モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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・モモナリ(オリジナルキャラクター)
 本作主人公、バッジコンプリート直後の新人リーグトレーナー
 無断でチャンピオンロードを制覇した懲罰的な意味で新人としては異例のシンオウ遠征に抜擢される。
 仕事は真面目にやろうとはしているが、自我も元気もいっぱいなころ

・オークボ(オリジナルキャラクター)
 カントー・ジョウトポケモンリーグ協会若手職員
 後の苦労人も、この頃はトレーナーを管理するという壮大な目標があったりする

・シロナ(原作キャラクター)
 血統、実力、容姿、全てに非の打ち所がない後のシンオウリーグチャンピオン
 この頃はまだ少女と言っていい年齢で、ナナカマド博士の助手でもある。
 バッジ七つでコンプリート前だが、すでにシンオウの腕自慢から警戒されるほどの腕前である。

・ナナカマド(原作キャラクター)
 原作最高齢博士の一人であり、携帯獣学の権威。
 いい意味でも悪い意味でも、シロナの理解者の一人である。


セキエイに続く日常 2-入植者 ①

 少しばかりやんちゃな少年トレーナーを先導してのシンオウ旅行。いかにも、インテリで扱いにくい新人の協会職員にぴったりな仕事である。いわば子守、得るものなどなにもないように見える。

 だが、彼はその仕事を非常にポジティブに捉えていた。

 シンオウ地方、現時点でのバトルのレベルはカントーに劣るが、いずれは巨大なリーグになるだろうと噂される地方だ、コネを作っておいて損はない。

 そして、そのやんちゃな少年は、やんちゃだがその実力は折り紙付きだった。チャンピオンであるワタルを越えるかどうかはともかくとして、将来、カントー・ジョウトリーグの中心を担うトレーナーになるであろうことは間違いない。

 将来の幹部候補生として、その少年との親交を深めておくことは、組織の円滑な運営にとっても、『すべてのトレーナーを管理する』という彼個人の目標にとっても有益なことだろう。何も知らぬ少年を手懐けるなど、いとも容易い。

 

「やめろモモナリ! 頼むからもうやめてくれ!」

 

 ならばなぜ、今自分はその少年の名を呼んでいるのか。

 なぜその少年の前に、シンオウの腕自慢が跪いているのか。

 

「そうは言ってもねえオークボさん」

 

 その腕自慢を見下ろしながら、少年は自身に苦笑いを投げかける。

 扱いやすい少年だった。

 少年らしく笑い「兄弟が居ないから」と人並みに年上に懐く。懐柔は楽そうだと思った。なんだ、言われているよりもずっと素直じゃないか。

 インテリである彼が、自らの勉強不足を心の底から呪ったのは、二人がシンオウ地方についてからだった。

 自分がその少年の先導を任されたのは、いけ好かぬインテリに対するいじめじみたものだったのだろうか、将来の幹部候補に対する期待の現れなのだろうか、それとも、誰も担当したくなかったそれが新入りに押し付けられただけだったのか。

 とにかく、その少年はやんちゃでがわがままだった。

 

「仕掛けてきたのは向こうさんですよ」

 

 腕自慢の男は、それを否定できないだろう。

 のんびりと路肩を歩いていた彼等を相手に不意を打ち、勝利をもぎ取ろうとしたのは彼の方だ。

 

「古いよね、あまりにも古い」と、モモナリは呆れながらため息をつく。

 

「タイプの相性もわからなければ、ポケモンたちの長所も短所も理解していない。なのに見栄だけは一人前でさ」

 

 それ以上を口にしようとしたモモナリをオークボの言葉が遮る。

 

「それは君に原因があるものだろうが!」

 

 そうだ。

 少なくとも真人間の感性を持つオークボからすれば、シンオウのトレーナーにモモナリが恨まれるのは当然。

 カントージョウトリーグトレーナーによるシンオウ遠征。

 その親善大使に選ばれたモモナリは、その地で、あまりにも勝ちすぎた。

 地方としての可能性を秘めてはいるものの、まだシンオウのレベルはカントーには及ばない。だが、モモナリはシンオウ地方に対するリスペクトなく、公式の相手だろうが非公式だろうが、道場だろうがアウトローだろうがミニスカートだろうが、とにかくトレーナーに目線を向けてはバトルをふっかける。

 もちろん、オークボとてそれをぼうっと眺めていたわけではない。真人間の感性を持つ彼はそれを必死に止めようとした。だが、彼の実力では、彼の持つ能力ではそれができなかったのだ。

