【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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第三話。なのはさん(28)の決意

 私の名前は高町 なのは。 

 極々、平凡な普通の28歳だった女性です。

 うん、自分で言ってても全く意味がわからないね。だけどもういいの。もう細かいことは気にしないことにしたから……。

 

 そんな身体は子供、頭脳は大人を地で行く私は、両親が営んでいる喫茶店のカウンターに座り、優雅な一時を過ごしていた。

 

「ん~、偶にはこんな時間も必要だよね……」

 

 そんなことを呟きながら、お父さん自慢のコーヒーの香りを楽しむ。

 ふむ、実にいい香りだ。伊達に何年もマスターをやってはいない。そんな偉そうなことを考えつつ、私はこの僅かな時間のブレイクタイムにほっと息を吐く。

 アリサちゃんやすずかちゃんと話したりするのは楽しいのだけど、小学生生活は私にとってはやはり苦痛でしかなかった。だから、小学校というある種の拷問室から解放された私には、このような憩いの時間が必要不可欠なのだ。

 

「なのは、本当に砂糖もミルクも要らないのかい?」

 

「うん、大丈夫」

 

 そんな私の様子を見てお父さんは少し苦笑いを浮かべ、ブラックで大丈夫なのかと聞いてくる。でも、馬鹿にしないで欲しい。幾ら見た目は子供でも中身は立派なレディなのだ。それに日頃、コーヒーを飲む時は殆どブラックだったし……。お父さんの対応に少し不満を持ちながら、私はコーヒーを一口飲んで…………すぐに涙目となった。

 

「に、苦い……」

 

「あははは……やっぱり」

 

 どうやら、味覚も子供の頃に戻っていたようです。舌を少し出しながら、お父さんに砂糖とミルクを入れて貰いました……。うん。何か色々と締まらないなぁ、私……。

 

 

 

“この念話が聞こえる人! お願いします、助けて!”

 

 夕方にそんな出来事があった、その日の深夜のこと。

 いきなり広範囲に送られた念話によって、私は目を覚ました。正直、寝ていた所を叩き起こされたので気分は最悪である。言い方は余り良くないけど、これって近所迷惑だよね……魔道師限定だけど。

 

 大体、睡眠はお肌にとって凄く重要なんだよ? 若いからって油断しているとすぐにガサガサになっちゃうんだよ? 全く、彼に会う前に私のお肌が荒れ放題になってしまったら、どう責任を取ると言うのだ。ぷんぷんっ。そんなことを考え、ぶつぶつと文句を言いながら私は着替えを始める。……髪は下ろしたままでいいや、どうせ会うのはユーノ君だし。

 私は素早く着替えを済ませると、家族にばれない様にこっそり外へと出た。目指す場所は昔と同じ林の中。待っているのは私の長年の相棒。さっきまではかなり不機嫌だったけど、これからのことを考えるとそれも次第に直っていく。兎にも角にも、これから何をするにしてもレイジングハートが無ければ話にならないのだ。

 PT事件と闇の書事件を解決し、フェイトちゃんやはやてちゃん、皆と出会うためには彼女の力が必要なのだ。それにやっぱり長年の相棒が手元にないのは、少し寂しかった。

 

 念話を受けてから、早三十分。

 私はようやく、ユーノ君が倒れている場所に到着した。勿論、ユーノ君はフェレットモードだった。魔力回復にはその姿の方が良いらしいけど、こんな所でその姿だと他の動物に食べられそうで逆に危険なんじゃないかな。そんなことを思いつつ、私は視線をその横に落ちていた赤い宝玉へと向ける。

 

「……レイジングハート」

 

 私は自然と彼女の名前を呼んだ。すると、今までは何も反応しなかった彼女は、きらりと光る。いきなり私に名前を呼ばれたので、もしかしたら驚いているのかもしれない。

 

“……貴女は何者ですか?”

