Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜 作:カドナ・ポッタリアン
雨上がりの地面は濡れていた。涙の後の目は腫れていた。緩く締められた蛇口からは、水がゆっくりと滴り落ちていた。
彼は泣いていた。雨は止んだのに、彼の涙は止まなかった。
「クッソ! 何で…何で父さんも母さんも兄さんも…僕の事を理解してくれないんだ!」
アルバス・ポッターは泣いていた。
父親も母親も兄でさえも、アルバスの気持ちを理解できなかった。この気持ちというのは無論、「リンネ・ゴーント」の事だ。愛なのか尊敬なのか魔法なのかは分からない。ただただ心が苦しかった。
「皆、あの方を危険だと言う…あんなに美しく素晴らしい方は、この世には存在しないのに!」
『それはアタシの事かしら?』
突然後ろで声がした。急いで振り返ると、牛乳瓶の底のようなメガネをかけた、おさげの少女が立っていた。だが彼女は普通の人間とは違って、半透明だった。「嘆きのマートル」、皆は彼女の事をそう呼ぶ。
『キャハハッ! アンタ、変な顔してるわよ!』
「あぁ、君は黙っておいてもらえないかな。此処男子トイレだし」
アルバスはチラと鏡を見た。確かにマートルの言う通り変な顔だった。酷い有様だった。
『分かってるわよ。アタシは泣き声が聞こえたから、来ただけ』
「随分と無神経なゴーストだね」
『ッ! そ、そうよ。アタシはブスでアホで無神経なスボラよ!』
マートルは泣き叫びながらトイレの個室にある、便器の中に飛び込んでいった。排水管の中で彼女の声が木霊するも、アルバスは何も感じる事が出来なかった。
「お前も、中々ズボラで無神経な奴だな」
後ろで、凜とした美しい声がした。魔力を秘めた愛しい声。これで命令されたならば、アルバスは逆らう事など一切できないだろう。ただひれ伏すだけだ。
「ヴォ、ヴォルデモート卿…」
「どうした、こんな場所で泣いて。女にでも振られたか?」
リンネ・ゴーントは、男子トイレにも関わらずズカズカと入ってくる。誰もいない事を承知の行為だろうが、もしかすると此処が男子トイレだという事に気がついていないだけなのかもしれない。アルバスが泣いているのを面白がっているのか、彼女は楽しそうに小さく笑った。
「違います。ただ…皆に僕の気持ちが伝わらなかっただけです」
「そうか…その『皆』というのは、貴様の何なのだ?」
「僕の、大切な人達です…」
「なるほど」
敵を『大切な人』と言うアルバスを、リンネはどう思っているのかは分からない。彼女は無言で、蛇口の一つを開けた。冷たい水が、滝のように止めどなく溢れ出す。
「それならば…私が貴様の『大切な人』になってやろう。アルバス、貴様の唯一の理解者はこの”私”だ」
濡れた手で、リンネはアルバスの頬に触れた。途端に彼の瞳からは、大粒の涙が溢れ出す。
「嗚呼アル、泣くな。涙ほど弱いモノは存在しない。私は弱者を嫌うぞ」
リンネの言葉を聞き、アルはグッと歯を食いしばった。彼は手で涙を拭って、赤い頬で彼女に向き直った。その目は強かった。リンネは満足気に笑う。
「そう、それで良い。強者に涙はふさわしくない。
「はい、ヴォルデモート卿」
「嗚呼、貴様は私の目的のための重要な存在だ。貴様は優秀な男だ、アル」
「大変喜ばしい…ありがたいお言葉でございます、ご主人様」
アルバスは跪き、リンネの手に口づけを落とした。こういう「愛」に飢えた人間は、特定のモノに対する忠誠心と執着心が並の者を越える。リンネには到底分かる事のない感情だったが、ただその利用法は知っていた。
リンネは度々考えた。先代の帝王が何故魔法界を征服しようとしていたのか。純血至上主義と言っても、マグル生まれを皆殺しにして一体どうなるというのだ。純血だけの世界なんて、正直不可能だ。マグルと子成す事がなければ、魔法族はとっくに滅していたはずだろう。
先代の帝王の敗因は、力を求めすぎた結果だ。彼女自身も一応純血主義者ではあるが、マグル生まれを特別排除したいわけではない。
まずはイギリスの魔法界、次はヨーロッパ、次はアフリカ、アジア、アメリカーーと世界を配下に落とす。最後に人間界だ。上手くいけばこうなるだろうが、一体先代は何がしたかったのだろうか。
純血を重んじ、マグルを見下すだけでは魔法族の血はいつか絶える。ただ先代は、暴力好きだっただけなのだろうか。力に訴え、目的が「世界征服」という歪んだモノのまま進んでいた。リンネは思う。先代にも自分にも、何かが欠けている、と。
魔法族だけを残そうとするから滅びるのだ。それならば、マグル生まれも一応重んじるべき点なのだろう。純血がどうたら言うのならば、「旧魔法族」として皆に崇め奉られれば文句はないはずだ。
