Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜   作:カドナ・ポッタリアン

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第四十五 パーティはそれなりに

 

 遂に、トーナメント恒例のダンスパーティの日がやってきた。リンネは豪奢に繕われた真っ黒なドレスを着ている。所々に緑色の蛇が施されており、スリザリンらしさが際立っている。今夜ばかりはナルを連れていく事も出来ず、ナルは部屋でお留守番。

 リンネは内心ドキドキのオールのエスコートされながら会場へと向かった。

 

 誰もが彼女の美しさの虜となった。いつもよりも輝く赤い瞳の魔力は、見る人全ての心を掻っ攫っていく。オールはこんな綺麗な人のパートナーだなんて…!と恐縮した気分にもなったが、同時に歓喜と誇りの感情も生まれた。

 美と黒の融合体。彼女を例えるのならそうだろう。

 

「おやミス・ゴーント。お綺麗ですね」

 

 代表選手は大広間の前の中央階段でパートナーと待機となっているが、リンネは遅れた登場だ。既にレノアとクリストの姿もあった。そして、そこで待ち構えていた副校長のクロート教授の説明が始まる。

 

「…今から皆さんには、代表の選手として会場の真ん中で踊っていただきます。あぁ、新聞社の方も入れていますが、あまり気にしないように。…少し待っていなさい」

 

 クロートが去ると、某雪の女王を連想させる格好をしたレノアが、リンネを姑のようにいびり出す。

 

「あーら、随分と|貧相(いんそう)で地味なドレスじゃないでーすか。霞んで、見るこーとも出来ませーんね」

「おや、それは私が眩しくて見えないという事か? 貴様こそ、悪口は美しさを落とすだけだぞ」「よく言ってくーれます! アナータは自分の立場くらい弁えなーさい」

「はいはい」

 

 自分のパートナーとオールとクリストが、「女の嫉妬って怖い」と口々にヒソヒソと言い出したので、レノアは顔を赤らめつつ口を閉ざした。

 リンネはこの女の態度が不思議でならない。自分の容姿に自信があるのなら、それより格下と思う相手に何故悪口を言うのか。まぁ考えればすぐ分かる、か。本当は強気なだけで相手よりも勝る正しい方法を知らない。もしくは、外見を磨く事に必死で内面が薄汚れてしまったか。

 何方にしろ、リンネには関係ない事ではあるが。

 

「ゴーント選手、ブランシャール選手、ジェイコフ選手、準備が出来ました。入りなさい」

 

 大広間へ入ると、正装を身に纏った生徒達の拍手に包まれる。

 今年のパーティのテーマは「海」のようで、水がないにも関わらず、美しい魚々が泳ぎ戯れている。天井からは色とりどりの鍾乳洞が垂れ、床には波紋が広がっていた。青白い光は人々をより一層引き立てた。

 

「オール、言っておくが、私はダンスは踊れんぞ」

「そ、そうなんですか…?」

「キチンとリードしろ。もし下手に動いて私に恥をかかせたら…後でたっぷりと後悔させてやる」

「は、はい…!」

 

 そう。この大衆の面前で、恥を晒すわけにはいかない。プライドの高さはエベレスト級。もしリンネが転倒でもすれば、オールは確実に皆に拷問にかけられた上で殺されると覚悟していた。

 大広間の中央で、選手達はダンスの準備を整える。肩と腰に手をやり、音楽が鳴るのを待つ。

 

「やだリンネ様だわ」

「物凄くお綺麗ね〜」

「オール…!! あいつ裏切りやがった!」

「俺こそがゴーント様の隣に立つに相応しいのに!!」

 

 生徒や教師達の視線は、学校も老若男女も関係なく、全てリンネに注がれていた。正に美の集大成。正に美の宝石を散りばめた星。

 天使でもない。さして悪魔でもない。黒と蛇と紅蓮が妖艶に絶妙に絡まり、多くの人を魅了した。その姿は、彼等の瞳にはこう映った。

 

「『黒い女神』ーー」

 

 海底と化した大広間の中に、黒い光で輝く真珠が煌めく。オーケストラの旋律の波に乗り、坦々と色を奏でて踊りが始まる。

 誰よりも優雅に。誰よりも美しく舞うその人の姿は、刹那に咲き誇る花の如く羽ばたいていた。

 

「り、リンネ様…上手いじゃありませんか」

「そうか? 初めてだが…何だか悪いものではないな。気分が良い。もう少し付き合えオール」

「はい。畏まりました」

 

 リードする所か、リードされちゃってるじゃないか。

 どんな事でも完璧超人なご主人様に驚きつつも、やはりと頷くしかない。もう他の生徒も踊って良いはずなのに、誰も入る余地がなかった。そんな勇気も自信もなかった。だってあの輝きの中には余程の勇敢さがないと、立ち入る事など出来ない気がするのだから。

 三曲も四曲も踊っても誰も入らない。寧ろレノアもクリストもダンスを止めてしまった。故にリンネは立ち止まり、ため息をついたわざとらしく呼びかけた。

 

「皆さん、折角のダンスパーティなのに、何故踊らないのですか? 皆さんと楽しく踊りたかったのに…私帰ろうかしら」

 

 すると、続々と生徒達がダンスフロアへと駆け寄る。オーケストラの方々は慌てて他の曲を奏で始めた。

 

「オール、とりあえず出るぞ」

「は、はい」

 

 食事用テーブルは透明なガラスで出来ており、金銀の皿が並んでいた。いくらかがそれに座り、いつもより豪勢な食事を口にしている。

 

「…オール、私は腹が減ったから食事をするぞ。あぁ、貴様は踊っていても良いが」

「いえ大丈夫です。僕も丁度お腹が減ってきた所なんですよ」

「そうか」

 

 今夜の食事システムは画期的で、皿の前で食事名を言えばすぐさま現れる仕組み。どんな魔法が使われているのかが気になる所だ。

 適当に腹を満たしつつ、リンネは大広間の幻想的な雰囲気を一人で楽しんでいた。いつもこんな綺麗な景色だったら良いのに。

 

「そうだ。部屋に同じ魔法を付与しよう」

「突然何を言い出すんですか…」

「オール、この場合はどうすればもっと綺麗な魔法になると思う? ある程度のイメージはあるが…やはり他の人間の意見も取り入れた方が良いと思ってな」

「そんな聞かれても困りますって…」

 

 リンネの頭の中は部屋を綺麗にする魔法でいっぱいになりながら、今宵のパーティは幕を閉じた。

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