やはり俺のがっこうぐらしはまちがっている。   作:涼彦

13 / 16
少し間が空きましたが、これからはこんな感じで鈍速更新になるかもしれませぬ……。


第十三話:かくして、彼らは学園へ舞い戻る

その日も、太陽からの陽射しが眩しいくらいに地上を照らし尽くしていた。学園が近づくにつれて住宅街のあちこちで交通事故を起こした車が道を塞いでおり、何度目か分からないほどに迂回して漸く遠目に学園が視認出来る距離まで近づいた。しかし、予想はしていたが通学路に入った途端、巡ヶ丘学院高校の制服を身にまとったゾンビがその数を急激に増やしており、車道を彷徨く個体も多い。迂闊に跳ね飛ばしながら進んでボンネットにゾンビが乗ろうものなら、運転に必要な十分な視界を確保できず事故を起こすかも知れない。そうなれば俺達は一巻の終わりだ。

 

とはいえ、何も作戦を練らずにここまで来たわけではない。唯一、学園へ向かう道中に圭が考案したものがある。多少の危険こそ伴うが、校門付近を彷徨くゾンビを分散させるには効果的な作戦だ。無論、失敗すれば最悪死ぬ。日が暮れるまで待つという手段もあるにはあるが、暗闇では迂闊に出歩けないし、懐中電灯でも付けようものなら光源は確保できるだろうがゾンビが光に誘われて近寄ってくることになる。それに車には物資を詰め込んでいるため、どうにかして校舎内に運び込まなければならなかった。しかしまだ校舎内の状況が把握出来ていないので物資については後回しにするということで三人はそれぞれが合意したが、一番の問題である如何にして学園の敷地内に入るのかを散々あれこれと悩んだ挙句、採用したのが圭の発案した件の作戦であった。

 

どうにか学園に続く直線の道へ車を出すと、路肩に停めてエンジンを切る。比較的エンジン音が小さい軽自動車でも、静まり返った周囲にはよく音が響くのでゾンビを引き寄せやすいため手短に圭に確認を取る。

 

「何度も言うが、戦うのは極力避けてくれ。戦闘してる間にゾンビが音を聞き付けて寄ってくるし、何よりいくら槍はリーチがあるって言っても懐に潜り込まれたら危険過ぎる。だから邪魔なゾンビは最低限俺が倒していく。後は作戦通りに事を進めるだけだ」

 

「うん……わかってる。でも、やっぱり少しだけ――」

 

――怖い。

顔に不安の色を浮かべながら儚げに彼女は自嘲気味に苦笑した。この作戦は彼女に大きな負担をしいらせることになる、計画した段階でもそれは当然気づいていた。俺が単独で作戦を遂行することを視野に入れたが、そうなるともし俺が無事に戻ってこれなかった場合に車内に残れた圭は車を運転できず立ち往生してしまう。恐らくそれは圭自身も理解しているし、だからこそ自らがその作戦を提案した。彼女なりに決断をしたのだろう、ならば俺はそれを否定するべきではない。それは彼女自身を否定する行為だからだ。しかし、外に出る以上は危険が伴う。なら俺が身を呈して少しでも危険を減らすしかない。

 

どういう理屈かは知らないが、ゾンビに噛まれた部位からウイルスが感染するらしくほんの少しの傷口からも数時間で身体にウイルスが周り発症しゾンビ化する。たった一度でも噛まれてしまえば確実にその病原菌は対象を死に至らしめ、自身もまたウイルスを感染させるモノ――生物兵器に変貌するのだ。奴らに噛まれてなお人間で居られる手段は発症する前に命を絶つこと、そして存在するかどうかもわからない特効薬でも探し出して服用することぐらいだ。故に俺達生存者は絶対に噛まれることは何としても避けなくてはならない。幸いにもゾンビは身体が腐食しており動きは緩慢。単体であるのなら数で囲まれさえしなければそれほど驚異ではない。とはいえ、油断は禁物だ。俺も、圭も――小町も、誰一人として噛まれるわけには行かないのだから。

