夜空に星明かりの無い世界……いや『星明かりが消えてしまった』世界。
 一筋の光も見えない暗闇は、人間の心に恐怖を与える。夜は、人々から安寧をすっかり奪い去ってしまった。

 かつては夜中でも程良く明るかった世界。
 そのため『照明』と呼ばれるものはこれまで必要とされず、絶対数が少なく製造法もほぼ失われていた。
 人々は、星明かりが消えた理由を知らない。限られた『照明』をめぐって時に共有、時に争い、治安の乱れた現在をどうにか生き抜き、夜の恐怖から逃れている。

 世界は、もう元通りにならないのだろうか?
 ……そんなことはない。戻す方法は、確かに存在する。
 星明かりが消えた日。元は一つだった重要なものが、やんごとなき事情により破片となって世界中に散らばった。
 その破片を『星形見(ほしがたみ)』と呼ぶ。これを全て集めることができれば、夜空に星明かりが帰ってくるのだ。

 星形見の回収は、とある少年少女に託された。
 頭にゴーグルをつけた、少しクズ気味なトレジャーハンターの少年『テルナンド』。
 キャスケット帽がトレードマークで、礼儀正しく明るい性格の少女『クララベル』。
 二人は星形見を……いや高価なお宝を……いやいや、やっぱり星形見を求め、暗き世界を照らして歩む……!

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1lux「金平糖を貰った話」

「たぁぁぁったの一万カネゴルドだとぉっ!? おい店主さんよ、見る目が無いんじゃねーのか!?」

 

 世界の片隅にある小さな町、ヒイタウン。旅人の集う、ありふれた換金屋。その店内のカウンターを挟んで、少年トレジャーハンターの怒りが店主に炸裂した。少年の手には、薄紫の宝玉らしきものが握られている。

 緑色の短髪にオレンジ色のワルっぽい目。ファーつきのジャケットや厳ついブーツとグローブ、暗い色の丈夫なズボン。腰にはナイフや道具袋も吊り下げ、何より、頭には立派なゴーグルを着けている。その容姿が、少年――テルナンドのものである。怒りの叫びは換金屋を飛び出し、店前の通行人を驚かせるくらいには轟いた。

 テルナンドから怒号を浴びせられたのは他でもない、換金屋の店主を務める男。筋肉質な体に暗い青のタンクトップを着ている。加えて、スキンヘッドな上に眉毛も剃り落としており、彼の風貌は見る者に威圧感を与える。今に限っては、テルナンドの威勢も負けていないようではあるが。

 しかし、店主の接客術には年季が入っている。洞察力も並みではない。テルナンドが握っている薄紫の宝玉をつまらなさそうに眺めると、これまた、つまらなさそうに述べた。

 

「今日のレートに則った妥当な額だ。不満なら余所へ行きな。もっとも、このヒイタウンに換金屋はウチしか無いがな。アンタも旅人のようだが、焦っている様子を見るに手持ちが少ないらしい。そんな状態で、遠い隣町まで辿り着けるのかね?」

 

 急に図星を突かれ、テルナンドは返す言葉を見つけられず。しばらく歯ぎしりをした後、精一杯に吠えながら店主に宝玉を突き出した。

 

「……ちっ、足元見やがって! 売ってやるよ!!」

「まいどあり」

 

 一万カネゴルド紙幣を渡す店主の声に、感謝の意は微塵も込められていない。寧ろ「めんどくせぇ客の相手がやっと終わった」と表情で物語っている。

 テルナンドは「ブッ壊すぞ」と返事をせんばかりにボロい扉を蹴り開け、店を後にした。

 日は、まだ高い。

 

 

 

「テル、どうでしたか? ……途中で色々聞こえてきたから、嫌な予感がしてるんですが」

 

