翌日。
昌浩は比古と一緒に登校してきた。
普段は早朝から旧校舎の様子を見に行くのだが、さすがに足繁く通いすぎるのも問題な気がするし、地盤沈下によるものとは思えない現象についても考えてみたかったので、比古と意見交換をしていたのだ。
比古も比古で、何が起こっているのか気になっているらしく、それまでのことを色々と聞いてきた。
話しながら歩いていると、旧校舎の前にたどり着き、一台の黒いワゴン車と、そこに待機している二人に目が行った。
「おはようございます、リンさん」
「あぁ、おはようございます。安倍さん」
「先輩、おはようございます!って、そちらの人は?」
ワゴン車の前にいたのはリンと麻衣だった。
リンは松葉づえをついているところを見るに、まだ怪我が回復していないようだ。
麻衣がその怪我の原因であることを聞いていたため、気まずい雰囲気になっていたようで、まるで地獄に仏とでも言いたそうな顔で昌浩に話しかけてきた。
「初めましてかな、後輩くん。俺は八神比古、こいつの幼馴染」
「あ、そうなんだ。あたし、谷山麻衣、一年です。よろしくお願いします」
ペコリ、と礼儀正しくお辞儀をする麻衣とにこやかに挨拶を交わしている比古をよそに、昌浩はリンに話しかけていた。
「リンさん、渋谷さんは?」
「ナルは旧校舎のほうに。それと、じきにみなさん集まるはずです」
「みなさん?」
「えぇ、昨日、校長室にお集まりいただいたみなさんです」
リンがそう答えると、真砂子や法生、綾子、ジョンと、校長に呼ばれた霊能者たちが一也とともに次々にやってきた。
その中には黒川の姿もあり、綾子は癇癪を起しながらなぜここに黒川がいるのかを問いかけていた。
それを昌浩と麻衣でなだめながら、実験室の前に行くと、ベニヤ板で塞がれた状態のままの出入り口が目に入った。
「んで?今日は何を見せてくれるんだ?恥かく前に」
「大見得斬って大失敗やらかした破戒僧のお兄さんも口をつぐんだらいかがでしょうか?」
法生が一也をあおるようなことを言い出したが、拝み屋としての失態というか失敗というかを目の当たりにしている昌浩は、にっこりと笑みを浮かべながらそう返した。
失敗したことは事実であるため、法生はそれ以上、何も返すことができず、押し黙ってしまった。
そんな法生に一也は、ご安心を、と前置きしてから、ここに呼び出した理由を話した。
「実験の証人になってほしいだけです。麻衣、ジョン、昌浩。昨日サインを書いた紙が破れていないか、確認してくれ」
「ドアのほうは?」
「特に変わったところはない、かな」
「へぇ、僕もそない思います」
「そうか」
そう答えると、突然、一也はバールを取り出し、ベニヤ板を破壊し、実験室に入っていった。
実験室には特に変わった様子はなかったが、なぜか円の中にあったはずの椅子が移動していることに昌浩と麻衣とジョンは気づいた。
「渋谷はん、いすが動いてまっせです」
「あぁ」
いったい、何がしたかったのか、とわめいている法生をよそに、一也は定点録画していたカメラの映像を確認すると口角を吊り上げていた。
何かわかったのか、それとも自分の予測が当たったからなのか、それはわからなかったが、一也は事件の決着がついたことを確信したかのように宣言した。
「僕たちは本日中に撤退します」
「なっ?!」
「まさか事件は解決した、なんて言うんじゃないでしょうね?!」
「その通りですが?校長から依頼された事件については、すべて地盤沈下で説明がつきます」
とはいうものの、ポルターガイストとしか思えないラップ音など、地盤沈下では説明できない現象もあった。
だが、その現象に対する解答を、一也はすでに持っていた。
それが、撮影されたビデオの映像だった。
テープを巻き戻し、映像を流すと、画面には椅子が映し出された。
椅子は、ただそこに鎮座しまったく動く様子がなかった。
だが、突然、ガタガタと小さく揺れたかと思うと、徐々に円の外へと出ていき、実験室の壁にぶつかり、倒れてしまった。
「どう見てもポルターガイストじゃないか!除霊……」
「……する必要はありません。ポルターガイストの原因は半分が人間だ」
「悪戯ってこと?」
「この場合だと、たぶん、念動力とかじゃないかな?」
「昌浩の言う通りだ」
にやりと笑みを浮かべ、一也は説明を始めた。
「昨日、皆さんにこの椅子が動く、と校長室で暗示をかけました。その結果、誰も侵入していないのに椅子だけが動いた」
「つまり、この中の誰かが潜在的なサイキックでその暗示に引っかかって椅子を動かしたってことか?」
「えぇ。そして、その誰かも僕には見当がついています。ポルターガイストは何かの原因でストレスがたまった人間が、構ってほしい、見てほしいという無意識の欲求で引き起こす。そういった場合、暗示をかけるとこういうことが起こる」
「じゃあ、いすが動いたのは人間の仕業ってことか?」
「おそらくは。少なくとも、僕はこの方法で失敗したことがありません」
法生の問いかけに、一也があっさりと返した。
その間にも、麻衣は一也が言っていたことから今回の事件の黒幕が誰なのか考えていた。
構ってほしい、見てほしい。そんな自己顕示欲を持っている人間。
真っ先に思い浮かんだのは巫女や法生だった。
だが、二人には自己顕示欲というよりも仕事の成果が欲しいから、という理由で自分が前に出たかっただけだ。
となれば、残りは一人。
自然と、全員の視線が黒川のほうへと向いていった。