 

 少しの間があって、レイジングハートが私にそう問いかけてきた。多分、幾通りもの可能性を模索しても答えが出なかったのだろう。機械的な声色に僅かな警戒心を感じた。私はそんな彼女の反応が少し面白くて、ちょっと悪戯して見ることにする。

 

「ふふふ。レイジングハート、貴女は運命って信じる?」

 

“いえ、残念ながら”

 

 私の意味のわからない問いかけにレイジングハートは即答した。それも当然だよね、レイジングハートはデバイスなんだし……。そもそも私だって、運命なんて彼との赤い糸しか信じていない。ああ、もう少し待っていてね。もうすぐ貴方のなのはが会いに行くから……。

 

「そう、なら教えてあげる。私は貴女の運命の相手だよ」

 

 当然、相棒的な意味だけどね! 恋人的な意味では私は全て彼のモノだから! というか、彼以外の選択なんてあり得ない。クロノ? ユーノ? はんっ。あんなヘタレ共には何の興味もありません、おととい来やがれなの。

 

“……理解に苦しみます”

 

「まだまだ未熟だね、レイジングハート」

 

 うん、まだまだAIの成長が足りていないようだ。二十年後のレイジングハートなら、この場面で私が何も言わないでも頷いてくれる。

 大体、進展しない彼との関係に困っていた時だって、レイジングハートはいつも相談に乗ってくれていたのだ。本当に公私共に未来の貴女は最高の相棒だった。

そんなことを思い出しながら、私はレイジングハートを拾って、優しく握り締めた。そして、起動キーを紡いでいく。

 

「我、使命を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て……」

 

 思えば、この起動キーを言うのも二十年ぶりだ。自分でも良く覚えていたなと心底、感心してしまう。途中からは、完全にそんな設定もあったっけ? 状態だったのに……。

 

「風は空に、星は天に。そして、不屈の心はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ……」

 

“Stand by ready. set up.”

 

 イメージするのが面倒だから、子供の頃のバリアジャケットを思い返した。杖も勿論、昔の形だ。うん、何かカートリッジが無いと激しい違和感がある。でもまぁ、今は仕方がないか。そんなことを思いつつ、私とレイジングハートは桃色の魔力光に包まれた。いつかはこんな桃色空間を彼とも作って見せると、心に誓いながら……。

 

「どう? 少しは信じてくれた?」

 

“……まだ私にはわかりません”

 

 セットアップが完了し、私はそう問いかける。レイジングハートは少しの間を置いて答えを出してきた、わからないと。うん、でもわからないことは良いことだ。その答えを探していくことでレイジングハートはきっと成長する。

 

「そっか。なら、これから知っていけばいいよ。ただ、これだけは覚えておいてね……」

 

 そう言うと、私は愛機をじっと見つめる。

 白いボディに金色の先端。コアとなるのは真っ赤な球体。愛機、レイジングハートは私の生涯の相棒なのだ。

 

「貴女は私と共に空を舞うために、生まれて来たんだよ」

 

“…………了解”

 

「ふふっ、じゃあ戻ろうか」

 

 レイジングハートの答えに心からの笑みを浮かべ、待機状態へと戻す。さぁ、帰ったら色々とレイジングハートと術式を組まなきゃ! うん、これから忙しくなるぞ~! そう決意しながら、私はレイジングハートと共に意気揚々と帰路へと就いた。

 

“あ、あのマスター。ユーノは……”

 

「あっ、忘れてた……」

 

 レイジングハートがユーノ君のことを思い出すまではだけど……。ごめん、ユーノ君。冗談とかじゃなくて本気で忘れてた。

 

 

「……はぁ」

 

 私は部屋へと戻ると、大きな溜め息を吐く。わざわざユーノ君を取りに戻り、こっそり家に帰ると待っていたのは怒った顔のお父さんとお兄ちゃん。

 どうやら、私が外出したことがバレていたようです……。その言い訳は学校帰りに見つけた野良フェレットが心配だったから……と全面的にユーノ君の所為にすることで何とか許しを得ました。うん、偶には役に立つね、ユーノ君!

 とまぁ、本音混じりの冗談を言いつつ、私はレイジングハートに術式を組み込んでいく。

 

“マスター、本当にこの魔法は必要なのですか?”

