出来る限り誤字を減らそうとしていますが、それでも見落としが……
「ねぇ、イッセーくん」
「なんだい、夕麻ちゃん」
夕暮れ時。町外れにある公園で、少女は少年へと話し掛ける。周りに人影は一切無く、そこは二人だけの空間となっていた。いかにも良い雰囲気が漂っているのは必然か、それとも偶然か。どちらにせよ、少年にとっては嬉しいことであり、心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。
「私たちの記念すべき初デートってことで、ひとつ、私のお願い聞いてくれる?」
「な、何かな?お、お願いって」
余程緊張しているのか、馬鹿な妄想でもしているのか、少年の声は上擦り、どもる。普通に診れば大失態であり、ここで別れを告げられても何も言えないのだが、しかし少女は優しく微笑んだ。何の疑いも無く、少年はそれが本物の笑顔だと信じる。初めての交際なのだろう。だからこそ、それは本当に仕方の無いことだった。
「死んでくれないかな?」
はっきりと、少女は告げる。
「……え?それって……あれ、ゴメン、もう一度言ってくれない?なんか、俺の耳変だわ」
聞き間違いという可能性を信じ、少年は再度言うように少女へと話し掛けた。でも、少年のその希望は叶わない。
「死んでくれないかな?」
笑いながら、再び少女は少年へと告げる。まだその言葉を受け入れる事が出来ないのであろう。少年はその場で固まっていた。当然の事だと言える。今日一日デートをした彼女からのお願いが死ぬことなど、どうすれば想像がつくだろうか。何より、軽々しく死ねと言っている目の前の少女の言葉を、本気として受け取れなかったのが大きい。だが、そんな少年を嘲笑うかのように、異変は突如として訪れる。
バサリ、と黒い翼が少女から生えた。
少女の少年を見る目はがらっと変わり、先程までのかわいらしいものから、冷たく怖い目付きへとなる。そこから少年に理解できたのは、少女がどこからともなく槍を取り出したのと、それを自身の腹部へと投擲したこと。つまり、自分が殺されたという事だった。眠るように落ちていく意識。このままそれに身を任せれば、確実に死んでしまう気がすると、少年は思った。腹に穴を開けられたのだ。重症、しかも出血も大分している。朦朧とする意識の中で、誰かが自分の名前を呼んでいた。叫び、焦っているようだ。確かに、知り合いがこんな状況を発見したのなら、かなり焦ると思う。だが、もう既に遅かったのか、意識は次第に薄れていく。そんな中、最後に確認できたのは──。
「(…………紅……)」
赤よりも紅い、その色だった。
◇◆◇
「オキナサイ!オキナサイ!オ、オキナイナラ、キ、キス、スルワヨ……」
「……うーん」
ツンデレボイスを聞かせてくれる目覚まし時計が、部屋の主を起こそうと、その機械の音声を発する。だがしかし、目覚まし時計はその役割を担えなかった。部屋の主である兵藤一誠は、ベッドから落ちており、床でうなされている。最悪の目覚めだ、とイッセーは胸中で悪態をつく。初めて出来た彼女、天野夕麻に殺される夢。イッセーは最近、その夢をよく見ていた。だが実際に、その夢で刺された筈の自身の腹部には何の傷痕も無く、所詮夢は夢であって、夢に過ぎないと自分に言い聞かせる。そうだ。あれは夢であって、現実ではない。だから自分はこうして死なずに生きているし、『天野夕麻なんていう子はいないのだ』と。イッセーとしては記憶がある。天野夕麻の告白を受け、デートをした記憶が。だが、周りの人間には一切それが無く、携帯などのメモリーにも彼女がいたという記録は残っていなかった。まるで、本当に最初っからいなかったように、天野夕麻という存在は消えている。
「起きなさい!イッセー!」
ふと、階段から母親の声が聞こえた。変わらない、いつも通りの日常。
「わーってるよ!いま起きる!」
イッセーはそう返事して、床から腰をあげて立ち上がる。晴れている空は気持ちが良いが、イッセーの気持ちは最悪であった。今日も朝から、気が滅入る。
◇◆◇
「あれ?」