 それをやんちゃと表現するのは、些か問題があるだろう。

 彼がシンオウのトレーナー達の恨みを買うのは、少なくともオークボには理解のできる理屈だった。

 

「原因がどちらにあろうと、向こうが仕掛けてきた事実は変わらんでしょ」

 

 モモナリは膝を曲げ、跪く男と目線を合わせる。

 男は、体格ではモモナリに勝る。だが、彼はそれを屈辱に思うことすら無かった。すでに抵抗する気力はなく、抵抗することの恐ろしさの方に身を震わせているのだ。

 その男とオークボ、二人の大人が居ながら、この場を圧倒的に支配しているのはモモナリだった。

 

「さて、教えてもらおうか」

 

 モモナリは男相手に続ける。

 

「この地方で一番強いトレーナーは、誰だ?」

 

 にっこりと笑いながら、更に続ける。

 

「それとも、まだそれは自分だと言い張る元気があるかな?」

 

 男はその挑発に歯を食いしばるが、それを否定する気力も戦力も、すでに有してはいない。

 唯一この手から逃れる手段は、自らの知るそれを答えることだろう。

 

「カンナギ」と、男は絞り出すように答えた。

 

「カンナギの……シロナだ」

 

 モモナリは、その答えに少しばかり沈黙を返す。

 その表情は少し柔らかく、穏やかなものになった。

 

「へえ」と、モモナリは立ち上がった。

 

 その男は、すでに彼の興味の対象ではない。

 

「面白いじゃないか」

 

 彼は両手の指を折りながら数を数えて続ける。

 

「カンナギのシロナ。その名前、この地方のチャンピオンよりも多く出た」

 

 彼はオークボの方に振り返った。

 

「楽しみですねえ、オークボさん」

 

 

 

 

 

 

 

「確かに、シロナは私の助手だが」

 

 マサゴタウン、ポケモン研究所。

 所長であるナナカマドは、朝一にアポもなく研究所に訪れるという非常識な若者を偏見の目で見ることなく、その言葉に耳を傾けている。

 

「出身は、カンナギタウンでしょうか?」

「いかにも」

 

 オークボと名乗ったその若者は、わかりやすく青ざめていた。

 

「まずい」

 

 オークボにとっては最悪の状況だった。彼は文字通り頭を抱える。

 シロナがただのトレーナーであるだけだったらまだしも、それが携帯獣学の権威であるナナカマド博士の関係者となればあまりにも影響が大きすぎる。さすがインテリなだけあって、素早いリスク管理だ。

 

「話が見えてこんな」

 

 確認をとってから、オークボはナナカマドに事の成り行きを包み隠さずに曝け出した。

 カントーのモモナリというトレーナーがシンオウに来ていること。

 この少年のやんちゃさがもう手に負えるものではないこと。

 その少年の次のターゲットが、シロナであること。

 説明を行いながら、オークボはナナカマドの表情が曇り始めていることに気がついた。

 研究所の職員たちがざわついてきていることにも気がついている。

 

「なるほど」と、ナナカマドが頷く。

 

「たしかに、それはマズいな」

 

 彼はオークボの説明を理解し、納得したようだった。

 

「無理な願いだとは思いますが。少しだけでいいので、シロナさんには身を隠していただきたいのです。我々としては、これ以上被害を増やしたくはない」

「そのモモナリという少年は今どこにいるのかね?」

「今はヨスガのホテルに居るはずです」

「なるほど」

 

 ナナカマドは職員たちと何度か目を合わせた後に席を立った。

 

「シロナにはコトブキシティに使いをさせている。今すぐ迎えに行こう」

 

 彼に合わせるように慌てて席を立ちながらオークボが問う。

 

「連絡などは」

「やるだけ無駄だ、どうせ端末を携帯はしていないだろう」

 

 すでにジャケットを羽織り始めているナナカマドについていきながら、オークボは首をひねった。

 どうも話が早く進みすぎだ。いくら博士とは言え物分りが良すぎる。普通博士というものは、もう少し頭が固いものではないのか。

 

 

 

 

 

 

 シロナというのは、美しい少女であった。

 つややかなブロンドに、魅力的なボディライン。その腰元にモンスターボールがなければ、まさか彼女がトレーナーであろうとなどは思わないだろうし、それも、すでにジムバッジを七つ集めている凄腕だろうとは微塵も思わないだろう。

