矢澤さんと園田さんが遊園地で遊ぶ話です。
矢澤姉妹と高坂さん、南さんも登場します。

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姉はつらいよ、いつまでも

「こころ!もうすぐだね」

「そうですね、楽しみです!虎太朗も楽しみだよね!」

「うん、楽しみー」

 うちの妹達は興奮を隠しれず、落ち着かない様子でそわそわしている。普段は落ち着きのあるこころでさえも、この調子だ。

「ほらほらあんた達、他の人の迷惑になるから静かにしてなきゃだめよ」

 見かねた私が軽く注意を促すと、妹達は「はーい」と返事をして静かになる。しかし口数は減っても、体の端々に落ち着きのなさがまだ残っている。

 まだまだ子どもなんだし、まあしょーがないわよね。

 私は姉達を連れて朝早くから電車に乗り、とある場所へ向かっていた。それは少し前にオープンしたアミューズメントパーク、いわゆる遊園地だ。

 つい先日、仕事から帰ってきたママが何やら上機嫌だった日があった。不思議に思った私がママに何かあったのか尋ねてみると、ママはもったいぶった様子で4枚のチケットを取り出した。私は目を凝らしてチケットに書かれた文字を目で追う。

『何それチケット?えっと……―遊園地……ってまさか最近オープンしたあの遊園地の!?』

『ふっふっふ、驚いた?会社の人がくれたのよ。自分は興味がないから娘さん達に使ってくれだって。いやー、あのハ…じゃなくて部長もいいとこあるわねー』

『よかったじゃないママ!それじゃあ私は留守番してるからチビ達をよろしくね!』

『何言ってるのよ。にこが行くに決まってるじゃない』

 ママはさも当たり前のように言った。

『え?だってそれじゃあママが……』

『私はいいのよ。もう遊園地を純粋に楽しめるような年でもないしね。それに、あんた達が楽しんでくれれば、私はそれが一番嬉しいから……ね?』

『ママ……』

『その代わり、あの子達の面倒はしっかり見なきゃだめよ?あなたは一番お姉ちゃんなんだから』

 私はこみ上げてくる涙をぐっと抑えた。

『……っ、わかった。皆でしっかり楽しんでくるね』

『ふむ、それでこそ矢澤家の長女ね!』

『えへへ。でも今は一人の娘なんだし、ママに甘えたいなぁ……』

 私はもじもじとてママから目を逸らす。

『普段しっかり者なのに、二人になると甘えてくる……相変わらずにこはかわいいわねえ。よし!ママの胸に飛び込んできなさい!』

『っ!うん!ママ!』

 といった心温まる家族のやり取りが行われ、こうして今日に至るのだ。

 今になって考えれば、私自身も遊園地に行く機会なんてほとんどなかった気がする。少なくとも最後に行ったのはいつだったか思い出せないくらいにだ。だから正直にいうと、私も今回の遊園地は楽しみにしている。もちろん妹達の面倒を見るのが優先だけど、できれば私も楽しく遊びたいのだ。

「お姉さま!見てください!」

「ん?どうしたの?」

 こころが嬉々とした表情で窓の外を指差している。釣られて窓の外に目を向けると、目的の遊園地がもうすぐそこまで迫っていた。

「もうすぐだね!楽しみだね、お姉ちゃん!」

「ええ、そうね」

 ふと虎太朗の方を見ると、無言で遊園地に魅入ってた。表情にあまり出てないけど、内心はやはりとても楽しみなのだろう。

「よし、3人とも降りる準備するわよ。忘れ物がないかチェックしなさい。置忘れなんかしちゃダメよ」

 私がそう言うと三人はすぐ手荷物を確認を始めた。

 それからしばらくすると、目的の遊園地に到着した。今日が週末ということもあってか、大勢の人で賑わっていた。

「わかっちゃいたけど、やっぱり人が多いわね。3人とも、離れ離れにならないようね」

 私の言葉に対し3人が返事をすると、私達は受付の窓口へ向かい、用意していたチケットとフリーパスの券を引き換え、入園する。

 まず目に入ったのは広々とした広場と、その中央で鮮やかに水を噴出している噴水だった。溢れ出した水は浅い水路を通り、左右広がる色とりどりの花が植えられた花壇の元に流れ着くようになっている。

 その景色を見て感嘆してる妹達に、私は一先ずチケットを渡した。

「はい、あんた達のフリーパスよ。失くさない様にしなさい」

 そう言ってこころとここあにチケットを差し出す。流石に虎太郎の分は私が持っておくことにした。

「わかりました」

 こころが私の手からチケットを受け取ろうとすると、私が手を離すタイミングが悪かったのか、一瞬無防備になったチケットは、風に煽られて飛ばされてしまった。

「あ!待って!」

 こころが急いで飛ばされるチケットを追いかける。私はしまったと思い、急いで追いかけようとしたが、運がいいことにチケットは私達から少し離れたところでゆっくりと地面に落ち着いた。それを見て私が安堵の息を洩らしていると、誰かがそのチケットを拾い上げるのが見えた。

「これはあなたのですか?」

 その人物は向かってくるこころを見つけると、屈んでチケットを差し出した。

「あ、そ、そうです。拾ってくださってありがとうございます」

「どういたしまして。今度はしっかり握っておかないとだめですよ?」

「はい!」

 そのやり取りを見た私は、一言お礼を言わなければと思い、2人の元に近づく。

「良い返事ですね……あれ?あなたは確か」

「ウチの妹のチケットを拾ってもらって、ありがとうございます……って、あんた!?」

 目の前に見慣れた顔を見つけ、私が驚きの声を挙げると、その人物はゆっくりと顔を上げた。

「ああ、やはりそうでしたが。どこかで見たことがあると思っていましたが、にこの妹で間違いなかったですね」

 そこにいたのは、海未だった。屈んでいた海未はゆっくりを腰を上げる。

「海未ちゃん、受付あっちにあったよ!早く受付に……ってにこちゃん!?ことりちゃん、にこちゃんがいるよ!」

「え?にこちゃん?……あ、ほんとににこちゃんだ!」

 海未の後ろにある人ごみから出てきた2人の人物は、私の顔を見て目を丸くしていた。その3人の顔を見た私も、目を同じように目を丸くした。そこにいたのは穂乃香とことりだったのだ。

「あんた達もいたのね。今日は3人で仲良くお出かけってわけ?」

「そうですね。穂乃果が福引の商品でこの遊園地のフリーパスを当てたので、私たちもそれにあやかっているところです」

 流石穂乃果ね。やっぱりこの子持ってるものがあるわ。

 当の穂乃果はウチの妹達と意気投合しているようで、楽しげに話をしてる。ことりもそっちの輪に加わっているようだ。

「へえ、よかったじゃない。それじゃあこれからアトラクションを回るんでしょ?」

「いえ、今回はそういう目的ではないんですよ」

「へ?遊園地に来てアトラクションで遊ぶ意外に何があるっていうのよ?」

「にこは知らないのですか?今日はこの遊園地でこんな催し物が行われているんですよ」

 海未はそう言って一枚のチラシを取り出した。私はそのチラシに目を向ける。

「えっと……宝探し大会?」

「ええ、そうです。今日この遊園地では宝探し大会が開催されているんです。しかもその宝を見つけた人には100万円が贈呈されるみたいです」

「ひ、100万円!?」

 予想を超えた賞品に、思わず驚愕してしまう。

「はい。ですので私たちもそれに参加しようと思い、今日ここに来ているのです。にこ達は……そうではないみたいですね。こういった催しに参加するなら絵里や希と一緒に来ているでしょうし」

「え、ええ。私達は単に遊びに来ただけよ。そんなイベントやってるなんて今始めて知ったわ」

 言われてみれば、園内のあちこちにとても遊びに来たとは思えないようなオーラを持つ集団もいる。屈強な男達の集団もいれば、随分と大人数で固まっている集団もある。果てにはゲームやアニメのようなコスプレをしている人もいた。

「ねえねえ、にこちゃん達も一緒に宝探ししようよ!絶対楽しいよ」

 穂乃果が私の背後から両肩に手を乗せ、軽く圧し掛かってくる。

 私としては別に構わないけど、チビ達がなんて言うか。

「お姉さま!私も参加したいです!」

「私も私もやりたい!」

 意見を聞くまでも無く、こころとここあは目をキラキラと輝かせて私を見上げてくる。虎太郎の方をチラリと見ると視線が合い、こくんと小さく頷いた。

 賞金に釣られたのか、それとも単に楽しそうと思ったからなのか。後者であることを願いたいけど、とりあえず3人がその気なら私から言うことはないわね。

「……そうね。こんな機会滅多にないだろうし、どうせだから参加しましょうか」

 私がそう言うとこころとここあは「やったー!」と飛び跳ねる。ついでに穂乃果も一緒に飛び跳ねている。

 この子は精神年齢がこころ達と同じくらいなんでしょうね。

「それでは早速手続きを済ませてしまいましょうか。穂乃果、案内していただけますか?」

「うん。こっちだよ」

 私達は穂乃果の先導で受付の場所へと行き、早々と受付を済ませると、一枚の紙を受け取った。どうやらこの紙に書いてある問題が解けなければ宝探しに参加することができないらしい。これで参加者を篩いに掛けようとしているのだろう。

 更に時間宣言も決まっているということもあり、私達は早速受け取った紙に目を通した。

 

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ひとつ戻れば半分で もひとつ戻れば見えてくる

 

ZVNJNPOVIJJSFHB VXPOJOVIJOJV

ZVHJOVIJJSFHB OBSJOVIJOJV

TFVTPBOVIJJSFHB JTIJHBLBOVIJOJV

TPSFIBOBOJ

 

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 紙にはパッと見るでは分けのわからないような文章が書いてあった。皆も同じ印象なのだろう、眉間に皺を寄せている。

