今は丁度日付が変わったぐらいの時間帯だろう。まるで終わりがないのではないかと思う程、奥行きが深い真夜中の竹薮はなんとも不気味である。
しかしその竹薮の中心部には、なぜかそこだけ全く竹が生えておらず、その中心部に月の光が降り注いでおり、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。
その竹薮の中心部に私、藤原妹紅が腰を下ろして月を眺めていた。今夜は満月だった。
(満月か…ならあいつは今頃はハクタクになってるんだろうなぁ…)
妹紅は、半人半獣の寺子屋の教師である上白沢慧音のことを思いながら、満月を眺めていた。
私は悩んでいた。妹紅は、片手に持っていた花束を見つめ物思いにふけていた。
「うーん…。何をあげればいいんだ?」
それは遡ること数時間前。妹紅は慧音に「渡したい物がある」と言われ、慧音の家に行った。
「けーね、遅くなってごめん」
「ああ、大丈夫だ。まだ約束の時間の4分12秒しか過ぎてないからな」
「ず、随分と細かいな慧音は…」
「ところで、今半獣の姿なのだが、大丈夫だろうか?妹紅はこの姿嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないよ。だって慧音は、普段の姿も半獣の姿もかわいいからな!」
「ばっ…バカ!!恥ずかしいことをそうサラッと言うな……//」
やっぱり慧音はかわいいなーと妹紅はニコニコしながら思っていたが、本来の目的を思い出し、話を切り替えた。
「そういえば慧音、わざわざ家まで呼び出して何をくれるんだ?」
「ああ、そうだったな。はい妹紅!」
と、いきなり慧音が笑顔になってある物を渡され、とまどいながらもそれを受け取った。
「何これ?花束?」
「ああ、見てのとおり花束だ」
「なんでいきなり花束なんか渡すんだ?なんかあったのか?」
「だって今日は、妹紅と出会ってちょうど一年が経つだろ?」
「えっ?そうなのか?」
「やっぱり人間と妖怪は時間の経ち方の感じ方が違うんだな…」
今日は慧音いわく、私と出会ってちょうど一年らしい。そんなに経ってたっけ?時間の流れは早いな…。
「だから、ほんの気持ちとしてこの花束を受け取ってほしいんだ。時間が無かったから花束ぐらいしか用意できなかったけどな」
「いや、花束でも何でも嬉しいよ。ありがとな、けーね!」
そう言うと慧音は顔を赤らめてうつむいてしまった。ああもう照れてる慧音が可愛すぎる!
「私はこれからも、妹紅と仲良くしていきたいんだ。妹紅、この気持ち受け取ってくれるか?」
「そんなの受け取るに決まってるだろ!これからもよろしくな慧音!」
「ありがとう、妹紅。これからもよろしくな」
そう言うと私と慧音は、お互いの顔を見てクスッと笑い合った。ちょっと照れくさかったけど、慧音の可愛い顔が見れたからいっか。
「ていうか、それなら早く言ってくれよ。お返しとか何も用意してないぞ?」
「すまんな。こういうのはサプライズで貰ったほうが嬉しいだろ?」
「うん、まぁそうだけど…。私は物を貰ったら、何かお返しをしないと気がすまないっていうかさ…」
「ああ、お返しとかは別にいいぞ。私が妹紅に渡しておきたかっただけだからな」
「いや、でもさ…」
「よし分かった。なら妹紅、こうしよう。明日の夜に今日のお返しをしてくれ」
「えっ!?いや、そんないきなり言われても…」
「ふふっ、楽しみにしてるぞ、妹紅」
「えっ、ちょ…」
慧音はそう言うと、家の中に入ってしまった。私はしばらく慧音の家の前で呆然と立っていた。
「プレゼントか……」
そして現在に至るのである。
「プレゼントとか貰ったことなんて今まで無かったからな…」
何をあげようか?歴史の本でも大量に渡しとくか?いやでも、それだとなんか地味というか華がないよな…。
「というか慧音は何をあげたら喜んでくれるのかな?」
だとしたら、歴史の本は喜んでくれるはずだ。だけど、花束のお返しが歴史の本っていうのはどうかな…。
「うーん…。本当にどうしよう?」
悩んでても仕方がないので、私はとっさに思いついたことを行動に移した。
「誰かに聞いてみるか」
「それで、私の所に?」
私は、お返しの事について相談するため、永遠亭の医者である八意永琳のもとを訪れた。
「ああ、あんたならいろいろ知ってるだろうしな」
「あのねぇ…、ここは相談所じゃないのよ。今日はたまたま患者がいなかったからいいけどさ…」
「わりぃな。そんなに長居する気はないからさ、ちょっとだけ聞いてくれないか?な?」
「…んで、あんたが話したい事って何なの?」
私は、ついさっきまで慧音としていたやりとりを全て永琳に話した。
「なるほどねぇ…。それで何を渡すか悩んでいたという事ね」
「そうなんだよ。それで永琳の意見を聞きたくてな」
「で、あんたはどう考えてるの?妹紅」
「えっ?」
「私が言う前にあんたの考えを聞いてみたいからね」
「うーん…。いろいろ考えたけど何も思いつかなくて…」
「はぁ、あんたね…考えすぎよ」
「考えすぎ?」
考えすぎとはどういうことなんだ。普通はこういうお返しは悩むのが当たり前じゃないのか?
