Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜 作:カドナ・ポッタリアン
気色の悪い夢だった。あんな蛇顔が自分の頭の中にいると思うと吐き気がする。目が覚めた時刻は早朝五時弱。朝日の昇る、まだ肌寒い時間帯だ。
今日の八時から、「第二の課題」が始まる。朝っぱらから動けと言われても正直やる気が出ない。大方の謎は解いたので大丈夫だろうが、やはり気分が乗らない。まぁ、あんな凡人二人組になんて負ける気がしないが。
『おはようございます、ご主人様』
『…あぁ、おはようナル』
『元気がないようですが、大丈夫ですか? 今日は第二の課題ですよ?』
『平気だ。少し気持ちの悪い夢を見てしまっただけだ』
醜い顔を持った奴のな、と付け加えればナルは手首に巻きついてくる。
『私はご主人様の夢を見ましたよ。貴女様が、私から離れていってしまう夢を。とても悲しかったです』
『何を言っている。私とお前は死ぬまで一緒だ。昨夜約束しただろう』
『そうですね、私が蛇でいる限り、私はご主人様の服の中から出ま『止めろ』何でですか』
蛇顔なんかより、ナルの方がずっと良い。容姿がよくなっても中身はあの厨二病だ。ハゲだ。人ではないけれど、自分の心に寄り添い、何処でも一緒の存在はナルだけだ。
『でもまぁ、お前だけは信用出来るさ』
『じゃあ、私の事愛してますか?』
『愛? …どういうものが愛だ?』
世では愛だと友情だとの喚く空想家がいるが、実質そんな不可視な存在は不死を求める心以上に理解不能だ。きっと私にもあるのだろうが、どういった感情だかは分からない。
『愛にも様々な種類があるのですよ。私の言う愛は、相手を思いやり、考え、そして心から一緒にいたいと思う事です』
『では、お前の論では私は愛など持っていないな。私は人を思いやったりなんてしないし、一緒にいたいとも思わない』
『私はどうですか?』
『ナル? お前は…まぁ、他の誰かよりかはマシだな』
『此処でツンデレを発動させないでください』
もし蛇顔とナル、何方かを選べと言われたら、私は淀みなくナルと答える。え、差がありすぎる? 気のせいだ。
リンネはナルを巻きつけたまま寝返りを打つ。蛇の瞳と自らの赤か混じり、ナルの心の奥底が見えたような気がした。対してナルは、その紅蓮の花に魅了され、そのままキョトンと見とれてしまった。
『さぁ、行くぞナル。課題の時間だ』
『えー、もう少し見つめ合いの時間がほしかったですー』
*
第二の課題は黒い湖で行われる。憎きダンブルドアの墓がある湖。課題なんかよりも大理石の墓を破壊してやりたい衝動に駆られるが、此処は我慢だ。何れ、必ず壊す。平和と歴史と共に。
湖の畔には観客席が設けられている。クィディッチ競技場から丸々持ってきたような、大きな観客席。リンネ以外の代表選手は水着を着ているが、彼女は依然として制服のローブのままだ。こんな寒い季節に水着なんて着ていられるか。
「ご主人様、水着は着ないんですか?」
「ハァ? 貴様は私に、この氷の中に水着で飛び込めと言うのか? 嫌だ、絶対に嫌だ。それに、私は二代目帝王だぞ。下衆の元にあんな露出度の高い物を身に付けるか。観客サービス? 何のメリットがある」
「でも私は見たいです」
「知るか。見たいならレノア・ブランシャールでも眺めろ。見ろ、あの曲線美」
リンネはレノアを顎で指す。ご丁寧に、観客に向けてストレッチをしているレノアが見える。健全な男子ならば思わず見つめてしまう容姿とナイスバディ。マクゴナガルが注意しているが、プライドの高い彼女がそれを聞き入れるだろうか。
「頑張ってくださいね」
「頑張るまでもない。優勝は私だ」
すると、バグマン女史の声が会場に鳴り響く。
『そろそろ試合が始まりまーす。選手は並んでください』
柵のない待機場に立ち、試合が始まるのを刻一刻と待つ。一歩足を踏み出せば冷たい湖だ。濡れるのは好きじゃない。泳げないわけではないが、だからと言って水が好きとも限らない。特に冬となれば尚更だ。
リンネはよく湖に来るが、それは四季の趣を楽しむためだ。泳ぎたいわけではない。