 

 その作業中に、レイジングハートからそんな疑問の声が上がった。確かにその疑問は当然のものでもある。少なくとも二十年後の私は使っていなかった魔法だ。いや、そもそも私自身は一度も使ったことがない魔法でもある。

 

「うん。未来は兎も角、今の私にはそれがきっと必要になると思う」

 

“……了解しました”

 

 でも、きっと必要になる場面が出てくると思うのだ。まだこの身体になって、魔法を実際に使ってはいないから確証はないけど……備えあれば、憂いなしとも言うしね。私がそう言うと、レイジングハートも何とか納得してくれたようだ。そして、その後も魔法の登録を行って、その日は就寝となった。さぁ、明日からはジュエルシード探しを頑張ろう!

 

 

 

 数日後。

 

「では、皆さん。さようなら~」

 

『さよなら~』

 

 子供達に混じって、にこやかに帰りの挨拶を口にする。まだこの姿になって一週間程度だが、もう随分と慣れたものである。うん、人の適応能力は実に素晴らしい。勿論、憂鬱なことに変わりはないけど。

 

「放課後、どうする?」

 

「んー、私は特に用事はないけど……」

 

 アリサちゃんの問い掛けにすずかちゃんは答えを窮した。というか、その視線を私へと向けてくる。

 

「ごめんね。今日もまた探し物をしなくちゃいけないんだ……」

 

 私は両手を合わせ、すぐさま二人に謝った。この所の数日間、ウチのクラスの放課後ではこの光景がよく見られている。

 

「えぇ~。なのは、またなの?」

 

「確か宝石みたいな青い石だったよね? まだ見つからないの?」

 

「うん。まだ全部は集まってなくて、落とした人も凄く困ってるみたいなんだ……だから、本当にごめんね!」

 

 二人にはある程度のことを話している。とは言っても魔法関係の話は全く無しで、ただ落し物の青い石を探しているとだけ。

 当然、二人も協力するって言ってくれたけど、落とし主が余り沢山の人に迷惑を掛けたくはないみたいなんだと言って誤魔化した。それと、もしそれらしい物を見かけたら連絡を入れて欲しいとも。

 

「もう仕方がないわね……。なら、土曜日のお茶会には絶対に来てよね?」

 

「うん、勿論! 私もすずかちゃん家の猫ちゃん達と遊びたいもん!」

 

「ふふふ、それじゃあ皆で楽しみに待ってるね」

 

 勿論、お茶会には必ず参加する。ジュエルシードがすずかちゃんの家に落ちているのだし、早くフェイトちゃんにも会いたいからだ。そして何より、私の悲願を達成したいからね!

 

 

 

「ディバイン……バスター!」

 

 放課後、二人と別れた私はジュエルシードの確保に専念していた。私の砲撃がバインドで動きを封じられていた巨大な鳥のようなものを一発で撃ち抜き、封印完了。青い宝石……ジュエルシードが封印状態で宙に浮かび上がってきた。……実に呆気ないものである。

 

「な、なのはさん。お疲れさまです」

 

「うん。ありがとう、ユーノ君」

 

 ジュエルシードを回収した私に、少し腰の引けているユーノ君が労いの声を掛けてきた。何度も“別になのはで良いよ”って言ったのに、未だに呼び方は“なのはさん”である。しかも敬語。いやまぁ、それが良いと言うのならそれで良いのだけれど……何か微妙な気分である。私、何か酷い事したかな~。そんなことを思いつつ、私は大きな溜め息を吐いた。その姿を見て何故かユーノ君がビクッとしていたが、もう気にしないことにする。

 はぁ、本気で面倒臭い。思念体や暴走体はあんなにも弱いのに、見つけるのまでの時間が掛かり過ぎ。観測班のサポートがないと、こんなにも探索って大変なんだね。今頃になって裏方のサポートの重要性を改めて確認させられているよ……。

 

 とはいえ、無い物強請りをしていても仕方がない。今、手に入れたジュエルシードで五個目。海の中にあるのを入れてもあと十個は街の中に落ちている。

 ……まだまだ先は長いようです。もうっ、私は早くミッドに行かなくちゃいけないのにぃ~!