 換金屋の外でテルナンドを待っていたのは、彼と共に旅する少女――クララベル。

 肩より上ほどのピンク色のショートヘアで、頭の左右からは短く束ねた髪がアクセント的に飛び出ている。青い目と黒のキャスケット帽も特徴的であり、ブレザー風の黒い上着やミニスカートなども可憐に着こなしている。首には、紐で吊るした星型のアミュレットをつけており、とても愛らしい印象を振り撒く娘であった。だが、上着の内側にはリボルバータイプの拳銃を忍ばせている。彼女は、可愛いだけではないのである。

 テルナンドは、近寄るクララベルに交渉の結果を差し出した。表情も声も暗いままに。

 

「おう、クララ……。てんで駄目だった。せっかく見つけたお宝が、この有様だぜ……」

「い、一万カネゴルド!? これだけ!?」

 

 クララベルは、目が飛び出るほどに吃驚した。一枚だけの紙幣を受け取ると、本当に一枚だけなのかと何度も指でめくる。当然、どんなに確認しても一枚なものは一枚なのであった。無情な現実を叩きつけられ、彼女は肩を落とす。

 

「さすがにこの額はマズイですよ……。まだ生活苦が続くなんて……」

「この町の換金屋がクソなのが悪い。なーにが『旅人に安らぎを与える町、ヒイタウン』だ。ストレスしか貰ってねーぞ! もう二度と寄らねぇからな!」

 

 テルナンドが嫌味ったらしく言ったのは、この町の入口に立てられていた看板のキャッチフレーズ。理想からかけ離れたフレーズに騙されてしまい、憤慨するしかなかった。

 彼の隣で、クララベルが提案する。

 

「やっぱり紹介所に顔を出して、何でもいいから依頼を受けましょう? お金はどうしても必要です。それも、今すぐに」

「で、でも俺達トレジャーハンターだし……。紹介所には頼りたくねぇ……」

 

 宝探しで生計を立てる者としてのプライドが、テルナンドにはあった。それが邪魔をして、紹介所で仕事の依頼を受けるという、この世界では割と一般的な金稼ぎの手段を拒絶しているのだ。……彼の場合、楽をして一攫千金を狙いたいという、あまりよろしくない傾向も見られるが。

 テルナンドの困った性格を、クララベルは理解している。だから、次に彼女が発するのは叱咤で決まりだ。

 

「そうやってずっと意地張ってるから、私達は貧乏のままなんでしょう!? いい加減、こだわり続けるのはやめてください! そろそろ怒りますよ!!」

「も、もう怒ってるじゃねぇか……」

「ほら、紹介所に急ぎましょう!」

 

 たじろぐテルナンド。この隙にクララベルは彼の手を引いて、あれよあれよと言う間に紹介所まで連行していった。

 

 

 

 ヒイタウンの紹介所に到着した。そこそこ大きい、水色の建物である。

 入ると、中は人で賑わっていた。小さな町だが依頼は豊富にあるらしい。とりあえず二人は、入口近くの依頼掲示板を眺めてみることに。

 

「これだけたくさんあれば、選び放題ですね」

「よーし、だったら楽なのにしようぜ」

「絶対そう言うと思いました……。難易度よりも報酬の大きさを優先してくださいね! わかりましたか!」

「えー」

「えー、じゃありません!」

 

 何でもいいから、とにかく選ぶべきなのに。あーだこーだ言い合うだけで、受ける依頼はなかなか決まりそうにない。

 ――すると。テルナンドが足の違和感に気付く。ズボンの裾が、微かに引っ張られているのだ。

 

「あぁん? 誰だお前。何か用か?」

 

 見下ろした先には、質素な服を着た水色の短い髪をした幼い男の子が。弱々しい声でテルナンドに答える。

 

「ぼく、フェーディン……。お父さんとお母さんを……助けてほしい、です……」

「直接の依頼ってことか? しっかし、こんなガキが依頼してくるとは怪しいな。報酬はどうなってるんだ」

「こんぺいとうしか持ってない……」

 

 フェーディンがポケットから取り出したのは、三粒の金平糖。小さな手の平の上で転がっている。これを見たテルナンドは。

 

