テイルズ オブ ザ ワールド レディアント マイソロジー2 で、作ってみた 作:609
レイノアは、いつものように屋根の上に居た。
そして、空を見ているのだ。
空と言うのは、滅多な事では変わらない。
だが、空も毎日同じと言う訳ではない。
雲が多い時、雲が無い時、色が変化する時、星が見える時と色々だ。
彼女が初めて見た空は、瘴気に覆われた空。
だからこそ、こう言った変化は嫌いではない。
と、大量の洗濯物を持った、ナツナッツ族のパニールが居た。
普段なら、クレアやナナリー達が手伝っている。
だが、今この船に乗っているのは、レイノアとパニールだけだった。
他の者は、依頼や町に出ていないのである。
レイノアはそれをジッと見た後、屋根から降りる。
隣まで行き、珍しくパニールを手伝った。
「あら?ありがとう。手伝ってくれるのね。」
と、言って、笑顔を向けて来る。
レイノアは不思議だった。
何故なら……
ーーそう、これはレイノアがこの船に来てから、三日が経ったある日の事だ。
レイノアは壁にもたれ、ロイドとクラトスの様子を見ていた。
そこには、カノンノとレイも居る。
彼女は単に、ロイドとクラトスが今現在は、どのように互いに接しあっているのかを理解する為でもある。
それによって、自分は彼等との接し方を考えなくてはいけない。
関わり過ぎれば、変に彼らの関係を壊しかねないからだ。
と、そこにパニールが、嬉しそうにやって来たのである。
「あ、パニール!どうしたの?」
「ふふ、歓迎会をしようと思って。前に、ゲーテさんも喜んでいたから。貴女も、そうだと良いわ♪」
パニールが、レイノアを見て言った。
レイノアは体勢を変えず、パニールに言った。
「……あれが、喜んでいたか。お前の頭は、能天気だな。」
ゲーテがこの船に来た時、レイやカノンノの手によって、無理やり仲間に入れられたあげく、戸惑う間もなく、歓迎会。
まぁ、本人は当初は怒っていたが、次第に喜んでいた。
いわゆる、ツンデレと言うやつだ。
「あら?知っているの?でも、嬉しそうではあったわよ。」
ゲーテはともかく、自分をこの船の仲間にされては迷惑でしかない。
と、彼女は考える。
なので、レイノアは彼女に冷たく言い放つ。
「はぁー、まあいい。だが、はっきり言っておく。私は、この船には乗ってはいるが、仲間になった覚えはない。やるなら、私抜きでやれ。」
「それでは、意味が無いわ。貴女の歓迎会なのだから。」
「なおさら、私を巻き込むな。あえて言うならば、関わるな!」
そう言いて、甲板の方へ向かった。
と、言った事があったのだ。
にも関わらず、パニールは何一つ態度を変えない。
こういう所は、レイノアに取って、思い出したくない女性を思い出す。
思い出した所で、話をできる相手は限られる。
なおかつ、話した所で、彼らに悲しい思いをさせるだけだ。
レイノアは、黙って洗濯物を干していく。
その手付きを見て、
「あらあら、とても上手ね。誰かから、教わったのかしら?」
レイノアは、横目でパニールを見た。
普段なら絶対に、こう言った事は話さないだろう。
だが、不思議と彼女は作業をしながら口に出していた。
「……こう言った、一般的知識は母親に教わった。」
「それは世界樹?」
「いや、人間の母親だ。私にとって、世界樹は母では無い。と言うより、興味が無いな。」
パニールは、少し困ったお顔になった。
が、すぐに明るい顔になって、“母親”と言うのに食いついた。
「貴女にも、そう言った人が人がいたのね。その方は、とても優しく、聡明な方だったのかしら。だって貴女は、とても優しい方だもの。」
レイノアは、自分が優しいと言う事に若干抵抗があった。
が、彼女との会話は本当に、当時の事を思い出す。
「ああ……確かに、そんな感じだ。だがあれは、馬鹿だった。なんと言うか、お前に何処となく雰囲気が似ていたな……」
パニールは、それが過去形になっている事に気が付いていた。
最後の洗濯物を干し終ると同時に、レイノアは屋根の上に戻った。
その理由は、簡単だ。
何故なら、明るい声がすぐに聞こえて来る。
「パニール、手伝うよ。……て、あれ?凄いね、パニール。これ一人でやったの⁉︎」
と、言って、カノンノとレイがやって来た。
パニールは手を頬に当て、嬉しそうに言った。
「ふふ、一人では無いわ。手伝ってくれた人がいたもの。」
「え?そうなの……え⁉あの人が⁉」
と、騒いでいる。
レイノアは、その会話を空を見ながら聞いていた。
『……うるさい奴だ。』
この船に来てからというもの、本当に毎日うるさくてたまらない。
子供達やあの家で暮らしていた以上の騒ぎが、彼女の耳に届く。
彼女は、仲間を持ったことは無い。
だから、こういう時に思い出すのは、仲間を持っていた先代達だ。
彼等も、旅をしている間は時間さえ忘れるくらい長く、短い旅をしていた。
いや、長く、短い旅なら彼女も同じようなものだ。
ディセンダー《自分》と彼ら≪下界人≫の時間は、流れる時の流れが違う。
だが、供に居る間は、それすら忘れてしまう。
