Nightmore named the blood relative 〜新たな「闇の帝王」となった少女〜 作:カドナ・ポッタリアン
クリスマスの舞踏会も終わり、第二の課題も終わり、ハッピーニューイヤーの大騒ぎも終わった。
第三の課題まで、後数週間を切ったであろう日の朝。今日は二月十四日。バレンタインの日だ。
ジャパンのバレンタインは、女性から男性へ自分の恋心を伝えたりするもののようだが、イギリスのバレンタインは、逆で、男性から女性へ贈り物をし、愛を確かめる行事だ。
「ハッピーバレンタイン! ご主人様!」
「何だナル、うるさいな」
朝の大広間。
今日がバレンタインなんて知らないリンネは、テンションマックスのナルのノリについていけない。今までも何度かホグワーツでのバレンタインを過ごしたが、それほど思い出に残るものでもない。
オールやナイン、ナルから本や菓子を貰う程度だ。他の学生も、毎年リンネにプレゼントを渡そうと目論んでいるが、いつも周辺人物に阻止されている。
「今年のプレゼントはアレ、ホグズミードに連れて行って貰ったので、高級羽根ペンを買ってきました」
「個人的にはシャーペンの方がありがたかったがな」
「そんな事言わないでください」
すると、ナルが懐から緑色のプレゼントを取り出し、リンネに差し出した。
目の前の皿を退け、机にスペースを空ける。オールとナインが何事かと顔をこちらに向けた頃には、リンネはプレゼントの箱を開け終えていた。
「というか、さっさと蛇に戻れ。邪魔だ。何で戻しても戻しても人になる」
「いや、これ渡すまで人でいたかったんですよ。この姿は...クロート教授です」
「あの男...それで、これが...」
リンネが箱から取り出したのは、緑色の羽根、銀色の柄には蛇の彫刻さえている羽根ペンだ。
「まぁ...綺麗だ。一応礼は言っておこう。それより...代金は一体どうした?」
「オーダーメイドで、裏の職人に作らせました。ルーク・シンシアに言ったら、ご主人様のためならばと大金を払ってくださいました」
「ふーん...そう」
まぁ、綺麗だし良いか。
折角のプレゼントだから、特別な時に使おうと、リンネは箱にもう一度戻してカバンにしまった。
「そういえば、ナル様は人の
オールの問いに、ナルは小さく頷く。
「今勉強中です。ホラ...時間かかりますから、
「私はならないで欲しいんだが」
「杖をいただきましたからね。まずはこれを習得しなければ」
少し前までは、人ではない者が杖を持つ事が禁止されていたが、この間その法律が改正され、ゴブリンや屋敷しもべ妖精が杖を持つ事が許可された。よって、蛇であるナルも杖を持てるわけだが...
「お前、本当は人間じゃないか?」
「いや、私は蛇ですよ」
「こんな口達者は蛇はいない。それに、魔法が使える動物など...魔法生物か何かか? バジリスクの親戚か?」
「いや、普通の蛇ですよ」
「...もう良い。今度徹底的に調べてやる」
そしてオールやナインからプレゼントを貰い、少し上機嫌で一日を過ごした。
*
「禁じられた森」には、今も尚、課題で使われた魔法生物がいる。第一の課題でリンネが手懐けたグリフィンも、その「禁じられた森」の中にいた。
暇だなぁとぼやいていると、魔法省の役人であるバグマン女史に「面白いものを見せてあげる」と言われ、森へと連れてこられた。絶対に第三の課題の事は言わないと約束させたので、その心配はない。
ナルは蛇に戻し、袖口に潜ませた。ナインはデートらしいので、オールが付いてきてくれるらしい。
「本当に大丈夫ですか? 彼女は...信頼出来ると?」
「悪い奴ではないだろう。平気だ」
バグマン女史の背中を追いかける、二人と一匹。女史に聞こえないようにオールが聞いてきたが、リンネは軽く返した。
