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セオロの密林
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爆破と同時に昇る火柱と広がる衝撃波。イベルグに引っ張られて離れてすぐに発動させた魔法の防御壁も震え破られそうな威力だった。
「……何を使ったんだよ姉さん」
「ナパーム弾を狭域特化にしたヤツ。森を広く焼く威力を集中したからかなり熱いわよ」
「どのくらい?」
「計った訳じゃないけど色が黄色寄りだし、瞬間上昇温度は間違いなく4000度以上になるはずよ。わかりやすく言えばその温度ならほぼ全ての無機物は解けるわ」
「死ぬわ。いや母さんならまだ大丈夫か?」
「私も大丈夫だと思う」
「だよね」
俺が魔法を使う以上、2人を庇う体勢でありかなり密着しているが、姉はブカブカの服に色々な武器を隠して妹は鎧だからどっちも硬い。まぁ姉妹にドキドキする年頃でもないから問題ない。
なんて、余裕に考えられたのは不安からの現実逃避だったかもしれないな。火柱が上がったのはホンの数秒だが威力が威力だけに炎の大魔法をぶつけたようにこの場は荒れていた。その中心には雷が発生する黒煙が昇って母さんの姿は見えない。
「で、これで終わると思うか?」
「この戦いの焦点は私たちの成長、つまりどんな戦いをするか。倒す必要がないから私たちは
「そしてお母さんも察している」
「正解。良い子よイベルグ」
「とは言え、母さんがここで終わってくれるか。【アン・ブレイク・チェイン】は直前の魔法を利用して寄り強靱な拘束をかける魔法だが破壊された時の察知は出来ない。状況がわからないのは―――」
最後まで言葉は言えず、遮るように俺たちのすぐ傍に何かが飛んできた。舞い上がった砂と土が消えるとそれはイベルグの両手剣・マルミルだった。と言うか投げたのかこれを。
「弟、防御はもういいわ」
「了解。イベルグ、剣は回収だ」
「ん」
ボロボロの防御壁を消滅させ、いくつかの予測を頭に魔術書を握る。姉さんは銃を手に取り、イベルグはマルミルを拾う。
俺たち3人の視線は黒煙の発生源―――爆発の中心にいた母さんに向けてる。姿は見えずプレッシャーも感じない。逆にそれが怖く冷や汗が流れているが、引く気もないから気持ちで堪える。
風と雷の音がやけに鮮明に聞こえる。が、音よりも目に映る煙に集中する。長い時間見続けているような感覚で、まだかまだかと焦りが生まれた頃に黒煙の一カ所が不自然に膨らんだ。
その中から、煤だけを纏った母さんが出てきた。
「……うっそ、燃えてないよ」
姉さんの驚愕が聞こえる。確かに大半の物質を溶かす高温の炎を受けたはずなのに火傷どころか服も焦げていない。煤は恐らく舞い上がった黒煙から付着したヤツだな。もしあの炎を回避したなら俺たちは
母さんが俺たちの間合いに入る。3人それぞれの間合いが重なる場所だ。見えない手の魔法を使う母さんには視界の入る場所は間合いだけどな。
「………」
「「「――――――」」」
母さんは沈黙しているが俺たちは息を飲むような緊張感があった。そして―――。
「お見事♪」
その一言と共に槍を地面に突き刺して手を離す母さん。しばらくの静寂の後、それが戦いの終わりであることを理解し、
「「「……はぁ~~~~」」」
3人一緒に気が抜けた。
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ダンジョン・第9階層
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決着は瞬く間のようであり、しかし逆に長くゆっくり流れたようでもありました。ベルとミノタウロスの渾身の一撃。ベルの大剣が砕けたときは『負けた』と思いましたがそれを覆し、懐に入ってナイフ越しに魔法を放ち、そして勝利した。全てを賭けて勝利し、立ったまま意識を失った彼は見事に試練を乗り越えたのだ。
戦いが終わりリリルカ・アーデ、そして【ロキ・ファミリア】の面々が彼に近づき私は最後になった。
「彼は私が地上へ送りましょう」
その一言で皆が私に注目します。
「いいのかい? キミはオッタルと戦って満身創痍じゃないのかい?」
「動けるので問題は―――」
――バキッ!
