テイルズ オブ ザ ワールド レディアント マイソロジー2 で、作ってみた   作:609

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マイソロ2 初代編~おまけ4~

次の日、王都国へ向かって旅に出ていた。

しかし、一行は世界樹の前の森の中で休んでいた。

なぜ、ここにいるというと―――――

あれは、王都国に向かい門を出た時のことだ。

門の少しした所に、何処かで見た事あるシルエットの生き物がお座りをして待っていた。

その生き物こと、闇のセンチュリオン・テネブラエは一度下げてから、明るい声で言った。

 

「これは、これは、ディセンダー様。偶然ですね♪でも、良かった。傷も治ったようですね。ラタトスク様が〝世界樹の所いる、俺様の所まで来い〟との事です」

 

ディセンダー(エント)は片手で頭を押さえながら、

 

『……完全に、偶然じゃない‼ラタトスクの事だから、絶対にはめた!』

 

そして、彼は苦笑いで言う。

 

「……テネブラエ。僕達、今から王都国へ向かうんだけど」

「そうですか。それなら、丁度良いじゃないですか。世界樹の森を通って行けば、良いのですよ」

「……テネブラエ。世界樹の森は、別名『迷いの森』じゃなかった?」

「それは問題ありませんよ。あなた様がいれば迷いません。それに、もしもの時は私が案内しましょう」

『……駄目だ。テネブラエは、何が何でも僕をラタトスクの所に連れて行く気だ。こうなったら、ラタトスクに直接言った方が早いかな』

 

ディセンダー(エント)は皆から少し離れながら、

 

「……はぁー、ちょっと待てって」

 

精霊・ラタトスクと話しを始めた。

 

〝……ラタトスク、聞こえている?〟

〝……何だ?テネブラエが、お前にここに来いと、伝達があっただろ。早く来いよ〟

〝見ていたくせに……。でも、その事なんだけど、僕達今から王都国に向かうから無理。ほら、王都国は恐らく、魔族達が召喚されたらしいから〟

〝はっ。それなら、なおのこと世界樹の森を通れば良いじゃねぇか。お前なら、来られるだろう。お前が、あの下界の屑共も、連れて来たいなら特別に入れてやろう。それに貴様、俺様の言う事を何でも一つ聞くと、言ったよな。ククク〟

〝……言った。……分かった。今から向かうよ。でも、ここからだと二日位は掛かるからね。後、テネブラエを借りるから!〟

〝……ああ、良いぜ。ククク、楽しみに待っていよう〟

 

ディセンダー(エント)はガクッと落ちて、地面に屈折した。

説得しようとして、逆に言い負けられたのだ。

ディセンダー(エント)は立ち上がり、ついていた土を払う。

皆のところに戻ると疲れたように、そして、皆を見ながら悲しそうに言った。

 

「……皆、ごめん。今から世界樹の森に向かう事になった。それと、テネブラエは僕に付いて来て」

「ええ、分かりました。道案内は、任せて下さい♪」

 

と、言う事である。

つまり、闇のセンチュリオン・テネブラエはディセンダー(エント)が、精霊・ラタトスクに言い負けられると解りきっていた、と言う事だ。

そんなこんなで、食事を用意していたディセンダー(エント)とミトス。

 

『はぁー……。ラタトスクも、強引なんだから。前の世界の世界の守り手(ディセンダー)とも、あんな感じだったし。でも、あの魔族から深手を負わされてから分かったけど……僕は、あのディセンダー(前の自分)の因子、濃く受け継いでいる。本来なら、他の世界のようにビジョンを見るだけのはずだけど……僕は、あのディセンダー(・・・・・・・・)の全ての記憶と感情を知った。それと、子供の頃の……僕の記憶も』

 

と、思っていると、ミトスが闇のセンチュリオン・テネブラエに聞いていた。

 

「……ねぇー、君は食事は取るの?」

 

闇のセンチュリオン・テネブラエは、料理を作っている所が気になったのか見に来ていたのである。

その闇のセンチュリオン・テネブラエは、小さく首を振った。

その後、明るい声で言った。

 

「いえ、私は食事を取りません。世界の守り手(ディセンダー)様や、精霊と同じです」

「……え?ディセンダーは、食事取っているよ。ねぇー?」

 

と、ディセンダー(エント)に振り返るミトス。

ディセンダー(エント)は、手で頭を押さえながら後悔した。

 

『あー……テネブラエに言っておけば良かった。でも、仕方ない……か』

 

と思いながら、横目でクラトス達を見た。

案の定、驚いていた。

闇のセンチュリオン・テネブラエは小首を掲げ、不思議そうに言った。

 

「おや?世界の守り手(ディセンダー)様は、この者達に合わせていたのですか?それは、申し訳ありませんでした」

「……ああ、気にしないで。そろそろ隠すのに、限界あったから」

 

ディセンダー(エント)はミトスを見て、

 

「ねぇ、ミトス。……僕が言ったこと、覚えている?」

「ディセンダーの……もう一つの名前の事?」

「うん。ユアンさんとマーテルさんも、聞いて下さい。僕の『ディセンダー』と言う名前は、確かに僕の名前です。でもそれは、僕を示すと同時に、世界樹の守護者を指すものでもあるんです。僕は、世界樹から生まれた世界樹の子であると同時に、主でもある世界樹を守る剣であり楯でもある存在なんです。だから僕は、仲間である皆に名前を教えようと思うんだ。僕個人の名前は……『エント』。〝創世の者〟だよ」

「……エント?それが、君の名前……」

 

ミトスはしばらく何かを考えてから、ディセンダー(エント)に手を出した。

そして、笑顔で言った。

 

「僕はミトス。改めてよろしく、ディセンダー(エント)!」

 

ディセンダー(エント)は手を握った。

すると今度は、ユアンとマーテルも手を出している。

ディセンダー(エント)は、その手を握った。

彼のその顔は、とても嬉しそうだ。

すると、ユアンが不思議そうに言った。

 

「……クラトス、君はやらないのか?それにしても、お前は反応が薄いな。もしかして、知っていたのか?」

 

クラトスは、コーヒーを飲みながら頷いた。

ディセンダー(エント)はにっこり笑った。

 

『だって、僕の名前は師匠(せんせい)に付けて貰ったから。でもこれは、内緒にしておこう』

 

食事が終わり、いつものようにノイッシュの背に、ミトスと共に寝た。

ディセンダー(エント)は夢の中で、自分と同じ姿をした世界の守り手(ディセンダー)の記憶を見ていた。

 

『……ああ。本当、彼は信じていたんだ。なのに裏切られて……。それでも彼は、本当は世界を愛していたんだ。だから魔族王と、あんな契約を……。世界の守り手(ディセンダー)が、世界を破壊に導いたなんて……』

 

ディセンダー(エント)は夢から覚める。

起きると、三人が今の帝国と王都国について、語っていた会話を寝たふりをしながら聞いていた。

 

 

世界樹の本体がある場所は、とても清らかな空気が漂っていた。

何より、暖かな光に包まれている。

だが、世界樹の幹の下まで来た一行は、はっきり言って疲れ切っていた。

闇のセンチュリオン・テネブラエも、「やれやれ」と言う顔をしている。

そして、世界樹の幹の所には精霊・ラタトスクがニヤニヤし、腕を組んで座っている。

ディセンダー(エント)は肩で息をしながら、そして怒りながら言った。

 

「はぁ、はぁ……。ひ、酷いよ……。あれは、どういう事なんだ、ラタトスク!」

 

精霊・ラタトスクは幹から飛び降り、ディセンダー(エント)達に近付いて来た。

口の端を吊り上げ、楽しそうに言った。

 

「ククク、良い運動だったろう。それにしても、あれくらいでへばっているんじゃねーよ」

「いやいや。あれは、いくら何でも魔物の数多過ぎだって!」

「はっ。そんなんじゃ、世界は救えねーぜ」

『それはそうだけど……僕、レディアントは使ってない(・・・・・・・・・・・・)からね!大体、それ以外は普通の人間より、運動能力が高いだけで‼』

 

と、心の中で文句を述べていた。

と、精霊・ラタトスクの言葉に、ミトスは声を上げた。

 

ディセンダー(エント)には、僕達も力を貸すから大丈夫だもん‼これ以上、ディセンダー(エント)を苛めないで‼」

 

精霊・ラタトスクは、ミトスのディセンダー(エント)を呼ぶ〝エント〟と言う名に、冷たい視線を向けた。

その精霊・ラタトスクから、殺気が出て来ているのに、ディセンダー(エント)は気が付いた。

ミトス達全員は固まっていた。

ディセンダー(エント)が、彼等を庇うように背に隠した。

精霊・ラタトスクは冷たい声で、彼等にも解るように言った。

 

「……ディセンダー(エント)。何故、下界人がその名を知っている(・・・・・・・・・)?ただでさえ、下界の人間が名付けたこと自体許しがたいものを」

「それは、僕が彼等に教えたんだ。彼等は、信じるに値するから!」

「はっ。そんなもの……世界の戦争が終われば、お前は下界人達から忌み嫌われる。それこそ、あの時の、あいつのように(・・・・・・・)な!」

 