「お姉ちゃん。これ何?英語?」

「うーん……英語ではないと思うけど。もしどうそうだったらここあ達にはちょっと難しいかもね。あんた達はどう思う?」

 私は海未達を見渡したて問いかける。3人がうんうんと唸っている中、最初に口を開いたのはことりだった。

「確かに英語ではないかもね。少なくとも私が知ってるような単語も見当たらないし……海未ちゃんはどう?」

「そうですね……確かにことりの言うとおり、英語ではないような気がします。それに、その上に書いてる文章も気になりますね。穂乃果は……やっぱりいいです」

「何で!?私だって英語っぽくないってことくらいわかるよ!」

「そうでしたか、すみません。でも穂乃果の場合、英語のローマ字を一緒に考えている節がありますよね?」

「そ、そんなわけないじゃん!?私だって高校生だよ?それくらいちゃんと使い分けてるよ」

 ああ、あの動揺具合だと本当にそうみたいね。流石の私でもそこまで馬鹿じゃないわ。

 それからしばらくの間、4人で意見を出しつつ、といっても穂乃果はほとんど発言していないけど、考えてはみたが、未だに回答への糸口は見つからない。

「……あーー!わっかんないわね、これ!敷居高すぎじゃないの?」

 私は解けない苛立ちを声に表すと、海未は紙から視線を外し、私の方を向く。

「まあこうして難易度をあげておかないとすぐに宝が見つかってしまいますからね。私としてはこれくらいが妥当な気がしますよ」

「そうかもしれないけど……でもこれはちょっとねえ」

 そう言いながら再び問題の書かれた紙を忌々しく睨みつける。

 この調子ならさっさと切り上げてアトラクションを乗りまわった方が良いかもしれないわね。

 そんな風に考えていると、こころが申し訳なさそうに隣から声を掛けてきた。

「すみませんお姉さま。私も英語を勉強しておけば力になれたかもしれないのに、アルファベットの順番くらいしか覚えてなくて」

「こころが気にする必要ないわよ。というかあんたの年でアルファベット順を覚えてるなら上出来よ、胸を張りなさい」

 こころの頭を撫でると、こころはくすぐったそうに笑った。

「アルファベット順……ん?そうだとするとこの文の意味は……こうなってこうなるから……なるほど、わかりました!」

「本当!?海未ちゃん!」

 問題が解けずに近くのベンチでグロッキーしていた穂乃果は、海未の声を聞いて急に元気を取り戻した。

 こいつ、途中で問題を解くの諦めてやがったわね。

「はい。これはシーザー暗号というものです」

「シーザー暗号?」

 聞きなれない言葉に、ことりが首を傾げる。

「シーザー暗号というのは文字をずらして各文字を辞書順にずらして作られた暗号です。アルファベット順を思い浮かべてください。Aから1文字ずらすとB、反対にDから1文字後ろにずらすとCになりますよね?この文にも同じ規則が含まれてます。先ほど頭の中でできる部分までやってみたら、それらしい文章も見えてきましたからね」

「でもずらすっていっても何文字ずらすのよ。アルファベットの数……26通りなんて試す時間ないわよ」

「ずらす文字数に関しては上の文がヒントになっています。ひとつ戻れば、つまり1文字だけ後ろにずらせということです」

「へえ……あんたよくそんなのわかったわね」

 思わず感心しまう。この手の話しではやっぱり海未が頼りになるわね。

「いえ、先ほどこころちゃんの一言があったからこそですよ。アルファベットの順番という言葉が出なければ私だって思いつきませんでしたよ。ありがというございます、こころちゃん」

「わ、私ですか!?いえ、お役にてて何よりです!それよりも早くしないと時間がないんじゃ……」

 時計を確認すると、こころの言うとおり、制限時間がもうすぐそこまで迫っていた。

「それもそうですね。それでは3行あるので3組に分かれて済ませてしまいましょう。ひとまず書いてあるアルファベットを1文字ずづ後ろにずらしてみてください。その後のについては終わってから説明します」

 海未の指示に従い、私達は3組に分かれて暗号の解読に取り掛かった。

 一先ず第一関門をクリアする目途がついてきたわね。早く済ませて先に進まないと。

「穂乃果さん。Nの後ろってLじゃなくてMじゃありませんか?」

「え?あ、そうだね!ありがとう、こころちゃん」

 小学生くらいの子どもにアルファベット順を教えられる高校生……初めて見る光景ね。少し心配だけど、まあこころもいるんだしなんとかなるでしょ。

 それから数分程して私達は海未の指示通りに解読を終わらせると、それぞれの文章を組み合わせた。

 

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ひとつ戻れば半分で もひとつ戻れば見えてくる

 

YUMIMONUHIIREGA UWONINUHINIU

YUGINUHIIREGA NARINUHINIU

SEUSOANUHIIREGA ISHIGAKANUHINIU

TAROHININU

 

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 出来上がった文章を見てみると、先ほどと同じアルファベットの羅列ではあるけど、心なしか読み易くなった気がする。いや、これは……。

「海未、もしかしてこれって」

「にこは気付いたみたいですね。恐らくその考えであってますよ。それでは穂乃果早速あなたの出番です」

 穂乃果は突然の指名に目を見開く。

「ええ!?私英語わからないよ!」

「何言ってんのよ。よく見なさい。あんたでも読めるはずだから。というか読めなかったらあんたがどうやって高校に入ったのかすら疑わしくなるっての」

「そこまで!?って言っても……あ!これってローマ字じゃん」

「そうよ。これだったらあんたでも読めるでしょ。さっさとひらがなに戻しちゃいなさい……で、いいのよね、海未」

 偉そうに言ってはみたが、私だって流石に100パーセント自信を持っているわけじゃない。念のため海未に確認をとってみないと。

「はい、にこの言うとおりです。穂乃果、お願いします」

「うん、まっかせてよ!」

 そう言って穂乃果はすぐに作業に取り掛かった。

 先ほどのこころと穂乃果のやり取りを見て、穂乃果の見せ場を作ってやろうと思ったのかもしれないわね。まあ、残念なことにこれくらいで評価がひっくり返るようなことはないと思うけどね。

「海未ちゃん!できたよ!」

 予想より早く作業を終わらせた穂乃果は、皆の前に紙を差し出した。

 

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ひとつ戻れば半分で もひとつ戻れば見えてくる

 

ゆみもぬひいれが うをにぬひにう

ゆぎぬひいれが なりぬひにう

せうそあぬひいれが いしがかぬひにう

たろひにぬ

 

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「ありがとうございました穂乃果。それでは続きを話します。さっきはひとつ戻ればという文に従ってアルファベットをひとつずらしたあと、ひらがなに直してもらいましたが、次もやることは変わりません。もひとつ戻ればという言葉の通り、今度は五十音順に従って文字をひとつ後ろにずらせばいいんです。そうすれば……」

 そう言うと海未は空白のスペースにすらすらと文字を書いていく。よくもまあ頭で考えながら書けるわねこの子。

 

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やまめにはあるが いわなにはない

やぎにはあるが とらにはない

すいせんにはあるが あさがおにはない

それはなに

 

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 出来上がったのはクイズ番組などでよく見かける謎々のような文章だった。恐らくだけど、この問題が解けたら本選に参加できるのだろう。

「さて、後はこの問題を解くだけですが……どなたかわかりますか?」

 海未は皆の顔を見てそう聞いてくる。

「うーん、やまめってといわなってたしか山の方にいる魚だよね?何か模様とかに違いがるのかな?」

「私もそこまで山のお魚さんってことくらいしか知らいし、それにこのやぎさんととらさん……強いてあげるならやぎさんには角があるってことくらいかなあ」

 穂乃果とことりは文を見て頭を悩ませている。

「このすいせんとあさがおは恐らく花のことなんでしょうが……上の二つと何が共通しているのか何かわかりませんね」

 どうやら海未もこの問題に関してはお手上げみたいね。まあ、私もわからないんだけど。……っていうかこの文章ひらがなばっかで読みにくいわね。とりあえず漢字にしてみましょうかね。

 私はひとまずできるだけ、ひらがなを漢字に戻していく。そして、一通り漢字にしたところ、改めて文章を読み直してみる。

「ふう、これで読みやすく……あら?これってもしかして……ねえ海未。私この問題わかったかも」

「本当ですか!?」

「ええ。多分この答えって――」

 

 目の前には曲がりくねった一本道が長々と続いている。歩みを進めながら視線を動かすと、最初の広場で見たの同じように、色とりどりの花々が鮮やかに植えられおり、綺麗な花を咲かせている。右手には青々とした木々が道に沿って等間隔に並べられており、左手にある大きな川は、日差しを反射しながらに緩やか流れている。

「ありがとうございました。にこのおかげで本選に参加することができました。あのままだと何もできずに終わってしまうところでしたからね」

 非日常的な景色に目を奪われていた私を、海未の一声が現実に引き戻す。

「ま、スーパーアイドルである私に掛かれば、ざっとこんなモンよ。褒め称えてくれてもいいわよ?」

「ええ、本当にすごいです。流石は3年生ですね」

「うぐっ……あ、当たり前じゃない。受験生なめんじゃないわよ」

 前に絵里達と漢字の問題を出し合ってたときに、受験に必要なさそうな漢字までふざけて出し合ってたのが功をそうしたわね。人生何がどこで役に立つにわからないもんだわ。

 というかこうやって素で褒められるとなんか調子狂うのよね。凛だと軽く毒吐いてくるくらいだし。

「ま、まあそれもこれも私の自慢の妹が解答の切欠を作ってくれたおかげよね。よくやったわよ、こころ」

「そうですね。ありがとうございます、こころちゃん」

「どういたしまして。お役に立ててよかったです!」

 私と海未の間に挟まれているこころは、元気に返事をする。虎太郎はこころと手を繋いでおり、こころを見て「すごいー」と一言。

「でもでも、お姉さまもすごかったです!私ももっと勉強してお姉さまみたいな立派なレディーになります!」

「あーもう!かわいいわねー、この子は!」

 私がそう言ってこころの頭を撫でると、こころはくすぐったそうに笑った。

 しまった、ちょっとシスコンぽかったかもしれない。そう思い、海未の顔を伺い見ると、えも言えぬような表情でこころを見つめていた。しかしすぐにいつもの顔つきに戻る。

「……そうですね。このまま勉学に励めはきっと素敵な女性になれますよ。頑張ってください」

「はい、海未さん!」

 ……さっきのは何だったのかしら?……ま、いいか。

「それよりもあっちのチームは大丈夫かしら?割と心配なんだけど」

「あっちにはことりがいますし、ここあちゃんもしっかりした子ですから、大丈夫だと思いますよ。穂乃果が行き過ぎな事しなければですがね」

 本選に無事参加できた私達は、新たな暗号の書かれた紙を受け取ると、2チームに別れて捜索を行うことにした。こっちのチームは私と海未、こころ、そして虎太郎の4人。あっちのチームは穂乃果、ことり、ここあの3人。ここあが向こうにいるのは、穂乃果と大分気があったらしく『一緒に遊びたい!』ということだった。

「あいつってそこまで信用されてないのね……それじゃああっちは心配ないとして、私達もこの問題を解かなくちゃね」

 本選の問題は全部で6問。それぞれ暗号を解くと、キーワードが手に入るようになっているみたいだ。恐らくそのキーワードを組み合わせると宝の在り処がわかるのだろう。

 私は自分のチームが受け持った3つの暗号を改めて確認する。

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・人が造りしその花は 高く高くと背を伸ばし

 流るる風が穏やかに ぐるりぐるりと花葉を揺らす

 

・東を照らす燃える火が こちらに来いと手招いた 

 娯楽者には招待状 愛の言葉を囁いて

 

・村に入らぬはみ出し者は 皆に恵みを持たらした

 行く先長い彼の旅路 影は差せども軌跡は消えず

 

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「……流石にすぐにはわかりませんね。恐らく何かを比喩している文章なのでしょうが……」

