赤き龍の道程   作:盾雪

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大体朝の7:00時ごろに投稿するつもりです。
投稿が無かったらその日は更新は無いと思っていただければと思います。



第6話 少女と少年は互いを助けて

「――ぁぁぁぁぁああ!」

『相棒! 後だ!!』

 後ろに居た、やぶ蚊を大きくしたような敵をしならせた尻尾で薙ぎ払いつつ、目前の犬のような生き物を真っ向から顔を狙い、握りしめた拳で穿ちにいく。

 そして跳躍した後、背中から生やした翼を羽ばたかせ、上空から相対する二匹に龍の炎を吹き付ける。

 ……冥界の悪魔領に差し掛かったあたりでイッセーは、己の身と朱乃を守るために龍の姿でその体を躍らせていた――。

 

「……綺麗だね」

 疲弊しきった様子で火を見つめるイッセーと朱乃。火の向こう側を見つつ朱乃はイッセーに言う。

 冥界という知らない土地……というか世界を彷徨い歩いて大よそ七日ほど経った頃か。

 本人は知らぬことだが、堕天使の支配する領域から抜けて、今はどこの誰とも知らない悪魔の領域の辺境へと侵入している。

 不法入国ということになるのだろうが、二人にとっては致し方無いことだ。

 始めに居た場所から此処までくる間に、幾度か二人は見たこともないような生き物に襲われた。

 しかし不幸中の幸いというべきだろう。小型といえどドラゴンになったため、イッセーは朱乃を守りながら襲い掛かる障害を退ける事が出来た。その主な方法は口から吐いた火で焼くか、殴るもしくは蹴り飛ばしたり。後、尻尾を叩きつけたりである。朱乃も父親から受け継いだ『雷光』の力で微力ながら追い払っている。

 ――くきゅるるるるる

「お腹すいたね……」

「……うん」

 ここ三日、湧き水を飲みはしたが、二人はまともな食事にありつけてはいなかった。

 最後に食べたのは牛のような生き物の肉だ。牛と言っても頭だけで、下半身は羽をむしられた鳥のような、毛が無い奇妙な生き物である。美味ではあったが、二人とも当分肉は食べたくはない、といった様子だ。初めて見る内容物は衝撃的だった。イッセーが炎を吹けるようになっていたのと、爪が鋭くなっていたことは幸いだった。

 ――ただ、もう二人とも限界が近かった。

 イッセーも、であるが、朱乃などは火の魔力にとりつかれたように現実逃避気味である。

「……寒くない?」

「ちょっとだけ……くっついてても良い?」

「うん……」

 人間の世界では夏だったが、どうにも冥界の気候というのは肌で感じるとぬるい気候なのだろう。夏季に適応していた幼い身体ということもあるが、体力の消耗が著しい。寒いと感じてしまうのも仕方がなかった。

 朱乃はイッセーに体を寄せる。

「あったかい……」

「……それならよかった」

 朱乃はテレビでみた記憶を頼りに、寒い時はひと肌でぬくもると良いという事を思い出す。

 イッセーに触れるだけでも暖かかった。

 胸の奥からじんわりと熱が広がり、込み上げるものが抑えきれなくなり朱乃の頬に涙が流れる。

 ……少し前まではこうして家族と暖かい家で生活していたのだ。それが今や、来たことも聞いたこともなかった場所で。ましてや違う世界で。最近会った男の子と逃亡して野宿をしている。

「なんでこうなったのかな……なんで……」

 誰が悪いのか。私が悪いのか。

 改めて自分に問うてみても答えは一つしか出てこない。

「やっぱり、私が悪いのかな……」

 冷静に考えてみると、別にお父さんは悪くないのだ。かといってお母さんも悪くない。自分からしてみればあの修験者が悪いのかもしれないが、それでも彼らからしてみれば正しい事をしたに過ぎない……のかもしれない。

 ――なら、私が居なければ?

