赤き龍の道程 作:盾雪
ご注意を。
※各話タイトル付けました。
――ぐろろろろろろ
「あ……」
貰った飲み物を飲んだ後、ここ三日食事をとっていなかったことを思い出したように、お腹が悲鳴を上げた。
「それでは、丁度良い時間ですので、お食事のご用意を致してきます」
その音を聞いたグレイフィアは何処からともなく取り出した懐中時計を見やり部屋から出ていく。
……しばらくして「それじゃあ僕たちも行こうか」とサーゼクスに連れられて三人は食堂に向かう。
「イッセーって随分と大きい虫をお腹に飼っているのね?」
「いや、別にそんなことは……」
最後に食べた奇妙ながら美味であった冥界生物をイッセーは思い出す。
……朱乃が食べたのは脚一本分ぐらいだったが、それ以外の部位を食べ尽くしたのは自分だ。
それもドライグに『ドラゴンの姿だと骨も食えるぞ』とそそのかされたせいで、内臓と皮を残して丸々その生き物は胃の中に消えてしまったのだ。
そこまで思い出して、リアスの言に肯定するようにイッセーの飼っているお腹の虫が鳴きだす。
「……あるかも。最後に食べたアレ、骨まで食べちゃったしな」
「あーそういえば、イッセーくん食べてたね」
「へぇ……」
予想以上の美味しさに、スナック感覚でバリボリといったイッセーの姿を見た朱乃は、若干の恐怖もあったが……それまででも十分に限界状態が続いていたのだろう。……美味しそうに食べるイッセーの姿を見て、ちょっと食べてみたいなぁ、と思ったりもした。
そんな様子を撮影していた朱乃のお父さんは口をあんぐりとさせ、それを見た神の子を見張ってるお偉いさんは爆笑していた。
「じゃあ今日のお夕食に骨付き肉が出てきたらあげるわ」
「いや、美味しかったけど……別に好きってわけじゃないからな?」
限界状態だったということで、がっつりと骨まで食べただけで。別にもらってまで食べるようなものではないかな、というのが文字通り骨の髄まで食べた感想だ。
しっかり噛み砕かないと喉に引っかかるぞ、とドライグに言われて、じゃがりこを食べるように貪り食べただけである。
「ふーん、そうなんだ……。まぁでも、お客様に残り物を上げるような感じがしてしまうから、良かったわ……そんなところ見られたらお母さまに怒られてしまうもの」
ぶるぶる、と震えて肩を抱くジェスチャーをするリアスに二人は笑う。
怒られるのが怖かっただけか、と既に仲の良くなっている子ども達の話を耳に入れていたサーゼクスは笑みを浮かべる。
既にイッセーが違和感なく接することができているのは、ひとえにリアスの才能だろう。
こうして子どもたちの取り留めのない話を小耳にはさみながら、勝手知るサーゼクスに案内され、イッセーたちは廊下を進んでいった。
「さぁ、三人とも。おしゃべりはそれくらいにしよう。準備はもう出来ているみたいだ。……それじゃあ中に入ろうか」
サーゼクスが扉の前に着くと、少し間が空いたのち、自然と扉が開いていく。
イッセーの目には、母親が見ていた海外ドラマにでてきていたようなディナーテーブルがあり、ちょこんと、何も乗っていない皿の周りに何本もフォークやナイフ、スプーンが置かれていた。
「イッセーくん、こっちに座ろ!」
「あ……うん」
朱乃は、初めて見るものに呆然としていたイッセーの腕を引いて隣同士で座るように促す。
しばらく待っていると、リアスの両親らしき、これまた随分と美麗な紅髪の男性と亜麻髪の女性の二人が席に着き、料理が運ばれてくる。
食事の時はどう食べたものかわからず、途中で朱乃に聞いたり他の人たちを見たりしながら、一番端にあったナイフとフォークを手に取る。
朱乃以外からは音もなく食べているのを見て、借りてきた猫のように大人しく静かに食べ始めた。
「ふぅ……」
二皿目、三皿目と食べていって緊張の糸が切れたのか、息を吐く。
そんな様子を見た上座に席を取っている紅髪の男性はイッセーに話しかける。
「イッセーくん。もっと気楽でも良いんだぞ。君の胃に合うよう、軽めのものを作るよう頼んだのだが……緊張して味が判らないともったいないからね」
「は、はい……」
「おっと、済まない。自己紹介がまだだった。私はリアスの父親。……そしてこっちが私の妻であり、サーゼクスとリアスの母親」
「ヴェネラナ・グレモリーですわ。よろしくね、イッセーくん?」
「ど、どうも」
リアスの両親に恥ずかしくて随分と素っ気なく返事をしてしまった事に、イッセーは若干の不安を抱えつつ、わたわたとしていた。
しかし、イッセーとは逆にその反応を見た大人たちは微笑ましい気持ちになる。
貴族として育った家柄の出身の者しか居らず、人間というものの生活や人生というものは知識でしか知らない。
そんなリアスの両親、サーゼクスたちにとって、目の前にいる、ドラゴンとなってしまうも人間らしくある、ただの大人を前にした子どものような反応は、微笑ましくも新鮮であった。