「かもね。ひとまず園内の地図でも見てみましょうか」

 私はバッグからパンフレットを取り出し、こころ達にも見えるように低い位置で広げた。

「お化け屋敷にジェットコースター、ゴーカート、メリーゴーランド、観覧車……他にも色々あるみたいだけど、基本的によくある遊園地と変わらないわね。結構広いみたいだし、この中から宝を探すってなると骨が折れそうだわ」

「だからこそのキーワードなのでしょう。それに現段階で何もあてがないというわけではありません」

「そうなの?」

「はい。2つ目の文章なのですが、「東を照らす燃える火」というのは恐らく夕日のことを示しています。夕日が手招く、つまりは西側の方にキーワードか隠されているではないのでしょうか。2行目の部分までは今はちょっとわかりませんが」

「なるほどね。それじゃあ試しに行ってみましょうか」

 私達はパンフレットを頼りに遊園地の西側を目指した。

 しばらくして、私達は遊園地の西側にあたりに辿り着いた。あたりを見た感じだとゴーカートやメリーゴーランドなどがあるみたいだ。

「さて、西側に来たのは良いけど一体どこに手掛かりがあるのかしらね」

「娯楽者には招待状、というからにはアトラクションに関係があるのかもしれません。実際に遊んでみたらわかるのでしょうか?」

「そうかもしれないわね。試しにどれか遊んでみましょうか。あんた達、どれか遊びたいのはある?」

 どうせならこころと虎太郎に選ばせてあげようと思い、聞いてみる。

「あっちー」

 こころがどれにしようかと迷っていると、虎太郎がいち早く口を開いた。それと同時に私達が元来た方向を指差した。

「あっち?あっちに何かあるの?」

「うん」

「……?海未、あっちに何かあったかしら?」

「どうでしょう……私も地図ばかりを見ていたので何も気付きませんでしたが……もしかしたら何かあったのかもしれませんね。行ってみましょうか」

「そうね。こころもそれでいい?」

「はい。大丈夫です」

 こころがそう答えると、私達は虎太郎が指差す方に向かった。ほんの数分ほど歩くと、虎太郎が指差す先に屋台のようなものが立ち並んでいた。見たところ大勢の人で賑わっている。

「虎太郎、アレがそうなの?」

「うん、あれー」

「どうやらお祭りで見かける出店のようなものみたいですね。射的、輪投げ、ゲームセンターで見かけるようなものもあるみたいです」

「へー、面白そうじゃない。虎太郎はどれをやりたいの?」

「あれー」

 虎太郎はそう言いながら輪投げのある屋台を指差した。

「あれね。それじゃあ私と一緒にやりましょ」

 そう提案すると虎太郎は小さく頷いた。

「お姉さま。私はあれをやりたいです」

 こころは輪投げとは別の屋台を指差した。

「いいわよ。遊んでらっしゃい。海未、悪いけど付き添い頼めるかしら?」

「構いませんよ。それでは行きましょうか、こころちゃん」

「はい!」

 こころと海未は別の屋台の方へ歩いていった。私と虎太郎は輪投げのある屋台に向かう。

「すいませーん。一回分いいですか?」

「わかりました。少々お待ちください」

 遊園地のマスコットのお面をつけた店員から輪を受け取る。そして虎太郎が輪を投げようとしたところであることに気付く。この子の背が低すぎて、壁が邪魔になって輪が投げれない。

「しょーがないわ、ね!」

 私は気合を入れて虎太郎の体を持ち上げた。

 ぬおっ!この子また大きくなったんじゃない!?このまま長時間持ち上げるのは流石に無理!……いや、ここは姉として根性を見せなくては!

「ほ、ほら、早く投げなさい」

「ありがとー」

 虎太郎は輪をひょいひょいと投げ始めたが、一向に輪が引っかかる気配はない。というより途中から見る余裕すらなくなってきた。

「終わったー」

「そ、そう?それじゃあ降ろすわよ」

 私は虎太郎をゆっくりと降ろす。結果はこう言ったら悪いけど予想通り、ひとつも成功していなかった。まあ、虎太郎も遊べて満足してるみたいだし、頑張ったかいはあったってものよね。

「……ふう。あっちはどうかしらね」

 一息ついて海未達が向かった屋台の方を見る。すると熊のぬいぐるみを抱えたこころと手ぶらの海未がこちらに歩いて来ていた。ちょうど向こうも終わったみたいだ。

「お姉さま、見てください!海未さんからいただいちゃいました!」

「あら、よかったわね。ありがと、海未」

「いえ、喜んでもらえたなら何よりです」

 海未はこころに優しく微笑んだ。

「海未さん、本当にありがとうございました。……あ、そういえばさっき、すごい人がいたんですよ、お姉さま」

「すごい人?」

「はい。その人、店員さんに告白してんたんです」

「え?どういことなの、こころ?」

「私もよくわかりませんけど……私の隣に別のお客さんが来たと思ったら『愛しています』って店員さんに言ってたんです。びっくりしちゃいました」

「何よそれ……海未は気付かなかったの?」

「あ、いえ、私はゲームに集中してたもので……まったく気が付きませんでした。と、というかこんな公衆の場で告白なんて!は、破廉恥です!」

 海未は顔を赤くする。そういえばこの子こういう類の話は苦手だったわね。てかこころの方がよっぽど堂々としてるってどういうことよ。

「それでその後なんですけど、その人、何だか封筒をもらってました」

「封筒?」

「はい。いったい何でしょうか?」

「ふーむ……」

 告白の返事に手紙を渡した?いや、そんな返事の手紙なんてすぐに用意できるものじゃないわね。偶然ドッキリ企画にでも居合わせたのかしら?でもそれならもっと盛り上がってるはずだろうし……。

 そんな風に考えながらふと周りを見回して、私は驚愕した。何故なら大勢の人が同じような封筒を手に持っていたからだ。

「はぁ!?どういうことよこれ!?」

 ここいらの人全員が店員に告白でもしたっての?何よそれ!何でこんなことが……あ、待て、『愛の言葉を囁いて』ってもしかして……なるほどね、随分といい性質のしてんじゃないのよ。

「……海未、さっきの暗号、わかったわよ」

「えっ?」

 赤面していた海未は私の一言でいつもの顔色に戻った。

「さっきの文章に愛の言葉を囁いてってあったじゃない?あれね、多分あそこの屋台いる店員にそう言った類の言葉を言えって意味だと思うわ」

「な、何ですかそれは!?」

「それだと合点がいくのよ。さっきこころが見たのは、条件を満たして手掛かりを受け取ってたところだったわけ。だからこそ、そこらじゅうに封筒持ってるやつがいるのよ」

 お面をつけてたのはその辺を考えてのことでしょうね。こんなの顔が見えない方がやりやすい決まってるわ。

「は、破廉恥です!主催者を訴えましょう!」

「落ち着きなさい馬鹿」

 さて、どうしたもんかしら。海未がこんなのやるわけないし、ここは私の美少女力を大衆の者どもに見せ付けてもいいいけど……こころにやってもらうっていうのも面白そうではあるわね。

 いかがなものかと思い悩んでいると、視界の端で海未が静かに手を上げた。

「……私がやります」

「へ?どうしたのよ海未?とち狂ったの?」

「誰がとち狂ったですか!わ、私だってスクールアイドルの端くれ!伊達に人前でダンスを踊っているわけではありません!用は人前でそういう演技をすればいいのでしょう?それくらい私にだってやれます!」

 何でこいつこんなに鬼気迫ってんの!?破廉恥メーターが吹っ切れて、おかくしなったんじゃないでしょうね……ま、やってくれってんならどうせだしやらせてみようかしら。今後のアイドル活動の自信に繋がるかも知れないしね。

「そ、そう?ならお願いしようかしら」

「任せてください!」

 海未は意気込んで女性の店員がいる屋台へ向かう。確かに異性にって指定はないし、別にいいわよね。

 海未は店員の前に立つと、肩で大きく息をした。ちょうど海未の背中を見る形になっているので表情までは伺えない。

「……突然の無礼をお許しください。私は……あなたのことを愛してしまいました。あなたの仕事に対する執筆な姿勢に、心を奪われてしまったのです。……こんな形で告白をしたところで、あなたから良い返事をいただけるとは思っていません。ですが、伝えたかったのです。この気持ちを、今目の前にいるあなたに。もしかしたらという淡い期待と共に、伝えたかったのです。公衆の面前で告白するなど、愚かな人間だと思っていただいても構いません。けど、せめて……一期一会のこの瞬間、我侭ではありますが、答えだけでもいただくことはできないでしょうか?」

 何よあの告白はー!?まるでガチみたいじゃないのよ!てかあの店員、お面の上からだっていうのに海未に見蕩れてるのが雰囲気からわかっちゃうんだけど!?ついでに周りからの視線が尋常じゃないくらい集まってるじゃない!

「………はい……よろしくお願いします」

 しかもオーケー貰いやがった!

「ありがとうございます。では、愛の印をいただけますか?」

「は、はい!」

 店員は慌た様子で封筒を取り出すと、海未に差し出した。

「ありがとうございます。大事にさせていただきます」

 海未は封筒を受け取ると、そのまま踵を返して私達の方へ戻ってくる。そして手に入れた封筒を私に手渡した。

「にこ、どうぞ」

「あ、ありがと……あんたにしては無理したわね」

「これくらいどうってことありません。では、行きましょうか」

 そう言うと海未は早足に屋台から離れていく。私はこころ達の手を取って急いでその後を追いかけた。告白された店員は呆然と海未の背中を見つめていた。

 海未はしばらく無言で歩いていたが、屋台が見えなくなるくらいの場所に来ると、突然に膝を曲げて腰を落とした。心配になり、海未の顔を覗き込む。

「ち、ちょっと海未!?どうしたのよ?」

「み、見ないでください……もうは、は、恥ずかしくてっ……っくぅ……し、死んでしまいた……くあぁぁ……」

「ああ、今になって反動がきたのね」

 悶絶する海未は首から耳まで茹蛸のようになっている。あんなん私でもできんわ。

「海未さん、すごくかっこよかったです!私感動しちゃいました!」

「あ、ありがとうございます、こころちゃん」

「もういっかいー」

「こ、虎太郎君、簡便してくれませんか」

 あれをもう一回っていうのは流石に酷でしょう、我が弟よ。

「ダメよ虎太郎。海未が困ってるでしょう?勘弁してあげなさい」

「わかったー」

「よしよし、いい子ね。それよりも、虎太郎が屋台を見つけてくれて、こころが封筒のやり取り見つけてくれたから、こうして手掛かりを手に入れることができたわ。ありがとね」

 私は虎太郎とこころの頭を撫でる。

「……にこ。私にお礼はないのですか?」

 そう言う海未の方を見てみると、膝を曲げたまま私を横目で睨んでいた。

 ん?私何か気に障ることでもしたかしら?

