あの時、この時、もしもの話。   作:スパルヴィエロ大公
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千葉村での出来事。

もし、あの時、ああなっていたら・・・。


無責任な善意×無謀な行動。その解は、破滅。

「―――私ね。もう、ずっと、ひとりぼっちなんだ」

鶴見留美は、こともなげにそう言い放った。

その姿は、とても小学4年のそれには見えない。
人生の荒波に呑まれ、消耗していった、一人の老人のようだった。


俺は、ボランティアと称した強制労働に駆り出されてここ千葉村に来ている。
しかも内容ときたら、キャンプ中の小学生の面倒を見る仕事と来たもんだ。せめて掃除とかなら人と必要以上に触れ合わなくて済むのに。
加えて雪ノ下や由比ヶ浜にはしょっちゅう小姑の如く嫌味を言われ、おまけに葉山らリア充グループともうまくやっていかなければならない。
・・・逃げ出したいわ、マジで。新学期が怖いからしないけど。

で、そんな地獄のような労働をこなし、小学生が川遊びの時間になったので監視と称してぼんやりと眺めていた時のこと。

「・・・ここ、いい?」

声を掛けてきた一人の少女。

それが、鶴見留美だった。

「ご自由に」

一言返してやると、すぐに隣に座る。
一瞬通報されるんじゃないかと思ったが、誰一人としてこっちを見ている奴はいない。注意を払っていない。
なら問題ないか。

「・・・お兄さんさ、他の人と話したりとか、そういうのあんまりしてなかったね」

「まぁな。最低限必要な分だけしてればそれ以上は要らん」

「変わってるって言われない?」

「もう慣れた」

そう言うと、少女はどこかほっとしたような表情を浮かべる。
仲間を見つけた、そう言いたげに。

実のところ、初日からこの鶴見留美は目立っていた。
一応キャンプなのでグループ分けがされていたのだが、こいつは所属しているグループのお仲間からは全く無視されていた。
いや、他の同級生の女子や男子からも。鶴見留美に声を掛けてやる奴は誰もいなかった。

ハブリ。シカト。
それに気付かないとしたら余程おめでたい脳みそをしているんだろう。
あ、いや別に葉山のこと言ってるんじゃないよ?レクレーション中にぽつんと佇む鶴見を、単にみんなのペースから取り残されているだけと思って声を掛けたあいつのことを。
名指しなんてしてませんとも、ええ。

因みに雪ノ下も気付いているらしかったが、それへの対応はよろしいとは言えなかった。
由比ヶ浜からの声掛けを無視した鶴見を注意。自他ともに厳しいあいつらしい行動ではあるが、時と場合を考えるべきだろう。
高校生のお姉さんに説教されているぼっち少女を見て、他の連中がなんて思うのか。侮蔑、嘲笑以外の何物でもない。

まあ、それを黙って見ていた俺も同罪なのだが。

「私ね。もうずっと、ひとりぼっちなんだ」

「・・・助けてくれって言いたいのか?」

「ううん。ただ、話を聞いて欲しいの」

そこで鶴見は語りだす。

クラスにいじめられている子がいた。仲間に入れてもらえず、物を隠されたり、裏で悪口を言われていた。
可哀想だと思ってはいたけど、同時に巻き込まれるのが怖いから関わり合いにならないようにしていた。
やがてその子は耐え切れずに不登校になった。
そしたら、クラスの皆が自分がその子をいじめていたとでっち上げ、今度は自分がいじめられるようになった。
先生もいじめをやったのが自分だと信じているから、助けてくれなかった。
無視され、陰口を言われ、物を隠されて―――

鶴見留美は、やがて現実を受け入れた。

「何ていうのかな、みんなバカなんだって思うようにしてたら、気持ちが楽になった」

「大したもんだな。その通りだよ、世の人間は大抵バカばっかりだ」

「・・・第一、私もその子のこと助けてあげなかったしね。だから罰を受けてるんだとも思ってる」

・・・・。
この目の前の少女は、思った以上に賢いらしい。

かつて大戦中、ドイツの偉い牧師さまが同じことを言っていた。
ナチスが誰かを弾圧したとき、自分はそれを助けなかった。やがて自分が弾圧される時、それを助けてくれる者はいなかった。
因果応報、つまりはそういう事だ。