 お母さんは殺されることは無かった。お父さんが悲しむこともなかった。お母さんが死んでなければ堕天使も悪くない。彼らにしても、私は居ないのだから殺せないし、殺す理由もない。

 だから私が悪い。

「朱乃ちゃんは悪くないよ」

「イッセー君……でも」

 イッセーは自分を責める朱乃の姿を見ていられなかった。イッセーからしてみれば殺そうとしていた修験者らが悪いのだから、当たり前である。

「絶対に悪くない」

 ――朱乃ちゃんは生きていても良いに決まっている(・・・・・・)

 生きていても良いと言ってくれる人がいる。断言してくれる人がいる。

 悪くない。君は良いんだ。そう言ってくれる人がいる。

「……うん。そう、かな……。そう、だよね」

 朱乃はイッセーのその言葉だけで、随分と救われた。

 随分と強い睡魔が襲ってきた。

 だが、火もあるし、魔物が寄ってきたとしてもドライグが起こしてくれる。

 ……少し寝よう。

 朱乃とイッセーは、欲求に身を任せ寝息を立て始めた。

 

 -●○●-

 

 ファインダー越しに、仲睦まじく肩を並べて眠る少年少女が居る。

「……」

 カメラを片手に二人を映すのはバラキエルである。そして二人を眠らせたのもバラキエルだった。

 ――自分は父親失格だ。

 妻へ謝り、今、目の前に居る娘に、母親を救ってやれなかったことを謝る。

 そして、娘の隣で眠る少年にも。

『――バラキエル、そろそろあの二人も限界だろう』

「あぁ、わかった……」

 耳元でアザゼルの声がした。

 ――すまない、すまない……。

 バラキエルはそんな想いを胸にしまい手を固く繋いだままの二人を背負う。

 ……。

 バラキエルの背中で二人は静かに寝息を立てながら、こうして運ばれていった。

 

 -●○●-

 

 ――……んん。

 イッセーは身じろぎしシーツを手繰り寄せる。

 ――いや、でも最後に寝たのは確か……。

 森の中の拓けた場所だったはず。そう思い至り、目を開けた。

 まずわかったのは薄暗い部屋の中ということ。そして段々と広がっていく視界に映るのは、実際には見たことの無いような高価そうな調度品や燭台だった。

 天上の方をぼーっと見上げていると寝ている場所がベッドであるということに気づく。それも天蓋付きのまず一般家庭では見かけないような代物。

 イッセーは寝ぼけているためか、感動らしきものが特になかった。

 それでもこんな場所に心当たりはないなと微睡ながら思う。

「……。……此処は?」

「此処はグレモリー公爵家のお屋敷でございます」

 ……!?

 答えを期待していない、独り言のつもりの言葉に返事があった。

 たった一週間程度とはいえ、野生動物のような生活をしていたイッセーは咄嗟に身構え、守るべき朱乃を探すと、発声元をみつけるが……。

 その人物にイッセーは思わずみとれてしまった。

 ――綺麗な人だ……。

 銀糸のような髪を束ねていて、メイド服姿に違和感がない。まるでおとぎ話に出てきたかの様な西洋人風の美女に、敵対するかのように身構えた状態で対面して居ることに、イッセーも少々羞恥心が湧いた。

 上げた腕を下ろしにくい。居所が悪い、といった感じである。

「おはようございます、お客様。サーゼクス・ルシファーさまにお仕えさせていただく、メイドのグレイフィア・ルキフグスと申します」

 失礼いたしますね、とイッセーに声をかけ額へと手を当てる。

「はい、大丈夫そうですね。……失礼いたしました。体に異常はない様子。我が主、サーゼクス様が待っておられますので、お急ぎを」

「は、はい……」

 年上の美人のお姉さんに触れられて、イッセーの心臓の高鳴りはやまなかった。

 のそのそ、とクイーンサイズのベッドから降りるイッセーの動きは堅く、先ほどの身構えたときのような鋭さは無いに等しい。

 そんな様子のイッセーにこれまで一度も表情を崩さずにいた、グレイフィアと名乗ったメイドが微笑みかけ、手を差し出す。

「怖がることはありません。……サーゼクス様はお優しい方ですよ?」

「はい……」

 イッセーはよくわからない感情に呆然自失、というような感じでその手を取った。

「お連れの彼女も恐らく先に行っていると思います……。それでは、行きましょうか」

 

 廊下に出てしばらくした後、何も考えていない状態から再起した。そうしてイッセーはグレイフィアと手を繋いで歩いていることにようやっと気づくが、美人のお姉さんに手をつながれているという状況に理解が及ばず、足元がおぼつかず。

「(……まぁいっか)」

 うわぁ高そうだなぁ、と飾られている絵画や壺を見て、小学生らしい感想を送ったりしながら。

 ……結果的に流されるままに身を任せることにした。

 

 -●○●-

 

 イッセーを連れたグレイフィアはシックな彫刻を施された開け放された両扉の前に着いた。

 グレイフィアが「失礼いたします」と声を掛けて入ろうとした丁度その時。やってきた方向とは反対側の通路を、イッセーのよく知る少女が走ってきた。

「あ、朱乃ちゃ――」

「――イッセー君!!!」

 朱乃はイッセーを見つけるなり、思いの限り抱きしめる。

 再会してすぐ抱きしめられるとは思っていなかったイッセーだが、グレイフィアの手を離し、勢いを殺すように朱乃を抱き上げくるりと半回転。羽をそっと置くかのように、朱乃の足を着地させた。