「そ、そうね。海未もありがと。よく頑張ってくれたわ」

 そう労うと、海未の表情はパァっと明るくなり、そして無言でこちらを見つめ始めた。

「……」

「……?」

「…………どういたしまして」

「う、うん」

 途端、どうしてかわからないが海未は曇ってしまった。

 いったいどうしたってのよ?いつもの海未とまったく違うみたいなんだけど。

 私が怪訝に眉をひそめると、海未は小さく溜息を吐き、立ち上がった。

「……それじゃあ封筒を開けて中身を確認してみましょうか」

「そ、そうね」

 頭の隅に妙な違和感を残しつつ、私は先ほどの封筒から中にあるものを取り出した。。出てきたのは一枚の折りたたまれた紙切れだけだった。広げてみるとそこには「ゴハン」と一言だけ書かれていた。

「……これだけ?」

「……みたいですね……ゴハンといえばもうお昼前ですね。そろろそろ穂乃果達と合流してお昼を食べましょうか」

「それもそうね。どうせこれだけじゃなにもわからないし。あっちが他のキーワードを見つけてるのを期待しときますか」

「そうですね。それじゃあ穂乃果に連絡してみます」

 海未は携帯電話を取り出すと、穂乃果に電話し始める。私はこころと虎太郎に何か食べたいものはないかを聞きつつ、パンフレットを広げて良さげなフードコートを探し出した。

 

「あ、にこちゃーん!海未ちゃーん!こっちこっちー!」

 集合場所のフードコートに行くと、そこには既に穂乃果達の姿があった。黄色いパラソルが差されたテーブルセットに座っていた。

「お待たせ。もう注文はすませちゃたの?」

「まだだよ。ちょうどそろそろ注文に行こうかって話し合ってたところ」

「そ。それじゃあ私と海未で席と取っとくから、あんた達は先に注文済ませちゃいなさい。ことり、悪いけどチビ達も一緒に連れて行ってもらっていいかしら?」

「いいよー。それじゃあ3人とも、行こうか」

 ことりがそう言うと3人は「はーい」と返事し、私と海未を残してカウンターへ向かっていった。

「……ふう。やっと一息つけるわね。こう歩いてばっかりだと流石に疲れるわ」

「ですね。そいうえば穂乃果達の方はキーワードを見つけることができたのでしょうか?」

「どうかしらね。あんまり期待はできないところだけど……一応後で聞いてみましょうか。案外私達より集めてたりして」

「流石にその可能性は低いんじゃないんでしょうか、穂乃果ですし……でも、ことりがいるわけですから、ひとつくらいは見つけてるかもしれません。といっても私達も見つけたのはひとつだけなんですがね。情けない限りです」

 海未は申し訳なさそうに笑う。

「ま、本気で賞金見つけようなんて思ってるわけじゃないんだし、別にいいんじゃない?面白ければそれでいいのよ」

「それもそうですね」

 そこで会話が途切れる。特に話すことも思い浮かばなかった私は、穂乃果達が帰ってくるのを待ちながら、日常から切り離された園内の景色を見ていようと、ふらふらと目を泳がせる。

「……にこ」

 不意に海未が名前を呼んでくる。

「ん?」

「あの……折り入ってお願いがあるのですが……」

「お願い?何よ?」

「それは……えっと、その……」

 海未は何か言いずらそうに、もじもじと口篭る。

「何?言いたいことがあるならはっきりいいなさい。無理難題じゃなかったらある程度は聞いてあげるわよ」

 見かねた私は、ため息混じりそう言った。

「そ、そうですか……それでは――」

「おーい!私達は注文してきたから、にこちゃん達も行っていいよー!」

 言いかけた海未の言葉を、穂乃果の大声がかき消した。

「あら、もう来たのね。で、お願いって?」

「あ、いや!やっぱりいいです!」

 海未は随分と慌てた様子で、胸の前で小さく手を横に降る。

「え?いいの?」

「はい!大丈夫です!」

 一体どうしたってのよ。他のやつらに聞かれたんじゃまずいってわけ?

「……ま、いいけどね。そんじゃ、私達も注文に行きましょうか」

「はい……」

 明らかにしょんぼりとした海未を引きつれ、私達はカウンターへと向かう。

 一体なんだったのかしらね。気になるところではあるけど……まあ本当に必要ならそのうち言ってくるだろうし、それまでは待ってようかしらね。

 その後、私達は昼食を済ませると、食後の一息をつきながら、現状の確認を始めた。私は手に入れた私達がキーワードと、そこであった出来事を穂乃果達に説明した。

「海未ちゃんがそんな大それたことを……私も見たかったー!」

「私もー!」

 穂乃果もことりも予想通りの反応を見せる。海未は自分の行動を思い出し、再び茹蛸のようになっている。

「で?あんた達はキーワード見つけれたの?」

 私がニヤニヤと笑うと、穂乃果は「ふっふっふ」と不敵に笑みを浮かべ、一枚の紙を取り出してテーブルの上に叩き付けた。私はその紙を覗き込む。

「何よ?これがどうしたってのよ……ってこれってもしかして!?」

「どう!?私だってやる時はやるんだよ!」

 そこには「車」、「赤」、「裏」というキーワードと思わしき言葉が書かれたいた。

「あんた達、よく3つも見つけたわね。お手柄じゃない!」

「ちなみにその内のひとつはここあちゃんが見つけたんだよー」

 ことりがそう言うと、ここあは「ふんっ」と自慢げに胸を張る。私はここあの頑張りを褒めようと、ここあの頭を撫でた。

「さっすが我が妹。よくやってくれたわ」

「にこちゃん!私も!私も撫でて!」

 穂乃果は片手を挙げつつ、片手で自分を指差す。

「何であんたを撫でなくちゃいけないのよ!」

「そんなー!ことりちゃーん!にこちゃんがいじわるだよー」

「よしよし。代わりに私が撫で撫でしてあげるねー」

「わーい!」

 穂乃果がことりに抱きつくと、ことりは穂乃果の頭をゆっくりと撫でた。

「でも本当にすごいですね。私達はまだひとつしか見つけていないのに。よくあの3つの暗号をこんな短時間で解けたものです」

「えっと、それなんだけどね。実はちゃんと問題が解けたのはひとつだけなんだ」

「え?どういうことですか?」

 海未が怪訝に尋ねると、ことりはキーワードを手に入れた経緯を話し始めた。

 1つ目のキーワードはちゃんと暗号を解いて手に入れたが、それ以外は違うみたいだった。2つ目のキーワードは、自分たちが手に入れた1つ目のキーワードを教える代わりに、2つ目のキーワードを教えて欲しいという人がいたということだ。所謂情報交換によって手入れたらしい。

「で、3つ目のキーワードは風車の周りを歩いてたら、穂乃果ちゃんが偶然見つけたの」

「そういうことでしたか……ん?3つ目は風車の近くで見つけたのですか?」

「うん、そうだよ。風車の裏側の壁に板が貼り付けてあって、そこにキーワードがあったの。うまくカモフラージュしてたみたいだから、よく見てないとわからなかったかもね」

「なるほど……」

 海未は少し考え込むような仕草を見せると、すぐに顔を上げて私の方を向いた。

「にこ、どうやら私達が探すべきだったキーワードを穂乃果達が見つけてくれたみたです」

「え?どういうこと?」

「この暗号ですよ」

 海未は暗号が書かれた紙を取り出し、その内の1つを指差す。

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・人が造りしその花は 高く高くと背を伸ばし

 流るる風が穏やかに ぐるりぐるりと花葉を揺らす

------------------------------------------------------------

 

「恐らくこれは風車のことを示しているんです。人が作った物で背が高くて、風を受ければ花葉を、つまり羽をぐるぐるとゆっくり回す。こういうことだったんですよ。そして穂乃果が偶然にせよ何にせよ、この暗号を解読してくれたのは助かりました。何故ならこの遊園地には到る所に風車がありますからね。風車だとわかったとしても、探すだけで時間が掛かってしまいます」

「確かに……入り口の広場辺りでも風車を見た気がするわね。花壇の隣にあった気がするわ。それじゃあ今回穂乃果は大手柄ってわけね」

 私がそう言って穂乃果を見ると、穂乃果は期待の眼差しを私に向けていた。もしこいつに尻尾があったらさぞかし大きく振っていることだろう。

「……しょーがないわねー」

 私は観念して穂果乃の頭を撫でる。

「いやー、どうもどうも」

「何がどうもどうもよ。手のかかる妹が一人増えた気分だわ。ったく」

「にこお姉ちゃーん!」

「ええい!くっつくな!誰がお姉ちゃんだ!」

「にこお姉ちゃーんっ!」

「ことり!あんたも便乗してんじゃないわよ!」

 抱きついてくる2人を引き剥がすと、海未が今後どうするかについての話を切り出した。

「とりあえずキーワードが4つ集まったわけですけど、これだけじゃ何を示しているのかまだわかりづらいですね」

「そうね。車っていうのは一体何なのかしら?ゴーカートのこと?」

「それだとちょうどこの近くにありますね。ひょっとしたらゴハンというのはフードコートの事を言っているのかもしれません」

「だとしたら赤いゴーカートが何か関係してるのかしら?でもそれだと裏って言葉の意味がわからないわね」

「……こうやって考え続けていても仕方ありませんね。とりあえず、引き続き探索を行いましょう」

「そうしますか」

 そうして私達は、再びキーワード探しを開始した。

 

 昼食の後、私達は再び2手に別れてキーワード探しに取り掛かった。チームは私と海未、そしてここあだ。こころと虎太郎は穂乃果たちのチームに入っている。虎太郎のことはことりに任せておけばいいし、穂乃果の面倒はこころが見てくれるから大丈夫でしょ。

「さて、それじゃあどこを探しましょうか」

「そうねー。あっちのチームはゴーカートの方に行ってみるって言ってたし、私達は別の場所をこの暗号を頼りに探してみましょうか」

 私は紙に書かれた暗号に目を通す。私たちが担当するのはこの暗号だ。

--------------------------------------------------

 

・村に入らぬはみ出し者は 皆に恵みを持たらした

 行く先長い彼の旅路 影は差せども軌跡は消えず

 

--------------------------------------------------

「はい。それじゃあまず、この村という単語ですが、どこかに何か関係するものはあったでしょうか?」

「うーん……ちょっとすぐには思い浮かばないわねー」

 海未と2人で頭を悩ませていると、ここあが私のスカートの裾を引っ張ってきた。

「お姉ちゃん。そういえばさっき穂乃果ちゃんたちと居た時に話してたんだけど、ここにあるお化け屋敷がね、とある村を舞台にしたものなんだって。ひょっとしたらそのことじゃないかな?」

 私は「そうなの?」とパンフレットを取り出し、お化け屋敷に紹介文を読む。するとここあの言う通り、ここのお化け屋敷はとある村を舞台としたアトラクションとのことだった。

