Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜   作:カドナ・ポッタリアン

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第四十六 美と死と薬

 白い髪をなびかせ、美しい肌を露わにし、一人の少女は黒い湖の畔でため息をついていた。その姿はまだドレスのままで、彼女の足にあるヒールの踵は折れている。その綺麗な肌にもいくらか擦り傷がついており、大広間から此処まで一人で走ってきたのは確かなようだ。

 少女、と呼ぶには少し美しすぎる。女性、と呼ぶには少し子供すぎる。そんな彼女は、一人で月夜の下涙を流していた。

 

「何で、何で誰も私を見てくれないのよ…!!」

 

 口から漏れるのは、片言の英語ではなく使い慣れた母国の言葉。品と美の国の彼女は、自らの尊敬するマリー・アントワネットの姿を思い浮かべた。

 高慢で、我儘で、しかし心地よい美しさを持つ皆の憧れの的でありファッション・リーダー。彼女の言動、姿形、全てが彼女の憧れであった。

 それだけではなく、皆に愛されたい。注目されたい。甘えたい。讃えられたい。

 

「あの女ばっかり…ゴーントって女ばっかり…!!」

 

 彼女は近くの石を拾い、思い切り湖に投げつける。湖の水が飛び散り、それに映る月はユラユラと蠢いた。

 折角厳選した美形を捕まえてパートナーにしたのに。折角最高級の素材を使ってドレスを作ったのに。折角ダンスを猛練習したのに。

 何もかもがリンネ・ゴーントのせいで台無しになったのだ。パートナーでさえ彼女に見惚れ、ドレスの質は良くてもそれを引き立てる力は劣り、ダンスも負けていた。こんな屈辱、今まで味わった事がない。

 

 人より勝りたくて、チヤホヤされたくて、褒められたくて、愛されたくて。だから人の何倍も頑張って魔法を練習したのに、勉強したのに、美容に気を使ったのに、美しさを守ったのに。

 何であんな何もしていない女に負けたのだろうか。

 

「あんなクソアマ! 試合で負けてしまえば良いのに!! 皆の前で恥をかけば良いのに! そしたら注目されるのは私なのに!」

 

 あの自信に満ち溢れたリンネの顔を、羞恥に満たせたい。あの周りの拍手喝采を、嘲笑へと変えたい。あのリンネに惚れ込んだ取り巻きた達を、全て自分のものにしたい。

 どうすれば、一体どうすればーー

 

「叶えてあげましょうか? その願い」

「誰ッ?!」

 

 突如背後から声が聞こえ、彼女は慌てて杖を取り出し、その人物に向ける。そこには誰であろうか、ダームストラング現校長のメイツキーが立っていた。気味が悪いほどの清々しい笑顔。それとは裏腹に、笑顔の裏は真っ黒なのがレノアにも分かった。

 この殺気と冷たい感触は、並の人間の出せるものではない。人に恐怖を与える。そんな力が、メイツキーからは感じられた。

 

「な、何の用、ですか?」

「いえいえ。随分と君の心が雨模様だったのでね。私は傘を貸しにやってきただけだよ」

「…余計なお世話です」

「そうかい。…リンネ・ゴーントに、恥をかかせたくはないのかい?」

「そりゃあ、かかせたいわよ」

 

 あの完璧な人間に、一泡吹かせてやりたい。皆に指を指され、笑われる羞恥を味わわせたい。

 

「ならば、私がその願いを聞き入れよう。こちらでいくつか課題に細工を施させてもらう。それにより、リンネ・ゴーントが活躍出来なくする。どうだい?」

「そりゃあ良いわね。それで、私は何を要求されるの? お金?」

「違う違う。難しい事じゃないよ。別に体を売れってわけじゃないし。…まぁそれは、こちらが成功してからで良い。こちらとしても、リンネ・ゴーントには興味があるしね」

 

 メイツキーはその整った顔を歪め、高笑いする。あまりの恐ろしさに、レノアは少しも動く事すら出来なかった。湖の生き物達もまた、彼の魔力に支配され、恐怖に慄いた。

 

「じゃあ、また今度。今は精々、涙を流しておく事だ。それは中々、スッキリする」

 