誰もいない道で、上条が一人声を漏らす。電子掲示板を見れば、午後八時ジャスト。人通りが一切と言っていいほど無くなるには、少し不自然な時間帯だ。もちろん、ここが路地裏などの普段から人気の無い場所であったのなら、不思議に思うこともなかっただろう。ただ、そんな訳では無いこの道に、車一台どころか、人っ子一人おらず、人間がいる気配が全く無い。どう見ても、違和感を持つのに十分な状況であった。
「ステイルが
突如聞こえる女性の声。鋭く、まるで頭蓋に日本刀をぶっ刺された気分になる。別段、その女性は隠れているわけでは無かった。上条の行く手を遮るようにして、一〇メートルほど先に立っていた。気付けなかった、というより、瞬きをすれば既に
「この一帯にいる人に『何故かここには近づこうと思わない』ように集中を逸らしているだけです。多くの人は建物の中でしょう。ご心配はなさらずに」
女の姿は、一言でいえば変だった。Tシャツに片足だけ大胆に切ったジーンズ。まだ普通の範囲に収まるが、それでも変であるのに変わりはない。だが、それに加えて腰から下げられる長大な日本刀。二メートルはあるのではなかろうかというそれが、明確な殺意を振り撒く。
「神浄の討魔、ですか──良い真名です」
「……、テメェは」
「神裂火織、と申します。……できれば、もう一つの名は語りたくないのですが」
「もう一つ?」
「魔法名、ですよ」
◇◆◇
「───、──ま」
「うぅ……ん」
「──ま」
「ぅ……すぅ……」
「─うま、起──さ─」
「……うーん」
「当麻!」
「うわああああああっ!?」
がたごとどったーん!と、盛大に愉快な音をたてながら上条はベッドから床へ転げ落ちる。目が覚めて、頭が覚醒するにあたって初めて感じたものは、痛み。色々と落ちるにあたって打ったらしく、腰や肘、それに肩も痛い。朝からなんて不幸だ。早速右肩下がりになるテンションだが、誰かに起こされたという事実を思い出し、ゆっくりとベッド越しにその存在を見た。といっても、こうして彼を起こしに来る人物と言えば、一人しか心当たりはない。
「いてぇ……ああ、くそ。不幸だ……」
「おはようございます、当麻。随分とうなされていたようですが……」
「ん?ああ。いや、なんでもねーよ、火織」
神裂火織。上条より一つ年上の、駒王学園三年生である。お馬鹿な上条が駒王学園に入学できた最大の理由は、この幼馴染みがつきっきりで勉強を教えてくれたからだと、今更ながら上条は思った。ちなみにだが、上条はアパートでの一人暮らしのため、両親はここにおらず、当たり前だがここ部屋に住む人間は自分一人だ。だというのに、何故神裂が入ってきているのかと問われれば、合鍵を渡しているからであった。一応であるが、上条と神裂の関係は世間一般でいう幼馴染みに位置している。そのため、何かとあった時のために渡している、というのだ。
「そうですか、なんでもない、という風には見えませんが……」
「うっ……」
「……何か、変な夢でも?」
「……あー……、いや、その……な……」
神裂が迫ると上条は耐えきれなくなったのか、ポリポリと頬をかきながら、ついその口を開く。
「なんだかエロい格好した火織が日本刀引っ提げて俺と話してた……」
「…………そうですか。どうやら、少し頭がおかしくなったようですね」
「!?」
殺気の籠ったその声に、上条はいち早く反応して弁解をしようと頭を回転させる。それに対して神裂は、腰を低くして、正拳突きを放つつもりなのか、握り締めた拳を引く。サーッ、と上条の顔から血の気が失せる。この幼馴染み、容姿的にも好く、性格的にもそんなに難があるわけではない……と上条は信じたいのだが、それでも身体能力のスペックが異常であることを、上条自身は知っていた。どこの世界に、蹴り一つで木を薙ぎ倒す女の子(?)がいるのだろうか。
「ちょ、待て!でも真面目そうな雰囲気だったから別に邪な思いは──!?」
「問答無用です」
「か、神裂さん?ちょ、やめ、その拳をおさめて!お願い!上条さん一生のお願──ぎゃぁぁぁぁああああッ!?」
上条当麻の朝は、大抵自身の絶叫より始まる。
やっちゃいました。かんざきさんじゅうはっさい参戦。
や っ た ね た え ち ゃ ん 正 妻 ル ー ト だ よ !
はい、すみません。反省してます。後悔はしてない。
物語に直接介入は今のところ予定ありません。一応ですが。上条さんの日常を支える清涼剤的な……清涼剤??