なでこ☆フォックス【狐物語】   作:TAINZ

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なでこ☆フォックス -3-

「わたし」は馬鹿なので、唐突(とうとつ)に言われても分かりません。

 

『んー私の言っていること分からないの?』

 

 怖いよ「ららちゃん」顔を覗き込まないでー。

 

『ふーん、しょうがないなーなでこちゃんは、何時(いつ)まで()ってもそうやってだんまりなんだもんねー、だまーって(うつむ)いていれば相手が先に折れてくれるか、(あきら)めて追及(ついきゅう)してこないって思ってるんでしょう』

 

『そ・そんなことないもん、わ・わたしだって意見ぐらいできるよ!』

 

ビックリしました、「ららちゃん」の顔がハッキリと見えます。

 

『あは、良かったー、ちゃーんと目を見て話してくれた』

 

「ららちゃん」は満面の笑みで「わたし」を見て、それから「わたし」の首に両腕を廻してきます。

 

『ごめんね、なでこちゃん、試しちゃった』

 

『ひどいよ、ららちゃん』

 

『ひどいついでにもう一つお願いが有るんだ、これからのツインズの活動方針だけどね、私は問題が起こってるのに、目を逸らせて他人顔をしている奴等(やつら)徹底(てってい)的に叩くからさー、なでこちゃんは小悪魔的に(あやま)ってね、暴力に(うった)えられても勝ち目が無いから』

 

小悪魔的に謝るって、いったいどんな感じなのでしょう? それでも「ららちゃん」のしたいことはなんとなく分かりました。

 

あれから約三か月です。

 

「ららちゃん」は【ファイヤーシスターズ】時代からの情報網(じょうほうもう)駆使(くし)して、常に精力的に活動を行っています、「ららちゃん」からの呼出しは土日・祭日・昼夜を問わずなので、「わたし」が両親から得ていた信頼はというと、最近()らぎ始めています、でもそれって「わたし」の勘違(かんちが)いかもしれませんが。

 

そろそろ「わたし」の謝罪回数も百に届くかという(いきお)いですが、小悪魔的謝罪のスキルは一向に上がった気配は感じられません、それって「わたし」のせいじゃない無いですよねー、人間そう簡単に変われるものじゃ無いですから。

 

そんな七月の初旬(しょじゅん)の事でした、三年三組の修学旅行実行委員をおおせつかった「わたし」は、他のクラスの実行委員さん達と打合せをするため、三年共用室にて待機(たいき)しています。

 

一組から五組までの男女一人ずつが着席できるように、机と椅子が五つずつ向い合せで並べられていましたので、最初に入室した「わたし」は窓際の一番端の席に座ります、やはり習慣(しゅうかん)というものはなかなか変わりません。

 

『オッツー、あれーまだ一人? おお千石撫子じゃん、これはこれはツインズの片割れと一緒とは、テンション上がるねー』

 

シンとした共用室には不釣り合いな、快活(かいかつ)な声と共に女子が三人連れだってやって来ました。

 

『あ・どうも・はじめまして』

 

慌てて立ち上がり、深めのお辞儀(じぎ)をする「わたし」です。

 

『やめてよー、そんな他人行儀な挨拶(あいさつ)をされるとこっちが困るってー』

 

自分でも分かります、ぎこち無さ過ぎです。

 

『えへ・ですよねー、ちょっと緊張しちゃって、わたしこういう会議って()れてなくてー』

 

頑張りました、なんとか笑顔で応えることが出来ました、謝罪スキルの成果かな?

 

『何言ってるの? 千石さん二年の時って学級委員長だったじゃん』

 

小麦色に日焼けした顔、白い歯を覗かせて快活に話す女子は、全くと言っていいでしょう、その言葉には後ろめたさなど微塵も有りませんでした、ですが…

 

『ちょっと…、その頃の話は禁句じゃなかったっけ』

 

褐色(かっしょく)の女子の袖口をつまみながら、別の女子が(ささや)きます。

 

その光景を見る「わたし」はと言いますと、おそらく張りぼての様な笑顔を浮かべていたのでしょうね、三人共「わたし」から視線を逸らして無言のまま着席しましたから、痛いです、いろいろと…。

 

仕方なく「わたし」も着席をしようと、椅子を引いた時でした。

 

『……あなたの席は向こうでしょう……』

 

今にも消え入りそうな(はかな)げな声が「わたし」の右隣から聞こえます。

 

ですが、「わたし」はすぐに振り向くことが出来ません。

 

悪寒? 金縛り? 理由は分かりませんが声のした方を見てはいけない気がして、「わたし」は動くことが出来ませんでした。

 

『……どうしたの…向こうよ……』

 

硬直(こうちょく)してしまった「わたし」の目の前に、人差し指を突き出した真っ白い手が伸びてきます。

 

「わたし」の前に差し出された異様(いよう)に白く光る手は、ふんわりとした繊毛(せんもう)(まと)っています。

 

錯覚(さっかく)? 自分の目を(うたが)った「わたし」は一度きつく目を閉じます。

 

一呼吸置いて、そーっと薄く目を開きました。

 

『あれ……』

 

「わたし」の視界に映し出された手は人の物でした。

 

やっぱり錯覚なのだと安心した「わたし」は、視界に映る手から腕へと視線を移していきます…

 

そして、そのまま消え入りそうな声を発した人物へ……

 

『ひっ……』

 

絶句しました。

 

「わたし」は呼吸をするのも忘れ、一点を見つめます…

 

さて、これを何と表現すれば良いのでしょう…?

 

いま「わたし」の目の前にいる人物を、一言で言い表すのならば「わたし」です。

 

自分のことを「なでこ」と呼んでいた頃の「わたし」

 

前髪で人の視線から顔を隠していた頃の「わたし」

 

俯き目を合わせることを避けることで、他者を拒絶(きょぜつ)していた頃の「わたし」

 

見れば見るほどに、そこにいる人物は「わたし」でした。

 

言い様のない震えが身体中から(あふ)れてきます。

 

春に離別(りべつ)した過去の自分が、長く垂れた前髪の隙間(すきま)から、今の「わたし」を見つめています。

 

             ・

 

こういうのって何て言いましたっけ、そう【狐につままれた】です。

 

 

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