 あの男が何をしたいのか、レノアには全く理解が出来なかった。ただ分かったのは、あの男には一切逆らってはならないという事だけだ。

 

 *

 

 騒がしい大広間の中で、一人のダームストラングの男子生徒は酔っ払ってテーブルに突っ伏していた。現在大広間は、「三代目★妖女シスターズ」の歌で盛り上がっている。

 男子生徒の名は、シュウ・サイコリア。三校の男子の中で一番二番を争うの美形の男子生徒。にも関わらず、現在は美しいパートナーに放り出され酔い潰れる始末。全く情けない男だ。

 

 正直サイコリアがパートナーになりたかったのは、ボーバトンの代表選手ではなく、ホグワーツの代表選手だ。レノア・ブランシャールは美しいが、人を蔑んでその上に立つ美しさを保っているため、サイコリアは好きにはなれなかった。ただ周りがしつこいのでとりあえず申し込んでみたらOKを貰っただけの話。

 ホグワーツの代表選手リンネ・ゴーントは、噂によればホグワーツをほぼ掌握し、まるで国王のように崇め奉られているという。教師陣の一部でさえ彼女の美しさにひれ伏すほどらしい。

 リンネのパートナーは、彼女に一番近い取り巻きでもあるオール・ダウント。あんな奴に負けたのかと、サイコリアはずっとため息をついていた。

 

「アレレー、これはダームストラングの美男子シュウ・サイコリアさんじゃありゃーせんの〜?」

 

 すると、サイコリアの耳元で誰かが囁いた。ネットリと絡みついてくるような嫌味ったらしい声。ハッと振り返ると、そこには、可愛らしいピンク色のドレスを着た女の子を脇を抱えた、黒髪の好青年が立っていた。

 

「…誰だ」

「俺? 俺はナイン・ダウント。今お前が嫉妬してるオール・ダウントの双子の兄弟」

「…何の用だ。からかいに来たのか?」

「いいや。お前のパートナーは何処に行ってしまったのかと思ってな。あぁそうだ、薄汚れた(・・・・)真珠の涙を流して外に駆け出していったっけな」

 

 ナインはそう言うと嘲笑を浮かべる。傍の少女は、そんなパートナーに呆れも怒りもせず、ただ呆然を見惚れているだけだった。

 

「そういうお前の双子の兄弟と、ホグワーツの代表選手は何処に行ってしまった?」

「あぁ、リンネ様は皆みたいにギャーギャー騒ぐタイプじゃないんでね。先に部屋に戻られたよ。オールの宿題がまだ片付いていなかったようだし、リンネ様自身も追加でレポートを書かれるとか仰っていたな」

「…一生徒に様、か」

 

 サイコリアは呆れたようにため息をつくと、ナインの眉間にシワが寄った。彼のパートナーでさえ息を飲むほどの殺気を放ち、ドス黒い声でサイコリアに脅しかける。

 

「おい、貴様、リンネ様を馬鹿にするな。あの方はこの世に敵うものがない程の美貌を持ち、ホグワーツ教師を束ねても勝つ事の出来ない才能と魔力と力を持つ、最高にして最恐のお方だ。『一生徒』? リンネ様は、ホグワーツ生徒の王だ、主だ。馬鹿にするのも大概にしろ。次にそんな口叩こうもんなら、俺の部下達を取り揃えて、お前を影も形も残らない程グチャグチャにしてやるからな。…行くぞ」

 

 あの男が何をしたかったのか、サイコリアには理解が出来なかった。ただ分かったのは、あの男だけではなく、リンネ・ゴーントを敵に回してはいけないという事だけだった。

 

 *

 

「誰もいないな、談話室」

「えぇ。誰もいませんね、談話室」

 

 いつも物静かな雰囲気のスリザリン寮談話室は、本日いつにも増して物静かだった。人っ子一人いない無の空間の中、温かい暖炉の前で二人の男女は勉強に勤しんでいた。

 片方は主。片方はその取り巻き。ドレスやタキシードはもう着替え、ローブのまま魔法薬に関しての宿題を進める。しかしそれは取り巻きだけの話であって、主は新たな魔法薬の作成方法について自主レポートを三メートル程にまとめていた。それはもうまとめてねぇよ、要約出来てねぇよ、などというツッコミは控えていただこう。

