テイルズ オブ ザ ワールド レディアント マイソロジー2 で、作ってみた   作:609

41 / 55
マイソロ2 初代編 第四十一話 出会いと別れ

「‥‥、ダー…‥、ディ‥‥。」

 

ディセンダーを呼ぶ声が聞こえてくる。

彼はその声の心地さを感じながらも、

 

『誰かの声が聞こえる。もう少しだけ……もう少しだけ寝かせてくれ……』

 

そう思って意識をまた深くしようとした所で、

 

「ディセンダー、いい加減起きなさいよ!」

 

と、大声が響き渡る。

そこでパチッと目を覚めたディセンダー。

彼が声の方を見上げる。

そこには、頬を赤めえて膨らめているディセンダーと同い歳くらいの十歳に見える少女。

この少女は、長老の孫娘である。

だが、この少女はディセンダーにとって、姉のような存在でもある。

何故なら、自分が生まれた時から面倒を見て貰っていた。

 

エルフやハーフエルフは、人より成長速度が異なる。

最初が早く成長し、止まる者がいれば、ゆっくり成長する者もいる。

この少女は後者だ。

なので、実年齢は十四歳だ。

だがこの幼少女の場合は、体が弱いせいもあるだろう。

見れば、ベッドを背に羽織物をしてこちらを見ている。

 

ディセンダー≪エント≫は、今朝の事を思い出す。

あの後、クラトスと家に帰って、いつものように朝稽古が終わって朝食を食べた。

それから、彼女のお見舞いに来たディセンダー≪エント≫。

だが、どうやら彼女が一生懸命話している間に、うたた寝をしてしまったようだ。

そう考えていたディセンダー≪エント≫に、少女はより一層頬を膨らませて言った。

 

「ちょっと、ディセンダー!私が話をしているのに、うたた寝するとかどう言う事よ!」

 

と言い、そっぽを向いてしまう。

彼女自身、離れ離れで暮らすようになった弟が遊びに来たことに嬉しかったのだ。

なのに、自分は寝てしまった。

なので、ディセンダーは慌てて、

 

「ご、ごめん!エミリィ。ちょっと今朝は早起きし過ぎて、それで……」

 

と、口ごもってしまう。

これは言い訳だ。

だが、彼女エミリィは言い訳やり、彼が自分を名を呼ぶのに少し寂しさを感じる。

しかし、それを悟られまいとするのは姉心か、彼女は仕方がない、と言う感じに肩をすくめ、優しく言った。

 

「もぉー、今日も騎士様に剣の稽古を付けて貰ったの?」

 

彼女がそう言うと、暗かったディセンダーの表情が変わる。

彼は嬉しそうに話し出した。

 

「うん。師匠≪せんせい≫には毎日、稽古を付けて貰っているよ。今日は、いつもより長く持ったんだよ。」

 

騎士様の剣の練習をしている所を、何度か見た時の事を思い出すエミリィ。

目の前にいる彼が、騎士様に剣を振っていた。

が、簡単に受け流されてしまっていた。

その度に彼は、悔しそうにまた挑むのである。

その時は、三十秒も持たなかった。

 

「……その割には、三十秒も持たなかった頃と全然変わらないように見えるけど?」

 

そう言った途端、ディセンダーは顔をクシャっとしかめてうな垂れた。

 

「う!そ、それを言われると、そうだけど……でも強くなったよ!」

 

彼女は、そんなディセンダーを…本当の弟のようなこの子供に、悪戯顔で言った。

 

「そんなんじゃ、バトには一生勝てないわね。」

 

すると、ディセンダーはより一層顔をしかめて唸った。

 

「それは、そうだけど……。勝てないにしても、絶対いつかバトから一本取るんだ!。」

 

と、ガッツポーズを取っている。

そんなディセンダーを微笑み返しながら、「はいはい」と、頭を撫でるのである。

彼は嬉しそうに、少し照れながら微笑んだ。

するとディセンダーが、窓の外を見つめて勢いよく立ち上がろうとして、倒れた。

エミリィは驚いてベッドから起き上がり、「大丈夫」と言いながら手を差しのべる。

その手を支えに、起き上がったディセンダー。

その表情は、輝いていて、嬉しそうだ。

 

「エミリィ、バト達が帰って来たよ!」

 

その言葉に、少女も顔を輝かせながら言った。

 

「本当⁉バトが帰って来たのね!」

「うん。だから早く迎えに行こう。」

 

と、二人の子供は手を繋ぎ、嬉しそうに広場に向かった。

 

 

広場に着くと、村人の全員が集まっていた。

その中に、クラトスが長老と今しがた帰って来た村人と話している。

その顔が真剣なので、傍に寄ろうとした時、一人の十五・六歳の青年が二人に近づいて来た。

 

「おい、エミリィ、ディセンダー、今帰った。」

 

ディセンダーは行く事を止め、声のした方へ視線を向ける。

彼は笑顔で言った。

 

「バト、おかえり。外の世界はどうだった?」

 

彼のその眼には興味津々だと見てわかる。

エミリィも続いて、笑顔で言った。

 

「バト、お帰りなさ……‼」

 

