やはり俺のがっこうぐらしはまちがっている。   作:涼彦

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第七話:彼女の答えは定まり、旅はまだ終わらない

無くなったペンライト、数の減った防犯ブザー、一階ホールに置き去りにされていた防犯ブザーつきの羽つきリュックサック。そして、ゾンビの誘導に使われていたであろう一本のペンライト。疑念は晴れ、それは確信へと変貌を遂げる。――生存者がモールに居た。もはや紛れもない事実に四階から五階のバリケードへ繋がる非常階段を上りながら祠堂に尋ねる。

 

「なぁ、美紀は武器を持っていないんだったな? ペンライトでさえ」

 

「え? うん、そうだけど……」

 

「羽のついたリュックサックに覚えは?」

 

「ううん。わからない。けど……私がここを出るときには無かったと思う」

 

「そうか……それだけ聞けりゃ十分だ」

 

件の少女、美紀は武器もペンライトも持っておらず丸腰の状態だ。その状態で非常階段付近にペンライトが落ちているとなると不自然極まりない。雑貨店があるのは二階の中央付近。そこでペンライトを入手したとして、何らかの理由で再び五階バリケード内に戻る羽目になったとしても、ペンライトを階段付近に投げて誘導するのは階段に接近できなくなる行為だ。とても自分からやったとは思えない。なら何故ペンライトが落ちていたのか? それは一階ホールにあった羽つきリュックサックの持ち主か……或いはその仲間のものだろう。俺の推測はこうだ。まず、五階まで探索に来た生存者に気づいた美紀が慌てて合流したところ複数のゾンビに気づかれ、苦肉の策として階段付近にペンライトを投げ誘導し別ルートで脱出を図った。その際、一階ホールにて生存者グループの一人が何らかの理由でリュックサックを落とした。或いは――ゾンビに囲まれたところを、防犯ブザーを鳴らすことによって対処しリュックサックを置いて脱出したか、だ。もしこの仮説通りのことが起こっていたとすれば美紀は生存している可能性が高い。バリケードに篭っているか、或いは生存者達と共に脱出したかの二択だろう。そうなれば――祠堂はどうするのだろう?

 

湧き上がった疑問はモヤモヤと頭の中に留まり続ける。俺は彼女の選択を否定できるような権利はない。残ると言われれば俺は彼女を置いていくだろう。小町が何を言おうともそれは祠堂自身の決断だ。他人が介入していいような話じゃない。無論、このまま俺たちに着いてくるとなればこれまでの関係は維持される。心のどこかでそれを望んでいる俺が居たとしても、俺も小町さえも祠堂圭にあれこれ指図することなどあってはならないのだ。だから、祠堂圭にとって後悔のない選択肢が選ばれるというのなら俺はそれを喜ぼう。きっと、そうするべきなのだから。

 

コツ、コツと非常階段を慎重に上がる中俺は思い耽る。それでも注意は怠らず、ゾンビに早急に対処できるようにしっかりと木刀を握り締める。修学旅行で気まぐれに購入してみたはいいもののコスプレぐらいでしか使わないと思っていたのに、いざとなれば押入れから持ち出して今や生命線を握る相棒となるとは驚きだ。血を吸って少し赤黒く変色してしまったが、ほんの少し欠けた程度でまだまだ使い倒せそうだ。頼もしい相棒を携え、俺は非常階段を折り返すとすぐさま上へ懐中電灯を照らす。祠堂の話では五階の非常階段には内側から物を積み上げてバリケードが設置されていると聞いたが――思わず、俺は足を止める。真後ろを歩いていた祠堂が小さく呻いて背中にぶつかった。抗議の声を上げた祠堂に俺は薄々予想していた事態を苦虫を噛み潰したような顔で伝えた。

 

「祠堂、バリケード……壊されてんぞ」

 

 

酷く狼狽した祠堂を連れ、なんとか俺たちは美紀の立てこもっている部屋までたどり着いた。やはり、というべきかそこに美紀という少女の姿はなく軽いショック状態に陥った祠堂をソファに横たわらせる。それから簡易的だが扉の前にダンボールを積み上げ即席のバリケードを作った。その頃には俺もクタクタになってその場に腰を下ろすと仰向けになって天井を見つめた。同じく疲れているだろう小町もいつの間にか眠っていた祠堂に付きっきりで見守ってやってくれている。少しばかり、祠堂には休憩させてやらないといけないな。かく言う俺も慣れないことをしたおかげで心身共に疲弊していた。あの頭蓋を叩き割る感触が、いつまでも不快に、鮮明に残っている。その光景がいつまでも頭の片隅にこびりついて離れない。

 

「……はぁ。何やってんだ。俺は……」

 

むくり、と起き上がりあぐらをかきながら溜息を吐いた。じっとしているといつまでも暗い思考のまま時間を無為に過ごしてしまいそうなので、すっかり寝入っている様子の祠堂を一瞥すると俺は二人が生活していた部屋を見渡す。いくつかの生活用品と、空になった何本ものペットボトル。カンパンなどの食料が詰められたダンボールがいくつか。静かに立ち上がり、洗面台の前に立つと蛇口を捻ってみた。一滴たりとも水が出てこない。仕方なく蛇口を閉めて部屋へ戻る。すると寝ていたはずの祠堂が起き上がってこちらを見ていた。思わず瞠目し素っ頓狂な声を上げそうになったが、なんとか飲み込む。

 

「悪い。起こしちまったか?」

 

「ううん、気にしないで。謝るのは私の方だから。私、比企谷くんの足引っ張っちゃったでしょ? だから、ごめんなさい」

 

「……気にすんな」

 

テーブルの前に腰を据えると、神妙そうな面持ちをしている祠堂と目が合う。他人と視線を合わせるのはあまり得意ではなかったが、祠堂相手であれば意識していれば合わせることができた。俺が思っているよりも、祠堂という少女は俺に少なくない影響を与えているのだと実感する。

 

「……私ね、美紀のこと諦めてないよ」

 

しっかりとした芯のある言葉だった。命を賭けて助けを呼びに街へ出たり、バリケードが壊されたと知るやいなや親友の安否を案じる。そんな少女が簡単に諦め切れるはずなどなかったのだ。

 

「ゾンビの中にも美紀は居なかった。多分ここから脱出したんだと思う。だから、だからね――」

 

祠堂はソファーから立ち上がると、俺の前に座って両手を取った。ぎゅっと握られたその手は暖かく体温の低い俺の手に温もりを与えてくれる。突然のアプローチに、思わず頬が紅潮していきクラクラとするくらい心地よかった。

 

「私は美紀の後を追いたいの。君さえ良ければ、協力して欲しいくらい」

 

「お、おう。任せとけ。そ、その……お前が居ると小町も喜ぶしな。べ、別に祠堂のことなんてなんとも思ってないんだからな! 勘違いすんなよ!」

 

「うーわお兄ちゃん男子のツンデレは小町的にポイント低いよ」

 

「ああもう比企谷くんのせいで台無しだよー」

 

「俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!」

 

小町に蔑んだ目で見られつつちらりと祠堂を一瞥すると。またもや視線が合う。逸らそうか逸らさまいか判断に迷っているうちに、フッと祠堂が年相応の笑みを浮かべてみせた。さも大輪の花が咲くようなその笑みには、僅かに涙が滲んで見えた。俺の両手は彼女の両手に包まれたまま暫くそれを維持していた。――祠堂よ、二度目の勘違い起こしちまうぞ。俺。




八幡と圭の旅は、もうちょっとだけ続くんじゃ▼
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