これは、そんなIFの世界のお話。
※若干ピンクな展開が入りますのでご注意ください。
なんて思いながら書いた俺得なもの…ですがよろしくお願いします。
「貴方にこれを飲ませて、涼宮ハルヒの出方を見る」
「え、ちょ……なんだよその青い液体は…!」
襲われたあの日のような、別次元の教室に閉じ込められた俺、通称キョンは非常にピンチな状況に置かれていた。そう、あの日救ってくれて今までずっと救ってくれていた、あの「長門有希」によって。
「さぁ、飲んで」
長門は俺に近づいて一言呟き、その後呪文を唱え始める。青い液体の入ったビンのふたが、呪文によって開き、そして―――
「う、うぐっ……うぅっ…!」
粘々とした青い液体が、俺の喉を無理やり通っていった。
*
そもそも何故こうなったのか、俺には分からなかった。ただいきなり長門に呼び出されてああなったのだ。本当に、よくわからない。といっても、体には具体的に何も変化がない。昨日はあれを飲まされた後、特に何もなく解放されたし、帰っても何も起きないし……不思議なことに慣れすぎたせいか、何もないのがむしろおかしいように感じてくるのだ。
といえど、朝はちゃんと毎日来るわけで。
「きょーんくぅーん!!」
「ちょ、うわっ!?起きてる!起きてるから!!」
昨日のことが気になってちょっと早くから目覚めていた俺に対し、いつものようにダイビングをかます妹がやってきた。毎朝これのおかげで目が覚めるのだが、既に起きている俺からしたら苦痛でしかない。
「キョンくんめずらしー!おかあさーん!キョンくん起きてたー!今日は雨だよー!」
そんなに言う必要あるか、と思いながら俺はゆっくり体を起こす。……うん、やっぱり何もない。俺はいつものように肩の横にあった時計を見る。
………さて、今日も頑張るか。
*
「げっ…マジで雨かよ…」
家を出てすぐ、バラバラと雨が降り始めた。結構な量である。……妹が言った通りになっちまったな畜生…。こんなブルーな気分で学校になど行きたくないが、この程度じゃ警報も出ない。行くしかないか…。
「おはよう、キョン君」
「ああ、おはよう朝倉。…って、は?」
俺は後ろから来た朝倉に挨拶を返した。それもとても自然に。しかし、ここで忘れてはならない決定的事項がある。それは――
「なんで……お前がいるんだよ…」
『いるはずもない』朝倉が、今目の前に、そして消される前と同じ、あの様子。俺はまさしく、開いた口が塞がらない。
「あれ?長門さんから聞いてない?私、再構成されたのよ」
「は?なんで。」
「情報統合思念体のため。一週間前ぐらいに長門さんが再構成したの」
とりあえず、歩きながら聞き出すことにした。だが、やっぱり距離を取ってしまう。そりゃ、一度俺を刺した女だ。距離ぐらいとるだろ。
「それで、今日は放課後暇?」
「放課後?……まさか」
「うーん…目的が少し違うわ。前回とはね。」
俺の額に嫌な冷汗が滴る。なんだかヤバそうだ。
「今日、ちょっと買い物に手伝ってほしいの。長門さんも連れてくんだけど、人手が足りなくてね。」
……案外普通でちょっと安心した。しかも長門も一緒…となれば大丈夫…なのだろうか。
昨日の一件もあり、ちょっと不信感があるのは間違いないが…。
「……わかった、行ってやる」
「やったっ♪それじゃ、放課後すぐに長門さんちに集まってね」
「了解」
今日はとんでもない日になりそう……な予感がした。
*
運命の放課後。俺は既に長門の家にいた。何故か今日はハルヒがいない。席替えした記憶もないが、何故か後ろには朝倉が座っていた。……とても不愉快だったが、気にしてはいられないと思って頑張った。
「で、いつ行くんだ?」
長門と一緒に帰って、玄関で濡れた上着を脱ぎながら聞いた。今日はあの時から一日中雨で、おかげで体育がなくなった。ラッキーっちゃ、ラッキーだ。
「そろそろ来る。」
長門がそう答えた瞬間、インターホンが鳴る。……びっくりしたぜ…。
「こんにちは、キョン君」
「……ああ。こんにちは」
笑顔の朝倉に向かって、俺は不貞腐れたように挨拶を返した。こいつには笑顔で会う気になれない。ブルーな気分なのに、何故こいつの蒼い髪を見なければならんのか。
「さて、長門さん。準備はいい?」
「……大丈夫」
「え、は?」
何故か長門も朝倉も何も持っていないのに、準備できてるわけがない。……おかしい、普通鞄とかエコバックとか持ってるはずなのに。何だ、この違和感は…!
