Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜 作:カドナ・ポッタリアン
「流石に、昨日の事は新聞には載っていない、か…」
翌朝、リンネは「日刊預言者新聞」を片手にサラダを食べていた。新聞自体取っていない
リンネにとって、これは良い貢物だった。スリザリン生やリンネファンは、幾度なく彼女の贈り物を送る。取り巻きのチェックを通ったそれは、とりあえず活用はさせてもらってはいるが、リンネはあまり人前では使わない。孤児院にいるので、お金がない身。とりあえず今は貰えるモノは貰う。
ただ、新聞やらは朝読んだりする。魔法界の情報を把握する事は大事だ。それを贈った生徒は、必ず気絶するわけだが…それだと皆が送ってきてしまうので、新聞はいつもオールから受け取っていた。
「ポッターの件ですか?」
「あぁそうだ。…まぁ、載っていなくて当然か。先代の血縁が存在する時点で、魔法省は秘密にしたいわけだし」
「そうですね」
血眼でリンネの存在を隠そうとする魔法省は、今回のハリー・ポッターの件に関する隠蔽工作も、笑いがこみ上げてくるほどだった。襲った相手が相手なので、大事には至らなかったが、ホグワーツの教授解任、三ヶ月の謹慎処分ーーあまり重い刑罰は与えられなかった。
これでハリー・ポッターのホグワーツ生内での株は下がった。同僚達からの信頼もだ。事実が公開されないのでは少々残念だが、悪目立ちするわけにもいかない。
下手に魔法省に目をつけられても困る。「生徒会」からの見張りもなくなり、つく警備もアルバス任せになってきたのに。
「ところで、貴様等宿題は終わらせたのか? ロングボトムのは簡単だが…スネークのレポートは時間がかかるぞ」
「あははー勿論終わってなんてないですよー」
「そうか。後で手伝ってやる」
リンネは、優しいわけではない。優しいわけではない(大事な事なので二回ry
先代とは違い、他人をただの道具として扱ったりはしないだけだ。必要以外の損害は抑え、仲間の中に格差はあれど、簡単に殺したりはしない。
「死の呪文」を扱える身となれば、いずれ人を殺す事も麻痺してくるだろう。初めて殺した時、罪悪感はチリほどなかった。殺したいな思えば、殺す事だってできる。
ただ何故かちょっとだけーー
「ありがとうございます、リンネ様」
この生活が…楽しい。
*
一年の時が過ぎた。今年は、ハリー・ポッター以外の事件は起こらなかった。次の年は、何か大きな行事があるなどとルークが言っていたが、詳しくは教えてくれなかった。
ルークは無事「N.E.W.T(いもり)」試験をパスし、得意顔でリンネにすり寄ってきた。次の年、こいつはもういない。面倒な奴がいなくなって清々した。
ルークは就職はせずに、そのまま魔フィアを継ぐための準備を始めるらしい。父親のガディはその座を譲る事に、特に抵抗があるわけではなさそうだが、色々と大変らしい。なので今年は、シンシア邸にはいかない事にした。
9と4分の3番線を降り、キングス・クロスまでやってくる。マグル出身の魔女や魔法使い達が、蜘蛛の子を散らすように走り去っていく。ルークは孤児院まで送ってくれるとは言っていたが、目立つ容姿なので一蹴してやった。
もう外の世界は暗くなっていたが、リンネは歩いて孤児院まで戻った。たくさんの人とすれ違い、その度に誰もが振り返った。
この二年間で、リンネは美しく成長した。妖艶な微笑みは悪魔をも魅了し、真っ赤な瞳はどんな人間でさえも闇へと墜とすーー悪に愛されたこの少女は、孤児院「グラヴ」に戻った。
「…もど、った?」
生まれ育った忌まわしき建物は、「廃墟」と化していた。灰色と黒に染まったボロボロの建物には、生気を一切感じる事が出来なかった。入ってみようとも思ったが、警察の手によって張られた「立ち入り禁止」のロープがそれを防いだ。
一体、何があったのだろうか。
孤児院のあったそこで佇むリンネを見て、近くにいたおばさんが、彼女に話しかけた。
「あらもしかして、『グラヴ』の子かしら?」
「…あぁ」
「この孤児院なら、つい一ヶ月ほど前に放火があったのよ。此処にいる全員が亡くなってしまって…何やら、水をかけても火が消えなかったそうよ。お嬢ちゃん、もし良かったら、私が保護施設に電話をーー」
「結構。アテならある」
親切なおばさんの申し出を断り、リンネはトランクを引きずりながら路地へと去った。
水をかけても火が消えなかった…という事は、魔法使いによる仕業かもしれない。でも一体誰がそんな事をしたのだろうか。可能性として高いのは、闇の魔法使い達だ。再び闇の支配者を頂点とした世界を作り上げるためには、孤児院は邪魔なのだ。神聖なる王を汚す場所ーーかつてヴォルデモート卿に絶対に忠誠を誓った「
だからと言って、寝泊りする場所を燃やすなや。
「この事件は日刊預言者では扱われていなかったな…」