どうしてこんなところまで来てしまったのか、何が起きたのか。それとなくイッセーに大人たちは聞いていく。
段々と場の空気が解れてきたのか、話に混ざれないリアスも、まだまだ話しきれていない人間の世界の話を朱乃に聞きはじめた。
話を続けている最中にも食は進み、デザートを食べ終える。
「……大変だったのですね。御自宅に帰るまでの間、我が家のようにくつろいで頂いて結構ですよ。イッセーくん」
「そうだぞ、イッセーくん。なんなら、私と妻の事をお父さんお母さんと呼んでくれても構わない」
「母上に父上? 何のおつもりで、そのような事を……」
「いえ、少々懐かしい思いに浸れたらな、と思っただけですよ、サーゼクス」
「息子は親離れして久しいからなぁ……」
茶目っ気たっぷりに言う二人に、幼い頃の自分と重ねられたのだろう、と思い至ったサーゼクスは辟易として息を吐く。
「はぁ。……私も息子が出来たのです。いい加減、子離れしたらどうですか?」
「何を言う。子は何時まで経っても親にしてみれば子なのだ。……本当に立派に育ってくれたよ、お前は」
「有難う御座います。……それはもう、感謝しておりますよ」
しみじみと言う両親の姿に、サーゼクスも素直に返事するしかない。
両親の手を離れて長いとはいえ、自分自信の事はしっかりやっている自信があるが、親孝行らしきものが出来ているのかどうかは自信がなかった。
ただでさえ手間がかかったことは、自分の体質を今のリアスよりも、もっと幼いころから知っていた身として、感謝の念しかわかない。
自分のせいでしんみりとしてしまった空気を換えるように、公爵はイッセーに問いかける。
「ところでイッセーくん。我々が悪魔だと言う事はもう知っているかな?」
「うん、あぁっと……はい。ドライグから少しだけ聞いてます。どういう存在なのか、どんなことしてるのかとか」
対価には対価を。契約を用いての等価交換。人間や魔術師、魔法使いたちと取引して生活をしているモノ達。聖書に記された神と相対する絶対悪。
「でも、聖書に記されているような絶対悪い、ということはなくて。悪い悪魔も居れば、良い悪魔も居る。下級悪魔や中級悪魔は人とあまり変わらない生活や暮らしをしている、ってドライグから聞きています」
「そう、か。……ふむ。概ねあっているよ。ただまぁ、ここ百年くらいで色々と変わっていたりするけれど。前魔王が伏してから、完全な封建制度から民主政に政治体制は変わった。しかしその実態はいまだ一部権力者による独裁政治体制といっていい」
と、此処まで言いかけてグレモリー公爵はイッセーの顔にクエスチョンマークが浮かんでいることに気づいた。
「おっと、すまないね。子どもの君には難しい話だったかもしれない。……いや、その程度でも知ってくれているなら話が早いんだ。最近では人間や他の種族を悪魔にすることが出来るようになっていてね? それで、君のガールフレンドの姫島朱乃さんなのだが、彼女をリアスの眷属悪魔にできないか、とリアスにおねだりされてしまって」
「……朱乃ちゃんはなんて言ってるんですか?」
「ん? イッセーくん、私の事?」
朱乃とリアスは会話を止め、イッセーの方を向く。
「そうだよ。朱乃ちゃんはどうするんだ? リアスちゃんの眷属悪魔になるのは良いの?」
「……うん。私がリアスの眷属悪魔になれば、お父さんの所に無理して帰らなくても良いし、あの人たちにも追われることもなくなるんだって」
「それでいいのか?」
不服そうであった様子に、思わずイッセーも強い言い方になる。
「本当は、イッセーくんについていきたい。けど、それだとまたイッセーくんに迷惑を掛けちゃうから……」
「でも、きっとウチの父さんも……」
続きの言葉を紡ぎかけて、イッセーは言葉に詰まる。
絶対に、朱乃を自分の家族として両親が向かい入れてくれるとは限らない。
自分の境遇を振り返って、なんとなく、もう一人子どもの世話をするっていうのは大変なんだろうな、ということには考えつく。
それに、公爵が話したように、またアイツらが朱乃を殺しに来ないと限らない。
いや、確実に来るだろう。その時、自分の両親や朱乃を守って戦えるかどうかは、今は未だ判らないのだ。
「……わかった。朱乃ちゃんが良いっていうなら、俺は何も言わないよ」
「うん。……でも、別にリアスちゃんがいるし、心配することはないからね」
「わたしが朱乃を守るんだもの。イッセー、心配はいらないわ」
案にリアスが朱乃を欲した訳ではない。リアスはリアスなりに悪魔らしくも守ろうとしたのだ。
とん、と胸を叩いて誇らしげにするリアスの様子にイッセーは納得が行って安堵した。
『(こりゃあ頼もしいな、相棒)』
(……そうだな、ドライグ)