 故に、彼女は複数の男に絡まれていた。

 あるいはそれは、彼女の美貌を手中に収めたいためだろうか。それとも、ナナカマドの使いとしてフレンドリショップに持っていった荷物が目的だろうか、それとも、ナナカマドの助手としての知識を求めてだろうか、もしくは、トレーナーの持つポケモンを奪わんとする野望のためか。

 とにかく、彼女は絡まれていた。先程まで。

 彼女がその実力を発揮するまでもなく、横から現れた少年トレーナーが、その複数の男たちの手持ちを蹴散らしたのだ。

 男たちは、何が起きたのかわからなかった。自らの手持ちが倒されているという結果は理解できても、その理由がわからない。

 

「行きなよ」と、その少年はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「俺の機嫌が、もう少し悪くなる前にさ」

 

 シンオウの人間ではない。その場の人間すべてがそう思った。

 彼の懐に立つゴルダック自体はシンオウにもいるポケモンだが、何より、その言葉の訛りが、シンオウのそれとは違うのだ。

 だが、男たちの前ではそれは些細な問題だった。ただ、彼等はその少年の機嫌がまだ悪くはないことに感謝しながらその場を去る。

 一人残ったシロナは「ありがとう」と、同年代か年下にも見えるその少年に礼を言った。

 だが、その少年からは予想外の言葉が返ってくる。

 

「強いんだって?」

 

 会話を無視したその言葉に、シロナは一瞬言葉を失った。

 男たちに向けていた視線を、今度はシロナに向けながら彼が続ける。

 

「かわいそうに、あんな奴らが相手じゃ、ポケモンを繰り出す気にもならないわな」

 

 彼女は、絡まれていた。

 

「ドラゴンつかいの一族の生まれらしいじゃないか」

 

 的確に自らのルーツを言い当てたその少年に、シロナは驚きながらも表情を変えることはない。

 

「目的は、何?」と、彼女はその少年に問う。

 

 彼は、その言葉を待っていたかのように、一歩後ずさってシロナと距離をとった。

 

「トレーナーとトレーナーの目が合った。やることは一つだろ?」

 

 彼がボールに手をかけようとしたその時だった。

 

「モモナリ!」

 

 恐らくその少年の名であろう。彼を叱責する声と共に、一人の青年が彼の前に割って入る。

 

「申し訳ない」と、その青年は一つシロナに頭を下げてからモモナリの腕を拘束するように掴んだ。

 

 そして、同じように自分にも声がかかる。

 

「シロナ君」

 

 ナナカマドは、彼女の腕を掴んだ。

 

「あれは誰なんです?」と、シロナはようやく現れた見知った人間を相手にとりあえず質問した。

 

「さあ、私にもよくわからんが、カントーのリーグトレーナーらしい」

「リーグトレーナー」

 

 彼女はそうつぶやきながら、青年を相手に苦笑いしているモモナリを見る。

 その若さで、すでにバッジをコンプリートしているというのか。

 

 

 

 

 

「なんてことをするんだ!」と、オークボはモモナリの両肩を揺さぶりながら叱責する。当然ながら、それはシロナとナナカマドにも聞こえているだろう。

 

「なんてことって」

 

 モモナリは呆れるようにそれに苦笑いを見せながら続ける。

 

「トレーナーとトレーナーが戦うことが、そんなに珍しいですかね?」

「相手は女の子だぞ!」

 

 オークボに苦笑いをしていたモモナリは、その言葉に目線を上げ、彼を睨みつけて答える。

 

「女の子である以前に、トレーナーだろうが」

 

 当然、そのやり取りも向こうに聞こえているだろう。

 その場をやり過ごし、結論を先延ばしにすることをオークボが両者に提案しようとしたその時だった。

 彼は、自らの身体が全く動かなくなっていることに気づいた。

 なぜならば、自分から離れようとしたモモナリを掴んでいるはずの両手に力が入らず、「逃げやがったな」とつぶやきながら自らの脇をすり抜けるモモナリを止めるための両腕にも力が入らなかったからだ。

『かなしばり』だ。と、彼は瞬時に理解し、そして、これは大変なことになったと、唯一動く脳みそで感じた。

 

「モモナリ!」と、ようやく動くようになった体を反転させながら振り返った彼の視界に、当然モモナリは居ない。

 

 そこに居たのは、呆然と立ち尽くすナナカマドのみであった。

 

「博士!」と、オークボは駆け寄った。

 

「お怪我は!?」

「いや、なにもないさ。私も君と同じだった」

 

 その言葉の意味をオークボは理解できなかった。

 