お帰りなさい、と言おうとした時、エミリィは彼のマントの下の服に付いていたものに気が付いて、青ざめた。

エミリィの様子に気が付いたディセンダーも、彼の血まみれの服を見て絶句した。

さっきよりも青ざめた顔をしたエミリィは、彼に近づきながら言う。

 

「バ、バト……貴方、どこか怪我を⁈すぐに治療の準備をーー」

 

と、今にも倒れそうなエミリィに、彼は思い出したかのように言った。

 

「これは魔物の返り血だ。俺様に怪我はない。むしろ俺に、怪我などありえん。」

 

その言葉に、二人はほっとしたように胸を撫で下ろした。

そして二人に手を出すように言った。

二人の顔に?マークを浮かべ、手を出した。

彼は二人に、小さな包みを渡した。

 

「他の奴らには内緒だぞ。町で、今人気の砂糖菓子のようだ。」

 

二人は包みを開けて、周りに聞こえないように「ありがとう」と言った。

ディセンダーは包みの中のお菓子を見て、一つ口の中に入れた。

 

『お星様のような形……甘い‼後で師匠≪せんせい≫にもあげよう。』

 

エミリィは包みを戻してから、「後で食べるね」と二人で話している。

 

〝バトこと、バルバトス・ゲーティア〟は、ディセンダー≪エント≫にとって兄や親友のような存在。

いや、ライバルで憧れた存在でもあると一方がいい。

そしてバルバトスは、この村で一・二位を争う実力者である。

そのため、村人からは頼れる存在であると同時に、恐れられている。

だが、エミリィだけは今も昔もバルバトスを友達として、幼馴染として接しているのである。

そのため、ディセンダーは小さい頃からそんな二人を見ている。

彼は、この二人のやり取りが好きだ。

そんな事を思って二人を見ていたら、長老がディセンダーを呼んだ。

彼を呼ぶその声には、焦りが感じ取れた。

ディセンダーは急いで、長老の元へ急いで行った。

そこにはバルバトスと共に、町へ行った人達が傷だらけだった。

 

ディセンダーは急いで、世界樹に力を貸して欲しいと願い、治癒術を掛けた。

見ると、クラトスも、他の人達も、手当をしていた。

長老は、もっと薬を持ってくるように言った。

 

ディセンダーは、全集中力を傷口の最も酷い所にかける。

彼は思った。

傷口が酷いのは、ハーフエルフとレイモーンの民が多いことに。

そう思っていると、後ろから答えがきた。

 

「ハーフエルフ共は、町で暴行にあった。やり返せば良いものを、こいつらはずっと暴行を受け続けた。レイモーンの奴らはいつも通り、俺様と同じように血が上って、魔物の群れとやり合ったんだ。だが、こいつらは弱いからこうなる。」

 

そう言って、バルバトスは蔑みの目を向けていた。

そして広場を去って行った。

 

ディセンダーは少しぞっとした。

エミリィは怪我人を見て、青ざめしきった顔で、今にも倒れそうだった。

が、泣きじゃくっている子供達の傍に掛け寄り、なだめていた。

村人達は、バルバトスに何か反論しようとした。

が、時間が惜しいようでほっとく事にしたようだ。

しばらくして、何とか治療を終え、皆それぞれ家に戻った。

 

ディセンダーは……いや、エントは、クラトスの背の中で目が覚めた。

 

「師、師匠≪せ、せんせい≫⁉す、すいません!降ります。」

 

クラトスは、エントを背おったまま、静かに言った。

 

「いや、力を使い過ぎて倒れたのだ。このまま甘えておけ。」

 

エントはその言葉に、嬉しそうに、それでいて気恥ずかしようでクラトスの背に顔を埋めた。

 

 

次の日、ディセンダー≪エント≫はクラトスとの稽古を終え、今度はバルバトスと剣を交えていた。

すぐ傍の日蔭には、エミリィの姿もあった。

彼女は、ディセンダーがバルバトスの剣に圧倒され、吹き飛ばされる度に腰を浮きかけては、また座って彼らを見守っていた。

バルバトスは、ディセンダーの剣の腕が少し上がった事が分かったのか、嬉しそうだった。

 

「ディセンダー。お前、しばらく会わないうちに腕が上がったな!」

 

ディセンダーも、バルバトスにそう言われ、嬉しそうだった。

 

「バトがいない間に、僕は帝都の騎士様に稽古を付けて貰ったんだ。だから絶対、バトから一本取ってやる!」

 

そう言って、勢いよく前へ飛び出した。

ディセンダーは気づいていなかった。

彼はディセンダーの言葉を聞き、持っていた斧を握る手が強くなったのを。

それは彼に近づいてから気づいたディセンダー。

ディセンダーは、彼の目に怒りの闘志を感じたのだ。

だが、それを消したバルバトスは、より一層笑みを浮かべる。

そして斧を振った。

 

「わはは!貴様が俺様から一本取るなど、百年早いわー‼」

 

ディセンダーはとっさに剣でそれを防ぐ。

しかし、ディセンダーは勢いよく吹っ飛んだ。

 

「うわあぁーー‼︎」

 

そのディセンダーに駆け寄る人影を、バルバトスは見た。

 

ディセンダーは木にぶつかると思い、目をギュッと瞑る。

瞬間、誰かに守られた。

恐る恐る目を開けると、そこにはクラトスがいた。

彼は自分を抱え、木にぶつかっていた。

ディセンダーは、治癒術を急いで掛けた。

 

