………ーーーーーーヒュッ・ドッドーーンンン……
『きゃあーーーー……』
北白蛇神社です、境内の東側が轟音と共に土煙を上げます、そして山全体が縦に激しく揺れました、次第に振動は治まり土煙が晴れます、そこには「童女」が「ららちゃん」を抱いたまま立っていました、「童女」の足は膝の辺りまで土の中に刺さっています。
『ららちゃん!』
『月火ちゃん!』
「わたし」と「神原さん」は同時に駆け寄りますが、「わたし」は「神原さん」の背中が離れて行くのを見ながら走ってます。
『気絶しているようだが、どこにも外傷はない、とりあえずは無事のようだ』
「神原さん」は、だいぶ遅れて到着した「わたし」に言います。
『よ・よかったー…』
『やあ・久しぶり忍野のお兄ちゃん、プイッ、いったい今までどこに雲隠れしていたのさ、プイッ、僕が鬼のお兄ちゃんに着せ替えプレイをされているって時に、プイッ』
「ららちゃん」を抱えたままの「童女」が、「忍野さん」に話しかけています、一言話す毎に無表情のまま顔をそむけて(プイッ)と言いました。
『やぁお人形ちゃん、しばらく見ない間にキャラが変わったねぇ、ここは労を労うべきなんだろうね、だがその拗ね方はさすがに分かりにくいよ』
「忍野さん」は苦笑いを受けベてます。
『不躾な質問で悪いが、君はいったい何者なのだ?』
『僕は【斧乃木余接】式神だよ、プイッ』
空から降って来たのですから、当然のことながら人間では無いと思っていましたが…、
それにさっき「玉藻前」は物の怪を二つ逃がしてって言ってたけど…、
『お人形ちゃんのことも、それから気絶している妹ちゃんのことも、今は詮索している時じゃあない、こう言っちゃあなんだけど、阿良々木君の妹ちゃんの救出にはねぇ、こっちの切り札を使ってしまったからさぁ』
『そう言われてもだな、何も知らないのでは動きようが無いではないか』
「忍野さん」は火の点いていないタバコを咥えなおしてから、一息つきます。
『はぁ…、未成年の子供を巻き込むのは、僕の心情にそぐわないんだけどさぁ、君達はすでに当事者になってしまった以上仕方がない、いいよ・何が知りたい?』
『まずは、電話の向こうであった出来事について、教えてもらいたい』
『いいだろう…、とりあえず・気絶している妹ちゃんが【玉藻前】に会いに行ったのは理解してるね、僕にとっては痛恨のイレギュラーだったけど…、もちろん妹ちゃんは幼馴染に会いに行っただけのつもりだから、あまり責めては可哀想でもある…か』
『さて・その幼馴染である相馬珠美は、まだ完全に【玉藻前】とリンクしてる訳じゃあ無かった、当然と言えば当然さぁ、あのクラスの怪異が力を使うには膨大なエネルギーが必要でね、何も修行をしていない一般の子に【玉藻前】が憑依すれば、一回妖術を使っただけでその子は即死しかねない、しかし相馬珠美は一般の子では無かった、おそらく相馬珠美は【平将門】【滝夜叉姫】の子孫なんだ、だから【玉藻前】が憑依しても命に係ることがない、だからと言って【玉藻前】の妖術が無制限に使える訳じゃあ無い、たぶん激昂することで魂の力を増大させ、妖術が使えるレベルのエネルギー源を得ていたんだなぁ』
『しかしそれも時間の問題さぁ、【玉藻前】が顕現する回数が増せば、しだいに相馬珠美の魂も強くなる、最終的には完全に憑依して【玉藻前】は復活をするだろうねぇ、魂も・身体も・そして意識も乗っ取られる、つまり相馬珠美という人格が消滅する』
『次に・僕が携帯電話を借りてメールを送った相手だけど、臥煙伊豆湖という名の・何でも知っている大学時代の先輩でさぁ、元百合っ子ちゃんの叔母に当たる人だね、やはりと言うか、この事態をちゃんと知っていたよ、急場凌ぎではあったが、援軍と切り札である一対の妖刀を用意していた辺り、かなり深いところまで計算していたのが窺えるねぇ』
『メールの内容については至極単純なもので、妹ちゃんをしゃがませるまでの時間を書いた、もし返信の内容が違かった場合は、別ルートの救出作戦が必要と成った、だがそこは何でも知っていると豪語する先輩さぁ、配置に着いているって返って来たよ、後は見ての通り僕が合図を送り、元照れ屋ちゃんがカウントダウンをする、こちらは見えていないが大体分かる、阿良々木君の妹ちゃんが伏せると同時に、四方から相馬珠美に一斉攻撃を仕掛けた筈さ』
『そして結果から言うと、不意討ちは失敗した、阿良々木君の妹ちゃんを救出できたので、単純に失敗したと言うと怒られそうだからぁ、あわよくば一太刀浴びせたかったという打算は、叶わなかったと言っておこうかぁ』
『その理由については僕の推測だけど、何でも知っている先輩が配置に着いた時には、もう【玉藻前】は結界を張っていたのだろう、緊急事態を考慮すれば文句など言えないが、援軍に怪異を構成したのが失敗の原因だね、怪異の気配に【玉藻前】が気付かない訳がない、攻撃を仕掛けた時には既に幻術を掛けられていた筈さ、幻の【玉藻前】が至る所に出現したのかなぁ』
『まぁそれについても、何でも知っている先輩は大方の予測をしていたさ、一斉攻撃を仕掛けることで生まれた結界の綻びから、お人形ちゃんと妹ちゃんを逃がすことに成功したんだからねぇ』
『そして交渉を持ちかける、まずは自分の技量を見せたのだろう、この場合は妖刀・心渡を使っての剣技となるね、目に見えぬ速さで自分の周囲一帯を切り裂き、【玉藻前】の結界内にあって心渡による妖刀結界を造って見せた、自分の腕前を披露することで相手を交渉の場へ付かせるつもりでね、でも相手は妖狐だ、化かしあいはお手の物ってね、おそらく幻術を解いて幻の【玉藻前】を消し話を聞くと見せかけた、しかし実際には何でも知っている先輩の背後から本体が襲い掛かる、ところがどっこい【玉藻前】は髪を数本は切られたかなぁ、背後から襲う【玉藻前】を心渡が一閃した筈だから』
『これでようやく【玉藻前】は【妖刀・心渡】の能力と、何でも知っている先輩の技量を理解した、長期戦に成ることが【玉藻前】にとって良い結果をもたらさない以上、交渉に応じることにした、何でも知ってる先輩は切り札である【妖刀・夢渡】を置いて行くことで、その場を終わらせることを選択する、とまぁこんなところだろう』
「神原さん」も「わたし」も、ただただ呆然と「忍野さん」の話に聞き入っていました。