圭 →(圭)という短絡思考で書きました。割とシリアスです。


※アイザックさん自身は直接登場しません。
※プラズマカッターは出ます。

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圭ちゃんに救いを!
そんなわけで生存ルート解禁です


リバーシティ・トロン・ショッピングモール

 私の名前は圭・祠堂・クラーク。圭が名前でクラークが苗字、祠堂がお母さんの苗字なんだって。

 名前で判ると思うけど、私はアメリカ人の父と日本人の母のハーフだ。お父さんはなんだか特別なエンジニアらしくって、世界中を飛び回っているからあまり会えることはないけど、それでも一日一回はメールか電話をくれる。

 

「ふふ、楽しみだなあ」

 

 リバーシティ・トロン・ショッピングモール。ここでお父さんの関わったすっごい工具が実演付きで展示されているって昨日のメールにあった。プラズマカッターって言って、真空状態でも硬い物体の整形が簡単にできちゃう凄いものらしい。

 どんなのなんだろう。すごくワクワクする。

 

「圭、そんなに楽しみなの?」

「うん、とっても!」

 

 私に問いかけてきたのは一番の親友である美紀ちゃん。クールでボーイッシュでゾンビ小説が好きな変わった子、それでいて一番の仲良し。今日は学校もお昼には終わったし、私のワガママに付き合ってもらってショッピングモールまで付いてきてもらった。

 展示場ではお父さんをモデルにした等身大人形も置いてあるっていうし、今から見るのが本当に楽しみだ。

 

「見て!多分アレだよ!」

 

 ホールに辿り着くと多くの見物客と、一段高くなったところにガラスケースが置いてあった。中には何かの人形の頭の端がみえるけど、お世辞にも背が高いとは言えない私では全体がさっぱり見えない。

 苦し紛れに背伸びしてみたが、所詮10センチ高くなったところで見えるわけもない。

 

「みえない…」

「ね、圭。あそこだったら二階から見えない?」

 

 美紀ちゃんの言葉で上を向く。そこは吹き抜けになっていて、下を見ている人がちらほらと見受けられた。

 

「美紀ちゃん頭いいっ!エレベーターから回っていこ!」

「うん」

 

 美紀ちゃんの手を取って、私はエレベーターの方へ駆けていく。

 

 この時はまだ。私と美紀は今日を楽しんで家に帰って、また明日学校へ行くのだという事を疑ってすらいなかった。

 日常の終焉は今日この時からもう始まっていたんだ。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 朝起きて。美紀とお話して。太郎丸と遊んで。ご飯食べて。それで終わり。

 こんな無味乾燥な一日を恐ろしいほど長く続けている。暇つぶしの材料としてスティーブンキングの本や雑誌とかあったけど。一字一句、印刷のズレがどこにあるかまで解るくらい何度も読み返してしまった。

 これではもはや死んでないだけで、生きる屍と大差ないんじゃないんだろうか。そう思う事が多くなった。

 最初のうちは誰かが助けに来てくれるんじゃないかって期待してた。ヘリとかがやってきて、マスクとか付けたおじさんたちが大丈夫か、怖かったな、って私たちを抱擁してくれるの。でも、そんなのは無かった。

 だから私は決意した。向こうが助けてくれないのなら、こっちから出向いてやるって。

 

「期待はあらゆる苦悩のもと…」

 

 これはお父さんが教えてくれたシェイクスピアの格言だ。今になって思い出すってことは、やっぱり家が恋しいんだと思う。

 だから私は取り返す。この苦境を乗り越えて、絶対に生きて家に帰ってやるんだ。

 私は電動ドリルとガスボンベを組み合わせて作ったドリルガンを手にして、美紀の前に座った。

 

「じゃあ、私は行くから」

「…本当に行くの?」

「うん。心配しないで、絶対助けを呼んでくるから」

「でも、外は危ないよ。食べものだってまだ沢山あるから…」

「もう限界なの!」

 

 私は叩きつける様に胸の内を吐き出した。何時まで経っても助けはこない。希望を持つだけ苦しくなる。神に縋るのは愚か者のすることだ。他にもいくつか叫んだような気がする。

 叫び終えると美紀が苦しそうな顔で私を見ていた。でも、もう私は。

 