「あららァ、もしかしーて、あの貝殻の謎が解けなかったんでーすか?」
レノアが嘲笑を浮かべて伸びをする。
「いや。すぐに分かった。ただ私は、貴様みたいな露出狂ではないからな。水着参加を控えただけだ。寒いし」
「露出狂?! わたーしは、そんなんじゃなーいです!」
「ハイハイ」
こんな寒い中上着も着ないなんて露出狂以外の何物でもない。冬国育ちのクリストでも水泳用のパーカーを羽織っているというのに。この女は寒くないのだろうか。
すると再びバグマン女史の声が耳の中に飛び込んでくる。
『第二の課題は! 湖に放たれた魔法生物を、それぞれ捕まえてきてほしいと思いまーす! まぁ別に希少種じゃないから殺しても大丈夫だけど、なるべく、なるべく生きてる方が良いかな!』
すぐ真横でマイクに叫んでいるせいか、とても耳が痛い。始めから嫌な声だとは思っていたが、まさか此処までの不快音とは。耳を掻っ切るような声に耐え切れず、皆思わず耳を塞ぐ。
『あれ、何で皆耳塞いでるんですかー。まぁ良いや。私が合図をするので、飛び込んでくださいね! 三、二、一ィイ〜〜!!』
バグマン女史の合図を尻目に、二人の代表選手は湖に飛び込んだ。ただ一人、リンネ・ゴーントを置いて。途端に皆の目が丸くなる。この課題は湖に入らないとクリア出来ないというのに、ホグワーツの王はそれをしようとしないのだ。
観客席がざわめきに包まれる。
「み、ミス・ゴーント…スタートしてください」
マクゴナガルが声をかけるが、リンネは頷いて目を閉じ、杖を湖に向けるだけ。何かを唱えているようにも見えるが、端から見ればただの危ない人だ。いや、元より危ない人ではあったが…。
「あの…」
「『アクシオ 海蛇よ来い』」
今度はリンネは杖を上に掲げる。途端、ほんの数十メートル程先から大きな水の柱が出現し、巨大で透明のボールのような物が飛び出してきた。空中で止まると、それはゆっくりゆっくりこちらに近づいてくる。
息巻いた群衆がボールに刮目する。中には、水の中で蹲る三十メートル程の黒い海蛇の姿があった。愕然とする会場。しかし真っ先に正気を取り戻したバグマン女史が不快音を発する。
『き、キタァアーーッ!! 流石ゴーント選手ッ、まさかのほんの数十秒で、ゴーント選手は海蛇を捕まえたァ! 水に一歩も足を踏み入れる事なく課題をクリア!!』
会場が、拍手と歓声の爆音に包まれる。いや、ただ魔法使っただけなんだが、とは言わない。
大人達は押し黙る。生徒達はその術者の脅威と恐ろしさを理解していない。今までに見た事のない魔法の連発。今までにこんな生徒いただろうか。歓声を上げるワルガキ共が赤ん坊のように可愛く見える。
「ミス・ゴーント、何の呪文を使った」
あのいつも余裕そうな顔をするドSのユージュが、鞭をしまって切羽詰まった表情でリンネに詰めかけた。仕方ない、カマトト振るか。
「え、何故怒っているんですか?」
「何故も何も…あんな魔法、生まれたこの方見た事ねェ。早く! 言え!」
「まず、『千里眼呪文』で水中の海蛇を探し、『球体呪文』で水ごと閉じ込める。それから空中に浮かばせて、呼び寄せただけです」
「『千里眼呪文』って、俺でも使えるか分からねェぞ」
得体の知れない化け物でも見るような目。しかし、そんな表情は慣れている。慣れ親しんだ者にさえも向けられてきた瞳だから。もう、何も感じない。
とりあえず今は「そんなにヤバい事やっちゃったの?!」と慌てるいたいけな少女を演じます。
「『球体呪文』は初歩呪文ですが…あそこまで大きく出来るものではありませんよ」
ファレス氏やメイツキー、チェイスは楽しそうな顔をしている。嫌な空気は、嫌いじゃない。ナルは待機小屋から完全に追い出されているため、中の音を盗み聞きするしかなかった。
「何故、あんな魔法を…」
「水に、入りたくありませんでしたから」
リンネはそう、笑顔で言い放った。
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
なんつーか...忘れていました。やっ、止めて! 殴らないで! そんなに手を掲げて!! グギャアアアーー!!