バカテスト 日本史
問 日本にキリスト教を伝えた宣教師であり、イエズス会の創設メンバーの一人である人物は誰でし ょう?
藤原悠人の答え
フランシスコ・ザビエル
教師のコメント
正解です。フルネームでしっかりと覚えておきましょう。
吉井明久の答え
フランス人
教師のコメント
スペイン人です。
土屋康太の答え
ヒゲ
島田美波の答え
ハゲ
教師のコメント
君達には偉人を敬う精神がないのですか。
「お前はもう、いらん。この家には必要なくなった。即刻荷物をまとめて出ていけ」
古き日本式の家屋。
そこは、対面の間。普段、家主と客人が相対する部屋である。
俺は、そこで自らの父親と向き合っていた。
ああ、これは夢だ。俺の2年前の景色、ビジョン。自分の夢であるはずなのに、俺はなぜだか冷静にその光景を見つめる事が出来た。
カコン
庭のししおどしが音を立てた。
綺麗に整えられた日本庭園。苔むした石が点在し、砂利と草が趣深く鎮座している。
その池には、ここからは見えないが立派な錦鯉が悠々と泳いでいる事だろう。
「お前には、この家にいる資格がない。生活費と学費ぐらいは出してやる。俺の許可なくこの家には近づくな」
俺はその時の感情を第3者視点で眺めているという不思議な体験をしている。見やると、俺の表情は、諦めと、悲しみと……少しの悔しさが浮かんでいる。
その時、俺が何を思い、何を感じたか。おぼろげながら覚えている。
元々、分かってはいたことなのだ。
本家の子が生まれた時点で俺は不要。むしろ邪魔。
だからこそ、理解もしていたし、たぶん納得もしていただろう。
「分かりました。今まで、お世話になりました」
「ああ。元気でな」
元気でな、か。どの口がいえるのか。
俺という存在が邪魔だというのなら。その邪魔な存在をつくったのは目の前にいる男なのだ。俺には、怨む権利も、怒る権利もあるのではないだろうか。
ただ、俺にはこの父親にたてつく力がない。それだけの話だ。
そのまま立ち上がり、黙って部屋を出ていく。
俺はその光景を冷静に見つめていた。
久しぶりにあの夢を見たような気がする。
俺があの家をでるきっかけになったあの事件。いや、事件というほどのものではないのだろう。当然の成り行きで俺の存在が邪魔となり、俺があの家にはいられなくなった。
ただ一つ、間違いがあったとすれば。
それは。
俺が生まれてきた、という事実なのだろう。
別に俺は自分の人生を悲観しているわけではない。俺のような境遇の人間などこの世にごまんといるだろうし、もっといえば、毎日の食べ物に困っている人たちもいるのだから、少なくとも毎日を豊かに暮らしていける俺は恵まれている方なのだと思う。
もし、俺のこの境遇が俺ではなく別の人間だったとしても、恐らく同じ事になっていたと思う。だから別にこうなったのは、俺が俺であるせいではない。
ただ、1億2千万の人の中で、俺がそれに当たってしまったというだけ。
そう。
運が悪かったのだ。
「おはよう。お兄ちゃん」
すぐそばで透き通るような声が聞こえる。
俺は、仰向けのままそちらを見ると、同居人の顔が目に入ってきた。
「ああ。おはよう、香澄」
肩にたらした天然の茶髪。
目の生えるような美人というわけではないが、愛嬌のある可愛らしいかんばせ。
「お兄ちゃん、朝ご飯出来てるよ」
「おう。着替えたらすぐいくよ」
「うん。待ってるね」
そう言って香澄は部屋を出ていった。
あいつも、ある意味本家の被害者といえるだろう。つまり、運が悪かった1人だ。
同族相哀れむ、という訳ではないが。俺はあいつのことを大切に思っている。
そう、俺は香澄に感謝している。
俺の頬に伝っている涙の跡を見なかった事にしてくれた事も。
リビングに入ると、スーツを身にまとった妙齢の美女が鞄に荷物を詰めていた。