「師匠≪せんせい≫、大丈夫ですか⁉」

「平気だ。」

 

クラトスは平然とした顔で言う。

後ろから、長老とエミリィが駆けてくる。

エミリィは青ざめた顔で、ディセンダーの顔を触りながら、

 

「ディセンダー、怪我は⁉」

「僕は大丈夫。師匠≪せんせい≫が庇ってくれたから。師匠≪せんせい≫、助けてくれてありがとうございます。」

 

クラトスは小さく笑顔を作った後、バルバトスを見ていた。

彼は、クラトスに対し、怒りにも似た目を向けている。

エミリィはすくっと立ち上がり、クラトスにお礼を言ってから、バルバトスに怒った。

 

「ちょっとバト!貴方、ディセンダーに大怪我を負わせるき‼︎騎士様が助けて下さったから、良かったものの……ディセンダーはまだ子供なのよ!もう少し手加減をなさい‼」

 

バルバトスに、指差すエミリィ。

だが、当の本人は腕を組んで、胸を添ってディセンダーに言った。

 

「弱い、こいつが悪い。」

 

エミリィが言い返そうと声を出す前に、彼はクラトスに怒りを露わにした。

そして、斧を振って襲いかかる。

 

「お前が、ディセンダーに剣を教えている奴だな。覚悟しな、帝都の騎士野郎‼」

 

クラトスは素早く立ち上がり、剣を抜いた。

クラトスは、バルバトスの振りかざす斧を何度か受け流し、彼の斧を弾き飛ばした。

 

ディセンダーは、それをじっと見つめていた。

あのバルバトスに勝ったクラトスの背中を、そしてその彼に剣を教わっている事を、誇らしげに思えた。

だが、それと同時にバルバトスの負ける姿がショックだった。

それが伝わったのだろう。

座り込んでいるディセンダーに、クラトスが手を差し伸す。

ディセンダーはその手を握り、立ち上がる。

クラトスにお礼を言おうとした時、バルバトスは叫んだ。

 

「これだけの実力がある騎士野郎が、ここで何をやってやがる!まさか、そんな子供にお情けで剣を教えているんじゃないだろう。それとも……あの時のように、この村でも潰すつもりか‼」

 

それを聞いた長老とエミリィは、「はっ‼」と反応していた。

ディセンダーは疑問に思ったが、それを声に出す事は出来なかった。

 

クラトスはバルバトスの目を見た。

怒りの闘気が、目に見える。

クラトスは、何故こんなにも敵意を向けられているのか解らなかった。

いや、この子≪ディセンダー≫に関わっているからか、などと思いながら口を開いた。

 

「私は、情けで剣は教えん。こいつから、強い意志を感じたから教えている。」

 

そう言ってクラトスは、ディセンダー≪エント≫を見た。

ディセンダー≪エント≫は、嬉しそうにクラトスを見ていた。

バルバトスは再び斧を手に取り、襲い掛かろうとする。

その彼に、

 

「やめんか、バルバトス‼」

 

と、長老が大声で叫んだ。

だか、それを無視してバルバトスは突進してくる。

ディセンダーは前に出ようとして、止められた。

クラトスは剣を構え直しながら、バルバトスに突っ込もうとした。

しかしそれは思いもよらない形で止まる。

彼らの、いや、バルバトスの前に、泣きながらエミリィが手を広げていた。

バルバトスは動きを止めた。

クラトスも、止まり、剣を下す。

エミリィは泣きながら言った。

 

「バト、もういいでしょ。この騎士様は、あの時の騎士達とは違う‼」

 

バルバトスは上げていた斧を降ろし、背を向ける。

そして、一人黙って森の中に去って行った。

クラトスは剣をしまった。

 

ディセンダーは、そんなバルバトスの背中をずっと見ていた。

怒り、悲しみ、恨み、色々な感情を感じる。

だから見続けていた。

彼が消えてもずっと……

 

しばらく沈黙が続いた。

そしてやっと、長老がクラトスに申し訳なさそうに言う。

 

「クラトス殿、申し訳ない。バルバトスの奴は、頭に血が上ると見境がなくなってしまっての……」

 

クラトスは首振る。

 

「いえ、村長殿。私も、いささか大人気なかったようです。私の方こそ謝らなくては……」

 

そこまで言うと、声を殺して泣いていたエミリィがこちらに振り返る。

クラトスの前まで来ると、頭を下げて謝った。

 

「騎士様、申し訳ありませんでした。でも、お願いです。バトを……、バトを許して下さい。お爺様もお願い。」

 

クラトスは少女に頷いた。

長老も、クラトスの反応を見て良しとしたようだ。

エミリィは、その様子を見てほっとした。

そして、手を胸の前で握り締めてから、祖父を見てから語り出した。

 

「バトの両親は十年前にここに来た時に、野盗に殺されたんです。それも目の前で……」

 

少女はその時の事を思い出したのだろう。

また声を殺して泣き出した。

長老は孫の背中を擦った。

クラトスは少女に問うた。

 

「それに、お前達と帝国騎士も関わっているのだな。」

 

エミリィは頷き、続きを話始めた。

 