その言葉に、ディセンダー(エント)は精霊・ラタトスクを見つめたまま、声を上げた。

 

「確かに、そうかもしれない!でも僕は、あの僕(・・・)のようには、ならない!」

「……そんなもの信用出来ないな。お前が良くても、俺様達はそうはいかない」

 

精霊・ラタトスクはそう言って攻撃しようとした時、彼を止める声がした。

 

「待ちなさい、ラタトスク!」

 

四大達が出て来た。

精霊・ウンディーネは冷たい殺気を。

精霊・イフリートは腕を組んだまま、黙っている。

精霊・シルフは目に見え見えの怒りが、丸出しだ。

が、精霊・ノームはあくびをしていた。

かくして、精霊達の物凄い闘気がぶつかり合っていた。

ミトスが小声で、ディセンダー(エント)に言った。

 

「エント……もしかして僕、まずいこと言った?いや、言ったよね……」

「ううん。気にしないで、ミトス。彼等のこれはもう病気みたいなものだから。最近やっと解ったんだ。……過保護って、怖い」

 

その言葉にミトス、並びに、静かにしていた三人は心の中で頷いていた。

そうこうしている内に、精霊・シルフが口を開いた。

 

「さっきから聞いていたけど、何よ!あの子が決めたんだから、黙っていなさいよ!大体、ここに来る途中の魔物は、何なのよ!この俺様精霊め‼」

「はっ。俺様は、正論を言っているつもりだぜ。お前らが手緩いんだ。そんなんだから、こいつは甘いままなんだよ」

「……うむ。確かに、主の言う通りだ。だが、それは同時に、あ奴の良い所だ」

「イフリート、貴様もか!どいつもこいつも、甘ちゃんばかりだ!」

『……はぁー。これは簡単には止められない。だったら、もう強引に止めよう。うん……』

 

ディセンダー(エント)が、四大と精霊・ラタトスクの間に入った。

手に持っているレディアントは光輝いている。

精霊達は言い争いを止め、ディセンダー(エント)に前を開けた。

ディセンダー(エント)は内心で安心してから、世界樹の幹の下まで行く。

剣を地面に刺し、膝をついた。

 

「……我が母にして、我が主世界樹よ。……僕の我侭で、世界をここまで悪化させてしまいました」

 

と言った時、空から声が聞こえた。

それは優しく、それでいて厳しかった。

 

世界の守り手(ディセンダー)、此度の事は気にしないで下さい。元は、私があなたを通して、私の届かない世界を、皆の気持ちを直に聴きたかった為。あなたには、苦しい思いをさせてしまいました」

「いいえ、世界樹。そのおかげで、僕は他の……他の世界の守り手(ディセンダー)達とは違う人生と、言うものを歩む事が出来ました。この十四年、人間として生きて来られました。僕の……いや、僕自身はこれで悔いはありません。僕は、世界の守り手(ディセンダー)として王都国に行き、魔族達を止めます」

「……そうですか。でも、世界の守り手(ディセンダー)。彼等といる時くらいは、人間としての……いいえ、ディセンダー(エント)としていて良いのですよ」

「ありがとう、世界樹」

 

ディセンダー(エント)は小さく言って、一粒の涙を流した。

そして世界樹は、優しい声で囁いた。

 

「精霊達よ。どうかこの子に、力を貸してあげて下さい。そしてあなた方にも、お願いしたいのです。どうかこの子の事を、宜しくお願いしますね」

 

そう言って、声は聞こえなくなった。

精霊達とクラトス達は「謹んでお受けします」と言い、頭を下げた。

ディセンダー(エント)は立ち上がり、精霊・ラタトスクの方を向いて言った。

 

「……ラタトスク、ありがとう。僕をここに呼んでくれて。世界樹を、この目に出来て良かった」

 

笑顔のディセンダー(エント)の顔を見て、精霊・ラタトスクは少し顔を赤くして背を向けた。

 

「ふん。貴様が、せいぜい死なない事を祈っといてやるよ。このまま、真っ直ぐ行きな。そうすれば、王都側の出口に出る。魔物達は、俺様が外しておいてやる」

 

ディセンダー(エント)はもう一度、精霊・ラタトスクにお礼を言って、歩き出して行った。

ミトスが、歩きながら言った。

 

ディセンダー(エント)。僕に出来る事は、頑張ってやるからね!ディセンダー(エント)が、無茶しない様に‼」

 

ユアンも納得したように、頷きながら言った。

 

「そうだな。ディセンダー(エント)、ミトスの言うように、我々も尽力を尽くす。何でも、言ってくれ」

 

ミトスはムスッとしながら、怒りながら言った。

 

「ユアンが、僕と同じこと言うなよ。何か、ガクッと良い感じが下がる」

 

ユアンは微妙な感じで腕を組みながら、ミトスを見ていた。

ディセンダー(エント)は、そんな二人を見ながら苦笑いで言った。

 

「うん。僕に力を貸して下さい。それに、皆が居てくれたから……僕は、頑張れたんです。だからこれからも、お願いします」

 

と、笑顔で言った。

彼等は頷いた。

彼らの歩く先には、日の明りが見えて来る。

森の出口が近くなった証拠だ。

ディセンダー(エント)は来た道を一度だけ振り、心の中で言った。

 

『行って来ます、世界樹』

 

 

王都国の出口に出た一行は、息を飲んだ。

瘴気が、かなり漏れていた。

ディセンダー(エント)や精霊以外には見えていない。

が、このまま進めば彼らは全滅となる。

それは、これ以上悪化したら、ディセンダー(エント)自身も危ないかもしれないのだ。

ならば、世界の守り手(ディセンダー)の光の力を持たない精霊達はなるべくこの地には入れない方がいい。

だが、精霊の力を使わなければならないだろう。

つまり、精霊達を呼ぶ呼ばないにしても、これは急いで穴を見つけ、処理しなくてはならない。

彼等は、ここから一番近い町へ向かった。

だが、町に入った途端、生命を維持するためのマナがあまりにも少ないことに気付く。

だが、気付いた時には遅かった。

ディセンダー(エント)はクラっとして、そのまま倒れた。

しばらくして、ディセンダー(エント)が目を覚ます。

マーテルが傍にいた。

ディセンダー(エント)は起き上がり、彼女共に皆がいるところに行く。

そして、ディセンダー(エント)はこれからの戦いの為にも、ある程度は彼らに瘴気や魔族について話すことにした。

だが、彼らに詳しく教えてしまえば理に縛られることとなる。

それを避けたかったのだが……

理に十分関りが少ない程度だが、かなり話ていたようだ。

だが、この程度ならまだ大丈夫だと、ディセンダー(エント)は説明を続けるが……

ディセンダー(エント)はなんだかんだ言って、この後も理に近い話を続けていくのであった。

 

 

ディセンダー(エント)達は王都に急いだ。

そして王都に入り、ディセンダー(エント)は目を見張った。

ここの来る途中も酷かったが、この中は特にそうだ。

見渡す限り、大地は荒れ、木々達も枯れている。

水場には、既に水すらも無かった。

 

『生き物からの生気をほとんど感じない。思っていた以上に、瘴気が濃い‼人々は大丈夫か⁉それにしても、この量なら上級魔族も入って来ているはずだ。今の所、この辺には居ないようだけど、早く何とかしないと』

 

一行は、瘴気が濃い場所へ向かう事にした。

下町の中央広場に出た所で、その状況に息をのんだ。

広場には最早立つ事も出来ない人々。

入り口よりも、荒れた土地が広がっていた。

話の出来る人間から聞いた話では、ハーフエルフ達が残ったマナを奪ったという。

だが、ディセンダー(エント)はこの話を聞き、『黒い何か』という言葉を聞いてからはその犯人がハーフエルフではなく、魔族だと解る。

そして、この状況が起き始めたのを聞いた。

聞けば、この状況は五年前。

ディセンダー(エント)は嫌な胸騒ぎを感じていた。

 

『五年前……。それにしても、ここに入ってから何だろう……嫌な予感しかしない。あそこから瘴気、穴があるのは解ったけど……あそこには恐らく上級以上がいる。でも、まずはここら一帯にいる魔族達を弾きださないと。この人達も移動させたいけど、取り敢えず彼等を動けるようにして、後は騎士達に任せよう』

 

広場の中央まで来ると、ディセンダー(エント)は立ち止り、荒れた地面に両手を付き、目を閉じた。

彼は光輝き、背から翼を広げた。

光輝く翼の羽と光が弾けた。

光が収まると、倒れていた人々が次々起き上がる。

話を聞かせてくれた男も、良くなった。

それを確認し、一行は急いで、元凶があると思われる丘に向かう。

丘に着いた時、大きな穴が開いていた。

その穴の近くには、見慣れた懐かしい青い髪の大男が、立っていた。

ディセンダー(エント)は彼に驚き、そして視線を落とした。

 