 着地した朱乃は、息を整えるために深呼吸を二回。

 誰に着せてもらったのか定かではない、子供用のドレスを整えた。

「イッセー君目を覚ましたんだね! よかったぁ……心配したんだよ! 私が目を覚ましてからもう1日も経ったのにずっと寝てるから! もう目を覚まさないんじゃないかって……」

「うん、うん。わかったから。朱乃ちゃん、少し落ち着こう」

 呼吸は整えたが、落ち着いてはいなかった。

 朱乃はイッセーの事が気がかりで、昨日の夜も中々眠れなかったぐらいだ。落ち着いてなどいられない。不安で不安でしょうがなかった。

 たかが一週間弱と侮る無かれ。幼い二人には一年に匹敵するような密のある時間だった。

 朱乃は力強い存在に守られ、時にねぎらい、苦難を共有し。イッセーは守るモノを得て、闘争心と使命感、覚悟を持てた。朱乃が居なければ、イッセーは精神的に参ってしまっていただろう。イッセーが居なければ朱乃は力不足だったに違いない。

 野生に近い生存闘争を、互いに支え合いながら生き抜いてきた二人にはちょっとした共存関係が生まれている。

 特に朱乃の場合は……吊り橋効果というやつもあるのだろうが、自身が恋をしているという自覚はないが「イッセーくんカッコいい……」なんてことを思っていたりする。

 安全圏に入ったせいか、思い返せば思い返す程、イッセーの事が気になって仕方が無いのだ。

 ちなみにイッセーの場合は、命の危機に瀕することが多かったせいか、これぞ女の子というような朱乃にドギマギする暇もなく、何時の間にか朱乃と普通に会話することが出来ていた。

 イッセーが朱乃の対応に慣れたことが良い方に転ぶかどうかは、いずれ分かるとして。

 そんなわけで朱乃は、絶賛人生初めての恋心体験中……。というわけだ。

「良かった、良かったよぉ……」

「よし、よし……」

 ……。…………???

 そんな事を胸中に抱えているだなんて露とも知らないイッセーは、疑問符を浮かべつつ、涙ぐみながら自分を抱きしめる朱乃の頭を撫でて慰めるしかなかった。

 微笑ましいものがみれたなぁ、と表情をニコニコとさせている部屋の主に二人は気づかず。

 二人の後ろで控えるグレイフィアも、そんな様子の主に内心ため息を吐いた。

 

 お二方、と声を掛けたグレイフィアによって、二人は身を正す。

「二人はとても仲がいいんだね。まぁ、入ってくれたまえ。――お兄さん、ちょっと妬いちゃうなぁ」

 部屋の中に入り、ソファーに座るよう二人は促された。

 部屋の主はちらり、とメイドを見て言う。

「何ですか」

「いや、何も」

 冷たい視線を浴びて、陽気な姿は何処へ行ったのか。少しばかり真面目な顔をした後、件のグレイフィアには見えないよう、悪戯っ子の浮かべる笑みを浮かべた。

「さて、君の名前は一応彼女から聞いているのだけど……私と君はこれが初対面だからね。初めまして、私はサーゼクス・ルシファー。悪魔で、冥界で魔王をやっている」

「魔王……」

「あ、いや、子どもの君には分りづらかったかな? えっと、そうだね……」

「――知ってる。日本で言うところの総理大臣みたいなもので。……魔王って言っても役職で、ゲームみたいなのじゃない。世界の半分をくれてやろう、とか言わない」

 イッセーはジッと、サーゼクスと名乗った男を見つめつつ綴るように話した。

「へぇ、良く知ってるね」

「ドライグに聞きました」

 イッセーは籠手を左腕に出現させる。

「ドライグ、か。君はその歳で既に赤龍帝として目覚めているのか。なるほど……」

「……ドライグの話だと、俺は目覚めるのは早いけど、才能とかはからきしらしいです……」

 籠手による人化のストッパーを外し、内に留めた龍の気を解き放つ。

 人の皮膚を覆うように、イッセーの身体はドラゴンのものへと変じていった。

「ただ、一時的な禁手化の代償にドラゴンになった所為か、身体能力は下級堕天使、悪魔に匹敵するって、ドライグが言ってました」

 着ていた服は破けることは無かったが、今にも破れてしまいそうなほど、ピンと張っている。

「ふぅん。でも、その割にはよく此処まで来られたね? ――君は人間に戻りたいとのことでアザゼルのところへ行き、人間に戻れるようになったのはいいけれど、帰してもらえないからこうして逃げてきた――と隣の彼女から聞いたよ。大変だったみたいだね」