「あの頃は、多種族戦争が起こるかもしれないと大騒ぎでしたから……。帝都から移り住む為に、この村に来る人も多かったんです。この村にも、昔は騎士団が居ましたし。それで、バトの家族も、ここに移り住もうとしていたのです。私は、彼とは帝都の馬車で知り合いました。私もその時、両親と共に帝都から村に帰る途中でした。でも村に着いた時……村は野盗に襲われていました。騎士達は、貴族を真っ先に助ける為に……私達を見捨てたのです。私は、バトの背に隠れていました。私達の両親は野盗に刃向かって、私達の目の前で殺されました。騎士も居なくなり大変だったけど、何とか村を守れた頃には、村は荒らされていた。生き残った者でこの村を再建し、祖父が村長になりました。バトは……自分達を見捨てた騎士を許さなかった。そして何より、何もできなかった自分が許せないのです。その日からバトは、人が変わったかのように力を求めるようになったんです。」

 

ディセンダーは、自分の知らない事なので驚いていた。

そして、いつの間にかクラトスの服の裾を掴んでいた。

何故なら、十年前と言えば、エミリィは三・四歳くらい、バルバトスは五・六歳のはずだ。

そして自分は、自分の大切な存在を目の前で失う悲しみを知っている。

この時、ディセンダーはバルバトスの力の源を知った気がする。

そして、彼の力を求める気持ちを知っている。

前の世界で、何度も思っていた。

それは、今も思い続けている。

 

エミリィは、ディセンダーの顔が青ざめているのに気が付いた。

彼女はディセンダーに近づき、

 

「ごめんね、怖い話をして……」

 

と、姉のように、優しく頭を撫でた。

ディセンダーは、頭を振り俯いた。

クラトスは、何と答えて良いか解らなかった。

だが、クラトスはありのままの気持ちを口に出した。

 

「この村で起きた事は解った。帝国騎士団がこの村の…いや、当時の者にとっては、許しては貰えないでしょう。騎士団の中には、今も昔も己が命を優先する者も、貴族しか助けない者もいる。……本当に申し訳なかった。」

 

と、クラトスは頭を深く下げた。

長老とエミリィは、クラトスに慌てて頭を上げるように言った。

 

「騎士様、頭をお上げ下さい。確かに、あの時の騎士達は許せません。でも、貴方が立派な騎士様と言うのは分かっています。貴方のような騎士様が、これから増えて下されば、どんなに良いか……」

 

長老は、クラトスを見上げ、声を絞り出すように言った。

 

「クラトス殿さえ宜しければ、このままこの村に暮らして頂きたい。現状からすれば、帝国ほど良い報酬は出せませんが、それなりの報酬はします。」

 

その言葉に、ディセンダー≪エント≫はクラトスを見上げた。

その視線に気が付いていたが、クラトスは彼を見ずに、長老に首を振った。

 

「村長殿の申し出は嬉しいのですが、私は帝国騎士団長として帝都に戻らねばならぬのです。」

 

その言葉に、三人は目を見開いて驚いた。

騎士団長と言えば、王族直轄なのである。

まさかクラトスが、そんなに偉い騎士様とは知らなかった。

ディセンダー自身、その辺に関しては何一つクラトスに聞かなかった。

掴んでいたクラトスの裾を、無意識に離していた。

クラトスはなおも言う。

 

「ここでの暮らしは、私も好きでした。出来れば私も、ここに長く留まりたいのです。ですが、一週間後にはここを出て、帝都に戻らねばなりません。」

 

長老は静かに頷いて、

 

「そうですか……。そうですな。いつまでも、騎士団長殿が行方不明ではまずいですものな。」

 

と、気持ちを切り替える。

そして孫娘に、「帰ろう」と言って、この場を離れた。

エミリィは、クラトスに一礼して去って行った。

 

ディセンダーは、クラトスの“一週間後にはここを出る”という言葉を、頭の中で繰り返していた。

クラトスはそんなディセンダーの姿に苦笑した。

彼の……エントの頭を撫でながら、

 

「さあ、エント。帰ろう……私が帰るまでの一週間、いつも以上に鍛えるからな。」

 

エントは頰を叩き、いつもの笑顔でクラトスを見上げ、

 

「はい、最後の時までお願いします、師匠≪せんせい≫。」

 

と言って、二人は無言で家に帰って行った。

 

 

一週間後、いつものように稽古を終え、エントは空を眺めていた。

クラトスは、長老の家に最後の挨拶を言いに行っている。

バルバトスとは、あれから会う事は出来なかった。

しばらくボーとしてから、ディセンダーは何かを決心する。

彼は森の中に入って行く。

それからしばらくして家に帰り、クラトスにお弁当を作り出した。

お弁当が出来たと同時に、クラトスが長老とエミリィと共に帰って来た。

お弁当を持ち、四人で村の入口へ着き、

 

「騎士様、どうか無事帝都に帰れるようお祈りしています。それと騎士様、とても厚かましい事とは解っていますが、もし王様に会えたならば、戦争を早く終わらせて、世界に平和をと……」

 

クラトスは少女に頷き、長老に頭を下げて言った。

 

「村長殿、この数週間大変お世話になりました。こやつもお借りしてしまって、申し訳ない。村長殿、どうかお元気で……」

 