不意に話しかけてきたドライグに相槌を打ち、イッセーは空になったジュースをストローで啜る。
解けた氷水に混ざる柑橘系の酸味で、食事中に飲んでいた飲み物がオレンジジュースであったことに、イッセーはようやっと気づいた。
これは私が言う事でもなかったか、と公爵はワインを口に含む。
子ども達で納得するようなら、大人はそれを見守るだけにとどめておこう。
年長者の三人は顔を見合わせ、そんなことを考えていた。
-●○●-
夕食も終わり、消灯時間が訪れる。
不思議と起きてから余り時間は経ってないというのに、与えられた部屋の二重の意味でも身の丈があっていなさそうなベッドへ入ると、ストン、と落ちるようにイッセーは眠りについた。
イッセーと寝たい、と駄々をこねていた二人はグレイフィアに叱られて自分の部屋に。見張りが居なくなったのを見計らって、イッセーの部屋に枕を持って突撃するが、しかし、行ってみれば当人は寝てしまっていた。
これでは来た意味がない、と落ち込んでいると、案の定、そのことはバレており、こわーい仕事が終わってオフになったメイドさんに怒られて部屋に戻って行った。
そうして翌日。
朝からフルコースは堅苦しいだろうし、丁度日本出身の二人がいることだから、と朝食は和食となった。
純西洋風の美男美女、美少女が問題なく箸を扱えていることに驚きを隠さずにはいられない、というようなこともあったが、何事もなく食べ終え。
昼食までの合間は特にすることは無く、といったイッセーは与えられた部屋で時間まで待つことにした。
といっても、する事が無い以上、どうしたものかベッドに横になって考えていると、眠気が襲ってくる。
これではいけないと思い、取りあえずベッドから降りるが、落ち着かず、部屋の調度品を眺めつつうろちょろとする。
一通り見終わって、いよいよする事が無くなり。
「どうしよう……」
『はぁ、……落ち着いたらどうだ?』
ベッドを背にして精神統一を始めた。
「なぁ、ドライグ。……なんだか、龍の気の操作が早くなってる気がするんだけど。気のせいかな、感覚も敏感になってる気もするし」
『気だけに、か?』
厳つい顔でドヤ顔している姿が目に浮かぶ。
「……おやじくさ」
『ぐはぁあああああ』
言葉の
効果は抜群といった様子で、ドライグは苦悶の声を上げる。
「実際寒いおやじギャグだったし。……それで、これってやっぱり気のせいかな」
イッセーは籠手による形態の固定化を解除し、龍化と人化を行ったり来たりを繰り返す。
改めて変身を繰り返していると、どうやら随分と変化が早くなっている。
それに堕天使の所を出る前には出来なかった、身体の一部だけドラゴンに変えることが出来るようになっていた。
また、龍の気を高めて完全にドラゴンの姿になる、ということも出来ている。
『そ、そうだな。……それはお前が今の身体になれたということなのだろう。ドラゴンの身体となった相棒の能力は人間の水準を軽く超えているからな。あの魔王へ下級の堕天使、悪魔を超えていると言ったが、今のお前は下級の中でも中級のそれに近い』
そうでないとあの環境を此処まで生き残れるわけがない。
下級の堕天使、悪魔の力量でも今現在で
加えて、イッセーが持っているのは神をも殺す神器と呼ばれる一つなのだ。……一時的にでも魔王に匹敵する力を手に入れれる。
使い手の倍化できる容量というべき、余力によって回数が伸び縮みするこの能力からすると、イッセーは随分と強くなっている事が伺える。
元々の才能からするとドラゴンになった影響としか考えようが無かった。
その上昇した能力は、一概に脚力だとか腕力だとかの身体能力だけではない。演算力、精神力といった頭の回転とでもいうべきだろう、それらの思考能力も高くなっている。
サーゼクスやグレモリー公爵相手に、拙いながらも受け答えが出来ていた時からその片鱗は見せていた。
熱く、それでいて冷めやすい。
元々の性格がそれに近しいものがあったイッセーは、それほど影響は出ていない。
他にもドラゴンは戦闘狂――……というよりも戦闘を楽しむ性質を持っているが、それがイッセーにおもてだって表れていないのは僥倖と言えるだろう。
……ただ、イリナの
「うーん。……もっと強くならないとな」
イッセーは精神統一をしている間も後悔があった。
力がないから助けられなかった。
力がないから、目の前であんなことが起きてしまった。
あの刃が振り下ろされる光景がじくじくとして頭から離れない。
『あまり、気にしない方がいいぞ』
――でも、……うん。わかったよ、ドライグ。
イッセーは座ったまま微睡を感じて目を閉じた。
副題は『メイドさんと懐中時計』
絶対持ってそう(小並感)
アニメで初めて見たときは脳内イメージと激似で噴出した。
おれはルキフグスの能力が「時間停止」って信じてるぜ……!