「美紀は……部屋に閉じこもって、生きていればそれでいいの?」

 

 待ってなんかいられない。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 圧縮された空気が抜ける音と共に螺旋状の金属棒が飛んでいく。その棒はかつて人間だった何かの頭部に命中し、頭蓋と脳を食い破った。次いでどさりと人が倒れる音。

 私は人間を殺しているのだろうか。それともゾンビ?答えは解らないけど、ゾンビだと思えば殺すのも幾分と楽になった。

 

「残り2発…」

 

 あんなに沢山あったのに、と私はため息を吐く。手の中でチャリと音を鳴らす金属棒、ドリルの残量は2本。口径の合うドライバーなんかを使えばまだ何とかなるかもしれないけど、ここはショッピングモール4階で、工具店は1階のホール傍だ。とても回収に行けそうにない。

 せめて鈍器になりそうな物があればいいけど、あるといえば消火器くらいで振り回すには幾分重い。

 

「あっ、ここは」

 

 ゾンビを避けて進んでいると、自然と人通りの少ない改装中のエリアに到着した。幕を捲ってみてもゾンビの一人も居ないので、ちょっとした休憩くらいには使えそうだ。

 ……木材や鉄パイプも積んであるからひょっとすれば、工具がいくつか調達できるかもしれない。まず手始めに目の前にあった工具箱を漁ってみるとネイルガンがあった。一緒に釘もあったからこれは使えるかもしれない。

 他はアーク溶接機やドリルがいくつかあったくらいで収穫は少なかったけど、ネイルガンだけでも大きな収穫だった。あとはテープでもあれば射撃に使えるんだけど、ここには無いみたい。

 私は置いてあったウエストバッグを失敬してその中にネイルガンをしまう。すぐ使うドリル棒はポケットにしまって、さあいくぞと振り返った瞬間。

 

 そこには、ゾンビが。

 

「ひっ!」

 

 ゾンビが驚きのあまり硬直した私の腕をつかむ。そのまま乱暴に押し倒され、首筋を噛まれそうになった。抵抗しても所詮はこどもで、成人男性のゾンビにかなう訳がない。

 ならこの状況をひっくり返せる何か。何かが必要だ。私は直ぐ近くに落ちていた硬いものをつかんで思い切りゾンビの頭部に打ち付けた。それは刃を抜いたドリルだった。

 二度、三度と打ちつけるとゾンビはやがて動かなくなった。でも興奮の収まらなかった私はゾンビを何度も何度も踏みつけた。

 

「このっ!しねっ!しねっ!しんだら!動くなっ!」

 

 自分でも支離滅裂だったと思う。私が正気を取り戻したころには自分の足が返り血で真っ赤に染まっていて、ゾンビの腕や一部のパーツが飛び散っていた。

 酷く気分が悪くなった私はそのままその場から逃げ出した。極限状態では人間は内なる本性を見せる、とどこかの映画で見たことがある。これが私の本性だったとしたら、なんて救いがないんだろう。

 私は自分のために人間だったものを殺し、あまつさえ必要以上に傷つけるような人間だったなんて。…気分が悪い。今日はもう休もう。少しだけだったけど収穫もあったし、ゾンビも少しは減った。一歩前進だ。

 でも、あんなことを言って飛び出した手前、少しだけ戻りにくかった。

 

 

 

 

 

 美紀のいた場所に戻った。誰も居なかった。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 私は部屋の隅で縮こまっていた。

 孤独がこんなにも辛いものだとは思わなかった。美紀と太郎丸がいない時間を過ごすだけだというのがこんなにも心細かっただなんて。

 外から戻って1時間も経ってないのにこれだ。私は自分が思っているよりもずっと弱い人間だったみたいで、体の震えが止まらない。

 きっと私があんな事を言ったから出ていってしまったんだ。こんなことになるくらいなら一緒に出るべきだった。

 お父さんは「大事なものは無くしてから気が付く」と言っていた。かつて正気を無くした祖母がそうであったように。

 

 本当に無くしたんだろうか。そう思った時だった。誰かの助けを求める声が聞こえた。こんな所で叫ぶ人間なんか一人しか知らない。

 お父さんはこうも言っていた。「自らの罪から逃げるな」と。きっとこれは贖罪のチャンスなんだ。

 