長老はクラトス見上げ、髭を触りながら言った。

 

「いやいや、クラトス殿もどうか無事に帝都へお帰り下され。また、この村の近くを通った時は、気なげなく訪れて下され。クラトス殿なら、いつでも歓迎致しますゆえ。ノイッシュも、クラトス殿を頼んだぞ。」

 

そして、フォホホと笑った。

大きな犬?のような変わった生き物、ノイッシュは「任せろ」と言うかのような顔で、一つ鳴いた。

そして、ディセンダーを見ながら、孫娘に言った。

 

「さあ、エミリィ。我々は帰ろう。ディセンダーと話したい事もあるじゃろうて。」

 

エミリィはお辞儀をして、長老と帰って行った。

ディセンダーは、エミリィの“世界の平和”という言葉を頭の中で繰り返した。

本来なら、自分が行うべき事だ。

それを未だに、僕は行っていない。

 

クラトスは、エントの表情を見た。

クラトスは微笑を浮かべながら、エントの頭を撫で、

 

「エント、お前には世話になった。おかげで無事、旅立てる。」

 

エントは寂しそうな表情で、クラトスを見上げた。

そして、お弁当を渡しながら言った。

 

「僕の方こそ、師匠≪せんせい≫と暮らせた事、とても楽しかったです。父や兄が居たら、こんな風だろな……と、思いましたから。お弁当は自信作です!」

 

と、ガッツポーズを取っている。

クラトスは、これまでの日々を思い出しながら言った。

 

「ああ、楽しみにしておく。……エント、あまり一人で抱え込むなよ。」

「はい。それと師匠≪せんせい≫、手を出して下さい。」

 

と、ディセンダーは坊やポッケを探る。

クラトスは疑問に思いながらも、手を出した。

クラトスの手には、一つの珠を包んだ樹のペンダントがある。

珠の中を覗くと、光輝いていた。

 

エントは恥ずかしがりながら、

 

「お守りです。世界樹にお願いして、枝を分けて貰ったんです。それには僕の力を包みました。世界樹に包まれれば、僕の力は消えませんから。……道中気を付けて下さいね、師匠《せんせい》。無論、ノイッシュも、気を付けるんだよ。帰って来た時には、僕に帝都の話を聞かせてね。」

 

と、ノイッシュの頭を撫でながら言った。

それからエントは、ノイッシュと少し話していた。

その間にクラトスは、彼から貰ったペンダントを付けていた。

付けると、彼の力《暖かさ》を感じたように思えた。

クラトスは笑っていた。

その後、クラトスは「さらば」と言って、ノイッシュに乗って旅だった。

エントは、クラトスが見えなくなっても、村の入り口をしばらくずっと見ていた。

 

 

次の日、エミリィはディセンダーを連れて、バルバトスの元へ向かった。

彼は湖を眺めていた。

ディセンダーは、彼に声を掛ける。

 

「バト……やっと村に顔を出してくれたんだ。」

 

バルバトスは振り返り、腕を組んだ。

こちらを見渡してから言った。

 

「あの騎士野郎はどこだ。今度こそ、ぶっ倒してやる。」

 

ディセンダーは微笑を浮かべていた。

エミリィが呆れたように、

 

「まったく。騎士様は、貴方が山籠もりしている間に、帝都に帰ったわよ。」

 

と、腰に手を当てていた。

バルバトスは眉を寄せて怒った。

 

「何⁉︎あの騎士野郎、勝ち逃げだと‼」

 

と、地面をガンガン蹴っている。

ディセンダーは、そんなバルバトスを見上げて言った。

 

「バト。僕、今よりももっと強くなる。この村を、世界を守れるくらいに‼」

 

バルバトスは地面を蹴るのを止め、口の端を上げて言った。

 

「くくく、期待せずに待ていてやろう。」

 

そのあと三人は、いつものように会話を始めるのだった。

 

 

そんな幼い頃の記憶を思い出していたディセンダー。

あれから十数年と言う月日が流れた。

彼は少年へと成長していた。

彼はいつもの日課である、村の外れの見回りをしていた。

そして空を見上げ、心痛な顔をしながら呟いた。

 

「……ここも結界が壊れかけている。」

 

そして彼は、両手を上げて目を瞑った。

するとディセンダーの体が輝き出し、手に光が集中する。

しばらくして、光が消えていき、目を開けて手を降ろす。

彼は少し苦しい顔をして、

 

「こ……これで‥‥大丈夫……」

 

ハァハァしながら、その場に座り込んだ。

そしてゆっくりと息を整える。

 

『……僕の力が、かなり少なくなっている。それに世界樹も‥‥。ごめん、世界樹……』

 

少し休憩してから、広場へ向かった。

 

今日は少し違った。

村の入り口で、村人達がいきり立っている。

中には、武器を手に持っている者もいる。

ディセンダーは急いで、その場に向かう。

 

『もしかして敵⁉それとも、魔物が村に⁉でも、どうして⁈』

 

だが、村の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「私の名は、クラトス・アウリオン。この村の村長殿に会いたい。」

 

村人は騎士が来た、と襲い掛かっていた。

ディセンダーはこの名前を聞き、村人に大声で言った。

 

「みんな待って‼その人は大丈夫だから‼︎」

 