『……、バト。そうか……バトが、ここで穴を開けてしまったんだね。バト自身にも、負の想念が目で視えるくらいこの国を、世界を、恨んでいたんだね……。ごめん、バト。僕が決められなかった為に……』

 

バルバトスは、こちらに振り向き叫んだ。

 

「久しぶりだな、ディセンダー。相変わらず、チビ助だな」

 

ディセンダー(エント)は青い顔をしながら、バルバトスに近付いた。

クラトスは剣を抜いているのが見えた。

半分行った所で、ディセンダー(エント)は立ち止り、バルバトスを見上げた。

その様子は昔と変わらない。

だから、ディセンダー(エント)も昔のように、彼に言った。

 

「バト、良かった……。あれからどうしていたのか……心配していたんだ。元気そうで、良かった」

「そう言うお前は、あの村を見捨てたか?」

「……あの時、残った村人の生き残りはもう僕だけだよ。長老も皆、死んだ……」

「だから、見捨てたのだろ。お前は……世界を救うだけの力があると、あいつ等から聞いたぜ。なのに救えなかった。つまり、村の奴らが死んでも、お前は良かったのだろう」

 

ディセンダー(エント)は目を見開き、それから俯いた。

 

『僕が、神子では無い事も、彼等から聞いていたのか。確かに僕は、世界の守り手(ディセンダー)になる事を拒んだ。拒んでもなお、力だけは手に入れたかった。たとえ、世界を捨ててでも……』

 

そんな彼の耳に、ミトスが精一杯叫んでいる声が聞こえた。

 

「あれは……仕方なかったんだ!僕達も、傍に居ても何も出来なかった。ディセンダー(エント)……エント(ディセンダー)が、悪い訳じゃない!」

「は、それでもこいつは、救おうと思えば救えた。なのに、それをしなかった。こいつは、村人を守る気は更々無かったんだよ!」

 

ミトスが更に反論しようと所で、ディセンダー(エント)が俯いたまま言った。

 

「確かにそうかもしれない……。僕はどこかで、村の皆を見捨てていたのかもしれない。僕は……僕はあの村が、大好きだった。でも、あの村の人達と、世界の外での出来事を、いつも心の中で天秤に測っていたのかもしれない。皆が居なくなれば、僕は外の世界に行けたかもしれないと。いや、皆の前では……ただの人間で居たかったのかもしれない。でも、僕がもっと真剣に、本当の気持ちに気付いていれば皆死なずにすんだ……」

 

バルバトスは腕を組んだまま、黙って聞いていた。

そこには冷たく、それでいて凄まじいまでの殺気を出している。

ディセンダー(エント)は顔を上げ、涙目で力強く拳を握りしめ、

 

「バト、それが僕の本心の一部だ。バト……一つ聞く、何故ここにいるの?」

「決まっている。この世界を壊す為に、ここにいる。俺様は辞めるつもりはない!」

「……帝国王が、村に懺悔を捧げ、僕らの村を壊したあの宰相を牢屋に入れても?」

「くどい!今更、辞めるつもりはない‼」

『……もう後戻りは出来ない。なら僕は、この世界を救う為の世界の守り手(ディセンダー)として。そして、あの村の一人の人間、ディセンダーとして君と戦おう。それが、僕がした君に対する……いや、村の皆に対する償いの一つとして‼』

 

ディセンダー(エント)は泣くのを止め、剣を抜きながら言い放った。

 

「なら僕は、この世界を守る為に、バト……いや、バルバトス、君を倒す‼」

「殺れるものなら、やってみな‼」

 

クラトスが、穴から出て来た魔族を斬り倒す。

ユアン達も、魔族を倒し始めた。

クラトスが、ディセンダー(エント)に向かって叫んだ。

 

「こいつ等は、我々が相手をする。お前は、そいつと戦え‼」

「はい、師匠(せんせい)!……レディアント解放‼」

 

ディセンダー(エント)は、王都王と対峙した時の姿に変わる。

そして、二人の激しい斬り合いが始まった。

ディセンダー(エント)は、時々魔術を使う。

が、かなり厳しかった。

 

『やっぱり、バトは強い。僕の目標で、僕の憧れた大切な……僕の最初の友達』

 

ディセンダー(エント)が体勢を崩し、バルバトスの斧を防げなかった。

斬られるのを覚悟した瞬間、マーテルがそれを庇った。

斧はマーテルの背を深く抉った。

斧を振った時、バルバトスの動きが止まったのをディセンダー(エント)は見た。

 

『バト……やっぱり君は、リィ姉のこと忘れていた訳じゃ無いんだね。いや、むしろ覚えていたからこそ。バト……ごめん‼』

 

ディセンダー(エント)は拳を握りしめながら、剣をバルバトスに向かって投げた。

その剣は、バルバトスの体を半分抉った。

バルバトスが倒れ、地面に刺さった剣が辺りを包む。

剣から放たれた光が、魔族を一掃する。

ディセンダー(エント)は、すぐにマーテルを治療する。

だが、傷が深い。

ミトスが泣きながら、マーテルにすがっている。

その姿はまるで、『かつての自分だ』と思った。

だから、ディセンダー(エント)は必死にマーテルの傷を癒す。

 

「姉様、しっかり!僕を一人にしないで!」

「マーテル‼目を開けてくれ!」

 

ユアンは治癒術を掛けながら、マーテルに叫ぶ。

クラトスはミトスを抱きしめていた。

 

『このままじゃ、マーテルさんが死んでしまう。リィ姉のように。……そんなのもう嫌だ。でも、この傷を治すには理を曲げないといけない。そんな事をしたら、マーテルさんが……。ごめん、ミトス……』

 

ディセンダー(エント)はより一層、光り始めた。

その背からは翼が姿を現し、彼の掛けている治癒術がより一層強くなる。

それと同時に、エントの翼も黒くなっていく。

マーテルの傷が塞がり、目を開ける。

ユアンは涙を浮かべ、マーテルに抱き付いた。

しかし、すぐにミトスがユアンを突き飛ばし、マーテルに抱き付く。

泣いているミトスに、マーテルは頭を優しく撫でてやる。

クラトスは突き飛ばされたユアンを起こす。

ユアンは苦笑いをしながら、その手を取った。

そんな姿をディセンダー(エント)は歩きながら見た。

そして、バルバトスの元に行った。

ディセンダー(エント)は、翼が半分ぐらいまで黒くなっていたのを確かめた。

その後、バルバトスの傷を塞ぐため、治癒術を掛け始める。

しかし、それをバルバトスが止めた。

 

「……何をしている。俺様を……助けるな!」

「助けるに決まっているだろう‼大切な友達が、死にそうなんだ!僕はこれ以上、大切な物を失いたくない!」

 

ディセンダー(エント)は泣きながら、そう言った。

だが、バルバトスはエントを突き飛ばし、立ち上がった。

そして、崖の端まで下がっていく。

 

「……バト⁉ダメだ!」

「うるさい!貴様は、俺様に勝った。結果はどうあれ、この俺様に勝った。俺様は力が欲しい!その為なら、この世界だって壊す!俺様は……最強になる!」

「バト、それは……エミリィを救えなかったから?それだったら、バトは悪くない。エミリィは、僕を庇って死んだ。僕のせいなんだ‼」

「……そうかもしれんな。……村に残った奴らの最後はどんなんだ」

「魔物に殺された者がほとんどだよ。魔物から救えても、生き残っていた人達は最後……長老と一緒に、僕を庇って死んだ。皆、僕のせいなんだ」

「ハハハハハ。だったら、俺様はやっぱり力を求める。力さえあれば良いんだ!ディセンダー、俺様は貴様を忘れない‼貴様を必ず倒す‼……、ディセンダー(・・・・・・)強くなれ(・・・・)

 

そう言って、バルバトスは崖から落ちていった。

ディセンダー(エント)は泣いた。

最後の言葉は、幾度となくバルバトスが自分に言った言葉だ。

僕に初めて会った時。

そして、村を出て行った時にも言った大切な言葉。

 

「何でだよ、バト‼僕は、まだ君に伝えてない!僕があの時、君と一緒に行っていれば、こんな事にはならなかった!僕がもっと早く本当の事を言っていれば……皆、死なずにすんだ!僕が……僕が世界の守り手(ディセンダー)になりきれなかったばかりに!……うう、結局僕は、初めての友達も救えなかった!ごめん……ごめん……バト!」

『僕は結局……他の世界の守り手(ディセンダー)と同じように、本当の大切な物は守れないのか……。……っ‼この気配は!』

 

と、泣いていた矢先に、穴から人型の角の生えた男女の魔族が、二人現れた。

ディセンダー(エント)はすぐに立ち上がり、剣を手に取った。

クラトス・ユアンはマーテルを守る。

その魔族達がディセンダー(エント)を見て、男の方の魔族がお辞儀をした。

その次に、女の魔族がそれに続く。

 