「ギリギリ倒してこれた、ってかんじです」

 そういうとイッセーは龍の気を体の奥へしまっていき、人の形へと戻った。籠手による人化の固定も忘れずに行う。服は案の定繊維が延びて、よれていた。

 イッセーの変わり様に目の当たりにしながら、思案気にサーゼクスは口元に手を当てる。

「……ちなみに、ここから堕天使領までは結構遠いんだ。仮に君が空を飛べたとしても、到底子どもの足で堕天使の領域から、この近辺まで来られるような距離でもなければ、時間も無い」

 話を聞く限り、『逃がす』という体で誘導されてきたのだろう。

 この二人を見つけたのは自分の妹である。

 それは偶々(・・)グレモリーの事情により訪れた、悪魔が持つ領域の中でも辺境を任された悪魔に用があったからであり、偶然(・・)二人を妹は見つけた。

 ――急に連絡をしてきたから驚いたが、こうして本人から聞いてみれば……なるほど得心がいく。

 自分の起きたことで事情を察せていないイッセーは、どういうことなのだろうと訝しむ。

 もしかして自分は今怒られているのだろうか、と思いもしたが、そんなわけないかと結論を出した。

「……よくわかんないです」

「あ、いや。すまない。別に君たちを疑っているだとか、そういう意味で言ったんじゃあないんだよ。実は、君たちを見つけたのは私じゃなくてだね……。私の妹が、丁度辺境の方へ行った帰りに、君たちを見つけたんだ。……おや」

「あ、リアス!」

 サーゼクスは二人を見つけた経緯を語り、イッセーの入ってきた入口に視線を向けると朱乃がその人物に声を掛けた。

 そこにはサーゼクスと同じく、紅髪をした少女が「私、怒ってます」というように立っていた。

「お兄さま! イッセー君が起きたら呼んでっていったのに!」

「ごめんよ、リーア。少し話を聞いた後で呼びに行こうと思っていたのだけどね」

「もう!」

 誰だろう、とイッセーが思っているとサーゼクスは彼女を手招きし、話の流れから察するに、膝の上にその妹らしき人物を乗せる。

 そうして膝の上に乗せられて機嫌がよくなったのだろう。彼女はぶらぶらと脚を揺らしていた。

 いつの間にかグレイフィアはその手に、三つ飲み物が乗った盆を持っており、ソファーの前の机に置かれる。

 そのイッセーや朱乃と同い年ぐらいであろう女の子は、向かいのソファーに座り、ストローで美味しそうに飲み始めた。

「紹介しておくよ、イッセー君。この子がさっき話した妹のリアス。リアス・グレモリーだ。もし君さえよければ、帰るまでの間だけでもよろしくしてやってほしい」

 サーゼクスに紹介され、紅髪の少女は立ち上がり、お転婆な第一印象と違い、スカートの端を少し持って上品に会釈した。

「ご紹介に預かりました、グレモリー家次期当主のリアス・グレモリーです。……よろしくおねがいするわね!」

「お、おおう……えっと、兵藤一誠です。えっと。……よろしく」

 まるでお姫様、というような口上を聞いて女子に耐性のないイッセーは少々戸惑いながらも自己紹介を済ます。

 朱乃という美少女に慣れたとはいえ、美少女で、しかも女子度の高いお姫様はレベルに差があり過ぎた。『相棒にはハードルが高すぎるか』と、イッセーの第三の保護者は本人にはバレないようくつくつと笑う。

 朱乃とは既に知り合っていたらしい。その朱乃に「この子がイッセー君?」と聞いているリアスも悪魔なのだろうなと、イッセーは思う。

「あ、ごめんなさい。私もイッセーって呼んでも良い?」

「あ、うん。友達とか朱乃ちゃんからも呼ばれてるしいい、です」

 イッセーと呼ばれて気が緩んだのに気づいて、少し畏まってリアスに答えた。

 あと一週間ぐらいしたら人間界に帰す手筈が整う、というような(むね)の話をサーゼクスがしているのを聞きつつ、イッセーはきゃいきゃいと話す朱乃とリアスを眺めていた。

 




|ω・´)……でも、読み返してくれてもいいんですよ?(期待の眼差し)
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