ディセンダーは村人の前に手を広げて、飛び出した。

そして「落ち着いて」と言った後、「長老を呼んで来てほしい」と頼んだ。

村人は武器を降ろしたが、まだ旅人に敵意を向けている。

 

ディセンダーは、どうしようかと迷った。

が、旅人に振り返った。

すると見知った旅人、大きな犬のような変わった生き物と、三人のハーフエルフがいた。

ディセンダーは嬉しそうに、笑顔で言った。

 

「師匠≪せんせい≫、お久しぶりです。お元気そうで良かった。ノイッシュも、元気そうで良かったよ。」

 

と、ノイッシュの頭を撫でる。

クラトスは少し笑って、僕の頭を撫でながら言った。

 

「大きくなったな……。どうやら、稽古は続けていたようだ。」

 

ディセンダーは、微笑を浮かべて頷いた。

すると、ジーと見られているのに気付いた。

ディセンダーより二・三歳年下に見える金髪の少年だ。

彼の目には、ある種の敵意を感じる。

あえてディセンダーは、それに気づかない振りした。

少年に手を出し、笑顔で言った。

 

「僕の名前は、ディセンダー。よろしくね。」

 

しかし少年は、キッと眉を上げ、睨む。

そして緑髪の綺麗な二十代前半の女性の後ろに隠れて、ベーと舌を出した。

すると女性は、困り顔でディセンダーに言った。

 

「ごめんなさいね。私は〝マーテル・ユグドラシル〟。この子は弟の〝ミトス〟よ。」

 

ディセンダーは微笑を浮かべて、声を出そうとした。

が、その前に、彼の出していた手を、クラトスの横から出て来た、青い髪のクラトスと同じ二十代半ばくらいの男性に握られた。

 

「私の名は〝ユアン・カーフェイ〟。お前が、クラトスの言っていた奴だな……うむ。」

 

ディセンダーは驚いたが、「よろしくお願いします」と言おうとして、ユアンと言う彼の着ている服に気が付いた。

隣国の騎士団の服だ。

ディセンダーは握っていない方の手で、剣を握っていた。

しかしその手を、クラトスが握り、首を振った。

ディセンダーは剣から、手を離した。

そしてユアンも、握っていた手を放した。

すると後ろから、長老がやって来た。

 

長老は、クラトスと向かい合いあった。

クラトスは、長老に頭を下げて言った。

 

「村長殿、お久ぶりです。お元気そうで、何よりです。」

 

長老は髭を擦りながら、

 

「クラトス殿も、お元気そうで何よりですじゃ。……そちらの方は、隣国の騎士殿ですな。」

 

ユアンは、長老に一度お辞儀をしてから話した。

 

「私はユアン。確かに、王都の騎士団の者です。しかし、騎士団を抜けて来ました。」

「そうですか……。そちらお二方も、隣国の者ですかな。」

 

と優しい口調で、二人を見て言った。

マーテルは深くお辞儀をしてから、

 

「私はマーテル、こっちは弟のミトスです。私達は、土地を奪われた流れ者です。」

 

長老は「うむ」と唸ってから言った。

 

「それは大変でしたな。クラトス殿も、積もる話もあるようですし。ここでは何ですから……ワシの家でしましょう。どうぞ、後ろの方々もご一緒に。」

 

そう村長が言った途端、後ろにいた村人が怒りを露わにして鳴った。

 

「村長、余所者を村に入れる気ですか⁉しかも騎士の者を‼」

 

長老は振り返って、村人全員を見渡してから、静かに言った。

 

「この騎士様方は大丈夫だ。安心なさい。」

 

だが村人は、武器をまた構えている者もいた。

ディセンダーは剣に手を掛けていた。

 

クラトス達は黙って聞いていた。

より一層大きな声で、村人が怒鳴った。

 

「村長も忘れたわけではないはずだ‼十年以上も前に、帝国騎士はこの村を見捨て、五年前には王都騎士共はこの村を襲い、多くの仲間が……家族が殺された事を!村長、アンタの孫娘も――」

 

村人がその続きを言う前に、「ガン‼」と大きな地面を叩くような音で、かき消された。

その音のする方に全員が見た。

そこにはディセンダーが、拳を握りしめて苦痛の顔をし、目には涙を流していた。

村人は一瞬、言葉に詰まった。

しかし、彼らは怒りをしまう事は出来なかった。

長老は、村人に苦痛めいた声で言った。

 

「無論、ワシも忘れた訳ではない。じゃが、今は戦争中なのじゃ。村を守る事の出来なかった、ワシにも非がある。今は怒りを抑えておくれ。お願いじゃ……」

 

村人は、納得のいかない顔をしていた。

が、各々道を開けた。

 

長老はディセンダーに、「共に来なさい」と言う。

彼は素直に従い、長老と共に歩き出した。

長老の家の大広間で、ディセンダーの入れたお茶を飲みながら、ユアンが口を開く。

 

「村長殿、失礼だと解っていて伺います。王都騎士団が、この村に何をしたのかを……お聞きしたい。」

 

長老はしばらく沈黙した後、髭を触りながらユアンを見て言った。

 