「金平糖だとぉ~? 報酬がただの菓子とか、ごっこ遊びのつもりか? ったく、他を当たんな」

 

 彼を邪険に扱い、この場を去ろうとした。――のだが。

 

「ねえ。その話、詳しく聞かせてくれるかな?」

 

 クララベルはフェーディンを見放さなかった。しゃがむことで目線を彼に合わせ、優しく接している。

 

「お、おいクララ。そいつの相手する気かよ!」

「こんな小さな子が困ってるんですよ? ふざけてるわけでもなさそうですし、力になってあげたいと考えるのが、人として当たり前だと思いますけど」

「はぁ……お人好しって言うんだよ、それは」

「違います! もう! いいからテルは黙っててください!」

 

 溜め息をつき、呆れ果てるテルナンド。彼女はその態度が気に入らず、大きな声で反発するのだった。

 ……と、いつまでも言い合っていては話も聞けない。クララベルは我に返り、改めてフェーディンに問う。

 

「あ、あはは……今の喧嘩は気にしないでね。それで、何があったの?」

「ぼくのうち、小さなこんぺいとう工場なんだけどね。お父さんとお母さんが……動かなくなっちゃったの。不思議なこんぺいとうを食べたから」

 

 そんな説明じゃあわからない、と、テルナンドが口を挟む。

 

「どう不思議だったのか教えろよ」

「そのこんぺいとう、白や金色に光ってたの。ボワーッというか、チカチカするというか、そんな感じに。あんなこんぺいとう、初めて見た」

 

 フェーディンが何気なく話した途端、聞いた二人は目の色を変えて顔を見合わせた。

 

「ひょっとして、それって……!」

「『星形見(ほしがたみ)』か!? でも星形見って食べ物にも宿るもんなのか……?」

「わかりませんけど、これはもう行ってみるしかありませんね!」

 

 テルナンドとクララベルが血眼になって探し求めている物質、『星形見』。それは、この世界の夜を元通りにするため必要となる、重要な物質のことである。

 この世界の夜には、星明かりが無い。過去にはあったのだが事情により消えてしまい、夜になると完全な闇に包まれてしまうのだ。

 かつて夜中でも程良く明るかったこの世界では『照明』と呼ばれるものがあまり必要とされていなかった。そのため照明の絶対数は少なく、新たに製造する方法もほぼ失われてしまっている。人々は限られた照明をめぐって時に共有、時に争い、治安の乱れた現在をどうにか生き抜き、得体の知れない夜の恐怖から逃れているのだ。

 変わってしまった夜を元に戻すため、誰かが決起せねばならない。そこで、色々あって、ある少年と少女が星形見を集めることに。それが、テルナンドとクララベルなのである。

 ちなみに世界中の人々は、星明かりが消えた原因も、星形見のことも、何も知らない。知っているのは、テルナンドとクララベルを含めた、ごく一部の者だけなのだ。

 

「よし、フェーディン。俺達がお前んちに行って、父ちゃんと母ちゃんをみてやる。何も出来んかもしれねぇが、とりあえずそれでいいな?」

「うん……!」

 

 自分の願いを聞き入れてくれたためか、フェーディンは朗らかに笑う。

 

「んじゃ、さっそく案内しろ。行くぞクララ!」

「あーもう、待ってくださいよ!」

 

 目的さえ決まってしまえば、テルナンドは行動するのが早い。フェーディンを持ち上げて脇に抱えると、クララベルを置いて行きそうな勢いで紹介所を飛び出すのだった。

 

 

 

 いつしか、夕暮れ時。

 ヒイタウンの東側に、目的地はあった。フェーディンの家は灰色を基調とした、工場と家屋が隣接した小ぢんまりとしたものだった。

 

「ここがお前んちか。なるほど確かに小さい工場だが、立派そうではあるな。父ちゃんと母ちゃん、本当に中に居るんだろうな?」

 

 テルナンドが確認すると、フェーディンは静かに頷いた。

 