魔法省の役人で、グリフィンドールで...信用に値する点は決して多くはないが、こちらに害を与えるような人物でない事もたしかだ。
森に向かう途中で、幾人もの役人や魔法動物専門の人間とすれ違う。誰しもがリンネの姿を見て話たそうにしていたが、オールが睨んで威嚇してくれたおかげで、誰にも絡まれる事はなかった。
「こっちよ。あまり音を立てないようにね」
奥へ奥へと、森の中に入り込んでいく。
まだお昼だが、差し込んでくる太陽の光は大量の葉によって遮られ、森は薄暗い。
途端、近くから獣の遠吠えのようなものが聞こえてきた。
『ほら、あんまり騒ぐんじゃないよ、ケイシー!』
男の声が聞こえる。遠吠えを発した獣をなだめているのかもしれない、優しい口調だ。
そちらの方へと近づいていくと、鎖に繋がれた数体のグリフィンの姿が見えた。相変わらず美しい姿をしてはいるが、その様子は不機嫌そうだ。
グリフィンは、ヒッポグリフのように、プライドが高く気高い生き物だ。鎖に繋がれている事に不満を覚えているのだろう。
「ハーイ、ジョーイ! リンネ・ゴーントを連れてきたわよ!」
「あぁ、ありがとう。助かったよ...」
ヒッポグリフの鎖を持っていたのは、スカーフェイスの若い男。革ジャンを着て、黒い髪の毛の一部を赤く染めている。
「俺はジョーイ・アンダーソン。グリフィン使いなんだけど、まだ一年目でさ...先輩のグリフィン使いが今不在で...」
「私に、グリフィンをあやして欲しいと?」
「無理にとは言わないんだけど...第一の課題で、凄い簡単に手懐けてただろ? だから、ちょっと頼みたくて」
「良いだろう。丁度暇だったしな」
心配するオールとバグマン女史を余所に、杖を抜き、ナルをその場に投げ捨てたリンネ。
目の前にいるグリフィンの名はケイシー。彼は第一の課題の際、リンネと対峙したグリフィンだ。ジョーイはヘラヘラと後ろに下がり、「お手並み拝見」と楽しそうにしている。先輩に許可を貰ったのかは知らないが、バグマン女史とキャッキャしている。怒られても知らないぞ。
先ほどまで暴れていたケイシーだが、リンネの姿を見るや否や、尻尾を振ってその場に伏せた。
「はい、伏せ、お手、お代わり。はーいはい、良い子良い子」
アレ、犬じゃね? ただの犬と飼い主じゃね?
というツッコミは結構である。
ただ絵面は、巨大なグリフィンと人形のように冷たい表情の少女が戯れているだけだ。だけっていうか...それなりに狂った絵面なのだけれど...。
「凄い...流石リンネ様だ...!」
「あのグリフィンを、こうも簡単に手懐けている...だと?!」
「パネェわー、あの子パネェー。ねぇミス・バグマン、あの子卒業したらウチの部署にくれない?」
「ダメよ、あの子は魔法省が貰うの。十三歳にしてホグワーツの代表選手に選ばれ、多くの生徒達の注目を集め、熟練魔法使いをも凌駕する才能と実力...辺鄙な田舎部署に送るには惜しすぎるねェ」
「うわ、ミス・バグマン酷い」
田舎部署って何だよ、俺等は確かに都会から離れた地でグリフィン使うさ? でもね、ぜってーお前より給料良いから!
うっせーよ田舎モン。私の給料はな、月48ガリオンだかんな? ニンバスシリーズ二、三本買えるからな?
ハァ〜? 俺の給料月50ガリオンだしぃ〜100ヶ月貯めたらファイアボルト買えるレベルだしぃ〜。
嘘つけ、このチャラ男が。グリフィン使いが月50なわけないだろーが、ホグワーツの教員の給料より多いぞ。
「あの...バグマンさん? アンダーソンさん? あの、リンネ様...」
「ほーらほら、良い子良い子。はい、お手、おかわり。そして回ってワン。そうそう、賢いなケイシー」
「リンネ様ー...ハァ、ナル様、しばらく二人で時間潰しましょうか」
オールは足元の蛇に向かってそう言った。