テーブルの上には、ご飯に味噌汁、出汁巻き卵。納豆に塩鮭。古き良き日本の朝食が綺麗に並んでいる。
「おはよう。明日香さん」
「おはようございます。悠人様」
俺が軽く声をかけると、明日香さんは折り目正しく両手を合わせて頭を下げてきた。
一条明日香さんは、俺が本家にいた時俺のお世話係についていた人で、スラッとした長身と100人中、100人は振り返るであろう美貌。俺が本家を追い出された時に、この人は俺に着いて来てくれた。今は保険代理店に勤務している。
そのまま本家に残っていた方が、待遇も給料もいいはずなのに。
本当に明日香さんには感謝してもしきれない。
ただ、名前の様付けといい、この慇懃さといい。もはや、彼女は俺の世話係ではないのだから、直して欲しい、と何度も言ったのだが、頑として聞き入れてくれない。
「明日香さん。もう出るの?」
「はい。今日は少々、早出でして」
「そっか。いつもありがとね。本当に感謝してる」
「いえ。私も悠人様のお世話ができて幸せでございます」
「何言ってるのさ。とにかく、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい。行って参ります」
ペコリ、と頭を下げると明日香さんは玄関の扉を開けて出ていった。
普段から感情が表に出ず、仏頂面、といわれる事も少なくない明日香さんだが、少なくとも嘘をついてるかどうかは分かる。今の言葉が本心からの言葉である事を認識する度、こそばゆいような、照れくさいような気持ちになる。
「美味しいー! この出汁巻き卵、最高!」
「ああ、塩鮭も塩加減も絶妙だ」
いつものことながら、本当に明日香さんはハイスペックだと思う。料理の腕前を筆頭に家事全体のスキルがすごく高い。さすが、元プロ。
「ところでさー、お兄ちゃん」
「ん?」
「彼女つくろうよ」
「また、その話か……」
このあいだから、何故か知らないが香澄は口を開けば彼女をつくれ、彼女をつくれとうるさい。
「何でそんなに彼女をつくりせたいんだよ」
「えー、だってさ。やっぱやってみたいんだよ」
「何を?」
「お前に悠人はやれん! もし欲しければ、俺を倒してからいけ! っていうのを」
「……キャラ変わってるからな」
どうせ何かに影響されてるんだろう。
そういえば、この間、家族の絆をテーマにした連ドラをやってたな。
「てか、普通それは父親が娘が嫁に出るときに言う台詞だろう。妹が兄には言わねえよ、普通」
「そうなの?」
「ああ」
「ふーん。でも、私、家族の普通を知らないし」
……ッ
確かにな。俺達は家族における「普通」を知らない。
正直今の香澄の言葉に俺はドキッとした。
まあ、当の香澄本人は気にした様子もない。
「でもさ、問題だと思うんだよ。ああいうドラマって」
「何が?」
「きっとああいうのが現代の恋愛問題を引き起こしてるんだよね。俗に言う草食系男子ってやつ? ああいう演出が恋愛臆病さの増長の原因になっている気がするよ」
「まあな。確かに恋愛とそれに付随してやってくる面倒事を天秤にかけて、恋愛を捨てる人間もいるかもな」
「世は、恋愛氷河期ってね」
恋愛氷河期か。よく言ったものだ。
まあ、俺も他人をとやかく言える立場にはないのだが。
「でも、恋愛の減少はそのまま少子化に直結するよ。このまま少子化が進めば、国民一人当たりの年金の負担額が大変なことになるね」
「確かにな。まあ、例外はあれど恋愛もなく結婚はないからな」
「ヤらなきゃ、生まれないからね」
「女の子が、そんなこと言わないの」
香澄は出生と育ってきた環境が相まって少々性に奔放なところがある。いや、行動ではそんなことはなく、言葉だけなのだが。
「でも、真実でしょ。ヤらなきゃ生まれないし、私たちの存在がそれの証明みたいなもんじゃない」
「……確かにな」
