響はそんな彼女に声をかける。繰り返される運命を悲観しながら、彼女たちは……。
終戦の日に間に合わなかった賠償駆逐艦二人の短編です。三人称にすればよかったとただただ後悔しております。性格をきちんと捉え切れなかったです……。
深い絶望が私を襲う。油と鉄の臭いが鼻を刺す海岸。波に流されてくるのは、砲身の折れた12.7㎝単装砲、翼の折れた彗星、脚のない九七艦攻……。
ふらふらと力なく歩く私の視線に三角座りでうずくまる彼女が写った。
「貴女も“また”?」
「……ヴェールヌイ」
彼女、丹陽は煤と血で汚れた顔を私に向けた。その瞳に涙を浮かべ、私の名を呼ぶ丹陽。
「また……誰も、護れなかった……」
本来ならげっ歯類のような愛らしさを持つ顔を、ぐしゃぐしゃにして泣く彼女の隣に同じように腰を下ろす。
「比叡さんも大和さんも磯風も……初霜だって……」
……私も彼女と同じなんだ。姉妹も仲間も護るべき人も全て亡くした。
「……丹陽」
彼女を抱き締めたかった。駆逐隊としてはついぞ同じ部隊にはならなかったが、共に終戦を迎えた仲間を。……だが。彼女は私の手を振り払った。
「私は雪風……陽炎型駆逐艦八番艦の雪風なの」
涙をぽろぽろと零しながら、擦れ混じりの声で叫ぶ彼女。その宣言を聞いて、私はまた、懐かしい名を名乗る。
「なら、私は響。暁型駆逐艦二番艦の響。それ以外の何者でもないわ」
それからしばらくはただ波の音を聞くだけだった。太陽が少しずつ沈んでゆく。もうじき、夜の帳が下りる。
「帰ろう、雪風」
私は立ち上がって彼女に手を差し出す。……また、私の手は振り払われた。
「帰ったって……」
「誰もいないなんて言わないでくれ!」
思わず声をあらげてしまった……。
「深海棲艦との戦いは“大戦”とは違うの! 雲龍さんや天城さん、葛城さんも沈んだ! 鳳翔さんや北上さんだって……長門秘書艦まで」
高雄さんや足柄先生もいない……。私だって、分かっているんだ。でも……。黙りこくる私の耳が、再び雪風の声を捉える。
「運命の軛からは……逃げられない」
かつて赤城さんが言っていた言葉だった。運命の軛……歴史の強制力のようなものを感じると。だから提督は南雲機動部隊を別々の部隊に分けた。
だというのに、狂った羅針盤のせいで合流してしまい、やはり飛龍が最後に沈んだ。仇を討ったのは……イムヤだった。
「本土空襲で提督も間宮さんも……。私たちに帰る場所なんてないのよっ」
吐き捨てるように、嗚咽を交えながら、雪風は叫ぶ。……私には誰か生き残っているかもしれないなんて楽観的なことは言えない。彼女を慰めることさえできない。
もし姉なら気丈に……いや、もっと寄り添うことを選ぶだろうか。妹達なら懸命に慰めるだろうか。
「貴女は……どう、したかったの?」
私に出来たのは彼女の側にいることだけだった。ふいに口をついた言葉に雪風は私を睨むように見ながら答えた。
「私は、皆の側にいたいよ……。たとえ、海の底だとしても……」
「なら……」
そう言って私は海へと歩き出す。主機を失った今、海へと歩みを進めることは、単なる入水自殺だ。……そう、自殺だ。
「皆のところへ……いかないか?」
少しずつ黒みを写す海へとさらに歩を進め、振り返って蹲ったままの雪風に言葉を投げる。彼女はようやく立ち上がり、こちらに進んでくる。
「響は……死を選ぶの?」
「それが正しい選択かは……分からない。でも……一人でいるのはもう、いやなんだ」
「私は……。私も一緒にいく」
「そう。なら……またいつか、静かな海で」
そういって私と雪風は手を繋いで歩き始めた。六駆の制服が海水を吸ってどんどんと重くなる。不死鳥だなんて嘯いて本当は単純に死ぬことが恐かったのかもしれないと、今更過ぎる思いが私の脳裏をかすめる。でも……このまま生きる辛さを死以上に恐れている自分がいる。だから、いいんだ。海に……帰っても。
「帰る場所、あったんだ」
「そう、かもしれないね」
それが、私と雪風が最後に交わした言葉だった。
本当は自衛艦としての「ひびき」の話も書き足したかったのですが、「ゆきかぜ」が上手く噛み合わないのでやめました。そのせいでかなり短くなってしまったので、いつか三人称化しつつ書き足し改稿をしたいです。