 気が付けば私は夢中で走っていた。階段を下り、ゾンビをかわし、ドリルを突き立て、声の聞こえる方向へと一目散へとメロスのように掛ける。

 そして辿り着いたのは吹き抜けになっているホール。そこから見える1階のピアノの上に美紀はいた。

 美紀、と叫ぼうとして突然後ろから突き飛ばされた。4階の高さから落ちる瞬間見えたのは筋肉質なゾンビが私へと手を伸ばしている姿だった。

 ああ、このまま死んじゃうのかな。ゾンビになるよりマシかも。そんなことを考えているあいだにとうとう着地の瞬間がやってきた。

 ガラスの砕ける音。発泡スチロールの弾ける音。動かなくなった手足。このまま心臓の動きも止まってしまうのかと思ったけど、その時は訪れなかった。

 

「……?」

 

 むくりと上体を起こして周りを見る。そこはかつてのプラズマカッター展示スペースで、私は天井のガラスを突き破って中に入ったらしい。そして発砲スチロールらしきものを見てみると、バラバラになったお父さんがいた。

 …違う。正確にはバラバラになったお父さんの人形だ。中身が発砲スチロールだったから落下の衝撃を吸収してくれたのだ。これはお父さんが守ってくれたと思うべきか、それとも結末を示唆しているのではないかと思うべきか考えていると叫びが聞こえた。

 

「圭っ!大丈夫なの!?」

 

 隣を見るとピアノの上に立った美紀と目が合った。体のどこにも傷は無く、健在であることを知らせてくれる。対して私はゾンビを踏んだ時の血を洗い流していないしガラスで切った大小の切り傷があって無事とは到底言えないが、まだ動けるという意味では大丈夫だ。

 私は美紀に大丈夫だと伝えようとして、息を詰まらせた。ゾンビのうち一人が美紀の足をつかんだのだ。とっさにドリルガンを構えようとしたがどこかに落としたのか手元には無く、ウエストバッグの中身は着地の衝撃で滅茶苦茶になっていた。

 どうにもならない。何かないかと周りを見回して──あった。状況をひっくり返せるような、スペシャルなアイテムが。私は展示されているプラズマカッターを引っ掴んで何が必要か確認した。これにはトリガーとグリップがなく、有線で信号が送られると発射される仕組みになっているようだ。

 ウエストバッグからネイルガンのスクラップを取り出していらない部分をすべて捨て、カッターを上部に取り付ける。有線で二つをグルグル巻きにして、先をトリガースイッチにつなげることで即席のプラズマカッターが完成した。

 美紀はすでにゾンビに飲み込まれようとしている。ここが私の正念場。私は決して、自分のために人間だったものを殺し、あまつさえ必要以上に傷つけるようなだけの人間ではない事を証明してやる。

 

「うわああああああああっ!」

 

 バシュッという音と共にガラスの壁が弾けゾンビの頭が縦に裂ける。立て続けにゾンビの頭を吹き飛ばし、グシャリという音を立てながらカッターを振り回し、美紀の下へと向かう。

 その時、シャベルを持ったツインテールの少女と目が合った。

 

「こっちだ!急げ!」

「早く!一緒に行こう!」

 

 まだ生きている人間がいたことに驚きはある。だけどそれ以上に美紀を守りたかった。一心不乱にプラズマカッターを振り回し、美紀の手を引いてシャベルの少女ともう一人のネコミミ帽子を追いかけて。やがてショッピングモールの出口が迫ってきた。 

 この出会いの先に、この光の向こうには何があるのだろう。今はまだわからない。

 

 だけど私たちは確実に、『次』を手に入れたのである。




 りーさんすまぬ…すまぬ…






 今回のアイザック率

○突然の即死QTE
○鬱ストーリー
○工具=武器
○殺人ストンプ
△落下からの無傷
○豆腐アイザック
○突然のプラズマカッター
○アイザックパンチ


×可愛くないヒロイン
×最後のドッキリ
×ポクテ
×すぐ死ぬモブ
×たこ焼きドライバーおじさん
×アイザックシャウト
×石村屋


計50%くらい

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