「星形見を食ったかもしれないからな……何が起こるかわからねぇ。クララ、用心しろよ」

「わかってます」

 

 テルナンドは腰にさげたナイフを、クララベルは上着の内側からリボルバータイプの拳銃を取り出し、何が起きてもいいように構える。

 

「玄関くぐってすぐ。リビングにいるよ。……お外が暗くなってきたけど、うちには照明がないから、それにも気を付けてね」

 

 フェーディンのその言葉を最後に、誰も声を発さなくなった。――緊張が走っているのだ。

 星形見は、様々な物体に宿ることができる。星形見が宿った物体には例外なく特別な能力が備わるのだが、それが金平糖だった場合、まるで予想がつかない。食べ物に星形見が宿った事例を、二人はまだ見たことも聞いたこともなかったので、普段以上に慎重なのだ。

 テルナンドが玄関の扉に手をかける。ゆっくりと手前に引っ張るが……何も起こらない。そして恐る恐る中を覗き込み、全体を見回す。あまり広くないリビングには、テーブルやクッション、本棚といった、ありふれた家具しか見当たらない。……どうやら安全なようだ。

 ここからでは、中に居るはずのフェーディンの両親の姿が見えない。安全も確認できたところなので、ついに三人は家の中へと突入した。

 ――すると。

 

「あれ? いなくなってる……?」

 

 フェーディンが、大きなソファを目にした途端、そう呟いた。

 

「そこのソファに、フェーディン君のご両親が座ってたの……? でも今は居ないってことは……」

 

 クララベルは察し、冷や汗を流した。同時にテルナンドも、悪い目付きを更に鋭くする。

 

「やべぇかもしれねぇな……! お前ら、周りに気を付け……」

 

 注意を喚起するテルナンドだったが……少し遅かったようだ。

 

「ぐえっ!?」

「あぁっ!?」

 

 二人の背に、鞭で叩かれたかのような衝撃が加わった。その勢いのまま、前方に倒れこんでしまう。しかし、じっとしているわけにはいかない。クララベルが痛みを堪えてすぐさま振り向くと、そこには。

 

「なんなの、この黒い人型は! もしかしてこれが、フェーディン君の……!?」

 

 人の形をした、真っ黒な塊。顔は無く、腕は鞭のように細長い。もはや化け物と呼ぶに相応しい姿の人型が、目の前に二体いるのだ。……もう、推測は必要ない。これが、星形見の影響で変貌してしまった、フェーディンの両親なのである。

 二人は体勢を立て直し、二体の人型に向き合う。その後ろで、フェーディンは立ち尽くしていた。まともに声も出せないほどに驚き、身震いし、混乱している。

 

「あ……ああ……」

「フェーディン、離れてろ。ちっとばかし厄介なことになったからな……!」

 

 彼はテルナンドに言われるがまま、震える足をなんとか動かし、リビングの隅に移動。そして、両腕で頭を覆うようにして丸まった。

 その間にも、人型は鞭のような腕を振るう。その度に家具が壊され、リビングはめちゃくちゃになっていく。

 狭い空間でこの攻撃を避けるのは困難だ。二人は武器で腕を弾き、何とか凌いでいる。

 

「ちぃっ! 本当にただの化け物だったなら反撃してやるのによ! 元が人間だと思うと手が出せねぇ!」

「どうしましょう、このままじゃ何の解決にもなりません……!」

 

 暴れる人型に対して打つ手が無い。どんどん夜に近づき暗くなっていく中、二人は困り果ててしまう。

 と、ここで。ふとテルナンドが疑問を口にした。

 

「にしてもこいつら、俺達が来るまでどこに潜んでたんだろうな……。奇襲できるほど広いリビングでもねーのに」

 

 それを聞いたクララベルも「確かにそうですね」と言い、人型の観察を始めた。そして、まもなく気付く。

 

「……あぁっ!! テル、人型の足元を見てください!」

「何?」

 

