Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜 作:カドナ・ポッタリアン
ボーバトンもダームストラングの二校は、随分と目立つ方法でホグワーツを訪れた。
ボーバトンは空飛ぶ天馬の引く巨大な馬車で、宙を美しく舞ってきた。しかも、馬車の通った後には輝く虹の橋が架けられ、その上では天馬の赤ん坊達が滑っていた。
ダームストラングは黒い湖の中から、大きな海賊船に乗って現れた。船の先っぽが見えたかと思えば、突如として巨体があったのだ。デッキの上では、筋肉隆々の生徒達が船を止める作業をしていた。
リンネは取り巻き達とそれを見物し、大した事ないなとため息をついた。目立ちたがり屋だから、もっと面白いショーを見せてくれるかと思ったが…つまらない。
その後の夕食の席では、魔法省の役人がやってきた。国際魔法協力部部長、ルーナルド・ファレス氏と魔法ゲーム・スポーツ部部長のユードスト・バグマン女史だ。
ボーバトンの校長は、ハグリットよりも巨大な背丈を誇る美しいとは言い難い巨体の女性…オリンペ・マクシーム。彼女はかなりの歳だが、ハグリットと知り合いのようで、顔を合わせた途端両者嬉しそうな顔をしていた。
「あの女…巨人が入っているな。森番と一緒だ」
「そうなんですか?」
ダームストラングの校長は、メイツキー・ウィスプという若い男で、「クィディッチ今昔」という本の著者のケニルワージー・ウィスプの子孫らしい。落ち着いた深緑色の髪色で、不思議な空気を纏っている人物だった。
「あの男…妖精が入っているな」
「そうなんですか?!」
「嘘だ」
「で、ですよねぇ…」
「というのも嘘だ」
「え゛…」
「と…いうのも嘘」
「えぇッ…」
ダームストラングは三十年前は、闇の魔術に力を入れていたようだったが、現在は落ち着いているらしい。かつてのブルガリアの優秀なシーカー、ビクトール・クラムは現在この学校で飛行訓練の教師をやっていると話しているのが聞こえた。ダームストラングは闇の魔術の代わりに、クィディッチに何よりの情熱を注いでいるらしい。
両校の生徒達は、美男美女の揃うスリザリン寮のテーブルに座りたがったが、結局は先生方に説得されて「妥協」という事でグリフィンドールとハッフルパフのテーブルに座っていた。
夕食の席は珍しく、フランスとブルガリアの料理が出されていた。正直、イギリス料理よろ美味だ。毎日これを出せマクゴナガル。
「静粛に! 静粛になさい!」
デザートがパッと消えると、マクゴナガルが鶴の一声で生徒達を黙らせた。皆の視線が校長に向いているのを確認すると、ファレス氏は立ち上がってこう言った。
「国際魔法協力部の、ルーナルド・ファレスです。…この度の、『
大広間にざわめきが走る。リンネの隣に座っていたナインやオールも非難の声を上げたが、スリザリンの美しき王は何も言わなかった。
「今年度のトーナメントの選手も、この公明正大な審査員によって選ばれます」
ファレス氏が手を叩くと、数名の部下が魔法で大きな石のゴブレットを運んできた。ゴブレットの中にはまだ何もなく、生徒達のざわめきは大きくなっただけであった。
「静かにお願いいたします。…ゴブレットの周りには、年齢線が設けられ、部下達の見張りがつきます。今回のトーナメントは、非常に危険です。生半可な態度で、名前を入れないように。さて…それでは、『
彼が叫んだ途端、大広間の真ん中に置かれた巨大なゴブレットに、青い炎が現れた。パチパチと揺らめく炎のゴブレットの周りには、一瞬にして白い雲のような線が引かれた。これで、十七歳未満の者は通れないのだろう。
しかし、そんなモノはリンネにとっては無意味に近い。せめてモノのリンネ対策なのだろうが、全くの無駄骨だ。リンネはスリザリン寮で大きな声で、こうつぶやいた。
「あ〜ぁ、私もトーナメントに参加してみたかったな…」
途端にスリザリン生の目の色が変わり、彼等はあの手この手を使ってゴブレットにリンネの名前を入れた。
ある者は自分の名前の代わりにリンネの名前を入れ、ある者は「老け薬」を使用してリンネの名前を入れ、ある者は見張りの役人の意識を奪ってリンネの名前を入れーー参加したいとは言ったが、そこまで過度な事をしてまで参加したいとは思わない。あくまでも、自分の力量を確かめたかった程度だ。
しかし、孤児であるリンネにとって賞金千ガリオンは実に魅力的だった。