 

「……ごめんね。八幡だって、怖いよね」

 

俯き気味に消え入りそうな声色でそう言った圭の姿が、一瞬、小町と被って見えた。俺は彼女の言葉に答えるべきか戸惑い、僅かばかりに間を空けて「そうだな」と肯定する。いくら腹を括ろうとも、明確な死という概念が怖くてたまらない。その恐怖に接し続けているとアドレナリンが分泌されて多少の時間は緩和されるだろうが、いつまでも誤魔化しが効くものではない。いずれそれを直視し冷静では居られない時が来るかも知れない。人は皆、心の奥底で死を恐れているのだ。それは慣れるものではないし、むしろ慣れてはいけない代物なのかも知れない。だから――俺は死ぬことがたまらなく怖いのだ。

 

「そりゃ、人間ってのは死ぬことを怖く感じとるように出来てんだから怖くないわけがねぇ。けどよ、それを緩和する方法はいくらでもある。まぁ、なんだ。例えばだが……その……お前は俺が護る――的なアレだ。あ、今の八幡的にポイント高いぞ」

 

「……そっか。うん。それなら安心できるよ。本当に、不思議だね。なんだかちっとも怖くないって思えてきた」

 

まるで魔法みたいだね、と圭は柔和な笑みをこちらに向けて言った。予期せぬその可憐な表情に思わずくらりと悩殺されかける。この頃小町に毒されたのがビシビシと効いてきているのか、妙に圭を意識するようになってしまった。当のマイシスターは良かれと思ってやっているのだろうし悪気もないのだろうが、健全な男子高校生にはこの状況下において妹以外の異性と近しい間柄になるのは色々と感じるところがあるわけで。特に、過去の過ちは繰り返さぬと肝に銘じた難攻不落の八幡城は無血開城されたばかり。それ故に圭軍に対して門扉はガラ空き、かいしんのいちげき! やら、つうこんのいちげき! でも決められようものなら理性という名の誇り高き武士達は見るも無残な盛りのついたエロ猿どもに早変わりだ。互いを信頼すると決めたとあって、何としてもそれだけは避けねばならない。最悪、小町から愛称が「ごみぃちゃん」で固定され兄としての威厳が失われかねないからな。

 

「そ、そういうわけだから……ほら、さっさと終わらせるぞ」

 

動揺を隠すようにしてサイドミラーなどから見える範囲でゾンビが車の近くに居ないのを確認すると、俺たちは一転して気を引き締め車を降りると後部座席のドアを素早く開けて武器を取り出す。赤黒く変色した木刀の柄をしっかりと握ると、その手に馴染んだ感触が頼もしくさえ思えた。必要最低限の使用に留めてはいるが、それでもやはりいくら腐食して柔らかくなっているとは言え人体を殴打しているのだから所々欠け始めていた。願わくば戦闘中に折れないことを祈るばかり。

 

圭と並び駆け足で校門前の二手に分かれた道を目指す。道のド真ん中を彷徨く奴には助走をつけた上段からの一撃を脆い脳天に見舞い、余裕があれば一体ずつ横からの力任せな一閃で身体ごと殴り飛ばし意地でも道を開けさせる。多少強引ながらも進んでいくが、こうでもしないと校門前はどういうわけか少しゾンビの数が多いため、確実に減らしていかなければ退路を塞がれかねないのだ。圭も何度か奴らの足を器用に槍で払い転倒させ、それだけに留めて決して無理をせず追撃はしなかった。

 

立ち塞がる幾体もの腐乱死体を少しずつ薙ぎ倒し、じわりと全身に汗が滲んだ頃に漸く校門前まで活路を開けた。

 

久しく訪れていなかった俺たちの学校は、見るも無残に荒廃しきっていた。校庭には数多くの学生ゾンビが彷徨き、風に流されて腐敗臭が漂ってくる。窓ガラスはほとんど全損し、地上に落下したガラスの破片がキラキラと日光を反射してその存在を主張する。――本当に、学園生活部とやらはこの学校で生活しているのだろうか? ふと、脳裏を一抹の不安が過ぎる。ともかく、校内へ入ってみなければなるまい。まだ確信するには些か早急というものだ。