ルークの家に行ってみるのも手、か。
色々と迷惑をかけるだろうが、知った事ではない。あいつは逆に歓迎する事だろう。しかし、道を覚えていない。郊外という事は覚えているが、そこまでの道のりを忘れてしまった。後悔はしていない。
「チャイリストン」という地区だが、場所なんて覚えていない。あんな複雑な曲がりくねった道、地図なしではいく事が出来ない。
リンネは裏路地に入り、辺りに誰も人がいないのを確認した。月が綺麗な夜だったが、ロンドンの道は不気味だった。外灯で街が照らされ、荒れくれた男共の笑い声が聞こえる。
リンネは杖を取り出して、ため息をついた。なるべく魔法は使いたくなかったが、仕方がない。書物を読み漁った結果、魔法省の「十七歳未満の魔法使用を取り締まる魔法」は、個人を特定する事が出来ない。
孤児院から一キロほど離れて、リンネは杖を持ったまま腕時計を見た。九時半ーー良い子供ならベッドに入る時刻だ。
途端、バーンという大きな音がして、リンネは驚いて杖を構えた。杖を向けた先には、紫色の巨大な細長いバスがあった。
危険なモノではなさそうだったが、リンネは警戒心を解かずにそのまま杖を構え続けた。シューという小さな汽笛のような音が鳴り、バスのドアが開いた。そこからは、だらし無い格好をした二十代前半の男がノロノロと出てきた。片手には文字の書かれたカードが握られている。
「こちら、『
「…何だその…
「迷子の魔女や魔法使いをお助けするーんまぁ『お助けバス』? 杖腕出したら、とりあえず常識の範囲内なら現れまーす」
「…どんな場所にでも連れて行けるか?」
「んまぁ、さっき言った通り常識の範囲内ね。水の中とか、宇宙とか言われても、俺ッチ困っちゃうんデェ」
クメルは頭をかきながらダラダラと言った。仕事に不満を感じている様子だったが、リンネは表情筋をピクリとも動かさずにこう言った。
「ツケではダメか? 生憎持ち合わせてないんだ」
「んー…アーン! ツケってダメなのかい?」
「後で払ってくれんなら良いさ」
クメルは運転席の方に叫んだが、案外と紳士的な対応だった。一応、後で払ってやろう。
「確かにぃこんな嬢ちゃんを夜道の中放っとけないからなー、良いぜのりな」
「あぁ、そうだな」
クメルにトランクを投げ渡すと、リンネは三階建のバスの中に入った。中にはベッドがたくさん並んでおり、一番近くでは老魔女が寝込んでいる。
「十一シックル…だと思うッス。まぁサービスしてやっても良いけどー」
「今度払ってやる。ロンドン郊外の『チャイリストン』までだ。できれば、レンガ造りの建物の前」
「結構近いなぁ。すぐ着くッスよ。あ、十三シックルでココアがついてー、十五シックルで湯たんぽと好きな色の歯ブラシがついてくるけどー良い?」
「あぁ、別にいらない」
思ったよりもショボい景品だな。
リンネはそう思うと、クメルに案内されたベッドに腰掛けた。その瞬間に、バスは光の如く目で追えないほどのスピードで走り始めた。マグルの目には、きっと見えていないのだろう。
ある時は畑の中を通り、またある時は消化器や外灯までもを貫通していた。
五分もしないうちに、バスはブレーキをかけて止まった。窓からチラリと覗くと、あのルークの屋敷へと繋がるレンガ造りの巨大な屋敷までたどり着いていた。便利なバスだ。
「ほーい嬢ちゃんトランクッス」
「驚いたな。まさか、此処まで万能とは」
「常識の範囲内ッスよー、じゃあ、良い休暇をー」
リンネがバスから降りると、バスは一瞬にして姿を消してしまった。
孤児院はお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたしましょう。
さて、今回はあっさりと寝床がなくなり、夜の騎士バスに乗るお話でした。アズカバンの映画版のバスのシーンが物凄く好きで、何度も何度も見ていました。今日妹は、アズカバンの囚人を家族と観るそうです。
リンネちゃんは、先代のヴォルデモート卿とは異なる点がいくつかあります。その中の一つは、下僕でも容易に命を奪ったりはしない事です。ヴォルちゃんは、キレた時に関係のない人を殺したりしますが、リンネはそんな事はしません。魔法界征服のための人員となるかもしれないのだから。
そして、これから英雄達はしばらく出ません。ハリーファンごめんね。
【
迷子の魔女と魔法使いのための「お助けバス」。魔法界での常識の範囲内ならば、大体の所はいける。
三階建で紫色をした細長いバスで、どんな場所でも構わず突っ込んでいくので、荒ぶりようが半端ない。この中で熱々のココアを飲もうモノならば、火傷は間違いなし。
マグルは姿を感知する事ができない。杖腕を出す事で、呼び出す事ができる。
【クメル・シャンパイク】
「
スタン・シャンパイクの息子。恋人募集中のニキビ面。バスの車掌は、意外と儲かるらしいよ。
【アーン(アーニー・プラング)】
「
サンドイッチが好物。あげると懐く。