ボーバトンとダームストラングの生徒は、初日に全員名前を入れ終えたようで、ホグワーツからはスリザリン以外の各寮優秀な魔女や魔法使いが入れたと聞いた。しかし、ホグワーツの生徒はシャイなのか恥ずかしいのか、あまり人目のつく場所で名前を入れなかった。
気がつけば、選手の選ばれる日が来ていた。炎のゴブレットは、まるで決心が決まったかのように炎を緑色に変え、約束の時を待ちわびていた。生徒達もまた、一体誰が選ばれるのだろうと、ワクワクしながらその時を楽しみにしていた。
この日の夕食の席はいつもよりも騒がしく、興奮に満ち溢れていた。
リンネは、自分の寮の生徒達が自分のために四苦八苦しているのを知らなかった。知っているからどうこうするわけでもないが、「誰か入れる奴はいるだろうな」と、試しに言ってみただけだ。ただそれだけ。
「どうやらゴブレットも、代表選手を選び出す決心をつけたようね」
レタスを貪りながら、バグマン女史はそうつぶやいた。それを聞いたマクゴナガルは、笑顔で言う。
「そうですね…リンネ・ゴーントは…?」
「大丈夫よミネルバ。彼女は全くゴブレットに近づいていないわ。ただ、スリザリン生が必死に名前を入れようとするのが面白いのよね…ふふ、グリフィンドールだと思ったわ」
「貴女もグリフィンドールでしたね、ユード」
マクゴナガルは過去を思い出すように目を閉じる。
「そうよ。だからこそ彼等の考えは分かっているつもりなの。騎士道を貫くグリフィンドール。ただ…馬鹿なのよね。他の寮よりもうんと」
「私も否定はいたしませんよ」
「スリザリンとの対立は、相変わらずかしら?」
「えぇそれは勿論。好い加減、グリフィンドールとスリザリンの対立をなくしてほしいですね。だから合同授業を多くしているのに…」
「ダンブルドアの方針に従ってかしら?」
バグマン女史は次に、泡を立てる墨色のジュースを飲み干した。彼女はマクゴナガルの飲んでいるファイアウィスキーにチラチラと視線を向けていたが、職務中はアルコールは禁止だ。
ダンブルドアは、かつてよりグリフィンドールとスリザリンの対立をなくすために合同授業を増やしてきた。結果としては、大して変化もなく、逆に悪化したようにも思われた。過去の創設者達の対立が、今現在になってまで残っているなど、あってはならない事だ。
「ミネルバの旦那様が亡くなって…もう四十四年かしら。あッ…ごめんなさい、急にこんな事を言いだして」
女史は口を紡ぐ。マクゴナガルの夫エルフィンストーン・アーカートは、四十四年前に有毒食虫蔓に噛まれて死亡したのだ。もう忘れかけていた事だが、今となってはまだ尚心の痛む事件だ。
「別に構わないのですよ」
「じゃあ、良い人は見つかったの?」
「私はもう歳ですよユード。そろそろ引退も考えていますが…リンネ・ゴーントが卒業するまでは、まだ…」
「そんなにもあの子が不安? 良い子じゃないの? 見る限りは、品行方正な美少女よ。仲間達に囲まれて、成績優秀で、孤児だけどたくさんの魅力を持つ子よ。将来が楽しみだわ」
「…」
マクゴナガルだって、リンネの事を信じたかった。しかし、どうしてもヴォルデモートと姿が重なってしまう。マグル惨殺を繰り広げた残虐な犯罪者、「ヴォルデモート」。ダンブルドアの博愛性は肖像画にも影響し、彼はリンネをホグワーツに入れなさいと言う。もし世間体に彼女の存在が知られたら、一体何が起こるだろうか。
ヴォルデモートの被害者達は皆一斉に、リンネを殺そうとしてくるだろう。ヴォルデモートに貼らせなかった恨みを、血縁であるリンネにぶつけようとしてくるだろう。魔法省側としても、そんな事は許してはならないとして、隠蔽工作を図り続けた。
リンネのいた孤児院が焼かれた理由も、魔法省はまだ解明が進んでいなかった。彼女がヴォルデモートの親族と知った者による犯行か、もしくは闇の魔法使いによる犯行かーー
哀れな被害者か、闇の帝王の再来か。何方にも取れる彼女は、魔法省を一層困惑させた。故に、連絡が遅れてしまったのだ。
「大丈夫よミネルバ。気を落とす事はないわ。…もしあの子が闇に堕ちそうならば、ミネルバが助けてあげるのよ。勿論、ホグワーツの教師達全員で」
「私が? でもそんな事…」
「どの道を進もうが自分の自由。だけど、それが間違っていてはいけないの。生徒が不幸にならないように、生徒の道を正し、導くのが貴女達教師の仕事よ。『例のあの人』の復活だなんて、考えちゃいけないわ。あの子はあの子。あの人はあの人よ。ただ、ミネルバは心から、彼女を信じてあげるの。そうすればきっと…あの子も分かってくれる」