「これは、これは、世界の守り手(ディセンダー)。初めまして……と言うべきですかな」

「それにしても、そこまで落ちかけているのに、しがみ付いているのですか。ふふ、早く落ちればいいのに」

「口に慎め、それにしても……その姿、我らが主と定めた世界の守り手(ディセンダー)に瓜二つ。どうやら、ここは我らの主の因子を受け継いでいるようだ。さて、最初の世界の守り手(ディセンダー)は、我らに住処を与えた。次の世界の守り手(ディセンダー)は、我らに力を与えた。あなたは何をなさいますか?」

『やっぱり魔族王か。……僕はこれ以上、この世界を壊させたくはない』

 

ディセンダー(エント)は拳を握りしめる。

魔族を見上げ、冷たく言った。

 

「残念ながら、僕は落ちるつもりは無い。僕は前の世界の守り手(ディセンダー)と違って、今いる世界が好きなんだ」

「それは、珍しい。ですが、その割には世界を呪っているようですが?」

「……それは否定しない。確かに僕は、この世界が好きだけど、嫌いでもある」

「では、あなた様が未練があるのは……あの者達ですか?それなら、私が殺して差し上げましょうか?」

 

そう言って、クラトス達の方を見た。

その瞬間、辺りに瘴気が浮き出てきた。

ディセンダー(エント)は皆を庇うように、背に隠した。

その背の翼は輝き続ける。

そして、ディセンダー(エント)が小声で、

 

「四大達よ。師匠(せんせい)達をよろしく。」

 

そういうと、四大達がクラトス達を囲むように現れる。

ディセンダー(エント)は剣を魔族王の方に向け、冷たい声で更に言った。

 

「僕の仲間に、手を出す事は許さない。それで上級悪魔が、何の用?」

「これは、失礼しました。我々の目的は、世界樹の力を貰いに来ました。ですが、あなたが落ちかけているので、お力沿いが欲しかったのですが……」

「それは無理だね。世界樹を、奪われる訳にはいかない」

『僕はこの世界が……いや、皆が居る世界だから好きなんだ。だから決めたよ。僕は、君とは違う道を……選ぶ!僕は僕なりのやり方で、この世界を救って見せる‼』

 

ディセンダー(エント)は剣を降ろし、

 

「僕から、提案があるんだけど……特に君に、かな」

「ほう。それは、私が誰か(・・・・)解った上ですかな」

「勿論、悪い話じゃない」

「……良いでしょう。聴きましょう」

「僕と契約しない、魔族王。それこそ、君が主と認めた世界の守り手(ディセンダー)のように」

「ククク、ハハハハハ。落ちる気は無いのでしょう。では、何故です」

「実は僕、君達が主と定めたあの世界の守り手(ディセンダー)の記憶と感情は知っているんだ。つまり、君との契約(・・・・・)も。だから、僕とも契約して欲しい」

 

そこまで黙っていた、精霊・ウンディーネが悲痛な声で叫んだ。

 

「いけません、エント(ディセンダー)!彼等との契約なんて‼」

 

ディセンダー(エント)は顔だけ振り向いて「大丈夫」と笑った。

そして魔族王に向き直した。

 

「ククク、成程。それで姿が同じ(・・・・)なのですか。良いでしょう、契約の内容次第で考えましょう」

「そう……じゃあまず、僕が君と契約するのは、君達のこの世界に対する干渉権。僕が許可するまで、この世界には、絶対に入らない事」

「……、それであなた様は、何を我々に提供されるのですか?」

世界の守り手(ディセンダー)の力の一部。君達の世界には生命の場は残っていも、それを維持する為の手段が無い。だから僕の力をあげる。無論、それがあれば、この世界とのリンクは切れないよ。後は、僕と君の勝負かな?」

「あなた様の力が何なのかは、後で聞くとして……、勝負とは?」

「簡単だよ。君が僕を落とせるか、僕がこの世界を信じられ続けるか。どう?悪くないでしょ」

「……、そうですね。良いでしょう、受けましょう。ですが、本契約はあなた様の力を見せて貰ってからです」

「ああ、ちょっと待ってね……」

 

そう言って、ディセンダー(エント)は、手に一つの鏡のようなそれでいて、楯のような物を創り出した。

ディセンダー(エント)は、それを魔族王に渡しながら説明を始める。

 

「これに、生命の場を移せば良い。それで、君の居る世界のバランスは取れる」

「これには、それ以外の要素もありますね」

「うん。君が契約を無理に破ろうとすると、これは結界を作り出し、君達の行く手を塞ぐ。でも、僕の力は流れている事になるんだから……大丈夫でしょ?」

「ええ、そうでしょうね。では、本契約しましょうか」

「……王よ、良いのですか?本契約なんて」

「良いのですよ。その方が面白い‼」

「ふふ、まったく。王らしいですね」

「じゃあ、始めるよ。……我は契約せし者なり。魔族王に我が契約、並びに楔を作る。汝はこの契約と、楔により我に従い、これを裏切る事を禁じる。我が契約に従え、我が名は世界の守り手(ディセンダー)・エント‼」

 

変わった陣が出て来た。

ディセンダー(エント)は、そこに自分の血を垂らす。

陣は消え、魔界王はどこか楽しそうな声で、ディセンダー(エント)を見て言った。

 

「これで、契約は完了した。我が主、世界の守り手(ディセンダー)・エント。汝の契約に沿って、我らはこれより動こう。では、あなた様との勝負、楽しみに待っています」

 

彼等は黒い穴に向かい、消えて行った。

そして穴も綺麗に消えた。

 

『……後は、この世界の循環と、あちら側との楔を作らなくては』

 

ディセンダー(エント)は武装を解除し、クラトス達の方に歩いて行った。

精霊達はディセンダー(エント)の目が、金色から赤へ変わっているのに気付いた。

ディセンダー(エント)は困り顔で、

 

「すいません。今から世界樹の元へ行っても、大丈夫ですか?」

 

クラトスが剣をしまいながら、心配そうに言った。

 

「ああ、構わないが……、今からだと時間が掛かるぞ」

「……多分、大丈夫です。この近くの世界樹の森に向かいましょう」

 

そう言って歩き出す。

移動中、ディセンダー(エント)は全ての精霊と話していた。

 

〝全ての精霊達よ。僕は、魔族王と契約を行った。これにより、魔族達はこちら側には来られなくした。そこで、君達に頼みたい事がある。この世界のバランスを直す為に、各居場所から世界樹に負の想念を送って欲しい。そしたら、マナを世界に解き放つ。君達を、縛り付ける事になってしまうけど……お願いだ〟

 

四大達は自分達が傍にいたのに、その選択をさせてしまった事に後悔していた。

ディセンダー(エント)もまた、心の中で覚悟していた。

 

『精霊達は事と次第によっては僕を恨むだろう。彼等にとって、世界のマナは大切な物。そして、負の想念は自身を苦しめる事になる。災厄、飲まれてしまえば自我を失い暴れ出すだろう。それでも僕は、これをしなくてはならない。四大達には苦労かけるなぁー、僕。後で謝ろう。後は……、ラタトスクやオリジンかな。あの二人は、特に怒るだろう。あの彼と、共にずっと居たのだから……』

 

と、思った通り、精霊・。オリジンから返事があった。

その声は冷たかった。

 

〝しかし、そんな事をすれば世界樹は持たんぞ。それに……、お前は落ちてはないようだが、そんな事をしては落ちてしまうぞ〟

〝僕は落ちる気はないよ。それに、世界樹の中に入った負の想念は、もう一人の僕……、『ゲーテ』にやって貰う。ゲーテに、負の想念を導いて貰う。そうすれば、世界に漂う負の想念を緩和する事が出来る〟

〝そのゲーテが、それをやっている間、お前はどうする気だ?〟

〝僕はこの世界のマナのバランスを保つ間、世界樹の中で柱になる。僕を通して、ゲーテに向かうように。それに魔族王と契約で、僕は彼との勝負をし続ける事になる。その代りの、ゲーテでもあるんだ〟

〝……、何故そんな事をした!他にも方法はあったはずだ〟

『オリジンの言う通りだ。他にも方法はあった。それこそ、災厄の場合精霊を使えば、何かしら出来たはずだ。でも、彼等にはこれからの世界と世界の守り手(ディセンダー)を助けて貰いたい。僕の後の世界の守り手(ディセンダー)達に……。だから――』

〝……、たとえ精霊の……君達を使っていても、それは危うい。だから契約をする事で、魔族達を縛る事も出来る。……頼むよ〟

 

大抵の精霊達は、それを承諾してくれたようだった。

しかし、精霊・ラタトスク、精霊・オリジン、精霊・マクスウェルからは、返事を貰えなかった。

森に入ってから数分後、世界樹の幹の下に出た。

 

『あれ……彼等も来たのか。さて、どうやって納得して貰おう。それに、師匠(せんせい)達にも、今後の事を話さなくては。特にマーテルさんの事を……』

 