「なるほどね。海未、このお化け屋敷に行ってみましょうか?」

「そうですね。仮に暗号に関係なかったとしても、楽しめるところでしょうし」

「よし。そうと決まれば行くわよ!」

 私達はパンフレットを頼りにお化け屋敷へと向った。

 そうして十数分ほど歩いたところで、オドロオドロしいお化け屋敷の看板が姿を現した。順番待ちの行列も然程長くはないし、暗号とは一切関係のないところかも知れないわね。

 私たちは列に並び、順番が回ってくるのを待つ。

「しっかし、お化け屋敷なんて久しぶりねー。最後にこういうの入ったのいつだったかしら?」

「私もです。小さい頃は怖くて入れなかったんですが、高校生にもなってしまうと、やはり恐怖も薄れてしまいますね」

「まあそうよね。流石にこの年でお化け屋敷が怖いっていうのはちょっとね」

 うちの絵里に関しては暗い場所ですらアウトという体たらくなんだけど。

「でもこのお化け屋敷って巷では怖いって評判のところらしいし、案外楽しめるかもね」

「そうなんですか?何か特殊な演出でも?」

 そう言って不思議そうに尋ねてくる海未を見ると、私の心の中の悪魔が、少しばかり悪戯をしてやれと小さく囁いた。私はできるだけ声のトーンを落とし、恐怖を煽るようなか口調になる。

「……実はね……ここのお化け屋敷、本物の幽霊が出るって噂があるのよ。実際に見た人も結構居るらしいわ。何でもこの場所で昔大勢の人が死んだんだって……」

「……という類に話題作りですよね。流石にそんなところに遊園地を、ましてやお化け屋敷をつくろうなんて罰当たりな人がいるとは思えませんよ」

 海未はことも無げに笑い飛ばした。

 ま、そりゃそうよね。絵里ならともかく、海未がこれくらいで怖がるわけないか。そもそもこれだって、話題作りどころか、私が今適当に考えた設定だし。

「お待たせしました!次のお客様どうぞ!」

 気が付くと、既に私達の順番が回ってきていた。私達は従業員の人に促されるままお化け屋敷の中に入る。中は薄くなっており、ぼんやりと浮かび上がる赤い光が唯一の灯りであった。

「やっぱ結構中は暗いわね」

「そうですね。足元に気をつけないと」

「……あ」

 適当にあたりを見回していると、突然ここあが小さい声を発した。

「ん?そうしたの、ここあ?」

「そういえばさっきね。穂乃果ちゃんが変なこと言ってたんだ」

「変なこと?まああの子ならそんな発言の1つや2つ珍しくはないけど……何て言ってたの?」

「えっとね、お姉ちゃん達がフードコードに来る前なんだけど、穂乃果ちゃんがお札みたいなのを見たんだって」

「へ?」

 一瞬首筋が冷たくなる。

「でね、何が書いてあるかまでは見てないけど、気味が悪かったからすぐに元に位置に戻してそこから離れたんだって。これって今お姉ちゃんが話してたことに関係があるのかな?」

 首筋に感じた冷たさは、そのまま背筋をスーっとなぞり、心臓の音が徐々に大きくなるのを感じた。

 海未の方をチラリを見ると、顔から血の気が引いて青白くなっている。心なしか微妙に手も震えているようだった。

 嘘から出た真なんて冗談じゃないわよ!?いつも気丈な海未だって怖がるっての!

「へ、へえ、そうなの?ま、まあこのお化け屋敷とは関係ないんじゃないかしらね?きっとあの馬鹿がその辺の看板と見間違えたんじゃない?」

「そ、そうですよね!穂乃果のことですからきっとそうですよね!」

「あ、当たり前じゃない!ほら、そうとわかったらさっさと行くわよ。暗号の解読もしなくちゃいけないんだからね」

「はい!早く行きましょう!」

 私はここあの恐怖を煽らないよう、できるだけ気丈に振舞いつつ、お化け屋敷の中を進み始めた。

「ここあ、暗くて危ないから、はぐれないように手を繋ぐわよ」

「うん」

「にこ、私の右手が開いてますよ。どうしますか?」

「何よどうしますかって」

「……繋いでもいいのですよ?」

「この年になって何で高校生同士で仲良くお手て繋がなくちゃいけないのよ。んなことするわけないでしょ」

「そ、そうですか……」

 海未しゅんとして差し出した手を引っ込めた。

「……ったく……ほら」

 私は仕方ないといった具合に海未に左手を差し出した。

「……!にこ!」

「あんたがどーしても怖いっていうなら私の手を取ってもいいわよ?」

「はい!」

 私が言い終わるやいなや、海未はすぐに私の手を強く握った。

 い、意外ね。この子ならこいう風に言えは『こ、怖くなんかありません!』って強がりながら突っぱねると思ってたんだけど。やっぱり今日の海未は何か変よね。

 まあ実際のところ、私も多少は、そうあくまで多少なりは怖いと思う部分もあったし、でちょうどよかったと言えばちょうどよかったと言えなくも無い。海未の前で口にするつもりは毛頭ないけどね。

「よし!それでは行きましょう!」

「おー!」

 先行する海未とここあに手を引っ張られながら、更に奥へと進む。しばらく歩いていくと、ちょっとした広間に着き、部屋の真ん中には井戸のようなものがあった。

「……ちょっと海未、あんた井戸の中見てきなさいよ」

「そ、そんな!にこが行ってくださいよ!」

「わ、私はここあを守らなきゃいけないからダメなのよ!」

「それなら私がここあちゃんを守りますから、にこが行ってください!」

「そ、そんなわけにはいかないわよ!私はこの子の姉なんだからね!」

「ひ、卑怯ですよ!」

「卑怯じゃないわよ!」

「……じゃあ私が行こうか?」

 私と海未が言い合っていると、ここあがそんな一言を発した。

「え?ここあ、怖くないの?」

「怖くないよ!それよりも井戸の中に何があるか楽しみなくらい!」

 この子って怖いもの知らずなのかしら。普通だったら率先して見ようなんて思わないんだけどね。いったい誰に似たのやら。

「……情けないところをお見せしてすみません、ここあちゃん。私もご一緒させてもらってもいいですか?」

「ち、ちょっと!抜け駆けはずるいわよ!ここあが見るなら私だって一緒に見るっての!」

 妹の前で海未だけにいい格好させてたまるもんですか!私だって姉としての意地があるのよ!

「わかりました。では3人で一緒に見ましょう」

 私達はゆっくりと、擦るような足取りで井戸に近づく。いつ何が起きてもいいように、気を張って、お腹の中心に力を入れておく。そしてあと一歩で井戸の中が見える位置まで来た。そして「せーのっ」という私の合図と同時に、私達は一斉に井戸の中を覗き込んだ。

「……な、何もないじゃない」

 井戸の深さは人の腰辺りまでが隠れる程度で、中には何もなかった。

「はぁー、緊張して損したわ」

「……?なんですか、にこ?」

「は?何ですかって何よ?」

「今私の肩を叩いたじゃありませんか」

「え?私肩なんて叩いてないんだけど?」

 私の左手は今井戸の淵に置かれており、右手はここあと繋いでいるのだ。

「へ?でも今だってこうして肩を……」

 海未と私は同時に後ろを振り返る。

「……」

 そこには某日本のホラー映画よろしく、髪の長い女性と、白い衣装を着た女性がひっそりと立ちすくんでいた。その手はもちろん海未の肩に掛けれており、顔は長い髪で隠されており、伺うことができない。その女性がブツブツと何かを呟きながらゆらりと頭を揺らすと、髪の隙間から拉げかけた瞳が見えた。

「ひっ……!」

「きゃあああああああああ!」

 私が声にならない悲鳴を上げると同時に、海未は盛大な悲鳴を上げた。

「いやあああああああああ!」

 そして右手を大きく振りかぶり、その女性の頬にビンタを叩き込んだ。

「ええええええ!?」

 予想外の行動に驚いていると、海未はそのままどこかへ走り去ってしまった。

 叩かれた女性は頬を押さえて悶絶している。

「大丈夫?」

「は、はい……」

 ここあが女性に心配そうに声を掛けると、女性は片手を上げて弱々しく答えた。この一部始終を見てすっかり恐怖心が消えた私は「し、失礼します」と言って海未の後を追いかけた。

 しばらく進むと、道端でへたり込んでいる海未を見つけた。「海未」と名前を呼ぶと、海未はゆっくりとこちらを振り向く。暗がり故に、確かにとは言えないが、目元には微かに涙が浮かんでいるように見えた。

 海未はゆっくりと立ち上がると、私たちのほうに向き直った。

「……ま、またしても御見苦しい見せてしまいましたね」

「いや、あのタイミングでビンタかませたなら大したもんだっての。あの幽霊、かなり痛がってたわよ」

「そ、そうですか、それは悪い事をしました。も、戻って供養した方がいいんでしょうか?」

「何言ってんのよあんた」

「し、しかし……」

 あたふたと困惑している海未の手は、微かに震えていた。

「……ほら、私の左手、開いてるわよ?」

「っ!にこ……こ、怖いなら私が繋い上げてもいいですよ?」

「はいはい。怖がりで悪かったわね」

 私の手をゆっくりと握ってくる海未は、嬉しそうに微笑んでいた。

 まったく、この子もこの子でしょーがないわね。

「ほら、2人とも、さっさと先に行くわよ」

「はい」

「おー!」

 私達はお化け屋敷の中を更に先へ進んだ。

 そこからは私が驚くような仕掛けははほとんどなかった。もちろん多少は体をビクリと震わせることはあったが、ほんの数えるほどだ。隣で常にビクビクしている海未と比べれば大分マシである。

 一方のここあは、驚くことはあれど、大きな悲鳴を上げるほどではない。むしろギミックが効いた仕掛けを見た時は「おー!」と感心していたくらいだ。我が妹ながらまったくもって頼もしい限りである。

 そしてようやく、私達は薄暗い迷路を抜け、お天道様の元に辿り着いた。

「お疲れ様でした!楽しんでいただけましたか?」

 暗がりを抜けると、従業員の人が明るい笑顔で迎えてくれた。

「はい、それなりに……あ、そういえばすみません。井戸のところにいる幽霊役の人をこの連れが思いっきり引っぱたいてしまって。後で様子を見てあげてもらえませんか?」

 私が海未を指差しながらそう言うと、海未は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「……え?井戸のところですか?」

 従業員は怪訝そうに首を傾げた。

「そうですけど?」

「……確かあのあたりは誰も居ないはずなんですけど……」

「……へ?」

「……それって……本当に人だったんですか?」

 またしても背筋に悪寒が走る。

 いやいや待て待て。この従業員がアドリブでこう言ってるだけかもしれないし、何より本当に幽霊なら触れるはずないし、でも穂乃果の御札の件もあるし、ああでも、あの幽霊は変じてくれたし、悪い幽霊じゃないかもだし。