 

“お疲れですか、マスター?”

 

 私が心の中で地団駄を踏んでいると、今度はレイジングハートが声を掛けてきた。まだ未来の彼女とは比べ物にはならないけど、やっぱり彼女は最高の相棒である。この数日で少しずつではあるけど、私達の息は合ってきていた。

 まぁ、ユーノ君が言うにはその速さでも異常な速度らしいけど……。

 

「うんうん、身体的には全然オッケー。でも、探索が死ぬほど面倒臭いよ」

 

“そうですか。しかし、マスターならば何も問題はありません”

 

 インテリジェントデバイスはパートナーとの意思疎通が一番重要である。上手くいけば、1+1を5にも10にもする可能性を秘めているのだ。だから、こうして話をするのは決して無駄にはならない。

 レイジングハートも私をマスターと認めてくれたのか。最近では、かなり言葉数も多くなったような気がする。

 

「して、その心は……?」

 

“マスターは私の運命の相手ですから……”

 

「ふふっ。ありがとう、レイジングハート」

 

 そう言って、私は笑みを浮かべる。レイジングハートもチカチカと点滅している所からして、笑っているのかもしれない。こんな風に軽口を言い合えるようになったレイジングハートの成長が、私は凄く嬉しかった。彼女との会話は、最近の私の数少ない楽しみな時間でもあるのだから……。

 

「何か凄く仲が良いなぁ、あの二人……」

 

 そんな私達を見てユーノ君が何やらぼやいていたようだけど、私のログには存在しなかった。というかユーノ君、早く来ないと置いていっちゃうよ?

 

 

 

 そして、迎えた運命の土曜日。

 沢山の猫ちゃん達に囲まれながら、親友二人と優雅にティータイム。今回は紅茶だから何も問題はなかった……勿論、砂糖は入れたけど。お兄ちゃんと忍さんは……うん、爆発すればいいと思うよ。くそ、リア充め~。そんなことを笑顔で考えながら、私はお茶会を楽しんでいた。しかし、そんな時間もジュエルシードの反応を感知したことで、終わりを迎えることとなる。

 ユーノ君が先行して私がそれを追うという形で私達は席を外すと、予想通りの巨大な猫ちゃんと対面した。

 

「………………」

 

 猫ちゃんの余りの大きさにユーノ君は、口をぽかんと開けて驚いている。確か、昔の私も同じような表情をしていた覚えが少しだけあった。だが、今の私は違う。大きな猫ちゃん(♂)を見て、私のテンションは最高潮になっていたのだ。これはやっぱりあれだよね、うん! 全身でモフモフをしなさいってことなんだよね、うんうん! はっきりと言おう、私はかなり暴走していた。

 

 実は私は二十年前、秘かに後悔していたのだ。

 “何故、あんなに大きな猫ちゃんに私はモフモフをしなかったのだろう”と。

 確かに当時は、その大きさに驚いている内にフェイトちゃんがやって来て、攻撃を受けて、と色々なことがあり過ぎてそんな事を考えている余裕など全くなかった。うん、だからあれは仕方がなかったと諦めていたのだ。

 だが今こうして、私の悲願を果たす好機が目の前にある。ならば何を迷うことなどあるだろうか。いや、ない!

 

「高町 なのは、逝きます!」

 

 そんな声と共に、私はこの期間限定の巨大猫ちゃんに向けて吶喊した。その気持ちよさそうな毛並みを全身でモフモフしようと動き出したのだ。だがしかし……。

 

「バルディッシュ」

 

“Photon lancer. Full auto fire.”

 

「な~う……」

 

 そんな綺麗な声と渋い機械音が聞こえた。それと同時に突然電撃が飛来、私の猫ちゃんに全弾直撃した。苦しそうな声を出しながら、ゆっくりと倒れていく猫ちゃん……。その姿を見て、私の頭の中で何かが切れた音がした。

 

「な、なんてことをしやがるのー!! このパツキン娘っ!」

 

「えっ? パ、パツキン?」

 

 これが一番仲の良かった親友との再会であり、未だ幼き彼女との初めての出会いでもあった。

 

 


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