ここまで来るまでに問題はなかったので片足で地面を叩きながらアピールをしていると嫌な音が鳴りました。洞窟の様なここでは良く響きますね。あ、バランスも崩れそうです。
「――おっと」
すぐに立て直して転倒だけは回避する。しかしどうやら足にもダメージが……あっ。
「あ、足ぃ!!」
「いえ、大丈夫ですので。とは言えこれでは運べませんね」
「なぜそんなに落ち着いている。早く傷、を……」
ティオナ・ヒュリテが驚くのを制しましたがリヴェリア・リヨス・アールヴがかけ寄って、私の損傷箇所を見て固まった。
「ああ、すみません。治癒魔法でしたら必要ありません。見ての通り、使う必要のない存在なもので」
「どうしたんだリヴェリア? 何を驚いている?」
私の説明と同時にフィン・ディナムが彼女に声を掛ける。私も彼女の視線の先を確認すると損傷箇所を凝視していますね。
「……なぜ血が流れていない。これは間違いなく足が外れかかってる筈なのに」
そういう事ですか。口で伝えてもいいですが、信じられるかは不安ですね。
「リヴェリア・リヨス・アールヴさんでしたね。理由なら私の顔をよく見て下さい」
「顔?」
「はい。全ての部分をよく、見て下さい」
そう言って私の顔を見せる。リヴェリア・リヨス・アールヴは難しい顔で凝視し、そして気付いて私の顔を掴む。
「その両目、ガラスか宝石……。いや待て、この顔、作り物か!?」
「顔だけじゃなく、全身もですよ。私は自律で動く人形ですから」
「人、形」
「ああ、言っておきますがカレンが私を作った訳ではありません。遺跡で眠っていた私をカレンが回収、そして目覚めさせた」
驚愕に顔を歪めるリヴェリア・リヨス・アールヴに事実を伝え、取れた片腕を差し出す。一目でギョッとし、恐る恐る受け取った彼女はその断面図、鉄で出来た内部を覗く。好奇心でティオナ・ヒュリテが寄ってきて覗き、「おぉ……」と感嘆を漏らしてますね。
「……本当なのだな」
「はい」
「何これ、めっちゃわからない」
「歯車などの部品ですよ。筋肉の代わりになります」
そう言って折れた足で立とうとしますが完全に内部の連結が外れているようで不可能だった。
「……すみません。恥を忍んで前言を撤回します。私も地上へ送って下さいませんか?」
「じゃあ私がおんぶするよ」
「お願いします。あ、腕は返していただいても」
「ああ」
私のお願いにティオナ・ヒュリテが即答とも言える速さで応えて貰い、さっさと私を背負う。その後にリヴェリア・リヨス・アールヴから腕を返して貰い、再び隠す。
「おっ、ウルガより軽いけど重い方だね」
「すみません、金属の塊ですから。リヴェリアさんもご心配をかけて申し訳ありません」
「気にするな。だかこれなら彼らは私たちが運ぶしかないな」
「ベルは私が運ぶ」
「わかったアイズ。
「えっ、ですが……」
「遠慮はしなくていい。どの道、アイズとティオナだけは心配だからな」
遠慮と言っていますが有無言わせる気がない気配がしてますよ。ほら、リリルカ・アーデが若干断りづらそうにしてますよ。
「……わかりました。お願いします」
しかしベル・クラネルの状態を見て自分が地上へ送ることは難しいと考えたようで素直に頷いた。その体の小ささから彼女は私と一緒で背負われる形になった。
「よし。アイズ、ティオナ。急いで地上に戻るぞ。フィン達は皆と合流して事情を伝えてくれ」
「わかった。頼んだリヴェリア」
意見のやり取りは最低限に。信頼の現れですね。しかし、そうですね。
「フィン・ディナムさん」
声をかけて皆さんの足が止まる。
「なんだい?」
「このような機会が二度あるかわからないので今のうちに貴方へ伝えておきます。
「どういう意味だいそれは?」
「お節介ですよ。間違いなくためになる言葉です。貴方のことですから忘れはしないでしょうしね」
「まぁね。カレンからそう聞いたのかい?」
「『待ち合わせに遅れて文句を言うと私が同じような事を言った時の事でからかってくるのよ。覚えの良さをこんな時に披露するなってのよ』、と言ってました」
昔の愚痴を伝えると彼は顔を覆ってそっぽを向き、あとティオネ・ヒュリテが殺気立ちました。答える言葉を間違えましたか?