しかし高々小4の子供がそんな重荷を背負うべきとも思えない。
いくら見て見ぬふりはいじめと同じなんて言ったって、現実に勇気を出して手を差し伸べるヤツはいない。
いないから、いじめが起きるのだ。皆が流され、"賢い"選択をするから。

「ま、罪悪感を感じてるのは分かるがな。ただ程々にしないと、自分で自分を十字架に掛けることになるぞ」

「あはは、おかしなこと言うね」

「一応、本気で言ってるんだが」

「これでもね、最近はみんな私に関心なくなってきたって言うか・・・あんまし変な事はされなくなった。
だから、多分、大丈夫」

「・・・・」

つまり、鶴見留美はいじめグループのターゲットとしての価値は薄れているということか。
その代わりにまた別の所でいじめが起きるだけだろうが。

おそらくこのままいけば、鶴見は小学校を卒業するまではずっとぼっちだろう。いじめよりは格段にマシだけれど。
下手すれば中学、高校も。そしてその頃には立派な捻くれ者になっているかもしれない。
つまり、俺のような。

救いたい。
そんな気持ちが湧き上がってきたのは確かだ。だが現実にそれはできない。
どうせキャンプが終わったらさよなら、そして二度と会うことなどないだろう。つまり、こいつがいじめられなくなるまで見守ってやることはできない。
それでは全く意味がないのだ。たとえ俺がいじめグループを懲らしめてやったとして、学校が始まれば反省も何もかも消え、結局事態はさらに悪化してしまう。

有言不実行。それは最低の人間のすることだ。
できないことをやれますと言うのは、最悪の嘘吐きだ。
俺だってそこまで堕ちてはいない。堕ちる気もない。

結論は、今回は母の様に黙って見守ってやること。
それが、最善策。

「・・・分かった、お前の気力と根性に掛けることにする。それでいいな?」

「うん。・・・あ、それと、一つだけお願いしていい?」

「なんだ」

「・・・あの葉山さんと、雪ノ下さんって人。あの人たちには、何もさせないで。
あの人たちが何か行動しようとしたら、多分よくないことが起きると思うから」

「・・・ああ。できる範囲でだが、な」

「・・・・」

やはり、鶴見留美は賢い。


その夜、総武高生たちでミーティングが開かれる。
題材に上がったのは、やはりというか鶴見留美のこと。葉山もこの期に及んでやっと事態を察したらしい。遅すぎる。
どのみちこいつのやることに期待などしていないが。

「・・・俺は、できる限り彼女を助けてあげたいと思っています」

そして葉山の解決策は、鶴見留美がみんなと仲良くなれるように手助けすること。アホか。
周りの連中にその意思がないからああしてハブられてるんだろう。
そんな幼稚な策も、葉山の取り巻き連中が誉めそやし囃し立て、実行に持って行こうとする。

「・・・そんな可能性は、万に一つとしてありはしないわ」

そして事態を認識していた、雪ノ下の提案。
それはいじめっ子を正面切って叩き潰そうとでも言うようなものだ。

・・・ああ、お前もそうなのか、雪ノ下。
そんな正攻法で問題を解決できると思っていたのか。そんなことをしてキャンプが終わった後、鶴見の立場がどうなるか考えもつかないのか。
お前には敵を完膚なきまでに叩きのめすだけの力がある。でも鶴見には、そんなものなどない。
それにすら考えが及ばないと言うのか。

かつて俺は、お前に友達になってくれと言った。お前はそれを拒絶した。
ああ、それが正解だ。俺とお前は根本からして違う人種なんだ。
むしろ―――お前と葉山、よくお似合いだよ。お互い認めないだろうがな。
愚直なまでに自分のやり方を信じて疑わない、その姿勢。双子なんじゃないかと思うぐらいだ。
末永く、二人で仲良くやるといいさ。