悪は、最終的には正義となる。正義は、最終的には悪となる。悪が世界を占めるのならば、結果的に必ずそうならなければならない。
リンネが征服を目論む理由? そんなモノはないに等しいのかもしれない。しかしリンネは思った。
「世界最強と謳われた先代は、魔法界を征服する事が出来なかった」
ハリー・ポッターに倒された先代の帝王。しかし、ハリー・ポッターを殺し、魔法界を支配下におけば、リンネは全てを超越した存在となるのだ。今はダンブルドアもいない。
死喰い人達はもうアズカバンに行ってしまったが、連れ戻せば良い。足りなければ創れば良い。
「ナル、貴様等で一番強力なのは?」
「え? そりゃあ『バジリスク』でしょうね」
「なら私は…バジリスクが欲しいな。一匹くらい」
「そ、そうですか…」
ある日に発したそのリンネの言葉は、完全に意図があった。しかし、それを聞いたナルとアルバスは協力し、その願いを叶えようとした。その結果がクリスマスだ。
生徒の過半数が家に帰宅し、二週間ほど学校はお休みだ。冬休み中の宿題を図書館で一気に終わらせ、部屋に戻った時、リンネは何か違和感を覚えた。
二十メートルはある大蛇が一匹いたのだ。
「ナル…アル…こいつは何だ」
絶句しながら聞くと、アルが姿を現して答えた。
「ご主人様、バジリスクが一匹欲しいとおっしゃっていましたよね?」
「まさか本当に用意するとは思わなかった。流石の私も驚いたぞ」
「ご主人様、私とアルからのプレゼントですよ」
ナルの言葉を耳に入れ頷くと、彼女は目の前の緑色の大蛇に恐怖を抱く事もなく、ただ楽しいそうに笑っていた。大蛇は緑色の鮮やかな肌触り、頭の上に深紅の羽毛を持っていた。
『人間になりたいか?』
リンネはパーセルタングで問いかけた。すると、蛇を大きく頷く仕草を見せた。
「『マンチェンジ! 変身:人』、アル、ローブをもってこい」
「え、あ…はい!」
アルバスは急いで姿を消して、何処かへと行ってしまった。床には、銀色の髪をした少年が横たわっていた。ナルは彼に近づき、揺すった。
「おぉい、起きてください」
「ムニャ…インクに浸した消しゴムを食べたい…」
「インクに浸した消しゴム?」
リンネは机の上に置かれたインク瓶を取り出すと、蓋を開けて少年の頭に全てかけた。黒い液体が床に染み込む。ナルは少年の顔を覗き込むと、引きつった笑みを浮かべた。
「ご主人様、何だかこの人気味が悪いです…」
「どういう意味だ?」
彼女はそう言うとベッドに座り、足を少年の上に置いた。リンネに決して他意はなく、インクを垂らしたのも消しゴムがなかったからで、足を置いたのは置き心地が良さそうだったからだ。
「いや…今もなんですが、物凄く気持ち良さそうな、泥酔したような顔をしてて…」
ナルは顔をしかめ、リンネに助けてでも言いた気な視線を送る。しかし彼女は特に反応を示さない。
「ご主人様! 一応スリザリンの制服を…」
すると、突然アルバスが姿を現した。手には真っ黒なローブがしっかりと抱えられていた。リンネは人の全裸を見る趣味はないので、後ろを向いてアルにやらせる事はやらせた。
「さてナル、私はもう寝る」
「え、ご主人様の魔力量なら、酷使しても疲れないですよね?」
「違う。嫌な予感しかしない」
そのリンネの予感は嬉しくも悲しくも的中してしまうのだった。
みなさん、明けましておめでとうございます。今年度も、私の作品をどうぞ宜しくお願いいたします( ´ ▽ ` )ノ
今日は後書き欄にリンネさんは登場しません。
2016年からは、更新ペースもどんどん上がっていくと思います。今日はもう一話投稿するので、是非読んでやってください。
今回は、アルバスの苦悩(笑)とリンネの頭を中を描いているはずですハイ。アルバスは、自分のリンネに対する感情が何かが分かっていません。正直、今の所は私からも何ともいえません。そして、ヴォルデモート(先代)の魔法界支配の理由についてちょっと考えてみた。これは個人的にもハリポタを読み終わった後に感じた事です。私の読みが足りないのかもしれませんが。
新登場人物紹介ウェーイ☆
【嘆きのマートル】
牛乳瓶の底のようね眼鏡をかけ、おさげ髪。かなりの被害妄想系女子で、ちょっとした言葉でも気がつく。柔らかく言ったら恋する乙女、酷く言ったら風呂を覗く変態。
ヴォルデモートがホグワーツ在学時に起こした、バジリスクの事件での被害者。その時も、ハリーの時も、死んでしまったのは彼女だけである。今はホグワーツのトイレに住み着いている。神出鬼没なので注意が必要。
何だか可哀想な子だよね。トム、謝りなさい。
え、止めてよトム、私に杖を向けないで! アバダ唱えないで!! ギャーーー!!