀印を結び、宙に一文字を描いた。
瞬間、その一文字の軌跡に不可視の障壁が生み出された。
障壁に阻まれ、割れたガラスは昌浩の目の前に落ちた。
しかし、それを防げなかった校長たちは傷を負ってしまった。
「……もしもし、救急をお願いします。場所は……」
昌浩は冷静に携帯電話を取り出し、救急車を呼び出した。
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「何が、これで心配いりませんわ、よ。除霊なんてできてないじゃない」
麻衣とナル、そして法生の三人が救急車を見送る最中、ベースで黒田は除霊に失敗した綾子を問い詰めていた。
「霊のせいではありませんは。あれは事故です」
――まぁ、そもそもあの神事自体、成立してなかったんだけど……
真砂子が淡々と綾子を弁明する中、昌浩は心中でひきつった笑みを浮かべながらそうつぶやいた。
しかし、すぐに真剣な面持ちに戻り、先ほどの現象に思考をめぐらせ始めた。
――けど、一体、何が起こったんだ?霊や妖の類はここにはいないし……じい様の言う通り、地盤沈下か何かかな……
わからない。
今はとにかく、情報が少なすぎる。
昌浩はそっとため息をつき、ベースを出ようと足を動かした。
「……どこへ行きますの?」
それを呼び止めたのは真砂子だった。
だが、昌浩はそれを意に介すことなく、背を向けながら答えた。
「俺は俺で、好きなように調べるって今朝、渋谷さんに言ったばかりだからね。俺なりのやり方でやらせてもらうよ」
そういって、昌浩はベースを出て、自分の道具を持ち込んできている教室へと向かった。
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陰陽師という術者は、よく勘違いされがちだが、基本的には占いを専門としている。
それこそ、
そして、その中でも彼らが最も得意とし、秘術として伝えてきたものが、
陰陽師の子孫であり、裏家業がまさにそれである昌浩も例にもれず、その術を会得している。
会得しているのだが。
「……やっぱ、読み取れない……」
「おいおい、しっかりしてくれよ」
「そんなこと言ったって、わからないものはわからないんだよ」
傍らに控えた物の怪に反論したんがら、昌浩は目の前に置いていた
「……地盤沈下が原因ってのはわかるんだ。この土地はもともと地下水脈があったみたいだし、井戸も何百年も前のものだろうから、すでに枯れている……そこまではわかるんだけど……」
しかし、この結果が正解だとして、ひっかかることがいくつかある。
それは、言わずもがな、黒田が話していいた、浮幽霊の存在だ。
仮に本当に浮遊霊だったばあい、彼女の信憑性は増す。だが、昌浩は見鬼。霊を感知するうことにかけては、現代日本人の中でも群を抜いている、と言わざるを得ないだろう。
だが、その昌浩が"気配すら"感じることができなかった霊の存在を信じることができるわけがない。
となると、可能性は一つだけ。
「黒田が嘘をついている」
《それしかないな。霊がいない、だが、自分は霊が見えている。それの証明として、霊は存在していなければいけない》
「まったく、難儀なもんだねぇ、人間は。そんなものがなきゃ自分を確立できなんだからな」
「もっくん、それは言ったらダメだろ……見えないんだったら、見えないでいいんだよ。本当は」
昌浩は物の怪の言葉に、どこか別の方向を見つめながら返した。
自分自身は、まだいい。
陰陽師としての前世の記憶と、何より、家業が
だが、以前、妖に襲われていた子供を助けたときに、言われた言葉が今も胸の中に残っている。
見えるはずがないのに、その存在を視認できること。
それは
本当のことを言っているのに、気味悪がられるということは、昌浩も今世に生を受けてから、いやというほど体験してきた。
それこそ、平安の世で絆をつないだ、比古や蛍、彰子が懐かしく思えるほどに。
「……ひとまず、今は様子を見よう。それより、もっくん、頼みたいことがあるんだけど?」
「んぁ??」
にやり、といかにも何かをたくらんでいるという風な笑みを浮かべながら、相棒の物の怪に問いかけた。
物の怪は、怪訝な瞳を昌浩に向けた。