「ねえ妹紅、あんたは慧音にその花束を貰ってどう思った?」
「そりゃ、嬉しかったよ。私のために用意してくれたって思うとさ」
「それよ」
「えっ?」
それ?つまりどういうことだ?
「つまり、人に物を贈るときにはあまり考えなくていいのよ。気持ちがこもっていれば充分なのよ」
「気持ちか……」
気持ちをこめて…。確かに私は物ばかりに囚われていて、気持ちとか全く考えてなかったな。
「いいか妹紅、その辺に落ちてる石ころだって磨けば綺麗になる。ある人のために磨いたってその人に伝わったら、その人のそれに対する見方や価値はかなり変わるはずよ」
「そうなのか?てかなんで石に例えたんだよ?」
「そういうもんなの。いちいち例えにつっこまなくてよろしい」
なるほどね…。気持ちをこめれば慧音も喜んでくれるかな。
「贈り物なんてなんでもいいのよ。心がこもっているかが一番大事なのよ」
「分かった。ありがとな永琳」
「ええ。妹紅も慧音とイチャイチャできるよう、しくじらないことね」
「ばっ…、そんな関係じゃねーよ!!私たちは!!」
「はいはい、他人がイチャイチャしてようが私はそういうの興味ないから」
「いや、だからそういう関係じゃ…」
「とにかく、頑張りなさい」
むぅ…。なんかいまいちスッキリしない終わり方だな…。永琳のやつ、恥ずかしいこと言いやがって…。
そう思いながら、私は永遠亭を後にした。
「心をこめてか…」
でも、肝心の何をあげるかが全く決まってなかった。
「一日しか期間がないからな…。早く決めないと…」
どうしよう…。
そこで私は、慧音から貰った花束を見つめ、慧音のことを思いながら考えた。
「物が何であっても、心がこもっていれば慧音もきっと喜んでくれるよな。よし!」
私は決心して、お返しの準備をするために走り出した。
それから翌日の夜。慧音は家の前でそわそわしながら、妹紅が来るのを待っていた。
「うー、早く妹紅来ないかな」
そう待っていると、数分もしないうちに妹紅が慧音の家にやって来た。
「おーい、けーねー!」
「おぉ、妹紅!待っていたぞ!」
「今回はどうだ?間に合ったか?」
「安心しろ。昨日と違って約束の時間の5分27秒も早く来てるぞ」
「相変わらず時間に細かいな、慧音は…」
と、いつもどおりの会話を一通りした後、話は本題に変わった。
「それで妹紅、お返しのプレゼントってのはどんな物だ?」
「あぁ、そうだった。これ渡すのすげー恥ずかしいんだけどな…」
「なに、お前にどんな物を渡されたって私は引いたりしないから躊躇わずに渡してみろ」
「そうか?な、なら…」
私は照れながら手に持っていたお返しの品を慧音に渡した。
「さて、妹紅はいったいどんな物を…」
私があげた物を見て、慧音は唖然としながらそれを見た。
「…花束?」
「そう、花束…」
それは、慧音が私に渡したのと同じような花束だった。
「………」
「や、やっぱり嫌だったか!?」
「いや、予想もしてなかった物だったからちょっと驚いただけだ。決して嫌ではないからな」
そりゃ驚くのも無理はないだろう。慧音と同じ花束だし、手抜きなんじゃないかって思われても仕方ないだろうし…。
「私は、慧音みたいに器用じゃないし、女子力もないから、雑だったり汚かったりする所もあるけど…」
自分で言うのもなんだが、花束の形は、慧音のと比べるとかなり雑だ。花も上手く束ねてなくて、お世辞でも綺麗とは言えない。
「でも、これだけはしっかり伝えたいんだ」
私は、慧音の両手を掴み、目を逸らすことなく慧音の目をしっかり見ながらこう言った。
「私だってもっと慧音と一緒に過ごしたい、もっと慧音と仲良くなりたい。こんな欠点だらけな私だけど、慧音は一緒にいてくれるか?」
今の私の顔はきっと不安と決意でぐちゃぐちゃだろう。だけど慧音は、そんな私を見てふっと笑い、顔をほころばせながら、こう言った。
「当たり前だ」
その言葉に私は、喜びのあまり涙を流した。
「よかった…。嬉しい…!」
「泣くことないだろ妹紅。お前らしくないぞ」
「だって、慧音に嫌われるかもしれないって考えると、怖くて……」
「私がそんなことで妹紅を嫌いになるわけないだろう。それより花束は私に渡さなくていいのか?」
「あぁ、忘れてた」
私は、手に持っていた花束を慧音に渡した。慧音も快くその花束を受け取った。
「ありがとう、慧音」
「こちらこそだ、妹紅」
私たちは、昨日と同じように、お互いの顔を見ながらクスクス笑い合った。やっぱり照れくさいものだな…。
(でも、やっぱり花束だけじゃ物足りないな…。あれもやるべきかな?)