 

「ヴォルデモート卿、第二の課題については順調でしょうか?」

「…聞くまでもないだろう」

「仰る通りです。第二の課題で、卿が一体どんなご活躍をなさるのか、下僕一同期待しております」「そうか。では、期待に添えるように尽くそうではないか。それでだなオール。新薬を今現在開発しているのだが…お前、実験体になる気はないか?」

「…え」

 

 リンネはレポートを畳み、懐から小瓶を取り出す。紫色の液体、絶対に毒が入っている。そう思える魔法薬だった。

 

「嫌か。そりゃあそうだろうな。別に普通の反応だろう。安心しろ、ただこれを、グリフィンドールの反乱分子連中に盛れば良いだけだ。適当な下っ端にやらせておけ」

「畏まりました」

 

 オールはそう言うと、リンネから小瓶を受け取る。本当に才能に溢れた人間だ。もし彼女が闇の魔女でなかったら、一体どんな歴史に残る偉大な人物になっただろうか。しかし、誰もそんな事は期待していない。悪であり、黒である事こそが、リンネのあるべき姿なのだから。

 

「卿、この薬の効果はまだ分からないのですか?」

「ん? 上手くいけば、飲んだ人間は一日中、周りの人の言う事を訊く事しか出来なくなる」

「恐ろしい薬ですね…これを活用すれば、どんな悪い事でも」

「しかし欠点があってな。一定の人間の絶対服従ではない。もし何か悪事を働かせる事が出来ても、誰に命令されたかを聞かれれば、否応なく答える。まだ改良が必要だ」

 

 魔法薬作りは実に興味深い。魔法とは一味違った深い知識と力を手に入れる事が出来る。魔法はその人間の魔力の器や才能に頼るが、魔法薬は必ずしもそういうわけではない。材料と正しい手順を踏めば、マグルでさえも調合する事が出来る。だからこそ興味深いのだ。

 改良するためには、いくらかの実験体が必要不可欠。自らは実験体にするなんて論外。どうでも良い人間の方が好都合だ。

 

「何だか、楽しみですね」

「そうだな。まぁ、効くに決まっているがな」

「…リンネ様は、不死に興味がおありですか?」

「唐突だな」

 

 リンネはオールの顔を見る。しかし彼は珍しくリンネの方を向いておらず、俯いて下のみをみつめている。

 

「不死…死を超越してこその、闇の帝王といえよう。私は生きる事にどうにか縋ろうという気はないが…帝王となるには、死さえも克服せねばな。まぁ、まだ私の人生は長い。今考える事ではないだろう」

「そうでしょうか?」

「あぁそうだ。まぁ年増になれば、ある程度は考えるだろうがな。…私が大事にしているのはーー勿論これからの事もだがーー今だ。今をどう生きるか。それが未来にどのような影響を与えるか。故にまだ縁遠い未来に興味はない。では、眠いから私は寝るぞ」

「えぇ。お休みなさいませ」

 

 リンネは欠伸をしながら階段を上がって自分の部屋へと入っていく。一人残されたオールは、自らの手を見つめ、近くのソファに寝転がった。

 

「やはり彼女は、先代とは異なる存在だ。死を恐れない。生に固執しない。…ただ力を求める。ーーーそれでこそ、帝王の器だ」

 




美と死と薬の回。嫉妬とは恐ろしいですよね。リアルでもあり得そうな女の嫉妬。
慕われたい、愛されたい、褒められたいーー自己顕示欲は誰にでもある欲。嫉みが人を変え、そして悪魔に魂さえも売り払ってしまう。メイツキーは本当は、人間ではないのかもしれませんね。
それより、リンネばっかり輝いているけど、レノアもそれなりに綺麗ですよ。フラーはヴィーラが入っていますが、レノアは普通に純人間です。

【シュウ・サイコリア】
ダームストラング校代表選手候補。かなりの美形ではあるが、彼自身はレノアよりもリンネのパートナーになりたがっていた。ロリコンというわけではないが、可愛い娘が好き。
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