ディセンダー(エント)は、精霊・ラタトスク、精霊・オリジン、精霊・マクスウェルの説得を始める。

彼らは、いや、精霊・ラタトスクと精霊・オリジンからは怒りを感じえる。

だが、話を進める内に精霊・オリジンがマーテルの事に気付く。

しかし、今はそれについて議論している暇はない。

だからこそ、これからの話を進める。

途中、ディセンダー(エント)が自身の夢とミトスが自分の名を言ったことでいざこざもあった。

が、精霊・マクスウェルの計らいや精霊・ウンディーネ達の協力してもあり、なんとか話は無事に終わった。

 

同時刻、精霊・ウンディーネ達は話合っていた。

ディセンダー(エント)の夢について。

 

〝私、何があっても、ディセンダー(エント)の味方になる〟

〝無論、それは我も、そのつもりだ〟

〝そうだぞぉー。ボクチンもディセンダー(エント)が、好きだから最後まで一緒だぞぉー〟

〝では、決まりですね。我々には、彼に対し、責任があります〟

 

彼らは、ディセンダー(エント)の為に動き出す。

 

 

そして、ディセンダー(エント)は、これからの準備を始める。

世界樹の幹の下まで移動し、翼を大きく広げる。

光を大量に出し、急速に光を凝縮した。

そこには、小さな子供が現れる。

紫色の髪に、瞳は左右違った子だ。

右は赤く、左は自分と同じ金色だ。

しかし、右腕は異様に長く、骨の爪のよう。

ディセンダー(エント)はその小さな子供の頭を撫で、優しい顔をそれでいて悲しそうな顔をしながら、彼を見た。

小さな子供はきょとんとした顔をして、ディセンダー(エント)を見上げていた。

 

『ごめんね、ゲーテ。君に、これから辛い事が沢山降り掛かるだろう。僕にもっと創生力があれば、君にちゃんと考える力を与えられたのに。今は、僕のを半分渡さないと出来ないなんて……』

 

ディセンダー(エント)は、彼の頭を撫でたままゲーテに言った。

 

「初めまして、もう一人の僕。僕の名前は世界の守り手(ディセンダー)・エント。君の名前は〝ゲーテ‥‥‥導きし者〟だよ」

「ゲーテ……、それが俺の名前?俺はこれから、何をするんだ」

 

ゲーテは目をキッと上げて言った。

ディセンダー(エント)はゲーテを抱きしめながら、優しくそして悲しく言った。

 

「ゲーテ。君は今から世界樹の中に入って、負の想念をあるべき光に導いて欲しいんだ。これはある意味辛い事でもあるんだ。僕の力で物は作れても、君のような生き物は創れないんだ。ごめんね、君はまだ本当の自分を見付けていないから、僕の感情の一部を君に渡すね」

「……それは、俺にしか出来ないのか」

「これは、世界の守り手(ディセンダー)の力を持っている者。そして世界樹自身にしか出来ない事。でも、世界樹はそれを出来る状態ではなく、僕ももうじき眠るようなものだから……しばらくの間、出来ないんだ」

「じゃあ、俺がやってやる。つまらなかったら、辞めるけど」

 

俯いて、考えていた顔をガバと、上げて言った。

ディセンダー(エント)は頷き、目線を合わせて小さな笑顔を作って言った。

 

「じゃあ、君が自分の気持ちに気付いたら、また同じ事を聞くね。それまで世界樹や、彼等をお願いね」

「おう、任せておけ!」

 

そう言って、ゲーテを光に包み世界樹に送った。

ディセンダー(エント)は世界樹を見上げ、静かに言った。

 

「世界樹、ゲーテをお願いします」

 

そう言って、ディセンダー(エント)はクラトス達の所に戻って行った。

 

『どうか、彼が……いや、僕以外に彼を信じてくれる者が、現れてくれますように。ゲーテ、もう一人の僕。どうか世界樹を、この世界を導いてくれ』

 

ディセンダー(エント)は精霊だけではなく、ミトス達にも解るように説明をした。

次に、いざという時の為の道具を創る。

世界樹の森には、宝玉と宝珠を祠と自身の意識の半分を共に封じる。

宝玉はマナを集め、制御するもの。

宝珠は、世界の守り手(ディセンダー)が、もしもの時の蘇生の道具として。

だが、できればこれが使われる日がないことを祈る。

 

最終的にも、精霊・オリジンと精霊・ラタトスクの説得にもできた。

クラトスとユアンには王を呼びに行ってもらった。

ミトスとマーテルは先に行ってもらった。

あとは……

 

「居るんだろう、ダオス。話がある」

 

ディセンダー(エント)は精霊達の所まで行き、空を見上げながら叫んだ。

 

そう言った数秒後、空からダオスが降りてきた。

腕を組み、宙に浮いたまま自分を見下ろしていた。

 

「何やら色々やっているようだな。それで、私に何の用だ」

「ダオス。僕ははっきり言って、君のした事は許せない。でも、僕は世界の守り手(ディセンダー)として、君との因縁を飲み込む。ダオス、君はこれからの世界を見ていてくれ。僕は、この世界に生きる者達が、世界を破滅に向かわせない事を信じ、この世界を守る。だから君は、見守っていてくれ」

「つまり、貴様が救う世界を見定めろという事か」

「そうだ。僕らこの世界に住む者が、この世界を新しくしていく」

「良いだろう、貴様がどこまでやれるか、見ものだな」

 

そう言って、また空高く飛んで行った。

ディセンダー(エント)は精霊に振り返り、早口で言った。

 

「じゃあ僕、ミトス達の所に行って来るね」

 

ディセンダー(エント)は駆け出した。

途中で、後ろから闇のセンチュリオン・テネブラエがやって来て、一緒に行く事にした。

ミトスとマーテルが、精霊・シルフと精霊・ノームと共に花畑で遊んでいた。

ディセンダー(エント)はそこに近付き、ミトスに気付かれない様にマーテルに言った。

 

「あの、マーテルさん……少し良いですか?」

 

マーテルは頷いて、そっとその場を離れた。

ミトスが見えない所まで来ると、ディセンダー(エント)はマーテルに振り返り、頭を下げた。

マーテルは驚いた。

彼は頭を下げたまま、静かに言った。

 

「ごめんなさい、マーテルさん。僕……僕……僕はあなたを理から外した存在にしてしまった……」

 

マーテルは、彼のその心痛な声に目線を合わせて、静かに言った。

 

「それはどういう事なの?……もしかして精霊・オリジンが言っていた事?私が、ただのハーフエルフではないという事?」

 

彼は顔を上げ、マーテルに泣きそうな顔を堪え、真剣な顔で言った。

 

「……マーテルさんが、僕を庇った時の傷を治す為に、あなたに僕はある事をしたんです。今のあなたは、半精霊状態なんです」

 

マーテルは、彼に目線を合わせたまま質問した。

 

「……私の視る力が上がったのは、その為でもあるという事かしら?」

「その通りです。マーテルさんが、元々世界樹の神子としての力に、精霊としての力が入り飛躍的に上がりました。その証拠に、オリジンとマクスウェルの姿は実体化する前に視えたのではないですか?」

 

マーテルは、彼の目を見たまま何かを受け入れるかの様に答えた。

 

「ええ、入ってすぐに気付いたわ。それに貴方の周りに出ている……その、何というか……光が輝いているのも視えるわ」

 

彼は一度俯いてから、マーテルを見て苦しそうに言った。

 

「それも、半精霊化のせいです。僕のこの光は、ディセンダーの証のようなもの。普段こちら側に来ていない、つまり精霊界にいる精霊達に、僕の存在を教える役目もあるんです。それと同時に、僕の翼も教える事になる。マーテルさんは優しいですね。翼が見えているのでしょう」

 

マーテルは悲しそうな顔をして、一度頷いた。

彼は一瞬悲しい顔をしたが、真剣な顔に戻り静かに言った。

 

「マーテルさん。半精霊となったあなたは、普通のハーフエルフやエルフと違い、その寿命が止まりました。無論、不死になった訳ではありません。精霊と同じように、マナさえあれば災厄生きていけます。そしてこれから、あなたを少しだけ世界の理で縛ります」

「……理。……その内容を教えて頂戴、エント君」

 

マーテルは優しい顔でそう言った。

エントは驚いていた。

実際、マーテルに恨まれる事を、拒絶される事を覚悟したからだ。

エントはさらに一層、真剣な顔で言った。

 