そうして葉山、雪ノ下両陣営の言い争いに発展したとき。
俺は、口を開く決心をする。

「―――なあ。なんでお前ら、そこまでして解決させることにこだわってんだ?」

全員が俺の方を向く。

「・・・ヒキタニくん、どういうことだい」

「何のつもり?口を挟まないでくれるかしら」

そこで俺は平塚先生の方を向く。
先生が頷く。
許可は取った、なら言わせてもらおう。

「俺としても、不本意ではあるが。鶴見留美のことは、一切手を付けずに放置しておく方がいいと思う」

瞬間、場がざわついた。
いいだろう、好きなだけ反論してこい。

「ヒ、ヒッキー・・・あの子、いじめられてるんだよ・・・?」

由比ヶ浜が弱弱しく呟く。
そんなの見りゃ分かる。何をどうしようとしてもどうにもならないから、放置すべきだと言ってるんだが?
空気読むのが特技ならそれくらい理解しろ。

「い、いやー・・・ヒキタニくん、そりゃ可哀想じゃね?」

戸部もまた同様。その横の大和だか大岡だかも俺を冷たい目で見てくる。
いや、お前らには言われたくねーよ。チェンメ騒動の件、忘れたとは言わせんぞ。
葉山からハブられたくない一心でお互い罵り合っていただろうが。

「何なの?たかが小学生如きにビビってんの?キモいんだけど」

三浦の恫喝。
アンタ、さっきまで雪ノ下に噛みついてたくせに結局賛同するの?脳筋、救えない。
つかホントに見た目通りの不良そのものだぞ、言動が。

「「・・・・」」

対称的に何一つ言わないのが、戸塚と海老名さん。
戸塚は分かる。誰よりも心優しく、人の痛みが分かる人物。そして俺を心の底から大切な友人だと認識している。
だが海老名さんは・・・何故だ?

「まあ待ちたまえ。比企谷、君にも理由あってさっきの発言をしたんだろう?その理由とやらを言ってみてはどうだ」

先生が発言を促す。助かります。

そこで俺は、鶴見留美とのやり取りを全てぶちまけた。
そう、全てを。


山の夜は冷える。夏であろうと。
その冷気は心をも冷えつかせる。まるで山の神様に追い打ちをかけられているかのようだ。

俺は一人、バンガローを出て夜の景色を見つめる。
景色に溶け込む、いや、溶け込みたいと思っている。

何も、できなかったから。

――――分かるか?あの子はな、お前らに余計な真似をしないでくれと言ってるんだよ。

ここまで言ったというのに、結局葉山も雪ノ下も自説を曲げようとしなかった。
自分たちのやることが鶴見を救うのだと信じて。
最後は数の暴力で意見を押し通し、話し合いは終わった。後に残ったのは、俺への軽蔑、ただそれのみ。

俺は、無力だ。
初めてそのことを情けないと感じる。これが、ぼっちの男子高校生の現実か。

「・・・ヒキタニくん」

ふと振り返ると、そこには海老名さんの姿があった。
その表情は暗い。それは闇夜の所為だけではないのは、瞬時に分かった。

「さっきは、その・・・ごめんね」

「・・・何のことだ?別に謝る必要なんてないと思うんだが」

「ううん。私も、本当はヒキタニくんに賛成してたんだ。なのに、何も言ってあげられなかった」

そりゃそうだろう。
海老名さんは葉山グループの一員である。その威光に反する真似はできない。
そうすれば最後、村八分。最下層転落と言う結末が待っている。
どんな学校、どんな学級でもその法則は変わらない。

「・・・ヒキタニくんも、知ってるよね?私、腐ってるって」

「・・・ああ」

物理的な意味ではなく、趣味のこと。確かにそれは誰でも知っている。
それでよくカースト上位に居られるのかが不思議だとは思うが、俺如きが気にすることではない。

「ヒキタニくんの話でしか、その留美ちゃんのことは判断できないけどさ。
私もその子の気持ち、よく分かるよ。私も小6の頃、腐ってるってばれていじめられてきたから。一旦はみんな、あいつつまんないって飽きたんだけど。
それで、その時も葉山君みたいな人がいてさ。私に一人ぼっちでいないで、みんなと遊ぼうって言って、みんなの所に私を放り込んだの」