「五年前、世界樹の加護が一度失われた時期があったのです。その時に王都騎士団は、この村を魔物に襲わせたのですじゃ。……魔物を殲滅したすぐに後に、今度は王都騎士団が攻めて来た。この村は多くの者を失いました。ワシの孫もその時に……。この子や若い者が先陣を切ってくれたおかげで、何とか生き残った。じゃが、村人の多くは、ここを出て行きました。この村に残った者は外部の者を恐れ、信じられなくなってしまったのですじゃ。……村人のご無礼、許して下され。」

 

ユアンは飲んでいたお茶を降ろした。

そして長老を見つめて、静かに言った。

 

「確かに、王都騎士団の中に、その戦法がある。村長殿、こちらの方こそ、戦争とはいえ、この村には酷い事をした。」

 

と、深く頭を下げた。

長老は流していた涙を拭いた。

ユアンは、村長の横にいる少年を見た。

 

『この少年の歳は、十三か十四歳と言った所か……。五年前と言えば、十歳もいっていないだろう。そんな子が、前線で戦かったのか……』

 

そしてディセンダーを見て、

 

「君もだいぶ、辛い思いをしただろう。君のご家族は無事か?」

 

ディセンダーはクラトスを見た。

すると、クラトスは首を振った。

それで、自分の家族の事は話していないと解った。

ディセンダーは微笑を浮かべて、

 

「僕には、肉親はいません。でも、この村の皆が、僕の家族です。」

 

ユアンは目を見開いて、

 

「すまない……」

 

と、言った。

そこで、重い空気を変えるかのように、子供の声が聞こえた。

 

「それにしても、この村はクラトスの言った通りなんだね。村長がエルフで、しかも多種族で構成させた村なんて……今時、珍しい。」

 

隣に座っていた女性マーテルは、『すいません』と言うように頭を下げた。

長老は「ふぉほほ」と笑いながら、優しい口調で少年ミトスに言った。

 

「なーに、この村は元々帝国に捨てられた所でな。残った者や流れ者が集まって、出来たのじゃよ。だから皆、異種族が集まって暮らして居ても、それが当たり前と言う感じなのじゃ。」

 

ミトスは「へぇー」と言って、お茶を飲んだ。

そこで長老は、クラトスを見る。

髭を撫でながら、

 

「クラトス殿、ここに来る途中の道中は、どうでしたかな。」

 

クラトスはひとつ頷いて、真剣な顔付きで言った。

 

「とてもまずい状態です。王が床に伏せってから、戦火が広がっています。……ここに来る途中も、村が幾つか壊滅していました。」

 

ディセンダーはクラトスの言葉を聞き、顔を真っ青にした。

そして拳を握りしめる。

 

長老はなお一層、髭を撫でる。

 

「うーむ、そうですか。……最早、この戦争は止められないのかもしれませんな。」

 

そう言って、全員は沈黙した。

しばらくそうしてから、長老が言った。

 

「今日は皆さん、ここに泊まっていて下され。部屋は好きな所をお使い下され。」

 

そう言って、ディセンダーを見ながら、

 

「すまんが、ディセンダー。食事の用意をしてはくれんかのぉ……。久々に、クラトス殿にお前さんの手料理を食べさせてやりたいのじゃ。」

 

ディセンダーは長老に頷いて、部屋を出て行った。

長老はクラトスに向き直って、さっきよりも真剣な顔付きで言った。

 

「それでクラトス殿、要件を言って下され。」

 

三人は姿勢を正し、真剣な顔付きになった。

マーテルだけは一度、村長の後ろを見た。

が、すぐに村長に顔を向けた。

クラトスは、長老を見つめ、重い面持ちで言う。

 

「村長殿、我々は今、この戦争を何とかしようと各地を回りながら旅をしています。今現在で、我々が解っている事は、異種族による差別、王や貴族達による世界改革。……そして何より、マナの枯渇。マナの枯渇は、エルフである村長殿ならお判りでしょう。そして、我々が調べている時、ある精霊に会って聞きました。この世界のマナが枯渇しているのは、世界に種族が多く居すぎる為であること。それによって、世界樹がそれに伴う負の想念の処理が遅れている為だと。」

 

長老は髭が擦りながら、苦痛めいた顔で、何かに思い至ったように言った。

 

「マナはこの世界で生きるにあたって、とても大切な物。枯渇は以前より感じていました。……だとすると、クラトス殿は世界樹の子《ディセンダー≫を連れて行きたいと言う事ですかな。」

 

クラトスは頷き、続きを話した。

 

「その精霊が言ったのです。世界樹が呼んでいると。……村長殿、世界樹の子≪ディセンダー≫をこの村から連れ出す許可を下さい。」

 

長老は少し黙り込んだ後、

 

「……そうですな。いつまでもあの子を、ここに縛る付ける事は駄目でしょうな。何より、世界樹が呼んでいるならば……。クラトス殿、どうかあの子のこと、宜しくお願いしますじゃ。しかし、もう少しだけ……あの子との時間を下され。」

 

ユアンは当然だと言うように、頷きながら言った。

 

「無論だ。彼にも、承諾と考える時間が必要だろう。それに村の人々とも、話す事もあろう。」

 

ユアンが言い終わると、ちょうど「コンコン」と音がして、ディセンダーが入って来た。

 

「長老、食事の用意が出来ましたよ。皆さんも下に、来て下さいな。」

 