 などとわけもわからず混乱していると、不意に海未の握る手が更に強くなった。赤くなっていた顔は、すっかりと青白く変色していた。

「……いやいやー、冗談きついですよー。ていうか従業員さんアドリブ力高すぎですってー」

 沈黙が訪れる。しばらくすると、従業員がゆっくりと口を開いた。

「……いやー、失礼しました!一度こういうのやってみたかったんですよ。ちょっとは怖かったですか」

 はい、マジで怖かったです。

「流石にビビリますよー。それじゃあ私達はこれで失礼しますね」

「はい!ありがとうございました!またのお越しを!」

 私は海未とここあの手を引いて、お化け屋敷から離れる。

「はぁーー。最後の最後であれはやめて欲しいわ。そう思わない、海未?」

 海未は遠くを見てボーっとしている。

 恥ずかしくなったり怖がったりが正常に脳みそ働いてないみたいね。

「海未……海未!」

 もう一度名前を呼ぶと、海未はハッとして私の方に向き直った。

「な、何ですか?」

「……お化け屋敷、結局キーワードに繋がりそうなものはなかったわね」

 まあそんなもの探す余裕なんてなかったんだけど。

「そ、そうですね。無駄足になってしまいました」

「そう?私としては海未の意外な一面が見れて楽しかったんだけど?ね、ここあ?」

「うん!私も楽しかった!」

「わ、私にだって怖いものくらいありますよ……」

 あら?てっきり顔を赤くしてそっぽ向くかと思ってたけど、何だかしおらしくなっちゃんたわね。

「……ま、それもそうよね。あんただって完璧超人ってわけじゃないんだし。むしろあんたのキャラだとこのくらいの弱点があったほうがアイドルとして魅了的ってもんよ」

「そ、そうでしょうか?」

「そうよ。宇宙ナンバーワンアイドルの私が言うんだから間違いないっての。それよりほら、さっさと次のキーワード探すわよ。穂乃果達にばっかり良いカッコさせないんだから」

「……そうですね。私達も頑張りましょう」

「よし。その粋よ」

 私達は次のキーワードを求め、新たな場所を探し始めた。 

 

 お化け屋敷を後にした私達は、暗号を頼りにキーワードを見つけようとあちこちを回ってみたが、今のところそれらしいものを見つける事をできていなかった。気が付けば時間は既に夕刻、空はオレンジ色に染まり始め、宝探しも終了の時間が迫っている。

 しばらくして歩き疲れた私達は、園内の片隅にあるベンチに座り込んでいた。

「はぁー。いったいどこにあんのよ、この暗号のキーワードは。こんだけ探し回って見つからないとかどうなってんのよ」

「それらしいところは回ってみましたけど、結局何の収穫もありませんでしたからね」

 私達はあの後、村や旅といった単語が連想できるアトラクションや出し物を手当たりしだい回ってみたが、全て空振りだった。でもまあ言ったところはどこも楽しかったし、それだけでも良しとしておこう。

「ここあちゃん。今日は楽しかったですか?」

「うん!楽しかったよ!」

「それはよかった。今日はイベントに付き合わせてしまう形になってしまいましたからね。つまらなかったんじゃないかと心配していたんです」

「そんなことないよ。いろんなものにも乗れたし、海未ちゃん達とも一緒に遊べたから、すっごく楽しかったよ!」

「ありがとうございます、ここあちゃん」

 溌剌と笑うここあを見て、海未はやんわりとした笑みを浮かべる。

 もし海未に姉妹とかいたら、きっとこの子は長女だったでしょうね。例えばそうね……2年生で姉妹を作るとすると、長女が海未、次女がことり、三女は言わずもがな穂乃果ってところでしょうね。ってそういえば穂乃果は現役の長女だったわ。あれが姉ってなると妹ちゃんはさぞかし苦労してるでしょうねー。

「にこ、どうかしました?」

「え?あ、いや、何でもないわ。ちょっとボーっしてただけ」

「そうですか。それで、この後はどうしましょう?もう少しだけキーワードを探してみますか?」

「んー……どうしようかしらね」

 私は返事をしながら暗号が書かれた紙を今一度見る。

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・村に入らぬはみ出し者は 皆に恵みを持たらした

 行く先長い彼の旅路 影は差せども軌跡は消えず

 

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 さっぱりわからない。やっぱり多額の賞金が掛かってるわけなんだし、一筋縄ではいかないわよね。

「お姉ちゃん。喉渇いた」

「そう?それじゃあどこかで飲み物買いに行きましょうか。この近くだと……ああ、確か入り口のとこの広場に飲み物売ってあったわよね。そこに行きましょうか」

「うん」

 私達は重い腰をあげ、入り口の広場に向かった。

 広場に着くと、そこには遊園地に来たときと同じように、大きな噴水からは鮮やかなオレンジに染まった水が湧き出ていた。

 私がここあに飲み物を買うためのお金を渡すと、ここあはそのまま飲み物売り場へ走っていった。私と海未は近くのベンチに腰掛け、目の前にある噴水を呆然と見つめていた。

「綺麗な噴水ですね。水が夕日で染まっていて幻想的です」

「そうねー」

 疲れが溜まっていた私は生返事をしながら、噴水からあふれ出して水路を流れていく水を目で追いかけていた。その水路は私の方に向かって伸びているようだった。

「……ん?」

 水路を追いかけ、丁度私の足元あたりまで来たとき、水路の中に何か板のようなものが見えた。気になった私は屈み込んでそれを見る。鉄格子があるためわかりにくいが、何か文字のようなものが書いてる。

「ええと……『ス』?」

 書いてあるのはカタカナの『ス』だった。

「どうしたのですか、にこ?」

 海未が不思議そうに聞いてくる。

「いやね、何か変なもん見つけたのよ。ほらこれ」

 私は足元にある水路を指差す。

「……これってもしかして、キーワードなんじゃないですか?ほら、穂乃果達もキーワードが書いてある板があったと言っていましたし」

「確かにそうかもしれないわね……あ、これってひょっとして私たちの解いてる暗号のことだったんじゃないの?村は噴水、はみ出し者は水、恵みをもたらすってのは花に水が行き届くようになってるから。そんで旅路ってのはこの水路のことで、影は鉄格子のことかしらね。最後の軌跡ってのがきっとキーワードのことなのよ」

「なるほど。確かにそうかもしれません……となれば噴水から伸びている他の水路も何かあるのかもしれません。今までのキーワードが単語だったのですから、ここで『ス』の1文字だけということは恐らくないでしょう。手分けして探してみましょうか」

「そうね」

 そう話しをしていると、丁度ここあが飲み物を買って戻ってきたところだった。私はここあに事情を説明すると、3手に別れて水路を追いかけた。その結果、ここあがもう1つ板を見つけた。それには『イ』と書いてあった。

「結局見つかったのはこれだけだったわね」

「そうですね。一応これだけでも『椅子』という単語になりますけど……」

 海未は顎に手を当てて、考え込む。

「……もしかして……ここあちゃん。先ほど話していましたが、確か穂乃果がフードコートのあたりでお札を見たということでしたよね?」

「うん。そうだよ」

「なるほど……わかりました、ちょっと穂乃果に連絡してますね」

 海未は携帯電話を取り出し、穂乃果に電話を掛ける。

「何か穂乃果に聞きたいことでもあんの?」

「ええ、ちょっと気になることがありまして……あ、穂乃果ですか?海未です。ちょっとお聞きしたいんですが……え?本当ですか?ちなみにそれは……はい……はい……なるほど、わかりました。では一度合流しましょう。場所は――」

 しばらくすると海未は穂乃果との話を終え、電話を切ろうとしていたが、寸のところで再び口を開いた。

「ああ、それと穂乃果。最後に1つだけ……あなた、フードコートで何かを倒したりしましたか?」

 

 残り時間も少ない中 私達は再び昼食を取ったフードコートに向かっていた。

 先ほどの穂乃果とのやり取りで海未は何かに気付いたみたいだけど、いったい何に気付いたのだろうか。私には皆目検討もつかない。

「ちょっと海未、いったい何がどうなってんのよ。説明しなさい」

 私は海未の横に並んで歩く。

「わかりました。先ほど私達は『椅子』というキーワードを見つけましたよね?」

「ちょっと待って。アレって本当に『椅子』でいいの?他にも見逃した文字があったりするかもしれないじゃない」

「ええ、私もその可能性は考えました。ですがこの言葉を見たとき、1つの出来事を思い出したんです」

「出来事こと?」

 何かそれらしいことなんてあったかしら?私は今までのことを思い出しながら、眉間に皺を寄せる。

「はい。といっても私やにこが直接体験したものじゃありませんがね」

「じゃあ誰が体験したものなのよ」

「穂乃果ですよ。ここあちゃん、確か穂乃果がお札を見つけたと言っていましたよね?」

 ここあは「はい」と海未を見上げながら小さく頷く。

「そのお札、もしかしたら宝の在り処が書いてあったのかもしれません」

「はあ!?それ本当なの!?」

 驚愕の事実に、私は目を見開いた。

「恐らくですがね。先ほどここあちゃんが言っていましたよね?お札を見つけた穂乃果は、それを元の位置に戻したって。お札に対して戻したという行動は少しおかしくありませんか?これではまるで穂乃果が、剥がれたお札をわざわざ貼りなおしたみたいに感じます。そこで思ったんです、穂乃果はお札が付いた何かを元の位置に戻したじゃないって。そっちの方が余程しっくりきます」

「つまりそのお札が付いていたものがこれだっていうの?」

 私は先ほど紙に書き記した『椅子』という単語を指差す。

「はい。もちろん私だって先ほどの『椅子』という単語だけを見つけた時は、単なる希望的な推測として終わらせるつもりでした。それで念のために穂乃果に確認してみようと思ったんですが、そこでちょうど穂乃果達が最後のキーワードを見つけてくれていたことで、その可能性がより高くなりました」

「あの子また見つけたの!?」

「はい。そしてそのキーワードとは『傘』です。そしてにこ、覚えていますか?私たちが食事を取ったフードコートのテーブルにパラソルが差されていたことを」

「……あー……そういえばそんなのあったわね」

 私はそこまで言われて思い出した。確かにあそこのテーブルにはほとんどいろんな色のパラソルが設置されていたはずだ。私達のところは黄色だっただろうか?