「……その前に、マーテルさんには教えておきます。師匠(せんせい)にも、理の一部を教えてあります。マーテルさんに話すのは師匠(せんせい)とは違う事です。理に縛られれば、色々と抱え込む事になる。災厄ミトスにも、ユアンさんにも、話す事は出来ない。内容によっては、師匠(せんせい)にも話せません。……、マーテル・ユグドラシル。あなたには、一つ目に僕の名前を決して外部に教えてはいけない事。もし外部の者に知られればそれを通し、この世界の事を知られてしまう。そうなれば、僕の魔族王との契約も無効となってしまうからです。この件は、師匠(せんせい)に聞いて貰っても構いません。でも、後の二つは僕の口にした人以外には話してはいけません。二つ目は、あなたが半精霊状態である事。もし何かを問われたら、神子と言えば大丈夫でしょう。三つ目は、この世界に関する情報を下界人に教えない事。できる限り、接触は避けて下さい。僕は、あなた達に本来は教えてはならない世界の理の一部を話してしまった。あなたも本当ならこうなる筈では無かった。本当にごめんなさい。ミトス達には、僕からちゃんと言います。それまで黙っていて下さい。自分勝手ですいません、マーテルさん……」

 

マーテルが口を開く前に、闇のセンチュリオン・テネブラエがやって来て、二人に言った。

 

「ハーフエルフの少年が、あなた方を探しておりますよ」

「ミトスが……分かった。僕の話した理の件、宜しくお願いします」

 

と言って、マーテルより先に歩き出した。

マーテルもその後に続く。

 

『僕はさっき逃げた。マーテルさんの返事も、覚悟も、聞かずに……。本当、僕駄目だな……』

 

その後、マーテルは約束通り黙っていた。

そして、いつも通りの接し方をした。

 

クラトス・ユアンが、王達の元へ行って二日後。

エント達は世界樹の森の入り口に来ていた。

そこに、クラトスとユアンが王達を引き連れ、やって来た。

王には衛兵数人と、次期王が一緒だった。

王都王が、力強い声で言った。

 

「久しぶりだな、少年。あの時の礼が、まだであった。あの時は助かったよ。少年のおかげで我が国は救われた」

 

と、今度は王都王の横から一人の青年が言った。

 

「父上や皆から聞きました。貴方方が、父と我が国を救ってくれたと。私からも深くお礼も仕上げる。そして、貴方の村にした事も、深くお詫び申し上げる。あの時の指揮官は僕だった。君は僕を殺しても構わない」

『……知っている。僕は、貴方を遠目から見ていたから。でも……、これからの世界を作る為に、貴方が必要だ。だから僕は、この世界の世界の守り手(ディセンダー)として、言わなくてはならない』

「王都国を救えたのは、僕に力を貸してくれた仲間のおかげです。それに、僕は王子を殺すつもりはありません。ですから、これからの国の為に尽くして下さい」

「……そうか、ありがとう」

 

と言って、王子が手を出した。

エントは照れながら、その手を握った。

そして、帝国王が口を開いた。

 

「……それで、我々を呼んだ理由を教えて貰っても良いかな。」

 

エントはひとつ頷いた後、王達を見て真剣な顔付きになり、剣を抜いた。

衛兵達はすぐに臨戦態勢に入ったが、王達がそれを止めた。

エントはそれを確認した後、剣を掲げ、小さい声で「レディアント完全解放!」と言った。

いつもと違う服装。

剣も大剣ではなく、細くそして、長い剣。

完全なレディアントの解放。

エントは剣を降ろし、真っ直ぐ王達を見た。

 

「僕の名は、世界の守り手(ディセンダー)。世界樹より生まれし者。世界樹に代わり、貴方方王に頼みたい事があります」

 

帝国王は何か納得したように、口に出した。

 

「……〝ディセンダー‥‥‥光まとう者〟か。意味のある名であったので、何かある少年だとは思ったが、まさか世界樹の子とは。恐れ入った」

 

王都王は、ディセンダーを見て静かに言った。

 

「名の通り、光を持つ少年か。それで、お願いとはもしや、我らの首か?世界をこんなに荒らしてしまった」

 

エントは首を振り、王達に願いと、これからの世界の希望を込めて言った。

 

「いいえ。貴方方は、これからこの世界を変えて行く者達です。僕は貴方方を……いえ、この世界に生きる者全てがより良い世界に変えてくれると信じます。僕は、この世界が危なくなった為に生まれた様な者です。ですから、これから先、平和になる世界を世界樹と共に見守ります。ですから王達よ、これからの世界を守って下さい。今回の様にならない様に。異種族同士、手を取り合っていける世界になる様に。お願いします」

 

と言って、頭を下げた。

王、二人は頷き、互いに決意を言った。

 

「分かった。我ら両国は、今を持って同盟を強固しよう。そして全ての種族が、平和に暮らしていけるよう、手を尽くす」

「この世界を元の平和で、豊かな世界になる様に。互いに手を取り合っていく」

 

エントは嬉しそうに笑い、小さく「良かった」と言った。

 

『貴方方二人は、血族同士のような者。貴方方の初代王は双子でした。人間が多かったから、王になっただけで、彼等は国を作り、種族の壁を壊した。貴方方もそうなる事を願っています……』

 

エントは決意したように、王達をもう一度真っ直ぐ見て、真剣な顔で言った。

 

「その約束ちゃんと守って下さいね。今あるこの世界の負の想念と瘴気は、僕と精霊達が一時、処理します」

 

そう言って、エントは剣を地面に突き立てた。

剣が光出し、地面の中に入っていく。

 

『さて、これで世界の中心ともなる場所に柱を作れた』

 

それを確かめてから、手を挙げ四大達を呼び、叫んだ。

 

「全ての精霊達よ。盟約の名の元、今を持って世界のバランスを作り直す。僕に力を貸してくれ」

 

と言って、エントは光出す。

その光は集まり弾かれ世界の隅々まで、飛んでいった。

足元の荒れていた土は、本来の豊かな土へと変わった。

空気も綺麗に澄み渡った。

 

「これで、百年は大丈夫です。今あるこの世界を壊すも、豊かに変えるのも、貴方方次第です。貴方方が、再び同じ事を繰り返さない事を祈っています。」

 

王二人は頷き、この場を離れて行った。

これからの国の方針について、再度話し合うようだ。

エントは、王達を見送った後、姿を戻してクラトス達の元に行った。

四大達が、帰って来たのを確認して、恐る恐る皆へ口に出した。

 

「あ、あの……皆にお願いがあるんだけど……」

「何?エント。それにしても……さっきの衣装の時とまるで別人だね。何と言うか、威厳が……」

「え⁉僕、それ一番気にしているのに……」

「あー、ごめん。そんなに気を落とさないでよ。本当にごめん」

 

クラトスがため息をついた後、口に出した。

 

「それで、お願いとは何だ?」

「あ、えっと、ですね……。その、僕の生まれ故郷に一緒に来て欲しいんです」

「あの村か。分かった。旅の支度をしてから、出発しよう」

 

と言って、クラトスが歩き出し、ユアンはクラトスと話し始める。

ミトスが、その後を追いかけて行った。

エントはマーテルに言った。

 

「マーテルさん、僕のせいでごめんなさい。ちゃんと皆に話すから、もう少しだけ許して」

「私は、大丈夫ですよ。それにあなたのせいでも、ありません。私があなたを助けたかったから、庇ったの。だから、あなたは自分を責めなくても良いのよ」

 

あの時、言えなかった言葉をマーテルは言った。

エントは何て言って良いか、分からなかった。

だが、遠くからミトスの声が、聞こえて来た。

 

「おーい。エント、それに姉様ー、早くー。置いてっちゃうよー」

「さ、行きましょう」

 

と、マーテルが明るい声で言った。

ミトス達の元に急いだ。

エントは、それでも気持ちは楽にはならなかった。

 

 

村に行く順序は、この帝都に来た順番で行った。

これまでの旅の話をして、なんだか楽しくて、可笑しな気分で、一行は笑いながら村を目指して歩き続ける。

村まであともう少しの所で、野営の準備を始めた。

今日の食事をエントが作りながら、思っていた。

 

『これで、皆と過ごす夜は最後か……。なんか不思議な気分だ。僕以外の世界の守り手(ディセンダー)も、仲間と別れる時こんな気持ちだったのかな。最後の料理は、めいいっぱい美味しく作ろう!』

 

食事が出来て、食べ始めてからちょっとしてから、エントは皆に緊張した声で言った。

 

「あの、皆、実は話しておかなきゃいけない事があるんだ。……マーテルさんの事で……」

「姉様が、どうかしたの?」

 

エントは食事を横に置き、膝を抱え込む。

そして燃える火を見つめながら、静かに話し始めた。

 

「……マーテルさんが、僕を庇って深手を負ったでしょ。それで……その、僕……」

「もしかして、それをお前は悔やんでいるのか?マーテルは、おそらくお前を恨んでいないと思うが」

 

と、クラトスは言った。

エントはマーテルを見る。

マーテルは笑顔で頷く。

ミトスは、エントの肩に手を置いて言った。

 

「姉様が、無事だったんだ。それにあの時、姉様が飛び出していなくても、誰かがやっていた。も、勿論、僕だって、飛び出すよ」

「ミトス……ありがとう。でも、違うんだ。僕……僕、マーテルさんの生きる道を壊してしまった。僕は、あの時マーテルさんに術を掛けて、半分精霊状態に変えてしまったんだ!僕は君のお姉さんを一度、殺した様なものなんだ‼マーテルさんは普通のハーフエルフと違い、その寿命も、時の流れも変えてしまった」