 

「――圭! いいぞ!」

 

少しばかり声を抑え、圭に事前に伝えていたそれを促す。俺の声に反応して何体かのゾンビがこちらに向けて鈍足ながらも歩みを進め始めた。しかしそれはほんの僅かなタイムラグの後、彼らは踵を返すことになる。――直後、圭は手にしていたカラフルな二つの防犯ブザーのストラップを勢いよく引き抜くと左右に続く道へ放り投げる。それは以前、ショッピングモールの雑貨店に残されていた物であり最後の誘導手段だった。既に防犯ブザーの在庫はなく、圭が手持ちのペンライトをいくつか保持しているのみ。日中の間はペンライトでは効果が薄いため、防犯ブザーを使用する必要がどうしてもあったのだ。

 

「よし戻るぞ!」

 

「うん!」

 

甲高い音色に惹かれて校門前のゾンビが左右の道へ移動するのを確認すると、俺たちは元来た道を引き返す。行きで転倒させたり吹っ飛ばした奴らが釣られ、音の発生源へ向かおうとして俺たちの前に立ち塞がる。音に気を取られている分攻撃される心配はなく、相も変わらず動きが鈍いので容易に彼らの頭蓋を狙い当てられた。行く手を塞ぐゾンビを的確に打ち倒し、なんとか車にまで戻ってこられた。車に乗り込みシートベルトを締めひと安心――することはなく、すぐさまエンジンをかけ校門に敷地内のゾンビが集まって来る前に突破するまでが作戦だ。それなりにスピードを出しながら避けられないゾンビは跳ね飛ばし、音に釣られて校門から出ようと密集していたゾンビを見るやいなや、俺は更にアクセルを踏んだ。助手席に座る圭が頭を抱えて震えているのを一瞥したが、見て見ぬふりをする。

 

少々手荒だったが重い衝撃を耐え切ると、赤く返り血に染まり使い物にならなくなったフロントガラスをワイパーを動かし視界を確保しながら、敷地内に乗り込み車を正面玄関前に停車させた。

 

木刀を携えて一旦車から出て外の様子を伺う。奴らを何体も轢いたせいでフロントガラスは肉片と血液で真っ赤に染まっており、バンパーはベコベコに凹んでしまっていた。正面玄関には内側から板らしきものが何枚も貼り付けられており簡易的なバリケードになっているようだ。下部には人が通れそうな隙間があるため、そこから校内へ入るべきか。周囲のゾンビは今もなお誘導を続ける防犯ブザーに引き寄せられ玄関前にはほとんど居ない状態であり、活動するなら今しかない。

 

「圭、ひとまず周囲は大丈夫そうだ。早いとこ荷物持てるだけ持って中へ入るぞ。まずは安全な場所を探してから、残りは落ち着いた時にでも取りに戻ろうぜ」

 

「分かった――っ! 八幡! あれ!」

 

遅れて外に出てきた圭に荷物を詰めるように促すと、おもむろに圭が校舎の三階付近を指差した。何事かと思い早急に首を向けてみれば、ふと三階からガタガタと非常用の避難梯子が下ろされているのが見えた。それを下ろしているのは藍色の長髪をツインテールにまとめた少女であり、彼女は梯子を下ろしながら俺たちに向かって声を張り上げた。

 

「おーい! こっちだ早く昇って来い!」

 

紛れもない生存者に俺たちは顔を見合わせて笑み合うと、俺は直様車内から食料と水を詰めたバッグとリュックサックを背負い、ついでに羽のついたピンクのリュックサックも抱えると、一足先に梯子の下へ向かった圭の後を追う。念のためそのまま持ってきた木刀を脇に抱えながらも、俺は期待を胸に梯子に足をかけた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。