 鞭のような攻撃の隙間から、言われた通りにしてみる。すると人型の足の部分が、僅かだが床に……いや、床に伸びる『影』にとけ込んでいるではないか。

 

「そうか、こいつら影に入り込めるのか! だから姿も隠せたわけだ……!」

 

 テルナンドの表情が明るくなる。何故ならこの事実が、二人にとって最高条件の突破口となるからだ。

 

「おいクララ、こりゃどうにかなりそうだな。相手が影と同化する能力を持ってるなら、お前の独壇場だ!」

「しかも幸いなことに、もうすぐ『夜』が来ます。そしたら私が動きを抑えて星形見の位置をあぶり出しますから、テルは人型から星形見を引っこ抜いてください。以前、化け獅子と戦った時と同じ要領です。出来ますよね?」

「あたぼうよ!」

 

 簡単に打ち合わせると、二人は更に攻撃を凌ぎ続け、時を待った。この時、フェーディンも話を聞いていたが、なんのことだかさっぱりわからず、やはりただ怯えるしかなかった。

 ――そして、夕暮れ時が去る。陽は完全に沈み、文字通り真っ暗な『夜』の時間がやってきた。

 照明がなく本当に真っ暗になったため、黒い体色の人型を目視で捉えることは、もう不可能だ。しかも、お互いの姿を確認することさえ出来なくなった。これでは、逆に大ピンチなのではないか? 誰もがそう思うことだろう。……けれど、違うのだ。

 

「テル、アミュレットとリボルバーを床に置きました。あとはよろしくお願いします」

「心配すんなって。ほら、早く始めな!」

 

 テルナンドに後押しされるように、クララベルが目を閉じる。その直後、呪文のような言葉を荘厳に響かせた。

 

「『――闇に融け、暗きを統べる。我、影の大精霊なり』」

 

 次の瞬間、クララベルの姿が消えた。……この真っ暗な中で「消えた」と言ってもよくわからないかもしれないが、とにかく、消えたのだ。正しくは「闇に融け込んだ」のであるけれど。

 それと同時に、人型二体の攻撃が止んだ。闇に融け込んだクララベルが『闇、影、暗さ』そのものを操り、影に同化する能力を持つ人型の動きを封じているのである。

 これだけでは終わらない。先に宣言した通り、クララベルは人型の体内を探る。……そして見つけた。騒動の原因、星形見だ。

 人型を構成する影を、内側から表面へと引っ張るように操って、直接触れずに星形見を露出させようとする。その行動は上手く運び、テルナンドの目に二つの光の点が映り始めた。

 

「今です、テル! 星形見を!」

「わかってらぁ!!」

 

 どこからともなく聞こえる彼女の声に、テルナンドは腕を突き出して応えた。

 

「でりゃあぁっ!!」

 

 まずは一体。人型の腹部に浮かび上がった光の点を目掛けて、拳をぶち込む。ズブリと食い込ませると同時に内部の星形見を確実に掴み、乱暴に引き抜いた。

 

「もう一丁ぉっ!!」

 

 すぐに、もう一体の方も同様にして摘出。無事、二つの星形見を回収することに成功した。脱け殻となった人型は、音もなくその場に倒れた。動き出す様子は、もうない。

 ひとまず落ち着いたところで、テルナンドは頭のゴーグルに触れ、なんと……ガラスの部分から光を発した。この不思議なゴーグル、実は『照明』だったのだ。

 

「一時はどうなることかと思ったが、解決できてよかったぜ。星形見も二つ手に入ったしな」

「あとは、この人型が元の人間に戻るかどうかですね」

 

 いつの間にか、テルナンドの傍にはクララベルの姿が。アミュレットとリボルバーを拾うと、それぞれ所定の位置へ身につけ直した。

 そうしていると、人型の様子に異変が起きる。

 

「それなら大丈夫だろ。……ほら、変化が始まった」

 