 そして、その質問を解決するよりも先に、ナナカマドが背を向け、足早に歩き始める。

 

「来なさい、行き先には心当たりがある」

 

 

 

 

 

 

 

 シロナが逃げ込んだのは、地下だった。

 シンオウ名物、地方全土に広がる地下通路。

 はるか昔より整備され続けたそこは、古代の技術と近代の技術がグラデーションのように折り重なる空間である。地下資源の豊富なシンオウ地方の文化を象徴するダンジョンだ。

 故に、シンオウ出身の彼女がそこに逃げ込むことをモモナリは不思議なことだとは思えなかった。

 カントーにはない、初めての光景であったが、彼はそれに心奪われない。

 ただただ、彼は地上でそうしてきたのと同じように、追う者の痕跡を辿りながら、楽しい勝負に心躍らせる。

 シロナというトレーナーは、どうも逃げるのは下手くそなようだ。あらゆるところに痕跡が残り、むしろ地上に居たときよりも追いやすい。

 やがて、モモナリは通路にポッカリと空いた穴を見つける。

 

「なるほど」と、モモナリはつぶやく。

 

「『ひみつきち』か」

 

 彼は、何の遠慮もなくそこに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「早く来なさい!」

 

 地下通路入り口、しびれを切らしたナナカマドが、及び腰になっているオークボを叱責する。

 

「わかっています! わかってはいるんですが!」

 

 その間抜けな姿に反比例して、オークボの表情は真剣そのものだ。

 彼は、並大抵のことはできる。

 帰国子女であるから語学は堪能だ、学力も人並み以上にはある、大学にはアマチュアゴルフの賞金で通った、貯金は株式投資につぎ込み、今の所勝利者側である。

 ただ、彼はモモナリの制御と暗くて狭いところが苦手なだけなのだ。

 

「モモナリ君がどうなっても良いのかね!?」

 

 自らを叱責するナナカマドの少し矛盾した発言にも、彼はまだ気づけない。

 

 

 

 

 

 

『ひみつきち』内部。

 女の子のそれに遠慮なく踏み込んだモモナリは、挨拶代わりに放置されていたアイス菓子のパッケージを踏んだ。

 散らかった部屋だった。

 真人間ならば、シロナの持つその美貌とその部屋のアンバランスさに思いを馳せるだろうが、モモナリはそうではない。

 彼は、入り口に背を向けて立っているシロナを視界に捉えると、満面の笑みを携えながら語りかける。

 

「さあ、追い詰めた」

 

 いつの間にか繰り出したゴルダックが彼の前にポジションを取る。

 だが、向こうから返ってきたのはモモナリの予想外の言葉だった。

 

「追い詰めた?」

 

 ふふふ、と、その笑い声は秘密基地を反響する。

 

「違うわよ、モモナリ君」

 

 シロナは振り返り、微笑みに歪んだ美貌を惜しげもなく見せつけながら続ける。

 

「あなたは誘い込まれたの」

 

 次の瞬間、ゴルダックが何かに吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 見れば、彼女の横にははどうポケモンのルカリオ。その構えから、ゴルダックに向けて『はどうだん』を打ち込んだのは明らかだ。

 だが、モモナリはそれを捉えることができなかった。それは油断もあるだろうが、それ以上に、彼女らのコンビネーションの優秀さが要因だろう。

 

「まずは一勝、かしら」

 

 間髪をいれず。ルカリオはゴルダックに襲いかかる。

 砂煙、巻き上がる散らかったゴミ。

 だが、そこにゴルダックは居なかった。

 代わりに、ルカリオの背後から現れたアーボックが、その肩口に『ほのおのキバ』を食い込ませ、そのままシロナの方に放り投げるように振り回す。

 宙を舞ったルカリオは、体を捻って受け身を取りながらシロナのそばに戻った。

 だが、その肩口には燃えるような痛み。

 シロナはそれに苦い顔を見せる。

 彼女の豹変に驚いたように見えたモモナリは、しかし冷静にゴルダックを手持ちに戻し、アーボックを潜ませていた。

 

「一勝一敗」と、モモナリは満面の笑みでシロナと目線を合わせる。

 

 お互いが、お互いの力量を過不足なく見積もった。




今回は本当にやりたい放題です。

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また、現在連載している『ノマルは二部だが愛がある』もよろしくおねがいします!

また、暫定版ではありますがこの作品の年表を作成しました。なにか矛盾などあれば遠慮なくコメントよろしくおねがいします

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