「そう、ね…」
バグマン女史の言葉で、マクゴナガルは少し勇気づけられた。
そして、バグマン女史がテーブルに残った最後のかぼちゃパイを取ろうとしたその瞬間、各寮のテーブルの料理は消え去った。バグマン女史の残念そうな顔は、まるで世界の終わりでも見ているかのようだった。
「それでは、今から選手を発表いたします! 呼ばれた選手は、こちらの扉の奥で待機していなさい。そこで、最初の課題のヒントをお教えしましょう」
マクゴナガルは年齢線を消し、ゴブレットの真横に立った。大広間のロクソクは小さく小さくなっていき、今にも消えそうな明るさを保った。皆生唾を飲み込み、炎のゴブレットの返答をただ待ち構えた。誰も何も喋らないし、微かな音も立てない。
炎のゴブレットは真っ赤に光、一枚の紙をヒラヒラを舞わせた。マクゴナガルはそれを空中で上手くキャッチすると、大きな声で読み上げた。
「ボーバトンの代表は…レノア・ブランシャール!」
三つの学校の生徒達は、大きな拍手歓声を送った。ボーバトンのいる場所から立ち上がったのは、顔を真っ赤にして今にも悲鳴を上げそうなブロンドの背の高い女性だった。綺麗に整った顔立ちは、あらゆる万物をも魅了しそうだった。
レノアは手で顔を覆いながら、奥の扉に消えていった。
再びゴブレットは紙を吐き出し、マクゴナガルはそれを読み上げた。
「ダームストラングの代表は…クリスト・ジェイコフ!」
またもや拍手喝采が湧き上がった。ダームストラング生の中から立ち上がったのは、中性的な男子生徒だった。細身でも筋肉質でもなく、平均並みの顔の、平均並みの見た目の生徒だった。あまり目立ちそうではないが、選ばれたという事はそれなりの力量は持っているのだろう。
彼が奥の部屋へ入ると、ゴブレットは最後の学校の代表を選び出した。現在のホグワーツは、優秀な生徒が多い。選びに選んだ結果か、それとも元より決まっていた事か…
「ホグワーツの代表は…えッ?! あ、いや…そんなまさか…でも…ッ、リンネ・ゴーント!!」
個人的に、「炎のゴブレット」が一番好きです。このお話を書く際には、必ず出そうと思っていました。まぁみんな予想していた通り、ホグワーツ代表はリンネちゃんです。
リンネは特に目立ちたいわけではありません。寧ろ逆ですが、自分の今の力量を知るためにトーナメントは丁度良いと踏み、談話室であんな事を大声で言いました。勿論彼女が自分で入れるのも簡単ですが、それだと今まで築き上げてきた信頼が一気に崩れる気がしたので、ああやって生徒達を操りました。
そして今回は、新キャラたくさん...別校の代表選手は、次の話に回します。ではどうぞ。
学校紹介
【ボーバトン魔法アカデミー】
ヨーロッパの三大魔法学校の内の一校。フランスに存ずる学校であり、詳しい場所は不明。比較的美男・美女が多い共学校。現在も、マダム・マクシームが校長を務める。
ニコラス・フラメルの出身校。
【ダームストラング専門学校】
ヨーロッパの三大魔法学校の内の一校。ホグワーツ規模のかなり大きな学校であり、ブルガリアに存ずる。詳しい場所は不明。共学校。現在の校長は、若き天才メイツキー・ウィスプ。
グリンデルバルトの出身校でもあり、一時期は差別的思考があったが、現在は安定している。
人物紹介
【ルーナルド・ファレス】
魔法省国際魔法協力部部長。白い髪が特徴の優秀な老年魔法使い。「
【ユードスト・バグマン】
魔法省魔法スポーツ・ゲーム部部長。元・魔法スポーツ・ゲーム部部長であるルード・バグマンの娘。父親の小鬼への借金を人望だけで返済するなど、かなり幅広い交友関係を持つ。フレンドリーな性格で、基本的に前向き。父親と違って勇敢なため、グリフィンドールに組み分けされた。
【オリンペ・マクシーム】
ボーバトン魔法アカデミー校長。ハグリットよりも大きな身長を誇る巨体の魔女。巨人の血が流れている。ハグリットの行為を抱いており、現在でも文通をしている仲。好戦的な性格であり、魔法の腕は確か。
【メイツキー・ウィスプ】
ダームストラング専門学校校長。歴代校長の中で最も若いが、実力は闇祓い数名を一分で倒してしまうほど。「クィディッチ今昔」の作者、ケニルワージー・ウィプスの子孫。落ち着いた深緑色の髪色で、不思議な空気を纏っている彼を、リンネは「妖精」と比喩した。