ユアンとマーテルは、長老にお辞儀をして出る。

ミトスは一度、ディセンダーを見ると「フン」と、そっぽを向いて出て行った。

ディセンダーは?マークが浮かんでいるが、クラトスと長老を見た。

長老はクラトスを見ていた。

クラトスは、その眼に何かあると思い、立ち止った。

長老はディセンダーを見て、

 

「ありがとう、ディセンダー。今日はお前さんも、泊まって行きなさい。それとクラトス殿とワシは、少し遅れて行く。先に食べてておくれ。」

 

ディセンダーは「分かりました」と言って、部屋を出た。

 

クラトスは長老の言葉を待った。

長老は、クラトスを見上げた。

苦しそうに、言い始めた。

 

「クラトス殿、実は貴方に頼みがあるのですじゃ。」

「頼み事ですか。何でしょう。」

 

長老は髭を擦りながら、静かに言った。

 

「……ディセンダーの事です。五年前、世界樹の加護が失われたと、ワシは言いました。実は、あの子はその後、バルバトスと共に行こうとしたのですじゃ。ですが、行くのを辞めた。ワシ等のせいなのですじゃ。」

「村長殿……あいつも剣士だ。それでも残ると決めたのなら、それは自分の責任だと思いますが。」

 

長老は一度頷いた。

そして遠くを見るように、悲しそうに言った。

 

「確かにあの子は、自分で残る事を決めました。しかしそれは、命令に近いのですじゃ。……あの時ワシは、孫を失い、残った村人達をどうやって守るか悩んだ。だから、ワシはあの子に言ったのですじゃ、『ワシらを、村人を、この村を見捨てないでくれ』と。あの子は苦しそうじゃった。まるで何かに耐えるような。それからあの子は、いつもの笑顔で『大丈夫、ここに残るから』と。その日からあの子は、加護を失ったこの村の外れまで見回りをしているのですじゃ。」

 

クラトスは、その現場がまるで手に取るように解る。

その時のディセンダーの顔も……

優しい性格だからこその、その対応を‥‥

だから、クラトスは瞬時に理解した。

 

「その見回り中に、何かあったのですね。」

 

長老は頷き、続きを言った。

 

「あれから、しばらく経ったある日、あの子は真っ青な顔で帰って来たんですじゃ。ワシが駆け付けた時には、あの子は倒れてしまった。それから二・三日、何かに魘されていたのですじゃ。目が覚めたあの子は、精霊達と何かを約束をしていた。その次の日、世界樹の加護が復活していましたのじゃ。御魂は無くなってしまったのに。でも、あの子が日に日に何かを耐えるように、何かに毎日詫びるように、空を見上げるのですじゃ。ワシはあまりにもそれが辛そうじゃったから、後を付けてみたのですじゃ。そしたらあの子は、空に手を掲げ、光輝いた。そして、世界樹の加護を直しているのですじゃ。その後、あの子はその場に座り込んで、苦しそうにしていた。駆け寄ろうとしたら、あの子は静かに『世界樹、ごめん』と何度も言っておったのじゃ。そこでワシは気付きました。あの子が悩んでいるのは、世界樹を裏切り続けている事じゃと。貴方も知っての通り、あの子は世界樹の子。親を裏切り続けている事をしている。ワシらのせいで……。じゃが、ワシはあの子に言えないのですじゃ。世界樹の元へ行ってあげなさい、と。ワシは‥‥ワシは……‼︎」

 

長老はプルプルと肩を震わせていた。

クラトスは、長老の気持ちを察した。

だが、クラトス自身、この問題はどうこう出来ない。

しかし、あいつの相談役にはなれると思い、長老に言った。

 

「解りました、村長殿。私もあの子に、それとなく聞いてみましょう。」

 

長老は少し安心したように言った。

 

「すみません、クラトス殿。ワシの、この村の問題に巻き込んでしまって……。あの子は、貴方の事を信頼している。貴方になら、全て話すでしょう。もし、あの子から理由を聞けましたら、ワシにも教えて下されば助かります。」

 

そう言って、二人は賑やかな居間に向かった。

そこには金髪の少年が、青髪の男性に食って掛かり、それを緑髪の女性が止めている。

それを、銀髪の少年は苦笑いで見ている。

 

すると、銀髪の少年ディセンダーがこちらに気付き、クラトスに助けを求める。

長老は席に着いた。

クラトスは席に着きながら、静かに、それでいて厳しく言った。

 

「ミトス、落ち着け。お世話になっているのだから、食事ぐらい静かにしないか。それとユアン、お前はもう少し自重しろ。」

 

すると、二人は素直に謝った。

マーテルも「申し訳ない」と言う顔で、頭を下げた。

長老は「ふぉほほ」と笑いながら、嬉しそうに言った。

 

「いやいや、こんなに賑やかな食事は、いつ振りか。クラトス殿、ディセンダーの料理は、本当に美味しいですぞ。」

 

と、孫を褒めるように言いながら、食べ始める。

クラトスも食事を見渡した後、一口食べる。

 

「確かに、以前より比べものにならん位、上達したな。身のこなしも、上達していたし……成長したな。」

 

それにディセンダーは、嬉しそうに笑う。

斜め横では、ミトスが顔をムッとしていた。

 

そして食事の後、それぞれ床に入った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。