「そこで! 私は次のような法案を提出します!」
「ん?」
やおら、バッと手をあげる香澄を訝しげに見る。
「ズバリ! 残業の全面撤廃!」
「残業の全面撤廃……? それは、どういう……ああ、そういうことか」
つまり、香澄が言いたいのは、こういう事だ。
そもそも仕事で忙しい家庭では夫婦での時間をもつ事ができにくい。
疲労もたまる。
そこで、旦那さんを出来るだけ早く家に帰してあげようということなのだろう。
「やっぱ、何にしろ、ヤる時間がないとね」
「だから、そんな事言うなっての」
「ところでお兄ちゃん」
「うん?」
「時間、大丈夫なの?」
「何言ってんだ。時間には余裕をもって起きてる……」
入学式の始まり 9:00
ただ今の時刻 8:40
「ヤベエエエエエ!!」
「くだらない話してるからだよー、お兄ちゃん」
「誰のせいだ。誰の!」
「そりゃー、私だけど。でも、ほぐれたでしょ?」
「何が!!」
「緊張」
…………
どうやら、心の中はお見通しだったようだ。
本当にコイツには感謝してもしきれないかもしれない。
俺は昔からどうも人見知りの所がある。隠していたつもりだが、僅かな緊張は香澄には見抜かれていたようだ。
「ほら! 早く行って! 可愛い彼女つくってくるんだよ! そして、私にギャフンといわせてみな!」
「ギャフンは死語だけどな」
「ええい、つべこべうるさい! 髪梳かして、歯ァ磨いて、ウ○コして早く行って来い!」
「ああ、行ってくるわ! それと女の子がウ○コとかいっちゃいけません!」
俺は鞄をひっつかむと、扉を開けて、とび出した。
バタン、としまった扉を見つめて、佐伯香澄は椅子に腰を下ろした。
「はぁ、行った行った」
まったく。朝から騒がしい兄である。
その原因をつくったのは確かに主に私である事はいなめないが。
腹違いの兄妹。それが、藤原悠人と佐伯香澄の関係である。
共に、父親は日本最大級の経済グループ、土方グループ会長の土方俊樹。
悠人と香澄はそれぞれ別の愛人の子である。
悠人の母親は藤原菜緒。
香澄の母親は佐伯信子。
このうち、藤原菜緒は故人である。
そもそも、ただの愛人の子であるうちは別に問題なかったのだ。問題は土方の家、つまり、土方俊樹とその妻に子供が生まれなかったという事。そこで、白羽の矢が立ったのが愛人の子であった悠人である。
悠人は土方グループの跡継ぎとして様々なことを強いられた。高度な英才教育を施され、洗脳のような日々。陰では愛人の子である、とさんざん悪口を叩かれたようだ。
そして、不幸はこれで終わらない。悠人が中学二年のとき、本家に待望の子が生まれたのだ。
これにより、悠人はお役御免。一気に邪魔ものへと転落した彼は、本家を追い出された後、母親と2人で暮らし始めるが、同年母親が自殺。
なんとも凄惨な過去である。香澄は愛人の子であることを俊樹によって隠されてきた。発覚した時はすでに本家に子どもが生まれていたので、問題はなかった。母親は今も生きているが、すでに本家の奴隷のような状態になってしまっている。
香澄は怖かった。いや、今でも怖いといった方が正確か。
悠人は自分を恨んでいるのではないかと。同じ愛人という立場でありながら、不幸を味わっていない自分を恨んでいるのではないだろうかと。
無論、それは逆恨み以外の何物でもなく、香澄は恨まれるいわれなどないのだが、こういうものは理屈ではないことを理解している程度には、香澄は成熟していた。
「お兄ちゃんを支えてあげられる人がいればいいんだけど」
さっきの彼女うんぬんは冗談ではない。
朝起きた時の涙といい、家族の話題を匂わせたときの反応といい、悠人が今だ過去を気にしているのは、火を見るよりも明らかである。
そんな兄の隣りに立ってくれる人が現れてほしい。
香澄はせつにそう願うしかなかった。