「・・・それで?」

「再燃。あんな人に目掛けてもらってムカつくって感じで。
その事をその人に言ってみたら、私と一緒に先生の所に言っていじめのことを話してくれた。
でもその人さ、それからすぐに親の都合で転校しちゃったんだよ。結局告げ口しやがってって、私は余計嫌な目に遭うしさ。
もう散々だったよ」

嘘を言っているとは思えない。そんな理由もない。
海老名さんの言動の節々から、心底その中途半端野郎を軽蔑しているのが窺える。当然だ。
独りよがりの善意で彼女を振り回し、自分は責任も取らずにさっさと逃げたのだから。

そして、今回のことで葉山と雪ノ下が同じことをしようとしているのを、恐れてもいる。

「だから、あの時だって言うべきだった。みんなに、思い付きの勝手な善意で行動するのはおかしいって。
でも言えなかった。怖かったから。またハブられるんじゃないかって。
ヒキタニくんが代わりに言ってくれたのに、それに賛成することすらできなかった」

途中から、海老名さんの声に涙が交じる。
それを遮れない。

「―――だから、ごめん。許されないと思うけど、ごめん」

頭を下げられたと思うと、海老名さんはバンガローの方へ去っていく。

・・・謝られる筋合いなんて、ない。
俺だって、結局鶴見留美を救えないのだから。


最終日。天気は晴れ。
でも俺の心は晴れない。いや、皆がそうだ。

昨夜の肝試し大会での出来事。
葉山や雪ノ下たちが、こっそりといじめグループの連中をルートから外れさせ、"教育的指導"をした。
いじめられるということがどういうことか。物理的暴力までは使われなかったが。

効果は、ゼロ。
その場では泣いて謝っていたグループの奴らは、今や憎しみの目で鶴見を見ている。
チクリ野郎が、高校生にまで泣きつきやがって。概ねそんな所だろう。
そして周りの皆に発破を掛けている。重要指令、鶴見留美は再び敵となった。排除しろ。

そんな空気に耐えきれなかったのか、鶴見は再び皆の輪から抜け出した。
それでも尚、浴びせられる冷たい視線と陰口は絶えない。

完全に、逆効果だった。

「「・・・・」」

その様子を、俺たちは高台から見つめていた。
葉山も雪ノ下も、愕然とした表情で見ている。由比ヶ浜や三浦、その他の連中もだ。
・・・だから言ったんだぞ?余計なことはするなと。
当の本人まで、そう言っていたのに。

唯一海老名さんだけが、冷めた表情で見ていた。こうなると分かり切っていたかのように。多分俺もそうだろう。
そして戸塚はと言えば、涙目になっている。
彼女にまで、俺と同じ表情をさせてしまうとは。親友を、泣かせてしまうとは。

悔しい。

俺はこっそり、鶴見の後を追う。

「ヒキタニくん、どこへ―――」

「引っ込んでろ、能無しが。お前に関係ないだろ」

「待ちなさい。今鶴見さんに話をしても―――」

「聞こえなかったか?引っ込んでろと言ったんだが」

能無しの馬鹿どもを振り切る。付き合いきれない。

鶴見の行った所はすぐ分かった。昨日の、肝試し地点だ。
雑木林が鬱蒼と茂る場所。今のあいつの心情とその光景が、ぴったりとマッチする。

いた。

「・・・鶴見」

「・・・・」

後ろ姿に声を掛けたが、返事はない。
絶望か。俺への失望か。いや・・・その両方か。

「お前との約束を守れなかったことを、謝らせてくれ。・・・それと」

住所と電話番号を書いた紙を、そっと手渡す。

「どうしても耐えられないと思ったら、連絡しろ。うちに来い。
何とかしてお前を守ってやる」

「・・・・」

やはり、返事はない。メモは受け取ってくれたが。

黙って、その場を去る。


9月。新学期。ある日の放課後。
・・・いや、新学期と言うには少々遅いか。既に文化祭も終わっているし。

なのに、皆の表情は満足、一つの行事をやりきった爽快さとは程遠い。
むしろ真逆、不満で覆いつくされている。特に、文実での顛末を知っている奴らときたら酷いものだ。
まあ、俺もそうなんだけど。