「じゃあ、キョン君―――」
「眠ってて?」
その瞬間、俺の意識は飛んだ。
*
「うっ…」
俺は、目を覚ました。しかし、ここは長門の家……ではなさそうだ。加えて、俺の両手両足が縛られている。所謂拘束状態だ。
「お目覚め?キョン君♪」
「あ、朝倉っ…!貴様……!」
私服姿…さっき買い物にいこうとする前のままの朝倉が現れた。……この状況は朝倉がやったに違いない。俺はまた……まんまとハメられたらしい。
「そんな怖い顔しないの♪今日は、楽しむためなんだから…ね?」
「何が楽しむだ!どうせ刺すんだろうが!」
「そんなことはしない」
「長門っ!?」
後ろから長門が現れた。何故…何故朝倉と…!?
「今日は、実験」
「もう、長門さんたら…もっと人間味のある言い方をしましょ?」
「でも、変わりない」
何の話なのかさっぱり分からない。やっぱり、長門も朝倉にやられてるのだろうか。昨日の青い液体といい、こんな状況といい……もう、長門さえ頼りにならないのか…。
ツカツカとこちらに歩み寄る朝倉。来るな…来るんじゃない…!嫌な冷汗が俺を襲う。水分みんな冷汗になっちまうんじゃないかってぐらい。
「青い液体、スイッチ、オン♪」
「っ――!?」
謎の言葉と共に、俺は朝倉に唇を奪われた。朝倉の髪からふわっと、石鹸の香りが漂う。だが、それどころではない。
「ぷはっ…こんなものかしら?」
「十分」
「っ…!?なんだこれ…!?違う…!?違う…!!」
唇を離した後、俺は強烈な頭痛に襲われた。俺が…変わっていく…!?
「それじゃもう一度、おやすみ」
*
「……ん…ここは…」
俺は再び目を覚ました。記憶は…ばっちり残ってる。大丈夫だ。しかも今度はちゃんと長門の家にいるらしい。
「一刻も早く逃げな…けれ…ば…」
だが、口がだんだん動かなくなっていく。言葉を発することもままならない。
加えて、両手両足は縛られていないのに何故か動かせない。動かそうとしても、動かない。
「おはよう、キョン君♪」
……朝倉だ。俺に向かって、さっきと同じようにツカツカと歩いてくる。椅子の上に座ったまま動けない俺に、今度は何をするつもりだ…!
「私ね…実はもう、インターフェース…宇宙人じゃないの」
何を言ってるんだこいつは…さっきもその前も、眠らせたのはお前じゃ――
「眠らせたのは、長門さん。後ろからやってもらったからきっとあなたじゃ気づかなかったのかもね」
長門…あいつ…何のために…。
「でも、どうしちゃったのかな私…何故か…何故か…――」
「キョン君、好きになっちゃったみたい。」
……は?俺の頭に、今数千個の「は?」があふれ出す。意味が分からん…ただこいつはそんなことのために…?