 テルナンドがそう言い、ゴーグルで人型を照らす。すると黒い体色がモヤとなって晴れていき、元の人間の姿が現れてきた。……短い髪の男性と、長い髪の女性である。どちらも三十代前半ほどの外見で、髪の色は綺麗な水色だった。

 気を失ってはいるが、外傷は見られず命に別条もない。これならすぐにでも目覚めそうだ。クララベルはそれを確かめた後、彼を呼ぶ。

 

「フェーディン君、もうこっちに来ても大丈夫だよ」

 

 リビングの隅で怯えていたフェーディンが、やっと顔を上げた。ゆっくりと両親の元へ近寄り、思わず泣きじゃくりながら横たわった身体にしがみつく。

 

「お父さん……お母さん……!!」

「時間が経てば目を覚ますから、安心してね」

「うん……! お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう……!!」

 

 フェーディンはクララベルに水色の髪を撫でられながら、しばらく両親にしがみつき、泣き続けた。

 

 

 

 フェーディンの両親が、まだ目覚めていない頃。

 テルナンドとクララベルは、この家を去ることに決めた。星形見のことを知らない一般の人々に今回のような出来事を説明しても、なかなか信じてもらえなかったという、二人の経験からくる判断だ。そこで、後の事はフェーディンに任せることに。幼い彼に全て押し付けるのは無責任かもしれないが、これがお互いにとって最良の選択となるのだ。……と、テルナンドは豪語する。

 クララベル的には放っておきたくないのだが、最後まで関わったところでリビングをめちゃくちゃにした責任をとることが出来ないし、前述の通りそもそも話を信じてもらえない可能性が高いので、渋々テルナンドの言う通りにするのであった。

 

「じゃあな、フェーディン」

「ご両親のこと、よろしくね。暗いままだから気を付けて」

「あ、あの……!」

 

 いざ家を出ようとしたところ。フェーディンが二人を引き止める。

 

「あの、報酬……どうしたらいい、ですか?」

「それならもう貰ったぜ。お前の父ちゃんと母ちゃんからな」

 

 そう言って、テルナンドが二つの星形見をチラつかせる。白と金色が混ざって光る、小さな石のようなものだった。

 しかしそれだけでは足りないと、フェーディンが右手をこちらに差し出した。それは、袋入りされたものだった。

 

「こんぺいとう……」

「だぁかぁらぁ、それはいらねーっつってんだろ。どうせなら百万カネゴルド持ってこい!」

 

 やはり、テルナンドは眉間にしわを寄せて断った。わざとらしく作った怖い顔でだ。

 その代わり、クララベルがフェーディンに礼を伝える。

 

「まあまあ、そう言わず。フェーディン君、ありがとうね」

 

 金平糖の入った袋を受け取ると優しく手を振り、この場を後にした。

 

「ばいばい! 二人とも、元気でね!」

 

 フェーディンも離れていく二人に対して、強く手を振り続けて見送った。

 

 

 

 街灯が皆無である夜のヒイタウンを、ゴーグルで照らして二人は歩く。

 

「ちっ……あのガキめ、こんなもん押しつけやがって。腹の足しにもなんねぇのによ。これでマズかったら最悪だぜ」

 

 金平糖をつまみながら、テルナンドが悪態をついた。しかし隣の彼女の感想は。

 

「私、さっき食べましたけど、おいしかったですよ? ほらテルもどうぞ」

「む……」

 

 金欠であまり食事ができていない現状と、クララベルの「おいしかった」という発言。この二つが相まって、テルナンドは仕方なく……そう、仕方なく、金平糖を口の中に放り込んだ。

 

「どうです?」

「……んー、あれだ……。味は、まあ合格だな」

「そうですか。やっぱりおいしかったんですね」

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺は、合格だとしか言ってねぇだろ!」

「ふふっ」

「なんで笑うんだよ!!」

 

 金平糖を味わうテルナンドが、微かに口元を緩ませたのを、クララベルは見逃さなかったのであった。

 今、夜は深い。


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