 

エントは、膝に顔を埋めて泣き出した。

 

『おそらく皆困っているだろうな。ミトスには悪い事をした。ユアンさんにも。これから先、マーテルさんは孤独となるのは間違えないだろう。長い時を、精霊と同じ様に過ごしていく』

 

四大達はエントの言葉を黙って聞いていた。

そして、その思いも理解していた。

 

〝エントは多分、この下界人達を監視者にしたくないんでしょうね……〟

〝そうだな。エントはそのつもりだろう。だから、我々がここに居るのだろう〟

〝もしもの時は、ボクチン達が何とかして欲しいからだぞぉー〟

〝我々は、あの子の望む事を守ってあげたい。その為に最後まで頑張りましょう〟

 

するとミトスの怒鳴り声が、響き渡る。

 

「バッカじゃないの!僕にも同じ力があったら、同じ事をした。何より、形はどうあれ姉様を助けてくれたんだよ。あのままだったら、姉様は死んでいた。そしたら、僕は独りぼっちになっていた。だからエント、姉様を助けてくれてありがとう」

 

エントは涙を流したまま、ミトスを見ていた。

ミトスは腰に手を当てて、こっちを見ている。

エントは、何かを言おうとしてそれを飲み込んだ。

涙を拭いて、ミトスに抱き付いた。

マーテルが優しく、声を掛けた。

 

「エント君、ごめんね。でも、ミトスの言う通りよ。それに言ったでしょ。あなたのせいでもありません。あなたは、自分を責めなくても良いの。あの時、私は確実に死んでいたわ。私も、たとえどんな形であれ、大切な人達と共に過ごす時間をくれた事に感謝しているわ。だから、ありがとう」

 

と、ユアンが身を乗り出して、マーテルの手を握る。

さらに手に力を込めるのが見えた。

 

「そうだ!何があろうと傍にいる。マーテル、私は何があろうと……君を嫌いにはならない!」

「ユアン‼嬉しいわ。貴方に、そう言って貰えて」

「……仲間なのだから、当然だな。……所で、ユアン。ミトスが、そろそろ切れるぞ」

 

と、ユアンはすぐに手を放した。

ミトスは物凄い目で、ユアンを睨んでいるのが分かる。

エントは、抱き付いていたミトスをギュッと、力強く抱き付いた。

その後笑顔に戻って、彼に言った。

 

「ありがとう、ミトス。僕も……これで安心できる。でも、……異性として人を好きになると、色々大変なんだね。でも一途っていうのも、良い感じだね。ユアンさん、頑張ってね」

「あ、ああ!頑張る。だが、お前も恋をしてみるのも、良いかもしれんぞ。なぁー、クラトス」

「……、そうかもしれんな。……頑張れ、ユアン」

「何故、俺に⁉」

 

その会話に、マーテルは笑っていた。

ミトスはわなわなして、エントに叱った。

 

「エント‼ユアンの応援なんかしちゃダメ!ユアンは、大きな害虫なんだから!」

「っ⁉……そうなの、分かった。でも、僕が女の子だったらミトスと付き合えたのになぁー。」

 

その何気ない彼の一言に、全員は一斉にエントを見た。

エントは一瞬、言葉に詰まったが、つまずきながら言った。

手が時々、上下している。

 

「え⁈だって、そうすればミトスとずっと一緒に居られるでしょ。それも面白そうだなぁー……って」

「ああ、うん。そうだね。確かにそうかもしれない。じゃ、じゃあ、逆もありだったって事だよね。僕が、女だったら、エントにドキドキしていたかもしれないね」

「あー……でも、僕に恋をしても、世界が波乱馬上かもよ。ほら、僕は世界を守っているから」

「ああ、成程。でも、それじゃあ結局、エントが女でも一緒だよ」

「……それもそうだね」

 

と言って、話し始めた。

四大達がそれぞれ、話し出した。

 

〝エントが、誰かと付き合っていたら……私は、その相手をどうしていたかなぁ……〟

〝ボクチンは、エントの選んだ下界人なら優しいと思うぞぉー〟

〝我は許さんぞ。たとえ、エントが女でも。いや、女ならもっと駄目だ!〟

〝……いざとなったら、この手でその者を…………いえ、何でもありませんよ〟

 

と、それぞれ話し合うのであった。

食事が終わり、火の番のクラトスが夜空を見ていた。

エントはその傍に近付き、クラトスの向かいに腰を折ろした。

クラトスに苦笑した後、夜空の星を見た。

そしてポツリと言い出した。

 

師匠(せんせい)。僕、村に帰ったら、村の皆に報告した後、世界樹の中に帰るつもりなんです。世界樹の中に戻るなら、僕の生まれ育ったあの場所が良くて。僕が人間として過ごし、ディセンダー(一人の人間)としている事を決めた場所。僕、心の中ではまだ皆と一緒に居たい。でも、僕は早く世界樹の中に、帰らないといけない。折角、作り直したこの世界のバランスを壊してしまう事になる。師匠(せんせい)は言いましたよね。全てが終わったら、戻って来れば良い。その為の名前として、エントと言う名を貰いました」

 

エントは夜空を見つめ、何時しか泣きながらそう言っていた。

クラトスは黙ってそれを聞き続けているようだ。

 

〝……エント。私、アンタの事嫌いじゃなかったわ〟

〝ボクチンは、何時だってエントの事好きだぞぉー。でも、ボクチン達最初は……〟

〝そうだな。最初は監視役として、傍に居たのであったな。本来の我らにしたら一瞬。しかし、何と懐かしいものよ……〟

〝そうですね。あの子の傍にいる事で、我々は時の大切さが分かりました。あの子との別れは、我々にしてみればほんの少し。……どうやら我々も、下界人の様に情に流され過ぎましたね〟

〝……そうね。だから私達だけでも、エントの傍に……この世界が終るその時まで……〟

 

精霊達が話している間に、エントはまた苦笑いをし、続きを話し始めた。

 

「ごめんなさい、師匠(せんせい)師匠(せんせい)、僕この世界に生まれて良かった。皆に会えて、本当に良かった。だから明日は、最後まで笑っていようと思います。師匠(せんせい)、ありがとうございました」

 

と言った後、また夜空を眺めながら、子守唄を鼻歌で歌い出した。

 

 

村に着き、長老の墓の前で手を合わせた。

その場には、四大達も実体化している。

その後、エントは言い出した。

懐かしむ様に、思いが伝わる様に。

 

「長老、僕王様に会ったよ。長老の言う通りの人だった。この村の事もちゃんと話したよ。村をめちゃくちゃにした宰相は、王の手によって捕らえられたよ。それにね、戦争が終わって、平和な世の中が来るよ。だから安心して」

 

そう言い終わり、立ち上がった。

ユアンはエントに優しそうに、それでいて悲しそうに言った。

 

「お前にとって、この村はとても良い村だったのだろうな。お前の育て親も、素晴らしいのだろう。……確か、村長殿だったな」

 

エントは嬉しそうに、思い出しながら言った。

 

「はい。赤ん坊だった僕を、長老が引き取ってくれて。長老の家に六歳まで居ました」

「六歳まで⁉一人暮らしは辛かったろう。しかし、あの長老殿なら、ずっと家に置いといてくれたのではないか?」

「長老もずっと居て良いと、言ってくれました。でも、僕自身がそれを拒んだんです。僕、あの頃はディセンダー(世界の守り手)としての自分と、今の自分が解らなかったから。あの家に暮らしてからは、四大達と一緒だったけど、そういった事は初めてだったから、よくエミリィが来てくれたっけ。一人暮らしにちょっと慣れてから、師匠(せんせい)に料理を教わったから、意外と大丈夫でした」

 

四大達も、それを聞いて思い出すように話し始めた。

 

「そうですね。村人が毎日食料を持って来たから、料理と言うものをしようとして、イフリートが台所を爆破しましたね……」

「そうそう。それでエミリィに、エントがめっちゃ怒られて。‥‥その後、エントに物凄く怒られたわね」

「うむ、そうであった。それ以来、我らは料理禁止になったな」

「ボクチンが、その台所直した時はエミリィも、長老も、驚いていたぞぉー。……でも、あの人間が来ていた時は、エント(ディセンダー)取られちゃったしねぇー。まぁー、エント(ディセンダー)が楽しそうだったから、良いけどねぇー」

 

と、矛先がクラトスに向かい、エントは苦笑いをしていた。

が、ミトスが首を傾げ聞いて来た。

 