「でもキョン君、私見ると警戒するでしょ?だから……愛し合うにはこうするしかないと思ってね?長門さんにお願いしたの」
「キョン君…。キス、して?」
………したくもないがまず動けない……はずだった。俺の体は、意識せずして朝倉の方へ近づいていく。そして、朝倉の首に腕を回して――
「っ…。……嬉しい。もっと…もっとして…?」
俺の体は言われるがままに、朝倉を抱いてキスを繰り返した。だが、俺の意識では全く動かない。
「キョン君…好き…」
「ああ、俺も好きさ涼子」
そして俺の口、言葉でさえ朝倉の思い通りになっていく。思ってもないことを平気で吐く自分の体に、違和感と不快感が募る。
「キョン君…涼宮さんはもうこの世界にいない………さぁ、私と二人で暮らしましょ…?」
「いいのか俺で」
「うん…キョン君だからいいの…」
ハルヒが、いない?そんな馬鹿な…!
俺の頭はショートしかけていた。確かにハルヒはいなかった。だが、この世界にハルヒがいないなんて、そんなわけがない。ハルヒの願望実現能力でしか、世界は…変えられないはずなのに何故…!?
「ちょっと…キョン君…い、いきなり胸は…」
「いいだろ…?別に後でゆっくり触るんだから…」
「もう…キョン君のえっち…」
「さぁ、ベッド行こうか」
「うん…」
そんなことも知らない俺の体は、無意識に朝倉の胸に手をやった。俺はもう我慢の限界だった。………もうやめろ…やめてくれ…!!これ以上は…これ以上は―――!
*
「うおっ!?」
俺は、飛び起きた。どうやらここは病室…?……うわ、すげえ汗。冬になってこんな汗は初めてだ。まさか…夢?
「あら、おはようございます」
「古泉…?」
「すごい表情されてますね。まるで悪い夢でも見たような」
悪い…夢?あれが?いや、あれは感覚があった。決して夢じゃない。あれは…なんだ?
「……古泉。なんで俺はここで寝てたんだ?」
「あら、覚えていらっしゃらないのですか?クリスマスパーティーをしようとなって買い出しに行こうとしたとき、あなたが階段からまっさかさまに落ちたのですよ」
「俺が、落ちた?」
……1週間ほど前、ハルヒがSOS団でクリスマスパーティーをするという話をしたのは覚えている。またなんかアホらしいことするんだろうな…って思ってた。ただ、それ以降の記憶がない。
「おかげであなたは昏睡状態。ここで何日も寝ていたというわけですよ」
「……なるほど。他の奴はどうした?」
「涼宮さんなら、そこに」
そう言って、古泉はベッドと窓の間を指さした。
「こいつ…」
そこには、寝袋にくるまってすやすやと寝息を立てるハルヒがいた。不覚にも、俺はこいつがいることに少し安心してしまったのであった。
*
「おはよ。あんた今日は遅かったわね」
「ああ、たまたま寝坊したんだ」
俺はあの後すぐに検査をした。何故か外傷は0。よくわかんねえが、特に異常もなかったらしくそのまま退院。ハルヒには迷惑かけたとメールで謝っておいた。
次の日からまたちゃんと学校に行かねばならなかった。このハイキングコースも12月にまできたら慣れたものだが、病人だったならもうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいのではないだろうか。なんて思っても異常ないなら活動に参加、というハルヒの意見があり、俺は今日もやってきた。
「そういや、あんた『朝倉涼子』とか言う人と知り合い?」
「は?朝倉?」
いきなりの話に驚いた。そうだ、ハルヒの記憶からは朝倉について消されてるんだっけ。
「有希から手紙預かってるわ。その人からの」
「は、はぁ。」
「受け取っときなさい。中身は見てないから」
妙に律儀なハルヒに少し動揺しながらも、俺はもらった手紙を開ける。
「楽しかったわ。また今度会えたらその時は――」
何文かしかないのに、最後が書けていない。消えていた。もしかしたら、力尽きたのかもしれない。俺はあんなに憎かった朝倉を少し可哀相に思いながら、冬の青空を見上げた。
この後、長門に衝撃の事実を聞くまでは。