【なんだなんだー・あーん・そん時の記憶は・昨日今日思い出した訳じゃーねーだろうがよー・今更んなって震えてもシャーねーだろーが・シャッシャッシャッシャ】
『嫌なことを思い出させてすまなかった』
『い・いえ、大丈夫です』
あの時のことはちゃんと覚えています、神社周辺の草むらを掻き分けて蛇を探し、見つけた蛇は生きたまま五等分に切り刻み、大きな木に磔ました。
【あーそうだ・俺様は震えたねー・こんな幼気なお嬢ちゃんがよー・蛇を手掴みするってーんだからよー】
一匹目の蛇を捕まえた時の感触は、今でもしっかりと残っています。
【しかも・蛇をぶつ切りにしよーってーのにだー・なでこちゃんが持ち出した得物が・彫刻刀ってーんだからなー・そんなんでバッサリと切れる訳がなーわなー・まったく蛇達に同情するぜー・なげーこと苦しんだろーぜー・シャーシャッシャー】
そう、「わたし」が殺した蛇は、彫刻刀で何度も何度も何度も…、胴体が切り離れるまで何度も刺されました。
【因果なもんだよなーまったく・呪縛を切り離すつもりで遣ったってーのによー・最初の一匹目の蛇を・彫刻刀でぶっ刺したー瞬間に・呪いが発動しちまうんだからよー】
左手で蛇の頭を地面に押さえつけながら、震える右手で彫刻刀を蛇の胴体に突き立てました、その瞬間です、右足首に激痛が走りました、咄嗟に掴んでいた蛇を離し、靴と靴下を脱いで痛みの発した場所を確認します、わたしの右足首には二つの黒い点が有りました、その黒い点は見る見るうちに大きくなっていきます、あっという間に足首全体が黒く染まり、次第に黒い染みは蛇の鱗へと変わっていきました。
【まーそんときゃーなー・本当に呪いを掛けられてたんだと思うわなー】
焦った「わたし」は、草むらの中に逃げて行く彫刻刀が刺さった蛇を、裸足のまま追いかけて再び捕まえます、そして今度は蛇の胴体が切り離れるまで、迷う事無く彫刻刀を振り下ろし続けました。
【一匹目を殺った後かー・気が付きゃー蛇切縄の呪いは・なでこちゃんの身体を締め上げていきやがったなー・まったく皮肉な話だぜー・呪縛を切るためによー・蛇をぶつ切りにすりゃーするほど・蛇切縄はなでこちゃんを締め上げてくってーんだからよー・笑い話にもなりゃしねー・シャーッシャッシャッシャッシャ】
思いっきり笑ってますけど…。
『正直に言うと、アレを千石ちゃんが遣ったとは到底思えなかった、こんな可愛らしい女の子には、あんな惨たらしい事が出来る訳ないとな』
『はい…』
『でも、事情も知り、実際に彫刻刀を持つ姿を見てしまった以上、認めぬ訳にはいかないからな』
『………』
『だがずっと納得がいかなかったのだ、本当の千石ちゃんというのは、あんな凄惨なことが出来る人間なのかってね』
事実です、「わたし」は何十匹もの蛇を殺しました…、自分に掛けられた呪いを解くためとはいえ…、「わたし」は自分の命の何十倍もの命を奪ったのです。
『だがたった今、私の疑問は解けたぞ』
サディスト・エゴイスト・マーダー…、どの様に解されたとしても全部が正解です、だって「わたし」が行った非道はそのどれにも当て嵌まりますから。
『千石ちゃんは、普通の可愛らしい女の子だったな』
『…なんで…、わたしは…』
『ん? 変なことを言ったか?』
『わたしは自分が助かりたい一身で、何匹もの蛇を殺したんですよ、そんなこと普通の女の子に出来る筈ないです』
『確かにそれは分からない、そういう状況に成ってみなければ何とも言えないが、だからと言ってだ、自分の身に危険が有るならば普通は誰であっても助かりたいと願うものだろう』
『……はい』
『千石ちゃんはそれを行動に移した、自らの身を守るために呪縛を切ろうとした、その結果があの時の凄惨な光景であった、だが、今の千石ちゃんにアレと同じことがもう一度出来るのかな』
『………』
『言わなくていいぞ、出来る訳がないのだからな』
『分かりません…』
『いいや・解かる! だから私は嬉しくてな、おおいに笑わせてもらったのだ』
『どうして…?』
『そんなちっちゃな蜘蛛に悲鳴を挙げている千石ちゃんがだ、蛇を殺せる訳ないだろう、今の千石ちゃんなら蛇を見ただけで気絶してしまいかねないぞ、まーその時は私が熱烈な介護をするがな、駿河だけに』
なんだか最後に上手いことを言われてしまいましたが、
『そんな風に思ってくれて…本当に…ありがとうございます…』