「そういえば、時々出てくるけど、エミリィって誰?」

「エミリィは長老の孫娘で、僕のお姉さんみたいな人。それに……バトの幼馴染。でも、エルフで成長が遅いから、見た目的には妹かな。昔は、長老の事を爺様って呼んで、エミリィをリィ姉って、呼んでいたっけ。周りの子達にそれで良く苛められいてたなぁー。それをよくバトが助けてくれて……バトは僕の初めての友達になってくれて……僕が可笑しな事を言っても、いつもと変わらず接してくれた。世界の守り手(ディセンダー)の記憶が戻って、僕が僕じゃない時もそれは変わらなくて。エミリィも、長老も、変わらず優しくて、厳しくて……でも、僕を庇って死んだ。それでも僕は、この村が好きで、ここでの暮らしも忘れるつもりはない。それに、ミトスっていう同年代の友達も出来たし」

 

と、笑顔で言った。

しかし四大達は、エントに実は秘密にしていた事がある。

 

〝エントを苛めていた下界人に、シルフやウンディーネが突風や水を落としてエントが困っていたな〟

〝何よ!アンタの火の海にするよりかは、良いじゃない!大体、私達だけじゃなくて、ああ見えて、ノームだって、やっていたんだから!〟

〝……ボクチンは、ばれて無いぞぉー。大掛かりの事は、後でエント(ディセンダー)に怒られるからぁー〟

〝……今思えば、我々が良くあの程度で済みましたね。エントにばれない様に、最後にもう一度同じ事をしました。今では、本当に懐かしい話です〟

 

と、精霊達が話している内に話が進んでいた。

 

「フフン。実は最初から全部、聞いていた。ちなみに、鼻歌子守歌も!」

「うわぁー、あー……でも、あの子守歌は良いよね」

「あ!それ僕も思った。あれは誰から聞いたの?」

「エミリィが、良く歌ってくれたんだ。歌詞は覚えていないんだけど……」

 

と、また四大達が思い出しながら言った。

 

「そうだな。よくエントが泣いた時や、寝付けが悪い時に歌っていたな」

「ええ。我々があやしても駄目でしたのに、あの歌が出たら泣き止んで、寝ていましたね」

「エミリィも、嬉しそうにしていたわ。でも、エントが泣く時って、大抵エミリィが目を離していた時なのよね。エントは、あっち、こっち動き回るから余計に……」

「そうなのでしたぁー。一回、僕らも目を離してしまって、行方不明になったのでしたぁー。あれは、焦ったのでしたぁー。でも、帰って来てからのエント(ディセンダー)は、それ以来泣くのが少なくなったのでしたぁー。懐かしいですぅー」

 

エントは耳まで赤くなって、手で顔を隠しながら言った。

 

「あの時は、ラタトスクに拾われたんだよ。その後、エミリィが来て……泣いたら怒られるし、説教始まるし……赤子に本気で怒るって……」

 

当時の事を思い出し、真っ赤だった顔が青くなった。

それからしばらくして、エントが空を見上げて移動を始めた。

その場所は、変わった模様のある世界樹の根が張っている所。

 

『ここで僕は長老に拾われ、ディセンダーと言う、一人の人間として暮らした。もう戻れない大切な時間……』

 

エントは、クラトス達に振り向き、光出した。

そして、二振りの剣を創り出した。

一つは黄金に輝き、もう片方は黒く輝いている。

エントは、皆に説明を始めた。

 

「この剣は、聖剣エターナルソードと魔剣エターナルソード。この剣は、僕のレディアントの剣の一部と翼の羽根で、出来ています」

「それで、その剣を創り出して、何に使うのだ?」

 

ユアンは腕を組んで、その二振りの剣を見ていた。

無論、他の者も、だ。

エントは苦笑しながら、彼等が理に触れ過ぎない様に説明した。

 

「こっちの光の剣が、世界樹の中で柱になって貰う剣です。そして、この剣はディセンダーを殺せる剣です。もし、この先世界の守り手(ディセンダー)が世界を滅ぼす事があったら、この剣で殺せるように。この剣は、この地の祠に、封じておきます」

 

そう言って、黒い方の剣を祠に送った。

ミトスは慌てて、言ってきた。

 

「で、でも、そんな剣が誤って世界の守り手(ディセンダー)に刺さってしまったら?」

「その時は、世界樹の所にあるあの祠の宝珠を使えば大丈夫。でも、使う事がない事を祈るよ」

「大丈夫、この世界はきっと平和になる!いや、してみせる‼」

「‥‥‥うん、信じている」

〝四大達。今まで、ありがとう。君達には、苦労を掛けてしまって、ごめんね……〟

〝そんな事はありませんよ、エント。確かに貴方には苦労をしましたが、我々は貴方と共にいて、とても楽しかったですから……〟

〝そうよ。アンタは、世界の守り手(ディセンダー)の割には泣き虫で……それでいて、とっても頑固で。とっても優しかった。アンタが、私達の世界の守り手(ディセンダー)で良かったわ〟

〝ボクチン達は何があっても、エントの味方だって事忘れないで欲しいですぅー〟

〝うむ。後の事は、我々も何とかする。お主が、またこの地に降り立てるように……〟

〝……ありがとう、皆。最後まで、僕の我侭に付き合ってくれて、本当にありがとう〟

「よし、僕はもう行くね。皆、今までありがとう。僕、皆に会えて良かった。皆が支えてくれたから、世界を救えた。この世界を守りたいと思えた。本当にありがとうございました」

 

エントは泣きそうになるのを、必死で押さえて笑顔で皆に言った。

ミトスは、不安そうな顔で言った。

 

「エント……いつかまた会える?会えるよね?」

「……次、会うのは僕じゃないかもしれない。でも、僕はいつだって傍にいるよ。ペンダント、それは僕の力の一部だから。それを通して、見守っている」

 

ミトスは一度俯いた後、勢いよく顔を上げ言った。

 

「……僕、夢決まった。僕は、この世界を見て回る。エントのこと思い出して、その日にあった事を教える。これからの世界も。エントがこっちに戻った時、困らないように。それが、僕の夢だ‼だから……」

『ミトス……そうだね。その想いと願いがあれば、僕は一人では無いって実感出来ると思う。僕は、そんなミトスが旅をするこの世界を、皆が生きるこの世界を守り続けるよ』

「……わかった。さよならは言わない。ミトスの話を毎日、楽しみにしている。また会えるその日まで。だから、行って来ます、皆」

「行ってらしゃい。世界の守り手(ディセンダー)・エント」

 

エントは涙を流していた。

でも、その顔は笑顔だった。

何故ならとっても嬉しく思えたからだ。

そして、その場にいた全員が、同じく笑顔でそう言ったのだ。

これ以上の幸せは無い。

だから消える時に、もう一度「皆、ありがとう」と言った。

 

 

エントは世界樹に帰り、意識は魔界王の住む世界に向かった。

その世界はビジョンで、見た通りの世界だった。

 

「これは、これは。世界の守り手(ディセンダー)・エント。随分と遅い到着ですね」

「……、君達には時間という概念は無いと思ったけど」

「そうですねー……うむ。その通りですよ。さて、では、お話でもしましょうか」

 

それから、エントと魔族王との勝負が始まった。

時には話し合いではなく、剣を交える事もあった。

それが、もうどれくらい続いたかは、エント自身覚えていなかった。

それに、それだけではない。

ゲーテが受けている苦しみは、エントにも届く。

だが、エントは落ちる事は無かった。

それはエントが、ミトス達に渡したペンダントから、彼らの想いや、今の世界の事を教えて貰っていたからだ。

楽しい事、辛い事。

世界が変わる所や、新しい世界の守り手(ディセンダー)の事。

そしてある時、魔族達が穴を通じて向う側へ行った。

 

『っ‼……穴が開いた⁉あちらでは開けないようにしたのに。そうか……四代目。レオン、君は恋人を失って……それを受け入れる事が、出来なかったんだね。開いてしまった以上、僕はここからではあちら側には干渉出来ない。僕は、こちらで出来る事をしよう』

 

それから世界は、負の想念と瘴気によって覆われた。

そして世界の守り手(ディセンダー)によって呼び出された魔族達は実体化し、世界のマナを奪っていった。

世界樹が、何とか新たな世界の守り手(ディセンダー)を生み出す事に成功した。

 

『この子は……そうか……あの時の彼女か。最初の彼女は、こんな感じだったのか。それが、あんな風になってしまったのにはきっと理由があるのだろうな……』

 

彼女は世界を救う為、エント()と同じように、師匠(クラトス)に剣を教わっていた。

彼女は日に日に強くなっていった。

その姿はまるで、昔の自分と同じだった。

彼女が外に出てからしばらく経ち、魔物達を排除できた。

が、彼女は感情を捨ててしまった。

過去の世界の守り手(ディセンダー)達だけではなく、今は亡き世界の守り手(ディセンダー)の記憶。

そう、彼女は全てを持ったからだ。

彼女は飲み込まれない為に、その選択を取った。

そんな彼女を変えてくれたのは、彼女の弟妹となった三人の子供達。

そして師匠(クラトス)の家族達だ。

僕は彼女の力を借り、再びあの世界に降り立つ……


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