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セオロの密林
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ん? なんか面白いことが起きた気がしたわね。
「どうしたのお母さん」
「いやね、なんか女の勘がビビッとしてね」
「ああ、うん。なるほど」
「何がなるほどなのか言ってご覧なさいイベルグ」
「じゃあまず二人を離しなよ母さん」
アーシンが呆れたような声で私と、両脇で頭を撫でてあげている娘たちにそう言ってきた。と言うか貴方も抱きしめたいんだけど。
「羨ましい?」
「見てて恥ずかしいんだよ姉さん」
「お兄、思春期?」
「違う」
「あははは」
相変わらず仲がいい事。実力については心配してなかったけど自分の信念をそれぞれに持ってるから変に拗れてないか不安だった。でもこの様子なら何も問題はなかったようね。
「で、お母さんの服が燃えなかった理由はなんなの?」
「あら、気になる?」
「うん」
「あれだけの爆発と燃焼で煤一つないんだ。素材以上にそれはもうマジックアイテムの類だろ」
「もうっ、水を差すんじゃないわよマイブラザー」
「別にいいわよ。でも説明するなら離れて見せたほうがいいわね」
抱きしめる腕を開放し、二人も聞くために距離を取る。そして三人の視線が私の服に集まったところで説明をした。
「この服に名前はないわ。ただ
「魔法で作ったの?」
「違うわよ。多分だけど自己修復にお母さんの魔力を使うのよ。モンスターにも自己再生能力を持ったのがいるしね」
「正解。でも素材が少なかったから失敗はあまり出来なかったわ。念には念を重ねて検証はやったし、何とか足りた形だったわ」
「母さん、その生地は余ってる?」
「残ってないわよ。あとさっきも言ったように私専用だからこの服から切れ端をとっても使えないわよ」
「じゃあレシピ頂戴♪」
「それもないわよ。使った技術は私だからこそ出来たことだし、流用できる部分はないこともないけど問題しかないから」
「どんな問題?」
「人類の歴史が、しばらく赤く染まるかしらね」
私の経験と、失われた遺産はこの時代にはまだ早いし大きすぎる。いずれ至るとしても今じゃない。
「……そういえば一つ気になることがある」
さっきの話で何を思ったのか、それとも別のことに思い立ったのかイベルグが話題を変えてきた。
「なに?」
「ここ、派手に壊しちゃったけど大丈夫?」
「ああ、そのこと。大丈夫じゃないわよ」
「「えっ」」
ここオラリオの領地って訳じゃないけど近隣だからその目は届きやすい。一応、ここで採れる物だってあるしね。植物は仕方がなかったけど動物はエルシュウかアーシンが避けてくれたから見える範囲にその被害はなし。あるのは大規模な戦闘の跡。
「今のオラリオってなんか
「うわっ、情報収集が甘かったかぁ……」
「いや、この情報を掴めたならオラリオの防諜が心配になるわ」
「そこは別にいいのよ。つまりはこの騒ぎがその陰謀の一部って思われちゃう可能性が高いわ」
「高いわよって、母さんなんでそう余裕なの」
「後の祭りだしね。【ガネーシャ・ファミリア】とは面識があるから事情を伝えやすいってのも――」
「ねー、母さん。ここの植物って成長が早いの?」
説明の途中でイベルグの無邪気な質問が、あまりにも意味不明だったから理解が遅れた。その中でアーシンが真っ先にイベルグの視線の先にあるものを確認し、そのまま周囲を見渡す。
「……マズいっ! 全員すぐ飛べ!!」