「それらを総合して私の考えた答えはこうです。『車』の近くにある『ゴハン』を食べれるフードコート。そこにある『赤』色の『傘』が差されたテーブルとセットになっている『椅子』の『裏』。そこに宝の在り処が記してある」

 海未は人差し指を立て、自信に満ち溢れた表情を浮かべた。

「なるほどね。だからあんた、穂乃果が椅子を倒してないかを確認するためにあんなこと聞いてたのね」

「はい。そして予想通り、穂乃果は椅子を倒していました。それに御札がついていたかどうかまではわかりませんがね。そしてそれなら電話で細かく説明するよりも、現地で直接倒した椅子を教えてもらった方が時間を短縮できると思いまして」

「確かにそっちの方が効率いいわね……ってか椅子の裏って何よそれ!そんなん普通考えつかないっての!主催者のやつ賞金取らせる気ないんじゃないの!?」

「まあ大金が掛かっているわけですし、それは仕方のないことだと思いますけどね。今の世の中どこもかしこも財政難なんですよ、きっと」

「世知辛い世の中ねえ……」

 徐々に暗い話題へとシフトするなか、気が付けばフードコートが視線の先に見え始めていた。すると丁度、穂乃果達が別方向からフードコートに向かって来ているのが見えた。

 穂乃果も同時にこちらの姿に気付いたようで、私達は合流するなり早々に穂乃果に詰め寄った。

「穂乃果。お札のあった場所に案内しなさい」

「え?何でお札?というかどうしてにこちゃんがお札のことを知ってるの!?」 

「話は後で詳しく説明するわ。いいからさっさと教えなさい」

「う、うん。こっちだよ」

 穂乃果は面食らった様子だったが、戸惑いながらもお札を見つけた場所へと先導してくれた。

「……どういうことなの?お札?」

 ことりはきょとんとしながらも、私達の後についてくる。そういえばこの子は知らないんだった。

「ごめんことり、後で説明はするから」

「うん。わかった」

「あそこだよ。あの椅子の裏に貼ってあったんだ」

 立ち止まった穂乃果が指差す先には、どこにでもあるようなプラスチック製の椅子がある。そして海未の予想通り、それは赤いパラソルが差されたテーブルに備え付けてあるものだった。

「でかしたわよ、穂乃果」

 私と海未は穂乃果が示す椅子に近づいてしゃがみ込み、椅子の足に手を掛ける。

「それじゃあ、いくわよ……よっ」

 私はくるりと椅子を裏返した。

 

 

「あー!私の馬鹿ーー!!」

 穂乃果はさぞも悔しそうに叫んだ。その様子を見てことりも残念そうに笑っている。

「惜しかったねー。運が良かったらあの時点で賞金獲得できたのに」

「ほんとだよ!何で私はあそこでお札をすぐに取らなかったんだー!何ですぐに教えてくれなかったのさ!海未ちゃん!」

「最後の最後でしか気付けなかったんだからしょうがないじゃないですか!私だってフードコートに居た時点で気付いてたらすぐに伝えてましたよ!」

「うっ……た、確かにそうだよね……ああー!でもやっぱり悔しい!」

 穂乃果は再び悲痛の声を上げる。

 宝探し大会の閉会式を終えた私達は、当ても無くふらふらと園内を歩いているところだった。

 結果として、私たちが椅子の裏を確認すると、そこにはお札が剥がされた後しか残されてた無かった。恐らく私たちより先に答えに気付いた人達が持っていってしまったのだろう。もしかしたらあのお札自体がお宝との引換券になっていたのかもしれない。そう考えると、穂乃果じゃなけど、やっぱり悔やまれるものがある。

「まあ最後の答えまで辿り着けただけでも上出来よ。多分参加者の中には暗号を全部解けなかった人達もいるはずなんだから」

「そうですね。イベント自体も楽しかったですし、私としても満足できました。こころちゃん達はどうでしたか?」

 海未はそう言って妹達の方を見る。

「楽しかったです!イベントに参加できたのも、海未さん達と遊べたのも全部!」

「私も楽しかった!特に穂乃果ちゃんといると同じクラスの子と一緒に遊んでるみたいですごくよかった!」

「ことりがやさしかったー」

 海未は優しい笑みを浮かべ、ことりは「やーん」と頬を赤く染め、穂乃果は喜びと哀しみをごちゃ混ぜにしたような複雑な顔をしていた。流石に穂乃果は素直に喜ぶことはできないみたいだ。

「ありがとうございます。それじゃあこの後はどうしましょうか?」

 海未は妹達に気を使ってか、私にそう尋ねてくる。

 宝探しのついでに色々とアトラクションも楽しんだし、園内もほとんど回りきってしまった。そろそろ潮時ってやつかもしれない。まあ、それより何よりチビ達は満足しているみたいだし、私としてはそれで十分なんだけど。

「……それじゃあ最後に1つだけ何かで遊んで帰りましょうか。この子達をあんまり遅くまで出歩かせるわけにはいかないし」

「わかりました。では何にしますか?」

 私はチビ達の意向に従おうと思い、何をやりたいか聞いてみようとした。

「あれがいいー」

 しかし私が聞くよりも早く、虎太郎がある方向を指を差した。その先には夕日を浴びて真っ赤に染まった観覧車があった。

「虎太郎、あれがいいの?」

 ここあが尋ねると、虎太郎は「うん」と頷いた。

 いつもぼーっとしてる子だからこうして意見を言うことは珍しかった。できればこれを叶えてあげたところだが。

「こころ、ここあ、あんた達もあれでいい?」

「はい、私もあれがいいです」

「私も私も!」

「そ、ならよかったわ。それじゃあ最後はあれにしましょうか」

 そうして私達は観覧車と向かった。

 観覧車では数人ほどの列が作られており、私達は自分たちの順番が回ってくるまで列に並んで待つことになった。

「いやー、楽しみだねえ、ことりちゃん」

「そうだねー。私も観覧車なんて久しぶりかも」

 穂乃果は宝を逃した悔しさなどすっかり忘れているようで、観覧車に乗るのを随分と心待ちにしているようだ。

「楽しみですね!」

「うん!」

 チビ達もどうやら同じみたいだ。

 そしてかく言う私も楽しみにしてる内の1人である。頂上まで登ったところで携帯電話のカメラで写真でも撮ろうかしら。

「……にこちょっといいですか?」

「ん?何よ?」

 不意に海未が声を掛けてくる。その目には何か硬い決心のようなものが見て取れた。

「大事な話があります。すみませんが、私と2人きりで観覧車に乗っていただけますか?」

「はあ?こんなタイミングで何言ってんのよ」

「お願いします。大事な事なんです」

 海未の私の目を真っ直ぐに見据えてくる。

 そんなに大事なことなのかしら?だったら話を聞く必要があるかも知れないけど……。

「……穂乃果、ことり、悪いけどチビ達と一緒に乗ってくれない?二手に別れてくれてもいいから」

「いいよ!私もこころちゃん達ともっと遊びたいし!」

「私も対丈夫だよー。虎太郎君は私と一緒に乗ろうねー」

 2人とも別々の意味で不安を感じるけど、流石に変なことはしないわよね。もしやろうものなら拳骨の1つでも食らわしてやるけど。

「……それじゃあ海未は私と一緒に乗りましょうか」

「ありがとうございます」

 後ろ髪を引かれる思いだけど、まあ今回はしょーがないってことにしときましょうかね。

 しばらくすると、私達の順番が回ってきた。私は穂乃果達を先にゴンドラに乗せてしまい、私と海未は最後に2人でゴンドラに乗り込んだ。

「今日は疲れたわねー。帰ったらぐっすり眠れそうだわ」

 私は息を吐きながらゴンドラ内の椅子に乱暴に腰掛ける。

「私もこんなに遊んだのは久しぶりでした。最近は弓道の練習もあって忙しかったですからね」

 海未は私の向かいの椅子に腰掛ける。

「あんたも大変よね。両立するなんて私にはできる気しないわ」

「にこはかなりバイタリティがあるみたいですし、できると思いますよ?」

「そりゃ体力的にはできるかもしれないわよ?私の場合はアイドル業しか頭に無いから他の部活なんて入っても蔑ろにしちゃうってことよ」

「なるほど、そういうことですか。にこは本当にアイドルが好きなのですね」

「あったり前でしょ。伊達で3年間をアイドル漬けにしてきたわけじゃないっての」

「そうですよね……」

 ゴンドラに沈黙が訪れる。聞こえるのはゴウゴウという重底音と、鉄が軋む微かな音くらいだ。ゴンドラは円を描くようにそろそろと高度を上げ、地上は徐々に遠くなっていく。

「……にこ、少しいいでしょうか」

「……何?」

「えっと、その……」

 そろそろ大事な話とやらが始まるのだろう。海未は何かを言おうと口を開きかけたが、どこか戸惑う様子を見せた。そして顔を伏せたかと思うと、次の瞬間には覚悟を決めて口を開いた。

「……にこ……私を妹にしてください!」

「……は?」

 予想外どころか考えもしてなかった一言に、私の思考は凍りついた。

「私を妹にしてくださいと言ってるんです!」

「それはわかってる。いや、まったくわからないんだけどね。いったいどういうことなのよ?」

 うまく稼動しない頭を抱えながら、私は説明を求める。海未には先ほどの凛々しさなど欠片もなく、頬を赤らめてもじもじとしている始末だ。

「し、失礼しました。ようするに……あ、甘えさせて欲しい、の……です」

 これこそいつもの海未からすれば予想外の言葉だ。

「何であたしがそんなことしなくちゃいけないのよ。親にでも甘えればいいじゃない」

「それはできないんです。父も母も厳しい方ですので、なかなか甘えさせてくれないんですよ。むしろこんなだらしない姿を見せたりしたら怒られかねません」

「ああ、確かにあんたの家ってそんなイメージあるわ。日舞の家系だもんね」

 ついでに言えばこの子1人っ子だって聞いたきたするし、、姉とか兄もいないんでしょうね。

「はい……そんな中で、今日こころちゃんが達がにこに頭を撫でられている所を見ていたら、どうしても自分を抑えきれなくなりまして……」

 あの時こころを見てたのはそういうことだったのね。そういえばフードコートの時も、穂乃果とことりが私に抱きついてきたのをじっと見てたし。

「だから私はにこが褒めてくれるように今日のイベントをすごく頑張りました。なのににこといったら私の頭をちっとも撫でてくれないじゃないですか!どういうことです!」

「知るか!撫でて欲しいなら素直にそう言え!あたしはエスパーじゃないっての!」

「穂乃果達の前でそんなこと言えるはず無いじゃないですか!恥ずかしい!だから痺れを切らしてこうして2人っきりにしてもらったんです!」

 海未は立ち上がって興奮気味に訴えてくる。

 海未はμ'sの中でも頼りにされている人間だ。アイドルとして活動だけじゃなく、弓道に歌詞の作り。多分勉強の方も抜かりは無いだろう。非の打ち所が無いといっても過言ではない。けれど、そうやって何でもこなしてしまうことが、何時の間にか海未にとって重圧になっていたのかもしれない。そして今回のことでそれが爆発してしまったのだろう。