レイノアは、このギルドに関わってから大分経つ。
そんなある日の午後。
レイノアはロイドに引っ張られ、食堂に来ていた。
彼女が入ると同時に、「パッパーン」と言う音が一斉に鳴る。
周りは、アドリビトムの者達が全員ここに集まっていて、机には料理やお菓子が沢山載っている。
レイノアの髪に、紙が乗っかる。
それを無表情で払う。
そして背を向け、彼女は食堂から出ようとする。
「て、ちょっと待ってよ⁉︎今からアンタの歓迎会をするんだから!当人が居ないと、意味が無いだろう‼︎」
ロイドが、レイノアの腕を掴んで止める。
『こういう所は、アンナそっくりだな。だが……』
レイノアは、ロイドに無表情の中に解りやすく伝える。
眉を寄せ、否定の意思を。
つまり、面倒だと言っているのだ。
だが、ロイドは引き下がらなかった。
「ちょっとだけでも良いから!ここに居るだけで、良いから!」
ここまでロイドに、お願いされては仕方がない。
レイノアは渋々、椅子に座った。
彼らは大いに、騒ぎ始めた。
レイノアは机に肘を付き、無表情でそれを見ていた。
彼女の隣には、クラトスが居る。
向かいにはロイドだ。
ハッキリ言って、早くこういう場所は出て行きたいと、彼女は思っていた。
それが表に出ていたのか、クラトスが反応する。
彼は、レイノアだけに聞こえるよう小さい声で言った。
「……お前は、賑やかな所が苦手だったか?」
レイノアは目線だけそちらに向け、クラトスにだけ聞こえる声で、
「いや、ただこうやって誰かと食事というのは、大切な物を思い出してしまう。それに何と言うか、この雰囲気はあれを思い出す……」
クラトスは、彼女が言うあれとは、アンナの事だと解っている。
それ故に、レイノアは彼に聞く。
「……何も聞かないんだな。あの時の事を。」
クラトスは、優しく言った。
「お前が話せる時でいい。待つのには、慣れているからな……」
レイノアは無言だった。
本当は知りたいはずだ。
自分の妻が、どのように亡くなったのか。
ロイドを、預けなくてはならない状況になった時の事を。
レイノアは、このわずかに残っている感情を、どのようにすればいいのか解らない。
だから、彼に何と言えばいいのかさえ、解らずにいる。
しばらくして、レイノアはそろそろ、ここを抜け出そうと思った。
だがその時、パニールがお菓子を持って話し掛けて来た。
「あら、ここに居たのね。はい、これ♪」
と、言って、お菓子を渡して来る。
レイノアはそれを受け取らず、冷たい声で言った。
「いらん。私は、ここに居るだけで良いと言われたから、居るだけだ。」
「うーん……でもここに来てから、貴女が食事を取っている所を、見ていないから心配なのよ。だから、遠慮せずに沢山食べて。」
レイノアは、ため息を付いた。
そして、面倒だと言う顔で言った。
「この際だから言っておくが、世界の守り手≪ディセンダー≫は食事を取らなくても、生きていける。」
「でも、レイさんは食事を取っているでしょ。」
「あれは、お前達を見て、そうするものと学習したからだ。だから、構うな。」
「……でも、食べられない訳では無いのでしょ?だったら、食べないと損よ。それにその方が、絶対楽しいわ!」
レイノアは目を見張った。
元々彼女の中で、パニールはアンナのようだとは思っていた。
故に彼女は、拳を握りしめていた。
『似ているとは思ってはいたが、ここまで似ているとは。……母親と言う生き物は、こうも似るものなのだろうか。アンナ……』
残った感情が、彼女の中でこみあげて来る。
これがどういう感情までかは、自分では解らない。
彼女は、自分でも気付かずに手を振り上げていた。
そして、パニールの持っていたお菓子は地面に落ちて、壊れた。
レイノアも、動きを止めていた。
これにすぐに反応し、怒ったのがカノンノだ。
「パニールが折角、貴女の為に作ったのに……酷いよ!」
「……私は構うな、と言っていた。それに関わって来たのは、そっちだ。」
レイノアは冷たく言った。
だが、その視線の先は、壊れたお菓子に向いていた。
がそれでも、顔を上げて、はっきりカノンノに言ったのだ。
カノンノは、レイノアを叩こうとした。
が、その前にクラトスが、レイノアの頬を叩いたのだ。
レイノアに痛みは感じない。
が、クラトスにそうさせてしまった自分に、何処か敗北感があった。
「……お前が、こういう事に疎いのは解っている。だが、こう言った行為を、自分の失態で壊したのなら、言う事があるはずだ。」
レイノアは、パニールの落としたお菓子に手を当てる。
それを元の姿に戻し、机に置く。
そして、食堂から出て行こうとする。
出るその瞬間に、背中越しに小さく呟いた。
「………すまなかった。」
レイノアはその後、食堂に行く事は無かった。
外に出て、甲板の屋根に上がる。
そして空を見上げながら、
『……私は何をしているのだろうか。クラトスに……父さんに、あんなことをさせてしまった。いや、下界人に対し、あそこまで感情的になる事が、ある意味でおかしいのだ。何故、捨てたはずの……いや、壊したはずの感情が自分の中にあるのだろうか。』