宿題が終わらない男の子のちょっとした話です。

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夏休み

 なぜか俺は図書室にいた。

「……ちゃんと勉強してるの?」

 目の前で頬杖をついて睨みつけているやつは委員長こと笠本梨穂(かさもとりほ)である。

「やってるよ。そうじゃないと委員長さまから説教なんだろ?」

「怒られるから宿題をやるっておかしくない?自分のために宿題はあるってことわからない?」

「わからないね。宿題なんて消えてしまえばいいと思ってるから」

「じゃあ、なんで高校なんかに入ったのよ、高校は義務教育じゃない、行かなくたってかまわない。実際中卒の人だっているわけだし」

そうやって言われると言い返せない。俺は高校生。いつだって退学はできるのだ。しかし、俺にはできない。

 

俺にはあるやつとの約束があるから――――

 

「……なんていう話じゃないでしょ、親が許してくれないだけでしょうが!」

「何で言うんだよっ!」

梨穂はため息をついて俺の課題をじっと見た。

「……まだここやってるの?明後日から学校あるのに!サボってたんでしょ……」

「おっしゃる通りです」

俺がやっているところは課題の一番最初のページ。あと百ページ近く残っている。なのに昨日まで俺はゲームを永遠とやっていたのである。そのおかげでたまっていたゲーム約五十本をすべて終わらせることができた。

「もういいよ……俺はゲームをコンプできただけで十分だ。先生に、そして委員長さまに大人しく叱られます」

そう言って机に伏せると上からゲンコツが落とされた。

「ったい!」

あわてて机から顔を上げると梨穂はこちらを向いてシャーペンを握っている。

「そんなこと私が許すと思う?さっさと終わらせるのっ!わからないところがあったら教えるから」

梨穂は俺に無理やりシャーペンを持たせる。男子の中でも力の強いほうである俺が逆らえない。梨穂が意外に力強いことに驚く。

「……やれ」

「……はい」

渋々やり始めた俺を微笑みながら見る梨穂。

絶対こいつには逆らえないんだよな、俺。

シャーペンの動きが止まると梨穂は首をかしげた。

「わからないところでもあった?」

「あった。たくさんありすぎて困る」

「わかった。一つずつ教えるから。……どこ?」

「……これ」

俺は梨穂の頬に触れた。

「はっ!?」

一瞬で顔がリンゴのように赤くなる。

かわいいなぁ

「……冗談。ここ教えて?」

問題を指さすと梨穂はあわててその問題を見る。

「えっと……ここはっ……」

説明し始める梨穂の頬はまだ赤みを帯びたままだ。

元に戻ったらもう一回やろうかな

そう思いながら説明を真剣に聞き始めた。



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