相模という目立ちたがり屋の馬鹿が、能力もない癖に委員長に立候補した。
仕事を雪ノ下に押し付けようとした。雪ノ下はそれを呑んだ。その代わり、文実での実権を握った。
それを不満に思い、陽乃さんにおだてられた相模が、サボり公認に等しい命令を出した。
仕事をする人数は減り、少ない人数で回さなければならなくなった。嫌気がさしてまた一人、抜けていった。

やがて、過労で雪ノ下が倒れると、混乱が襲った。
相模は何一つまともに仕事ができず、的確な指示も打てず、あまりの体たらくに取り巻き連中も助けようとはしなかった。
予算編成、プログラム・・・決定がどんどん遅れていき、各クラスの出し物は大半のクラスが計画の縮小・変更を迫られた。
ステージ発表にしても、参加者の多くが計画遅延の割を食ってロクに練習などできないままの本番となり、大半の出来はとてもじゃないが見られたものではなかった。

その時点で、まあ文化祭が実行できただけでもマシと言えるかもしれない。そう言うしかない。
だが、これでは終わらなかった。
エンディングセレモニーで、相模は家に逃げ帰った。今も学校に来ていない。その役目は生徒会長のめぐり先輩が代行した。
来場者の多くは、口々に今年の文化祭は酷かった、質が落ちたなあと陰口を叩く。
文化祭終了後、文実参加者は相模を除く全員が集められ、厚木に説教を喰らった。あのデカい声で恥を知れと言われた時は俺ですらビビったもんだ。

それが、事の顛末。

あの時、俺が雪ノ下を助けていれば。
相模に反論し、誤りをずばり指摘してやっていれば。
俺が悪役を引き受けることで、文実の皆を団結させていれば―――

・・・そんなの、IFの話だ。過去は変えられない。
第一、俺にそんな気もなかった。文実をどうにかしようとも、雪ノ下を助けてやろうとも思わなかった。
あいつのために汚れ役など引き受ける気は毛頭なかった。

お前は、俺のやり方を真っ向から否定した。そして失敗した。
それでも尚、考え方を改めようとしなかったな。

なら、後は知らん。好きにしろ。
お前の引き受けた仕事だ。責任は自分で取れ。体調管理は自己責任、そうだろ?
それにあの場には葉山もいた。なぜかスローガン決めの時勝手に参加していたが。
2人で仲良く、助け合って仕事すればいいじゃねえか。お似合いだぜ、お前ら。

つけるだけの悪態をつき、俺は今日も一人屋上でマッカンを呷る。
・・・このところ、どうも自棄になっている。奉仕部にも全く顔を出していない。
平塚先生にも今はそれでいいと言われた。君たちはお互いのことを考え直す必要がある、と。
俺にはそんな必要などないが、まあ休んでいいならそうしよう。

その時、突然にスマホのバイブレーションが鳴る。
小町か、材木座か。それともまた迷惑メールか?
ならいい加減に―――


「比企谷さん

おぼえていますか?鶴見留美です。

わたしは、今、学校に行っていません。みんながこわくて、行けなくなりました。

たぶんこのまま、別の小学校に移ると思います。学校もみんなもこわいけど、いつまでも家にいることはできませんから。


最後に。

わたしを助けようとしてくれて、ありがとう。

心の底からわたしを助けようとしてくれたのは、比企谷さんがはじめてです。

だから、もう、気にやまないで。


さようなら」


「・・・・」

頬を、熱い何かが伝う。

いつの間にか、涙が出ていた。拭っても、拭っても、止まらない。

「鶴見・・・許してくれ。俺を、許してくれ」


―――その日飲んだコーヒーの味は、涙が混ざって、ブラックよりも苦かった。









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