その言葉に迷うことなく翼を広げて真上へ飛んだ。声を上げたアーシンを含め三人も同時に飛んでいる。そして私たちが見ているのは真下の地面。緑芽吹く光景が、植物が急激な速度で成長する現象だった。
この超常現象、私には
「アーシン、魔法の気配は?」
「ビシビシあるよ。というか今の今まで気づかなかった。ここ一帯に結界魔法が張ってある」
そう言って羽音で消えるほどの声で詠唱し、魔力で出来た球をいくつか出現させる。それを四方に放つと、何もないはずの空で壁のようなものに衝突して霧散した。
「……音が聞こえなかったわ」
「防音付きの魔法壁だったわけだ。これなら外に戦闘音は聞こえない。おそらく視覚を誤魔化す幻惑もあるかもしれない」
「そして、真下は元通りって訳ね」
エルシュウとアーシンの分析を聞きながら私は成長しきった自然を見届けた。あの派手な戦闘がなかったかのように元通り、セオロの密林が広がっていた。奇跡の実現。神の御業とも言える光景を実現できる存在を、私は知っている。
「……オラリオ到着はあなた達だけじゃなくてあの人もだったようね」
見つめる先のオラリオ。きっとのぞき見してるあの人を幻視した。
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オラリオ・城壁
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「そっちじゃないんだけどなぁ」
木々の再生を始めたことで俺の存在は気づいてもらったはいいが、遠すぎて視線がズレてるんだよなぁ。
それにしてもあの人形ちゃんと見張りしてるところは可愛かったなぁ。三
……んまぁいいか、別に。
「さて。俺は時と待ち人が車でひっそり隠れるとするか。確かダイダロス通りってのがあったな。兄さんの嫁さんに挨拶をしたいけど、行ったら言ったで大騒ぎになるしなぁ」
真後ろに置かれた石棺。苔やら何やらで汚れていた外観はすっかり綺麗にしてピカピカだが、やっぱ数百年の年季による風化は解消できなかった。しかしなぁ、やっぱ悔しいよなぁ。
「
あの日は忘れない。兄さんと出会って、過去すべてに決別と報復をしたあの後の光景。無力だった。姐さんとおっさんを前に何もできなかった。
「悔しい、悔しかったなぁ。――だから必ず解放してみせるよ、兄さん」
そしてその時はきっと、もうすぐだ。
~~お・ま・け~~
「ところで子供たち、オラリオに入るときはどうしたの?」
「ああ、俺が魔術で外見を誤魔化した」
「そう、私も魔道具を使って誤魔化したわ」
「だよね~」
「目立つ私たち」
・二つの決着
①ドラグネット3
カレンにその成長を示すことが出来て戦闘は終了。ただしそれぞれの切り札は使わなかった。
②ベル・クラネルの場合
無事に試練を乗り越えてミノタウロスを撃破。ここに一頁、彼の物語が刻まれた。
・カレンの衣装
名前はない。ただし自己修復機能と物理・魔法に強い防御性を持つ。今の今まで衣装を変える必要がなくなったのは、本気の本気を出す機会を想定して。
・ティオネさん殺気立つ
「私にはそんな風にからかわれた事ないのにいぃいいいっ!!」
・石棺を盗んだ少年。
幕間で登場した4人目のオリジナルキャラクター。数百年を生きている。でもしばらく隠れて出てこない。
ルートを選んでください。
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カレンの正体を知る『語り』
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子供たちが原作と関わる『若竜の物語』