「……しょーがないわね。その意気に免じて存分に甘えさせてやろうじゃない」

 仕方なく折れると、海未の顔に明るさが灯った。そして向かいの席を立つと、私の隣に座り、あろうことが私の膝に頭を預けてきた。

「……何やってんの?」

「膝枕です。知りませんか?」

「知ってるわよ。何でやってるのかってこと」

「甘えてるのだから当然です。さあ、頭も撫でてください。ちなみに、観覧車に乗ってる間は姉さんと呼ばせていただきます」

 あっという間に我侭な妹へ進化、いや、退化してしまった。

「……ったく」

 私は海未の頭を優しく撫でる。海未の髪はサラサラとして、とても艶やかだった。いつも丁寧に手入れをしているのだろう。

 海未は気持ちよさそうに目を閉じている。こんな安らいだ海未の顔は初めて見た気がする。

「姉さんの膝って思って頼り硬いんですね」

「悪かったわね、貧相な体で」

「ふてくされないでください。私としては十分にアリですから」

「あっそ」

「……姉さん、私はうまくやれているんでしょうか?」

「何のこと?アイドル活動のこと?」

「はい。ときどき考えるんです。練習がきつ過ぎないかとか、厳しすぎないかとか、自分は真面目すぎるんじゃないかとか、他にもいろいろ……自分のやってることに自信が持てなくなっているんです」

 弱々しい声色で、海未は口々に吐露する。

「……ねえ海未、あんたはとてもしっかりした人間よ。あんたの言うとおりにしていればほとんどのことはうまくいくってくらいにはね」

「全部、とは言わないんですね」

「あったり前でしょ。何でもかんでも100パーセント完璧にこなせる人間なんていないっての……ねえ海未。私達は9人でμ'sなの。誰が欠けても、絶対ダメ」

「……はい」

 小さく返事をする海未の頭を再び優しく撫でる。

「穂乃果の元気さも、ことりの優しさも、他のみんなも、全てが合わさってこそ私達があるの。そこには海未の真面目さも含まれてるのよ」

「……」

「そりゃあ、あんたの練習はきっついし、厳しいし、くそ真面目だなって思うこともあるわよ。でもね、心の底からそれを嫌だとかダメだとか思ったことは無いわ。他の奴だってきっとそう。嫌だったらとっくにやめてるっての」

「……」

「もしあんたの練習に物申すってやつがいたらあたしに言いなさい。あんたのやることが間違っていない限り、あたしはあんたの味方になってやるから」

「……もし間違っていたら?」

 私は拳を握り、海未の頭にコツンと当てた。

「鉄拳制裁……ってのは冗談として、お説教してやるわ」

「それは……頑張らないといけませんね」

 海未は溢すよう小さくに笑った。

「……海未、自信を持ちなさい。あんたのやってることは決して間違いじゃないわ。あたしが……μ'sの皆があんたに側にいる、それが何よりの証よ」

「……ありがとうございます」

 観覧車に乗るとき海未は大事な話と言っていた。最初の言葉を聞いた時はただの詭弁だと思っていたけど、ふたを開ければ、それはあながち間違いではなかった。何せ、海未が抱える悩みを吐き出したのだ。今まで強いと思っていた子が、弱さを見せ、あまつさえそれを行動で示した。それほどまでに抱えて込んでいたのだ。この子の先輩でありながら、それに気付けないとはまったくもって情けない限りだ。

「……姉さん。姉さんは、自信を無くしたことってないんですか?」

「……え……あ、あたしはね」

 慣れないどころじゃない奇妙な呼びばれ方に、私は戸惑って返事が遅れてしまった。

「……あたしだって自信を無くすことはあるわよ。凛の運動神経とか、穂乃果のカリスマ性とか、真姫の作曲とか、ことりに衣装作りとか、あんたの作詞とか、他のやつらもそれぞれに魅力とか特技を持ってる。それを見てると思うのよ。あたしにはアイドルとして何があるのかなって」

「……すみません」

「何謝ってんのよ。羨ましくはあるけど、別に憎んだり恨んだりはしないっての」

 私は海未から視線を逸らし、ゴンドラの外を見る。高いところからみた夕日はより一層輝いてみた。しかしそれも、もうすぐ沈む。

「……でもね、あたしにはあんた達によりも絶対に勝っているところがある。それはアイドルへの気持ちの強さよ。もちろちあんた達の気持ちが弱いって言ってるわけじゃないから。勘違いすんじゃないわよ」

「知ってますよ。姉さんがは一番アイドルとして頑張っていることも……誰よりもみんなのことを気遣っていることも」

「あ、当たり前じゃない……」

 面と向かってでは無くても、そうストレートに言われるとなんだか恥ずかしい。今の私の顔は、夕日のように染まっているのかもしれない。

「……だからね、私にその強さがある限り、それが私の武器になるの。今のあんたみたいに弱音を吐くことなんてほとんど無いから安心なさい」

「ほとんど、ですか……それでは姉さんがへこんだ時には、妹の私が相談に乗ってあげることにしましょう」

「はっ、生意気な妹だこと。穂乃果達がこれを見たら何ていうかしらね」

「今は2人きりだからいいんです……今日はありがとうございました。私はもう、大丈夫です」

 そう言って海未は私の片手を握ってくる。それは弱々しく、力を入れれば簡単に振りほどけてしまうだろう。

「そ……じゃあそういうことにしとくわ」

「……姉さん」

「ん?」

「頭を撫でてくれませんか?」

「はいはい……」

 私は空いてる方の手で海未の頭を撫でる。

 それから私達は、言葉を一切の発さなかった。立ち込める静寂の中で何を考えるでもなく、ゆっくりとした時間が過ぎるだけだった。

 この子が私にしか甘えられないというのなら、できるだけ甘えさせてあげることにしよう。それが先輩として、姉として、仲間として、あたしがこの子にできることだ。私が卒業するまでは、しっかり面倒を見てやるとしよう。

 そうして気が付けば、ゴンドラはもう地上近くまで迫っていた。私は海未の肩を柔らかく叩く。

「海未、そろそろ下に着くわよ。あの2人には見られたくないんでしょ?」

「はい……ありがとうございます……」

 海未は名残惜しそうに体を起こすと、乱れた髪を手串で整える。

「辛気臭い顔してんじゃないわよ。あの2人の前ではしっかり者でいるんでしょ」

 私が海未の背中を強く叩くと、海未は「うぐっ」と痛そうな声を洩らした。

「よ、容赦ないですね……ですが、おかげで気合が入りました」

「よし!」

 私が腕を組んで大きく頷くと、不意にゴンドラの扉が開かれた。どうやら地上に到達したみたいだ。

 私と海未がゴンドラから降りると、少し離れたところで穂乃果達が待っているのが見えた。私と海未は穂乃果達の居る方へ向かう。

「……あ、海未ちゃんとにこちゃんも降りてきたんだね」

「はい、お待たせしました。それでは皆さん、帰りましょうか」

「うん!ところ海未ちゃん、さっき言ってた大事な話ってなんだったの?練習についての話しとか?」

「あっ、それは、その……」

 穂乃果にとっては無邪気な質問だったのだろうが、海未は動揺の色を隠すことができず、言葉がしどろもどろになってしまった。

「そうそう。あんた達が最近たるんでるみたいだから練習の質を上げてもいいかもしれないわねって話してたの」

「ええー!そうなの!?もっと練習がきつくなるのかぁー……でも、海未ちゃんがそうした方が良いって思ってるなら、私はそれを信じるよ!きっと私達のことを思ってやってくれてるんだもんね!」

「私も海未ちゃんのことを信じるよ。だって大好きな友達だもん!」

 穂乃果とことりの言葉を聞いて、海未は目を丸くていた。

「……ほらね、言ったとおりでしょ?」

「……はい」

 肩の荷が下りたように笑う海未を見て、穂乃果とことりは顔を見合わせ不思議そうにしている。

「ほらほらアイドルが馬鹿みたいな顔してんじゃないの。さっさと帰るわよ」

 薄暗い空の下、私達は帰路についた。

 こうして私達の騒がしい1日が終わった。私としては精神的に疲れることばかりであったが、なかなかどうして悪い気はしない。それはきっと、それ以上に得るものがあったからだろう。

 私は今日という日を数少ない高校の思い出の1つとして心に仕舞っておこう。海未のと絆を深めた、大事な日として。

 

 

 休みが明け、私達はいつものようにダンスの練習に励んでいた。

「穂乃果!ステップが遅れてますよ!」

 海未の練習はいつもと変わらず、厳しいものだった。観覧車の中で言っていたことが、まるで嘘のように思えるくらいだ。

「にこ!もっと動きにキレを出してください!」

 甘えさせてやった私にでさえも、こうして怒鳴ってくるくらいだ。これなら変に心配する必要なもうないだろう。

「そこまで!ではそろそろ休憩にしましょう。各自しっかり休んでください」

 皆は飲み物を飲んだり、汗を拭いたりして各々に休憩を取り始める。私は汗を拭っている海未に近づいて飲み物を差し出した。

「海未、お疲れ様。これ飲みなさい」

「あ、どうも。ありがとうございます、姉さん……」

 瞬間、海未の表情が笑顔のまま硬直する。

「あれ?海未ちゃん、姉さんって誰のことかにゃ?」

 そして間の悪いことに、その一言が情報拡散猫の耳に入ってしまう。

 更にそこへセクハラ女子高生が通りかかる。

「あれ?凛ちゃん、不思議そうな顔してどうしたん?」

「あ、希ちゃん。どうしてか知らないけど海未ちゃんがにこちゃんに向かって、姉さんって言ってたんだにゃ」

「ほぉ……それはそれは……2人で姉妹プレイとは随分と仲良しやね?」

「姉妹プレイ!?何それ面白そう!凛もやりたい!」

「じゃあウチが姉で凛ちゃんが妹な」

「やったー!希ちゃんがお姉ちゃんなんて最高にゃー!」

 勝手に盛り上がっていく馬鹿2人。凛は純粋に楽しんでるんだろうけど、希は十中八九海未をからかってるだけで

「何々!面白そう!私いつもは雪穂のお姉ちゃんだから妹役やりたい!」

「任せなさい穂乃果!このエリーチカが姉になってあげるわ!」

 話を聞きつけたアホ2人が勢いで乗っかってくる。他のやつらも何事かと思ったようで、こちらにわらわらと集まってくる。そんな中、海未は未だに硬直したまま動かない

「……あー、海未……ドンマイ」

 そう言うと海未の顔はじわじわと赤みを増していく。

「う……う……うわあああああああ!」

 そして最高潮に赤くなったかと思うと、両手で顔を覆って、屋上から飛び出してしまった。私は走り去る後姿を見て、小さく溜息をついた。

 心配する必要がないってのは前言撤回するわ。やっぱりまだまだ面倒を見てあげなきゃいけない見たいね。

 とりあず、冷静になったらその内戻ってくるだろうから、私はそれまでにこの場をうまく治めるおいてやるとしよう。まったく、手のかかる妹を持つと、姉は苦労するものだ。

 

 


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