うぅ…、めっちゃ恥ずかしい……。でも、やらないと。
「あ、あのさ慧音。花束だけじゃ足りないと思って、もう1つ用意していたものがあるんだ」
「ほぉ、それは興味深いな。で、どんな物だ?」
「それでなんだが慧音、それを用意したいから、目をつぶって待ってくれないか?」
「ああ、分かった」
と、慧音は目をつぶって待ち始めた。
「妹紅、まだなのか?一体どんな物なんだ?」
「それはね――――」
と言って、私は両手を慧音の頬にやさしく触れて、お互いの顔を近づけ――
――私は慧音の唇に私の唇を重ね合わせた。
長く続いた接吻。私は満足するまで慧音の唇を堪能し、どちらからともなく唇を離した。
「これが私のもう1つのプレゼントだ……。慧音、大好きだよ――――」
あぁ、恥ずかしすぎて死にそう……//
おそらく、今の私は今までにない程、顔が真っ赤になってるだろう。だがそれ以上に、慧音の顔が真っ赤になっていて…。
「ばっ、バカ!!!な、何いきなりキスなんてしてるんだ……//」
「えぇ!?慧音、まさか嫌だったの!?」
「い、嫌じゃないけど……。むしろ嬉し…って何を言わすんだ!妹紅のバカ!!」
「バカってなんだよ!私だってすごい恥ずかしかったんだからな!!それより、慧音はどうなんだよ…」
「な、何がだ…?」
私は両手で慧音の体をがっちり掴んで逃げられないようにしながら、こう言った。
「好きって言ったんだよ!!それに対する返事はどうなんだよって意味だよ!!」
「えっ…?えぇ!?」
「慧音は私のこと好きなの?それとも嫌いなの?」
「そ、そんなの……!」
慧音は、私のことを思いっきり抱きしめて、全力でこう叫んだ。
「大好きに決まってるだろ!!!」
「――――ッッッ!!!///」
その一言でさっきまで必死に保っていた私の理性が粉々に壊された。
「けーね!!!!」
「うわっ!!」
私は乱暴に慧音を押し倒した。
「も、妹紅……。誰かに見られるから……」
「けーねが悪いんだぞ…。けーねが可愛すぎるのがいけないんだ……」
「仕方ないな…。だが妹紅、もう少し優しくしてくれると私も嬉しいんだが…」
「うん……」
「ねぇ、慧音」
「ん?なんだ妹紅?」
「もう一回さ、好きって言ってくれないか?」
すると慧音は、ぷっと吹き出して笑い出した。
「笑うことないだろ!私だって恥ずかしいんだよ……」
「いや、すまない。今の妹紅は寺子屋の子どもみたいで可愛いなって」
「なっ……!!//」
その言葉に私は、また顔が真っ赤になった。
「けーねー!?あんまり私のことバカにすると…」
「いや、バカにはしてないぞ。可愛いっていうのは本心だ」
「えっ………」
私は再び黙ってしまった。こ、こんなの反則だろ……。
「私なんかより慧音の方がずっと可愛いのに…。慧音はずるいよ……」
「ふふっ、そうかもな」
「もう、話が変わってるって!早く好きって言ってよ慧音!!」
「お前が望むのなら何回だって言うぞ」
「大好きだ、妹紅――――」
その慧音の言葉に、私は再び理性が崩壊した。
私は、再び慧音の唇を奪った。慧音もそれに嫌な仕草は一切見せず、優しく受け入れる。
そして、またどちらからともなく唇を離す。
「慧音……」
「妹紅……」
理性なんてとっくのとうに壊れていたのかもしれない――
私はそう思いながら、何度も慧音とキスをした。お互いが満足するまで――。
永琳の言ったとおり、気持ちがこもっていれば、その人に想いは伝わるんだなって改めて思った。
例え、私たちのように種族が違っても、人間だろうが妖怪だろうが関係ない、と私は思っている。
誰かを愛したり好きになること、そして、好きだという気持ちも――。
金色に光る月が私たちを明るく照らしている。
夜はまだまだ続きそうだ。
はじめまして、Siguです。ハーメルンでは初投稿です。pixivでも同じ作品を投稿しています。
主に東方projectをメインとした小説を書こうと思っています。
しばらくの間は短編小説をメインに書くと思います。
小説を書くスピードが遅いので時間がかかると思いますが、よろしくお願いします!